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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第六章 喧嘩上等編

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第285話 新たな観光地?

 《真体化》して雲迷彩を発動しているジャンヌに背負われた空駕籠の中から、外を見て人気が無く、大魔法による被害があっても大丈夫そうな平地を探す。



「あっ。あそこなんていいんじゃない?」

「おおっ、ほんとだ」



 茶色い土がむき出しで、草もろくに生えていない平原を愛衣がいち早く見つけ、ジャンヌの横で警戒していたカルディナに探査と分霊による映像を映し出してもらう。

 すると人は一切近場におらず、魔物がチラホラ闊歩しているだけという最高の試験場を見つけることができた。



「ジャンヌ、カルディナに案内して貰いながら着陸してくれ」

「ヒヒーーン」



 竜郎が伝声管を使ってジャンヌに指示をすると、カルディナが前に出て先導し始めた。

 姉の後ろを追いかけるように飛んでいき、着陸地点にいた魔物はカルディナが一瞬で狩り取って遠くに捨てると、ジャンヌはゆっくりと平行状態を保ったまま、腹ばいに寝転ぶように着陸した。


 完璧に着陸したのを確認したら、直ぐに全員外へと出て行った。

 全員出たのを確認すると、竜郎は空駕籠を《無限アイテムフィールド》にしまいこんだ。



「ここなら多少、地形が変わっても大丈夫そうっすね」

「ああ、地形を変えること前提なんですね……」

「そりゃそうですの。おとーさまの全力の魔法なら、それくらい楽勝ですの」

「そうハードルを上げられても困るがな。──よし、やってみるか」

「おー!」



 竜郎は《無限アイテムフィールド》からライフル杖を取り出し、天照を宿す。

 そしてコートに付けたままの月読に指示を出す。



「念のために《竜障壁》を展開してくれ」



 月読は直ぐに聞き入れて、余波が届かぬように竜郎の目の前に竜力で出来た頑丈な壁を展開した。



「天照。全力で行くぞ」



 竜郎の言いたいことが伝わり、天照は《低出力体》から《高出力体》までモードを一気に押し上げる。

 するとライフル杖のメインコア、天照の宿る場所から激しく青い光の粒子が飛びかい始めるのと同時に、竜特有の威圧感が周りを支配し始めた。


 そして竜郎は天照の杖先だけを前に突出すと、その部分だけ障壁に穴が開いて外部に飛び出した。

 月読が竜障壁の穴をギリギリまで小さくして固定するのを待ち、竜郎は竜力と魔力両方を惜しみなく天照に渡していく。


 今回行うのは、天照の《竜の息吹 Lv.10》《攻勢強化》《火魔法 Lv.14》に竜郎の《光魔法 Lv.14》《火魔法 Lv.11》を全力で使った混合による光火竜の息吹とでも呼ぶべき魔法。

 常人なら枯れ果てても捻出できない量のエネルギーを含んだ竜魔力が杖の先に集まっていき、魔力頭脳の演算で直ぐに魔法として完成して放てる状態に至った。



「それじゃあやるぞ。──5──4──3──2──1──発射!」



 皆が緊張の面持ちで眺める中、発射の声と同時に抑えていた魔法が一気に解放される。

 すると障壁から突き出した杖の先から、光輝く炎が広範囲にわたって放射された。

 それは存在する全てを焼きつくし、一秒もしない間に障壁より前はマグマ地帯と化してグツグツ煮えたぎり、魔物は炭すら残さず消滅した。

 そして直ぐに熱されマグマ化した地表は、その範囲を広げて竜郎達の足元まで広がろうとしてきた。



「まずっ──」



 竜郎は慌てて光火竜の息吹きを打ち切った。

 けれどマグマ化の進行が止んだだけで、未だに元気よく地表の一角が火山口の様に灼熱色に光り輝いていた。



「……兄さん。これ相当深い所までマグマ化しちゃってますけど」

「ま、まあ。ほっとけば元に戻るだろ」

「観た限りでは、ほっておくと百年近くこのままみたいですよ?」

「百年もこのままなんだ。凄い火力だね」

「しかも魔法構築までの時間も、ほぼノータイムだったっす」

「焼きたい放題ですの!」

「いやいや、こんなのホイホイやったら人が住めなくなりますよ!」



 リアの言った通り竜郎が、たった二、三秒魔法を放っただけで、このまま放っておけば特殊な魔物以外は何者も住めない死地と化していた。



「ま、まあ。人が住んでる場所ではないし、案外観光スポットになるかもしれないぞ。

 題して──地表に突如出現! 山でもないのに火口地帯! とかどうだ」

「それだ!」

「それだ! じゃないですよ!! なんで二人とも直す気ないんですか!?」

「やはり直さなきゃダメか。盛り下がり気味のリューシテン領に、新しい風を吹かせられると思ったんだが」

「新しすぎてドン引きですよ!」



 さすがに竜郎も本気で言っていたわけではないので、抗議してくるリアを宥めながら《低出力体》で待機していた天照に再び《高出力体》になって貰って構え直す。



「そうだな。今回はさっき以上の力がいるだろうし、氷魔法が使える奈々も混ざってくれ」

「了解ですの!」



 今度放つのは奈々の氷魔法、月読の氷魔法、竜郎の氷と光魔法、天照の竜の息吹きの混合魔法を《攻勢強化》でさらに威力嵩増し。

 一切ケチらずに行った超大出力氷魔法が、魔力頭脳の演算能力をフルに使って瞬時に発動。

 途端杖の先端から光輝く氷の息吹きが放たれマグマの熱を吸収していき、たちまち地表は火口地帯から氷結地帯へと強制変換され、グニャグニャになっていた地面が冷え固まった。



「完璧だな。もうマグマがあったなんて思わないだろう」

「辺り一面氷しかないもんね!」



 まさにその通りなのだが、これではマグマが氷に変わっただけである。

 リアは《万象解識眼》越しに映る、その事実に頭を抱えた。



「…………これもやりすぎですよ」

「でもキラキラしてて綺麗ですの」

「ほんとっすー」

「確かにそうですけど、この氷かなり危険ですよ……」



 広がる氷面は、ただの氷ではなく光り輝く氷。

 それは常温で溶ける気配すら見せないどころか、生半可な炎では表面に露一つ流させる事も出来ない魔法で造られた氷。

 しかも見てくれは綺麗だが──。



「あっ。鳥の魔物が降りて来たよ、たつろー」

「ああ、ほんとだな。この辺が餌場だったのかもしれな──」

「「「「「あ……」」」」」「ピィ…」「ヒヒン…」



 小さな鳥型魔物がいつもと違う環境に戸惑いながらも氷の大地に近づいた途端、全身氷漬けにされて死んでしまった。


 実はこの氷、魔法抵抗値の低い者は近付いただけで氷漬けにしてしまう程の強烈な魔力的な冷気を放っていた。

 愛衣は月読の竜障壁の中にいるので冷気も遮断されて平気だが、もし外側に行って直接触ってしまえば……先の魔物と同じ目に遭うだろう。


 なので美しい外観をし、見ただけでは危険性が解り難いこの氷結地帯の方が、むしろマグマが広がっていた時よりも性質たちが悪くなっていたのだ。



「近付いて死んだら綺麗に冷凍保存か。

 これは観光スポットどころか、自殺の名所になりそうだな……。

 今すぐ撤去しよう」

「さ、さんせー……」



 愛衣も障壁の内側は安全だとは知りながらも、ドン引きしながら氷結地帯から距離をとった。

 それを横目に見ながら、竜郎は急いでちょうどいい火力をイメージしながら、火竜の息吹きで慎重に溶かしていく。

 


「これくらいでいいかな」

「うーん。あんなに綺麗だったのに、随分殺風景になっちゃったね」

「まあなぁ」



 氷も全て蒸発し、今や溶けた土や岩が混ざり冷え固まったゴツゴツの地肌が剥き出しで、草の一つも生えていない真っ新な土地と化していた。

 灼熱色に煮えたぎったり、輝きを放つ氷に覆われたりと、先が派手だったおかげで、それが何とも寂しく思えてきてしまった。



「いっその事、花でも植えてくか。

 樹魔法用に花の種とかも色々買ってあるし、花畑なら火や氷みたいに害もないだろ」

「なにそれ、いいじゃん!」



 真っ先に声をあげた愛衣以外も、やはり女の子ばかりなせいか軒並み竜郎の意見は好評のようだった。

 ということで急遽ここに、お花畑計画が発令された。



「まず土壌を何とかしないとな」

「今はかなり深い所までカチカチっすからね。これじゃあ草も生えないっす」

「だな。って事でカルディナ、ジャンヌ、アテナ。

 それぞれ土魔法と樹魔法で補助してくれ」

「ピィー」「ヒヒーーン」「了解っす~」



 陶器のように固まってしまった大地をほぐすため、天照を地面につけて土魔法の魔力をカルディナとアテナの力も借りて全体に流し込んでいく。

 硬質化した部分全てに浸透したら、今度は細かい土粒になる様にイメージしていく。

 するとあっという間に火竜の息吹きを浴びせられる前の状態よりも、ずっと柔らかな土壌へと変化した。

 そしてそれをミキサーのように掻き回しながら、そこへジャンヌの力も借りて植物の栄養となるイメージを与えた樹魔法の魔力を混ぜ込んでいった。



「これでどんな植物を植えても大丈夫そうだな」

「うん。土がすっごく、ふっかふかになったね」

「後は色んな花の種をっと」



 《無限アイテムフィールド》から何に使えるか解らないからと、町で買い漁った花の種を数十種類取り出し、風魔法でそこらじゅうに無作為にばら撒いていった。



「同じ奴を一か所に纏めたりはしないの?」

「そういうのも綺麗だとは思うが、人工的すぎるかなと思ってな。

 できれば自然な感じを出したいんだ」

「ほうほう。それもいいかね!」

「そうだな」



 サムズアップしてウインクしてくる元気な愛衣の頬に軽くキスをしてから、竜郎は再びジャンヌの力を借りて樹魔法で種を活性化させていく。

 すると種から植物が芽を出して、一気に成長し花を咲かせる。

 けれどそこで終わらせずに、さらに成長を促し枯れさせて種を落とさせた。

 そしてその種をまた成長させて──と、まるで早回しの映像を見ている様な感覚を覚える事を繰り返していき、ちょうど良い所で竜郎は魔法の行使を打ち切った。



「すごーーい! 一面花だらけ!」

「これなら安全ですし、とっても綺麗です!」

「ピュィーー」「ヒヒーーン」「綺麗ですのー!」「壮観っす~」



 茶色い土がむき出しで、草もろくに生えていない平原だった場所。

 そこがたった数分で様々な種類の花から成る絨毯が敷き詰められた、とても美しい風景が広がる場所に早変わりしていた。

 女性陣も頬を緩めて花畑を見つめ、我先にとその中へと入っていく。

 そんな無邪気な愛衣の姿に一人見惚れていると、彼女は満面の笑みを浮かべて竜郎の方に振り返った。



「たつろーも、早くおいでよー!」

「──ああ。今いく!」



 その笑顔に、もう何度とも知れない胸のときめきを覚え、また愛衣への愛情を高めながら竜郎も彼女に追いつくべく、そこへと走っていくのであった。






 ちなみに。この花畑は竜郎達が去った数か月後に、冒険者達によって発見された。

 立派な花畑が、こんな痩せ細った僻地に突如出現した事に大慌てで何か悪い事の前触れではないかと調査が入る。

 そして冒険者ギルドの解析班が念入りにその地を調べると、大量の樹魔法の竜力が検出された。

 結果。流れのとんでもなく強力な樹魔法が使える竜種がここに降り立ち、何かの気まぐれで花畑を造り、またどこかへ飛び去ったのだろう──と、何とも曖昧な推測を立てる事しかできなかった。

 けれどこの場所に害は無いという事だけは解ったので、直ぐに一般人にも開放。


 これはいいとホルムズとグラケヌの両町が一番近いのもあって、それらの町長が道中の整備に乗りだし、直ぐにそこはこの領の有名な観光地と化した。

 そして、それからは「樹竜の庭園」と名付けられ、込められた樹魔法の竜力が枯れ果てるまでの数百年もの長い間、人々に愛され続けたのだという。

次回、第286話は7月26日(水)更新です。

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