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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第六章 喧嘩上等編

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第286話 次に向かう場所

 花畑を堪能した竜郎達一行は、天照と月読の実力も解ったので町へと空路で戻っていった。

 久しぶりに身内だけで全員集まって外で遊べたのもあって、皆楽しい気分で宿に足を向けた。

 すると宿の直ぐ側にある階段の手前で、小粋なティーパーティーを一人で開催している狂人に出会った。

 ──言うまでもなく、アーレンフリートその人である。



「おやおや、今日は私一人置いてきぼりだったようだな。

 寂しいじゃあないか先生」

「今日は身内だけでやっておきたい事があったんだよ。

 それでアーレンフリートは、こんな所で何をやっているんだ?」

「今日は夜以外かまってくれないらしいのでな、さて何をしたものかと考えていたんだ」

「まったくもって、ここでする事ではないと思うが……。

 それで何かいい考えでも浮かんだのか?」

「いやいや、それがまったく。けれど色々考えた結果、一つの結論に思い至ったのだよ、先生」



 優雅に組んでいた足を戻し、ティーカップを小さな丸テーブルに置くと、アーレンフリートは聞いてくれと言わんばかりに竜郎を真正面からジッと見つめてきた。

 これは聞かなければずっとこのままだな、と思った竜郎は、知る必要もないのに仕方なく問いを口にした。



「なにを、おもいついたのかなー、あーれんふりーと」

「そこまで聞きたいのならば仕方がない。

 他でもない先生の頼みだ。語って聞かせよう!」



 超絶棒読みの問いかけも気にせずに、勝手に都合がいいように話は進められていく。



「実は考えたのだが、私は明後日にはこの町を去ることにしたのだよ。

 先生がこの町を去るまでの間という約束で一緒に行動していたのだが、こちらで勝手に決めてすまないね」

「そうか、そうか! それは良かっ──寂しいよ! アーレンフリート君」

「……なんだか嬉しそうだな、先生。毎晩あんなにも熱く語り合った仲だと言うのに!」

「あーはいはい。確かに話自体は面白かったし、聞けなくなるのは残念だよ」

「だろう! 私も楽しかったぞ先生、とても名残惜しい。

 だが新しい暇つぶしの種を見つけてしまったのだ。そしてそれは近いうちに動かないと、芽吹く前に枯れてしまいそうでな。

 という事で、約束のお礼は明日限りで終了とさせてほしい」

「もとよりそっちの要望だったんだ。アーレンフリートがそれでいいのなら、こちらも問題ない」



 アーレンフリートから聞かされる呪魔法の話は確かに楽しく、帰国ならぬ帰界した時にも、リアの生活を整えていくために有用な情報も沢山聞けた。

 そういう意味では、竜郎も惜しいと思わないでもなかった。

 けれどこの男は愛衣にとっては天敵と言っていいほど相性が最悪で、アーレンフリートが本気になれば、どうとでも出来てしまうと言う危険を孕んでいる。

 そんな害になりえる存在を近くに置いている間は、いつも気を抜く事が出来なかった。

 なので少々申し訳ないが、竜郎は一つ肩の荷が下りた気がした。



「明後日の昼頃に、北門から出て行くつもりだ。

 見送りに来てもいいぞ」

「北門? ああ、そういえばこの町は二つとも常時開けられているんだっけか」

「ここは外からの客が特に多いからね。他の町では必要時以外は二つ目の門を開ける事は無いのだがね。

 だから存分に見送りに来てもいいんだよ?」

「……はぁ。はいはい、気が向いたらな」



 素気無く応えた竜郎だが、最後くらいは見送ろうと内心では思いながらも態度には一切出さなかった。

 そして行きかう人々が竜郎達も狂人の仲間だと捉え始めている様なので、また夜に会う話をしてアーレンフリートを残し自分たちの宿へと戻っていった。


 竜郎と愛衣が泊まる方の部屋に全員で入ると、人間組は空腹を満たすために料理を注文しまくった。

 多くの皿が所狭しと並ぶテーブルに腰かけながら、食事を楽しみ自分達の今後について話し合っていた。



「魔力頭脳の製造も一段落着いたことだし、そろそろ次に何処に行くかくらいは決めておきたいな」

「だねー。帰ることを優先するなら、またダンジョンかな」

「町近くの魔物じゃ実入りが少ないですし、SP稼ぎはダンジョンに限りますの」

「この町の近くのダンジョンというと、レベル5が一つあった気がします。

 ただ……お勧めはしませんが」

「そうなんすか? レベル5ダンジョンなら適度に質と量が揃ってて、魔物も御しやすそうで稼ぎ場にはピッタリな気もするっすけど」



 竜郎達は、レベル10ダンジョンには二度と行きたくなかった。理由は大変すぎて、半ばトラウマになっているからだ。いくら《高難易度迷宮踏破者》の称号効果があっても、それで簡単になる訳ではない。

 そしてレベル7も、今は遠慮したい所。魔物の質はちょうどいいのだが、力ずくで突破できないギミックが少々面倒だからだ。

 けれどレベル5。ここは熟練の冒険者が好んで行く程度の難易度なので、上級どころか特級も飛び越えていそうな竜郎達にとっては、散歩コースと言ってもいいだろう。

 ちょっとピクニックのついでにSPを稼ぐと思えば、最適だと思われる場所だ。


 そんなおあつらえ向きな場所があるのに、リアは嫌そうな顔をして行かない方がいいと言う。

 けれどやはり、それにはちゃんと理由があった。



「実はですね。ここから近いレベル5ダンジョンは別名……えーと……」

「どうしたんですの、リア? そんなに言いにくそうにして」

「ちょっと食事中に──それも女子が口にするのは抵抗がある別名なので……、こほん」



 余程言いたくないのか、リアは一度咳払いして覚悟を決めた。



「そのー……。別名『糞塗くそまみれダンジョン』と言われてまして……。

 ごく一部の冒険者以外は、余程の要件でもなければ近寄りもしない最低最悪なダンジョンなんです」

「それを聞いた途端、まったく行きたくなくなったぞ」

「左に同じく……。けど、なんでそんな名前に──って言っても、大体想像はつくけどさぁ…」

「ええ。想像通りだと思いますよ、姉さん。

 そこは全階層のいたる所に肥溜めが用意され、トラップもソレ関連ばかり。

 さらにソレ自体が魔物と化した存在が大量に現れたりと、一度入れば鼻はおかしくなり、体に着いた臭いも一週間以上は余裕で取れないらしいです」

「絶対行きたくないですの!!」

「あたしも汚いのは嫌っす~~!」

「ピピピッ!!」「ヒヒーーン!」



 臭いの問題は魔力体生物のカルディナ達はそこまで問題でもないが、汚いのは流石に我慢できない。全員一致で、行きたくないと訴えた。



「安心してくれ、俺も含め満場一致で却下だ。

 俺はまだしも、愛衣にそんな所にいってほしくない」

「私もだよ! たつろー!! 絶対行っちゃダメだよ」



 自分の恋人が汚物にまみれるところを見たい人間など、そうはいない。

 竜郎と愛衣は隣にいる相方をひしっと抱きしめて、今後話題にすら出さないことを誓った。



「よし。食事中にとんでもない話題が出てしまったので、早く話題を変えよう。

 ダンジョンはこの辺りには無い! ──ので、他の候補地で行ってみたいところはあるか?」

「空路も使いやすくなったし、いっそ別の国に行ってみるのもいいかも」

「別の国ですか。いいですね。私も行ってみたいです」

「ヒヒーーン、ヒヒン、ヒヒン!」

「どこまでも乗せて行ける! と言ってるっす」

「それは頼もしいな。確かに、この国に縛られる必要なんてないんだし、余所の国にも行ってみるか」

「さんせー」「ピピッ」「ヒヒン」「賛成ですの」「賛成です」「それでいいっす~」

「これも満場一致だな。では、外の国に行くと言う案が可決されました」



 竜郎が裁判官の真似をして、右拳でカンカンと机を軽く叩いた。

 となればさらに絞り込んで、行きたい国は──という話になる所なのだが、生憎この世界の住人ではない竜郎達ではその候補すら上げる事が出来ない。



「ってことで、リア。どっか良い所ないか?」

「それなら──と言いたいところですが、この国と精々隣国の大雑把な情報くらいしか知らないですね」

「そうか。ん~……そういえば、炎山で会った小妖精たちに貰った妖精煌結晶は俺の杖にも使われているのか?」

「え? はい、使われてますけど?」



 マップを呼び出して何かを調べている様子の竜郎から、突然今の話から関係のない話が飛び出してきたことに目を丸くしながらも、リアはとりあえず答えた。

 それを聞いた竜郎は、目を閉じて少し考え込むような素振りを見せると、直ぐに考えが纏まったらしい。



「そうか。なら提案なんだが、ここヘルダムド国の隣のリベルハイト国を越えた先にある、カサピスティという国に行かないか?」

「えーと確か、小妖精さん達に暇だったら行ってみてくれって言われてた……えーとバームクーヘンだか、モンブランだか言うデッカイお山のある国だったよね?」

「そのはずだ。お礼はまだ残っているが使ってしまったし、もう時空魔法までの残りSPも四百きってる。

 それならどうせ行きたい所もないし、この世界で一番高い山って奴を見がてら寄ってみるのも悪くないだろう」

「カサピスティのバンラモンテですか。

 風山が有るという事ですし、ここより魔物の質も高そうですね」

「それなら一石二鳥ですし、景色もよかったら三鳥にもなるかもしれないですの」

「それに大蜥蜴みたいなレアなのが、またいるかもしれないっす」



 この町に来てから突如現れたと言う大蜥蜴について調べてみたのだが、やはり土地が異質なら、それに引っ張られるように変異種が生まれ易いらしい。

 なので炎山や風山などといった環境ならば、場の異質性によって変異した魔物がいる可能性も高い。

 また変異種は七割くらいの確率で、原種よりも強い傾向にある。

 強いという事は、それだけスキルも沢山もっている可能性も高いだろう。

 そういう期待も持って、竜郎もアテナの言葉に頷いた。



「流石に10レベルダンジョンのボスクラスはいないだろうが、いる可能性もそこまで高くは無い。

 けどレアな魔物がいるなら是非狩りたいって理由もある。

 ──ってことで、他の皆はどうだ?」



 カルディナやジャンヌは大きく頷き、天照に月読も点滅して反対の意は無いと伝えてくれた。



「んじゃあ次の目的地は一つ国を越えた向こう側、カサピスティのバンラモンテ山だ」

「おー! そうとなればカサピーについて、ちょっと情報を集めようか。

 リアちゃんも詳しくないみたいだし」

「だな。けど明日はアーレンフリートとの行動は最後だし、するなら次の日からだな。

 リアはどうする? 一緒に来るか?」

「いえ、このまま町を出る前に、姉さんの装備に魔力頭脳を組み込みたいと思います。

 コツは掴みましたし、直ぐに完成すると思うので」

「そうか。なら奈々も残って、護衛を頼んでいいか?」

「もちろんですの!」



 当然とばかりに元気よく返事をする奈々の頭を竜郎がヨシヨシと撫でると、気持ちよさそうに頬を緩ませていた。

 それを羨ましそうにカルディナ達も見てきたので、愛衣と二人で手を広げリアもまとめて頭を撫でた。



「……あの、別に私は頭を撫でなくても」

「お姉ちゃんに遠慮しなくてもいいんだよー。それーよしよしー!」

「遠慮とかでは──ふぅ」



 抵抗を試みるも愛衣の撫で撫でスキルは、カルディナ達のおかげで熟練度マックス。

 その気持ちよさに、さしものリアも抵抗を止め目を細めて受け入れた。

 そうしてスキンシップを楽しんだところで、また食事に戻り、手を付けていない料理は《無限アイテムフィールド》にしまって保存しておいた。



「あっ。そういえばさっきのアテナが言っていた大蜥蜴で思い出したんだが、ちょっとこれを見てくれないか?」

「ん? 何々?」



 竜郎が《無限アイテムフィールド》から取り出し手に出したのは、少し赤みが強いオレンジ色の握り拳大の水晶玉だった。



「実は《無限アイテムフィールド》内を整理していたら、大蜥蜴の中にこんなのが入っていたんだ」

「それは……あの大蜥蜴の卵ですね。珍しい魔物の卵ですし、テイマーにでも売ればかなりの値段が付くと思いますよ」

「やっぱり卵だったか。けどテイマーには売りません。俺の卵コレクションに加えます。異論は受けつけます」

「あらら、受け付けるんだ」

「そりゃあ、俺だけの力で取ったわけじゃないからな。皆が売りたいって言うなら売るし、他の使い方をしたいと言うのならそれもいいと思う」

「別にお金には困っていませんし、珍しいのならコレクションとして持っていてもいいと思いますの」

「私も別にいいよ」「私も構いませんよ、兄さん」

「ピピピッ」「ヒヒン」「ガウ~」



 カルディナとジャンヌ、そしてじゃれつく際に《幼体化》したアテナも含めて首を縦に振ってくれていた。



「……そうか。皆ありがとう! いや~、種類によって微妙に色つきも違うから、収集癖がでてしまってな」



 そう言って頭を掻きながら、再び竜郎は《無限アイテムフィールド》に卵をしまっているのを見ていた愛衣の中で疑問がわいてきた。



「そう言えば魔物の卵って、ほっとけば勝手に孵化するの?」

「ああ、そういえば。孵化させるって発想が無かったから、気にもせずに時間停止設定でしまってた」

「魔物の卵は、その中の個体が形付けられるくらいの魔力を、意図的に外から注ぎ込むことで生まれてくるはずです。

 なので魔力さえ注ぎ込まなければ、棚に置きっぱなしにしていても孵化することは有りませんね。

 ただ経年劣化による消滅は有るので、時間を止めた状態でしまっておくのがいいと思います」

「そうか。なら見たい時にだけ出して楽しむ事にするよ」

「ええ、コレクションとして保存するのなら、それがいいと思います」



 と。少し話が脱線してしまった所で、竜郎は例の時間が差し迫っている事に気が付いた。



「大体の予定も決まったし、名残惜しいがアーレンフリートと話に行くよ」

「ピー」「ヒヒーン」「ガウガウ~」



 竜郎の膝の上で気持ちよさそうに撫でられていた雛鳥のカルディナ、子サイのジャンヌ、小虎のアテナが不満げにすり寄ってきた。

 要約すれば、もっと遊んでほしいという事だろう。

 竜郎とてそうしたいのは山々なのだが、この毎晩続けてきた談話も残り二回。

 その間に応用力が抜群に高いと改めて思い知らされた呪魔法の情報を、搾れるだけ搾り取ってからサヨナラしたいので、行かないわけにもいかなかった。



「また明日遊ぼうな。それまでは愛衣と一緒にいてくれ」

「そうだよー。おいでー」

「ピピッピッー」「ヒヒン」「ガーウ」



 奈々とリアの二人の幼女を膝に乗せて可愛がっていた愛衣が、さらにカルディナ達も呼び寄せてひっちゃかめっちゃかになっていた。

 そんな暖かな光景に心を癒されながら、竜郎は愛衣の頬にキスをしてから、件の人物が待っているであろう一階ロビーにのんびりと降りて行ったのであった。

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