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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第六章 喧嘩上等編

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第280話 アーレンフリートとの会話

 また厄介な存在が見えてきたことに表情を硬くしながらも、竜郎は貴重な意見に礼を言ってから次に聞きたかったことを問う事にした。

 リアに魔法をかけた直ぐ後、アーレンフリートが何をしていたのかを。



「魔法をかけた後、私は死体がどういう扱いを受けるか見ていた」

「見ていた? それは何処でどうやって?」

「直ぐ近くで、私という存在を知覚できない様に呪魔法を自分にかけていたんだ」

「存在自体を消せるのか。純粋な力はないが、やっぱり呪魔法ってのはかなり便利だな」

「そうだとも! 先生も呪魔法の魅力に気が付いてくれて嬉しいぞ」



 抱きつこうとするほどの勢いで、こちらに身を乗り出してきたので、竜郎は後ろに身を引いて距離を取った。

 アーレンフリートは乗り出した体を受け止める存在がいなくなった事で、前のめりに机に突っ伏した。

 けれど何事もなかったかのように、座り直し呆れ顔をする竜郎に優雅に笑った。



「それで話を戻すんだが、ぶっちゃけそんな事が出来るのなら、そのままリアを運んでいったほうが速かったんじゃないのか?」

「……こんなことを言うと先生から不興を買いそうではあるが、勘違いしてほしくはないから正直に言おう。

 私が元々ドワーフの娘をあそこから出してやろうと思ったのは、単なる暇つぶしでしかないのだ。

 それなのにそこで私が介入して、ゲームが直ぐ終わってしまったら意味が無いであろう」

「なるほどな。なんでリアを助けたのかとは気になっていたが、そんな理由か」

「おや、あまり怒っていないようだね?」

「まあ。倫理的にどうかと言われれば、どうかしていると言わざるを得ない。

 けど、そのおかげでリアと会って俺達も助かったんだ。

 経緯はどうであれ文句は言えないさ」

「例えそれで何人死んでもかい?」



 それをお前が言うのかと竜郎は苦い顔をしたが、それでも頷いた。



「顔も見たことが無い人が死んだと聞かされても、可哀そうだとは思うが悲しいとは思えない。それに現実感もない。

 正直、他人がどれだけ死んでも対岸の火事でしかないんだよ。

 だからリアと出会えたことの方が、何倍も俺にとっては重要だったってだけだ。

 勿論、知人に手が回っていれば怒ったし、リアの件が無かったらお前には嫌悪感しか抱かなかっただろうがな」

「ははは。先生は自分勝手な人間だ!」

「人間なんて、そんなもんだろ」

「そうだ。私だって、まずは自分の事。

 先生が正義感に溢れた、または正義感にかぶれた人間じゃなくて良かったぞ」



 これまで知らない人間も助けた覚えはあるが、それだって自分達に危険が無いと判断したからこそできた事。

 もし愛衣に危険が及びそうなら、他人が何人いようとも蹴り捨ててでも逃げるだろう。

 そしてそれを竜郎は恥ずかしいとも思わないし、後悔もしない。

 そんな人間は確かに正義なんて無縁だろうなと、竜郎自身思った。



「それじゃあ、リアを助ける動機も解ったし、続きを聞かせてくれ」

「ああ。勿論だとも」



 それから聞かされたアーレンフリートが語る話によれば、まず一番最初に見つけた世話係の女性は真っ先に隠蔽に走ろうとしたらしい。

 直ぐに麻の袋を持ってきて、その中にリアの遺体を入れて持ち運ぼうとした。



「けれど冷静に考えれば、そんな怪しい荷物を抱えていたら直ぐにバレてしまうだろ?」

「だろうな。俺が出入り口を見張っていたのなら、中身を確認するだろうし」

「そう。でもそれじゃあ、つまらないと思ってね」



 なのでアーレンフリートは呪魔法を使って、魔力が切れるまで彼女を暫くの間だけ、周囲から認識できなくなる様にした。

 そして麻の袋をどこに持っていくのかは、彼女の自由意思に任せて黄金の短剣を渡し、それを捨てた場所に置かなければいけないと思い込むように、これまた呪魔法で思考誘導しておいた。



「麻の袋をきっちりと締めていたからね。

 切る物が無ければ袋から出られず死んでしまうだろう?」

「それじゃあ、ゲームにならないと」

「そうさ。せっかく宝探しゲームになってきたのに、私が解く前に死んでしまっていたら興ざめだ。

 虚弱な人間が生きている間にそれが出来るかというスリルが、いいアクセントになるだろう?」



 悪趣味な奴だと思いながらも、数千年も生きていて、まだ数千年寿命が残っているアーレンフリート。

 確かにそれだけの人生を生きると言うのなら、そういう変な遊興に手を出し始めるのも無理はないのかもしれないと口をつぐんだ。



「それから女が屋敷から無事逃げるのを見届けた所で、私は屋敷に戻って競争相手がどう動くか偵察することにしたんだ」



 その時にモーリッツという男を初めて見たのだと言う。

 そして手の内が解りすぎても面白くないと、モーリッツが捜索を決めた辺りで独自に探しに向かい始めた。

 アーレンフリートとしては、長くても数ヶ月くらいのお遊びだと考えていたのだが、本気で探してもなんの情報も得られなかった。

 そこでこれは面白いイレギュラーが発生したに違いないと、嬉々として方々を探索しながらモーリッツの事も、その時に初めて真面目に調べようと思ったらしい。



「けれど先ほど言った通り、あ奴はせっかく地位もあって裏まで顔も効く、それでいて財もあると言うのに空回りばかり……」



 だからアーレンフリートは見る価値なしと烙印を押して、リア探しの旅に出た。

 そして長い寿命を飽かして、じっくりと腰を据えて三十年以上探し続け、ついに竜郎達の情報を知って、ここまで来た。

 というのが、この男の語る真相だった。



「アーレンフリートがモーリッツの周りを調べた時に、頭が切れそうな人間はいなかったんだよな?」

「ああ。いたらもう少し念入りに調べていたさ。

 いくら暇潰しと言っても、負けるのは嫌だからね」

「んー。それじゃあ、結局その辺は解らないって事か…」

「けれどモーリッツは、ハーフドワーフ。寿命は長くても百四十まで生きられれば大往生だろう。

 私の様に超長命種ではないのだから、奴にとって三十年というのは非常に長い。

 もう探していないと思ってもいいと思うがね」

「それでも生きている可能性があるのなら、警戒は続けておくよ」

「まあ先生がそうしたいのなら、私からはこれ以上何も言うまい」



 そこで一度話が切れて、丸テーブルの上に置かれた竜郎が用意した冷えたお茶に二人は手を伸ばした。

 そうして竜郎は動かしていた頭を休めていると、ふと気になることが、もう一つある事に思い至った。



「──そういえば、アーレンフリート」

「なんだい?」



 手に持ったコップをほぼ同時に机に置いて向き直った。



「リアが何故あそこに監禁されていたのか。そこのところは知っているのか?」

「詳しい所までは興味が無かったから調べていないが、余程情報を読み取るのに優れた目を持っているのだろうくらいは知っている。

 それでモーリッツは、珍しい商品を造り儲けていたことも」

「そうか。一応聞いておくんだが、方々にそのことを言いふらしてはないか?」

「無いね。そうするメリットが私にはない」

「だろうな。それを聞いて安心したよ。できればこれからも他言無用でお願いしたい」

「そうする気も特になかったが、他ならぬ先生の頼みだ。その点は約束しよう」

「助かる」



 竜郎は軽く頭を下げると、またお茶を口に付けた。



「──それじゃあ、他に先生から聞きたい事は無いかね?

 ないのなら、今度は魔法談義に花を咲かせたいのだがね」

「そういえば、約束はそっちだったな。

 えーと…………。時間的に後一時間くらいなら付き合おう」

「それは良かった。ではまずは何から話そうか──」



 談義とは言いながらも、その内容の殆どはアーレンフリートがいかに呪魔法は凄いのかという自慢話が大半で、竜郎はそれに相槌を打つくらいしかしていなかった。

 けれどそれは退屈だったかと竜郎に問えば、答えはノーであると言うだろう。

 その話は呪魔法や、呪と闇の混合魔法で出来る事であり、何となくのやり方も仄めかせて話してくれるので、竜郎としても有益な情報ばかりだったのだ。


 なので飽きるどころか真剣に話に耳を傾け、奈々にも教えてあげようと考えながら時は過ぎていき──気が付いた頃には、一時間はあっという間に来てしまっていた。

 アーレンフリートも、自分の次元の話をここまで吸収しようと言う姿勢で聞いて貰えたのは初めてだったので、こちらも非常に満足のいく時間だったようで、終始口角が上がって上機嫌だった。



「それじゃあ、今日はそろそろ部屋に戻るよ。中々面白い話だった」

「そうかい! 私もここまで真剣に語れて満足さ。

 どうも次元の低い者に聞かせても、話半分にしか耳を傾けんのだ」



 どんなに頑張っても生きている間に手の届かない領域の話をされても、それに興味を持てと言うのは酷な話だ。

 竜郎はアーレンフリートの言葉に、そりゃそうだと思いながらも曖昧に誤魔化しておいた。


 それから二人で部屋の方へと向かっていき、アーレンフリートは竜郎達より七階低い所で降りていき、そこで別れた。

 竜郎は早く愛衣に会いたいなと思いながら、さらに上階へと登って行った。


 フロアで見張りをしていてくれたジャンヌに礼を言ってから、部屋に着いて鍵で扉を開くと、竜郎の気配を察知した愛衣が直ぐに出迎えてくれた。



「ただいま、愛衣」

「おかえり、たつろー!」



 少しの時間離れていただけなのに、まるで数年間離れ離れにでもなっていたかのように、二人は熱い抱擁とキスを交わした。

 そんなことを飽きもせずに三十分ほど続けていると、火照った体を覚ますために、また教育上よろしくない事をしに行くために、カルディナを竜郎の中に戻してから、二人で浴場へと向かっていった。


 異世界に来てからというもの殆どずっと側にいたので、少し離れただけでも二人は反動で盛り上がり、体がふやけるまでお互いを求め会った。


 それから七日間、依頼を受けてはアーレンフリートと魔法談義、愛衣と体を重ねて寝る。

 そんなルーティンで時は過ぎていき、八日目の朝。リアが籠っていた部屋から出てきて、竜郎の元にやってきた。



「兄さん。試してみたい事があるんですが、手伝って貰ってもいいですか?」

「試してみたいこと?

 俺にできる事なら協力するが、具体的に何をすればいいんだ?」

「じゃあ、私の方の部屋に来てください」

「解った」

「ねーねーリアちゃん。私もいってもいーい?」

「ええ、大丈夫ですよ」

「わーい」



 という事で、リアの試したいことの為に同じフロアにあるもう一つの部屋へと入っていった。



「こりゃまた……。掃除が大変そうだな……」

「あはは……。ちょっと夢中になりすぎてしまいまして」



 その部屋は竜郎と愛衣が泊まっている所と同じ内装のはずだったのに打って変わり、リアが纏めた資料や、これまで集めてきた物資、鍛冶師道具などが、そこら中に散らばっていた。

 それに恥ずかしそうに笑いながら竜郎と愛衣を連れて、けもの道のように物の置かれていない唯一の通り道をリアが先導して歩いて奥へと進んだ。


 すると部屋の中の一角にある家具をどけて作った広いスペースに、リアの簡易工房が出来上がっていた。

 その場所にいた奈々に竜郎と愛衣が、おはようの挨拶している間に、リアは物をどけて二人が座れるスペースを開けた。



「では、ここに座って貰っていいですか?」

「ああ」「はーい」



 二人が座ったのを確認したリアは、さっそくとばかりに目的の物を取り出して、それを竜郎へと手渡した。



「これは?」

「それは魔力頭脳のメインコアの中核に当たる部品です。

 ですので落とさない様に気を付けてくださいね」



 渡された物体は、直径十五センチほどで薄青色の半透明。両面にエメラルドカットされた、長方形の宝石の様な物。

 透けて見える内部には電気回路の様な基盤が埋まっており、機械のパーツの様な雰囲気も持っていた。



「それじゃあ、リアちゃんの魔力頭脳は完成したって事?」

「はい。動作テストも終えて、あとは杖に組み込めば完成です」

「そうなのか。でもそれだと俺は何をすればいいんだ?

 動作テストを俺もすればいいのか?」

「本当なら、それを組み込んで兄さんに試運転してもらう。

 ──って言うので良かったんですが、途中で兄さんならではの強化方法を思いつきまして、その理論が実際に通用するかどうか試してみたくなったんです」

「俺ならでは?」「たつろーならでは?」



 竜郎は魔法についてはそれなりに造詣を深めてきてはいるが、リアのやっている装備造りは全くのド素人で、おそらく奈々の方が詳しいくらいだろう。

 だというのに今回は魔力頭脳という、この世界の職人ですらオーパーツであろう存在が関わっている物体にどう協力すればいいのか。

 二人はそれがまったく思い至らず、ただただ首を傾げるばかりなのであった。

次回、第281話は7月19日(水)更新です。

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