第283話 新たな仲間達
杖とスライム型アイテムのセコム君。この二つだけと思っていたものが、三つに増えていた。
それにあと一つは何だろうと疑問符を浮かべていると、説明するよりも見て貰った方がとリアは残りの二つを、いっぺんに取り出した。
「セコム君と……手袋…………かな?」
愛衣が口にした通り、リアは魔力頭脳のコアが内包されて一回り大きくなったセコム君と、肘までの長さの黒い手袋で、左右両方の甲にあたる部分には紅い六角形の宝石の様な物が埋め込まれていた。
「これは杖と合わせて、三つとも俺の装備って事なのか?」
「そうです。では早速、着けてみてください」
「ああ」
竜郎はまず《無限アイテムフィールド》からコートを出して羽織ると、それに一回り大きくなったセコム君に水魔法の魔力を注いで染み込ませていく。
するとコアがコートの裏側の左胸に当たる部分に固定され、セコム君が完全にコートに入り込んだ。
次に竜郎は手袋を手に取り、それを両手に装着していった。
「ん、なんか内側は柔らかい絨毯みたいで気持ち良いな」
「基本はダンジョンボスの竜燐と翼の皮膜、それにゲシュマグミンを混ぜた特殊素材ですが、内側には黄金水晶のデフルスタルの毛皮を使っています。
なので衝撃も吸収しつつ、内側まで攻撃が通りにくくなっています」
「それは便利だな」
これだと熱い所では手袋の中が蒸れて酷い事になりそうであるが、竜郎ならエンデニエンテの称号効果で適応するので問題ない。
むしろ付け心地とフワフワした気持ち良さが有りながら、最高の防御性能まで付いているのだから願ったり叶ったりだ。
そんな事を考えながら、最後に後ろにメインコアをつけて完成したライフル杖を手に持った。
「それでは杖とセコム君。それぞれに魔力体生物を入れてください」
「解った」
竜郎は自分の中からライフル杖には火を第一属性に持つ魔力体生物を、セコム君には水を第一属性に持つ魔力体生物を、それぞれ自身の体となる魔力頭脳のコアに入ってくれる様に念じた。
すると何の抵抗もなくスッと体から抜け出る様な感覚を竜郎が味わいながら、直ぐにコアへ宿り、どちらのコアも内側にスノードームの様な青い粒子が舞い始めた。
「こっちのセコム君の方には、杖みたいに帰還石を入れるとこは無いみたいだが……。
どうやって起動すればいいんだ?」
「魔力体生物が混ざった事によって、自前の魔力で動かせるようになったんですよ。
体のレベルは17ですからね、エネルギー量的にも十分でしょう」
「なるほどな。じゃあ逆に杖の方は、いらなくなったのか?」
「メインコアはそうなっていますけど、サブコアまでは大変かなと思いまして帰還石エネルギー供給部はそのままになっています。
けれどメインコアからのエネルギー供給も出来る様にはなってますけどね。 それでは起動お願いします。魔力頭脳の方は、魔力体生物の子たちにお願いすれば勝手に起動してくれるはずです」
「そういうことか。んじゃあ、さっそく」
竜郎はまずライフル杖の帰還石の個数を十二と最大に切り替えてから、トリガーを引いてサブコアを全て起動。
「それじゃあ、起動してくれ」
竜郎の言葉を受け取った二つのコアは一気に覚醒し、ライフル杖のメインコア周囲の鉤爪の様な傘骨がガチャンッと音を立てて開くと、コアの外にも青い粒子が飛びかい始めた。
そしてセコム君からも細い管で繋がった水の玉が一瞬で何個も展開し、竜郎を包み込むようにして守っていた。
こうして二つの新装備の起動を確認していると、ふと竜郎自身から微量の魔力が両手を通して外へ流れるのを感じた。
なので精霊眼で魔力視を発動して視線を送ると、魔力で出来た糸が手袋の甲の宝石から伸びていくのが見て取れた。
それが向かう先を観察していくと、その魔力糸はライフル杖とセコム君のコアに伸びていき、中にまで入って接続された。
「なんか手袋の甲にある所から魔力の糸が伸びてるんだが、これは何だ?」
「それは杖とセコム君を同期させる為に造った機構です。
二つとも魔力体生物という意志ある存在が混ざった事で、自動で動く時に咄嗟の連携が出来ないなんてことがあるかもしれないので組み込みました」
「同期すると、上手く連携が出来る様になるって事?」
「はい。手袋から出る魔力糸でお互いの情報を共有し合い、例えば──兄さんが杖にこういう魔法を使うと思いながら魔力を通すだけで、セコム君の方もそれを理解して邪魔にならない様に行動してくれます。
またセコム君がしようとすることを瞬時に杖が判断し、それをサポートする事が出来る様になるんです。
さらに手袋を通して、言葉を発することなく兄さんの考えを両方に伝える事も出来ます」
「つまり手袋の防具としての機能は、あくまでオマケってことっすか」
「そうですの。メインは杖とセコム君の相互連携機能を付け加える為の物ですの」
「ちゃんと防具としても一級品ですけどね」
リアは自慢げに胸を張って何処にも手を抜いてはいないと、自分の仕事振りを誇っていた。
そんな姿に微笑ましい気持ちを抱きながらも、せっかくなので宿を壊さない程度の魔法を試しに使ってみることにした。
竜郎がライフル杖を上に構えると、何も言わずとも水の網が避けて邪魔にならない様に形を変えてくれた。
これが意志を持つという事かと頭の片隅で考えながら、竜郎はイメージしながら魔力を杖に流し込む
「──ふっ」
すると直ぐに必要な魔力分をスッと持っていき、後は制御する必要もなくレーザーで複雑な幾何学模様を杖の先に一瞬で造り上げた。
「魔力を提供して念じるだけで、後は勝手にやってくれるんだな。
それじゃあ次は、こっちだな」
今度はセコム君がどう変わったのかを確かめていくと、やはり竜郎が何も動かそうとしなくても自分で判断して邪魔にならない様に動いてくれる上に、竜郎を網目状に囲みこむだけでなく、翼の様に後ろに展開したり、水の巨腕に姿を変えたりと応用力が増していた。
「ねーねー。その子達は、カルディナちゃん達みたいに意志があるんだよね?」
「ん? そうだな」
竜郎が色々こねくり回しているのを見ていた愛衣が、唐突にそんな事を口にし始めた。
「なら名前を付けてあげなきゃ!
システムもインストールされてるなら、ステータスの所が名無しになっちゃうよ」
「ああ、それは俺も考えていたんだ。
杖とかセコム君とかは、この子達の名前ではないしな」
という事で名付けタイムに突入したのだが、やはり愛衣が付ける気満々で次々と候補を上げていくが、どれもギャグなのかと問いたくなるようなモノばかりで、竜郎が容赦なく却下していった。
「む~。じゃあ、どんな名前がいーのさー」
「頼むから普通に名前って感じのにしてくれよ、何だよ水羊羹って。
食いもんじゃないか」
「水の属性使ってプルプルしてるから、ピッタリだと思うんだけどなぁ」
「プルプルはセコム君の方で、この子本体じゃないから」
「あっ、そっか。ん~~~」
「あのさ、偶には俺が付けたっていいんだ──」
「んんんん~~~~~~~~~~」
「ダメだこりゃ。聞いちゃいない」
完全に思考の海に没入した愛衣は、最早竜郎の声も届かない。
そしてそれだけ真剣に悩んでいるのだから、最後まで付き合おうと竜郎は思い直した。
(ん~~。火の子と水の子かぁ。
そういえば属性もだし、攻撃と守備で、こっちも役割が反対で対になってるんだよね。
ふふっ、対と言ったら私とたつろーみたい! ──ん?)
そこでふと自分の首から垂れ下がっている、竜郎と対になる様にリャダスの百貨店で購入した、太陽をモチーフにしたデザインの小さなネックレスが目に入った。
そして竜郎は真逆に満月をモチーフにしたものを、文字通り愛衣が体を張って買って貰った物を持っている。
(あの時は恥ずかしかったなぁ……。
まさか世の中に、あんなえろろーな事があったなんて初めて知ったよ)
「ん? どうした愛衣? そんな目をして」
「えろろーめ」
「今エロい事してませんよねっ!?」
突然ジト目で見られた上に、今日の所は身に覚えのないえろろー扱いに、何が何だかわからず驚く竜郎。
けれど愛衣はそれを無視して、再び名前候補を考えていく。
(ふむふむ、月と太陽かぁ。そういえば、太陽の神様は天照って女神だったよね。
太陽は熱いし火と似てる……。あれ? 月の神様はなんて名前だっけ?)
「ねー、たつろー。月の神様ってなんだっけ?」
「月の神様? アルテミスとかじゃなかったっけか。んで太陽がアポロン」
「いやいや、アメリカンな方じゃなくて、日本の方だよー」
「あ、アメリカン…………? ギリシャ神話なんだが…………」
「そうなの? まーどっちでもいいんだけど、それで何だっけ?」
「んー太陽は天照大神だったよな。
月はえーと……ちょっと待ってくれよ~」
「うん」
度忘れしてしまった竜郎は、《無限アイテムフィールド》からスマホを取り出し、辞書アプリを起動して調べていく。
(愛衣はネットで調べればいいと言っているが、やはりこういう時にも使えるのだから辞書アプリはあった方がいいな。
えーと、天照で調べれば出てくるかな)
そうして調べていくと、直ぐに名前が見つかった。
「ああ、そうそう月読命だ。
確かイザナギの左目から生まれたのが天照、右目から生まれたのが月読命。
そして鼻から生まれたのが、須佐之男命ってな」
「スサノオ君は別にいいや。それで月読命って天照と同じ女神様?」
「一般的に男だって言われているな。けど、明確に性別を記した箇所が記紀にはないから、一応不明らしい」
「じゃあ、女の子でもいいね」
「女の子でもってことは、それを名前にしたらって事か?」
「そう、杖の子は火を第一属性に持つ天照ちゃん。
セコム君の子は水を第一属性に持つ月読ちゃん。どーお、これなら良くない?」
「まあ、漫画のキャラとかでも女の子に月読とかいるからな。別にいいんじゃないか?
太陽と火。月と水。言われてみれば、あってる気がしてくるし。
本人たちはどうだ?」
竜郎が杖とコートに話しかけるとピカピカとコアが点滅し、手袋を通して嬉しいと言う気持ちが自分に伝わってくるのを感じた。
「ん。どうやら二人も気に入ったみたいだな。
それじゃあ、天照と月読。これからよろしくな」
「よろしくね!」
「ピィーイ!」「ヒヒン!」
「よろしくですの!」「よろしくお願いします」「よろしくっす~」
この場にいる全員からの歓迎を受け、天照と月読は再び嬉しそうに点滅した。
そんな風に竜郎達が歓迎していると、システムからパーティ申請が全員に届いた。
勿論、差出人は天照と月読である。迷う理由は無いので、全員直ぐに許諾を押した。
「やっぱりシステムがインストールされてたか。
じゃあ、ステータスを見せて貰ってもいいか?」
そう問いかければイエスと言う感情が、竜郎の中に伝わってきた。
なので遠慮なく天照と月読のステータスを全員で見ていくのであった。




