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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第六章 喧嘩上等編

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第279話 共犯者?

 朝に宿を出てきたというのに、巣退治だけで夕暮れ前になってしまっていた。

 けれど今日受けた依頼は一つだけだったので、依頼が達成扱いになっているかシステムで確認してから、竜郎達は町へと帰っていった。


 道中は何事もなく、来た時と同じように竜郎達はジャンヌの引く犀車で、アーレンフリートは三つ首のダチョウの様な魔物に乗って駆け抜けていった。

 それから町の近くでジャンヌには《幼体化》してもらい、徒歩に切り替えて町へと歩いて到着した。

 その時に何の依頼で町の外に出て行ったのか知っていた町門の衛兵に成果を聞かれ、問題なく終わった事を告げると丁寧に礼を言われた。



「僕らも依頼でやっただけですから」

「いえいえ。町の近くで大量の魔物に囲まれると、我々も無関係じゃいられなくなる所でしたからね。

 ほんとうに、ありがとうございました!」



 竜郎や愛衣が恐縮するくらい頭を下げてくる衛兵に、よっぽど恐かったのだなと思いながら町の中へと入れて貰った。

 さっそく冒険者ギルドで達成状態になった依頼書を提出するために、そちらに向こう事にしたのだが──。



「では、私は少し別行動をしないといけない。

 コレも魔物だから、冒険者ギルドが指定した場所にしか置いてはいけないのだよ」

「解った。それじゃあ宿で落ち合おう。その時に報酬の代金も渡すから」

「別に金なぞいらないぞ。先生が持っていたまえ」

「お前の金なんかいらいないよ。ただでさえ貸しを返却中なんだ。これ以上貰う事なんてできるか」

「はははっ、律儀な男だな先生は」

「そうかい。んじゃあ、また後でな」

「ああ、待っているよ、先生! ──さらばだ!」



 そう言ってローブをバサァッと格好つけて広げると、三つ首ダチョウに飛び乗って颯爽と町中をかけていった。



「あのガースケ君って町中で走らせていいのかな?」

「勝手に人様の魔物に名前を付けるんじゃありません。んーでもまあ、自転車みたいな物だと思えばいいのかもな」



 些細な疑問を抱きつつも、まあいいかとギルドに向かっていく。

 冒険者ギルドは入り口近くにあるので、歩いて数分でたどり着いた。

 それから中に入ると、目ざとく竜郎達を見つけた職員に手招きされ、そこで依頼の達成を示す依頼書を渡した。

 すると直ぐに確認は終わり、報酬は直接ギルド長からと二階の部屋に通された。


 ここホルムズの町の冒険者ギルド長は女性のドワーフで、リアとそう変わらない背丈ではあるが、見た目年齢は40歳やそこらの温和な印象を受ける風貌の人物だった。

 そんな人が椅子から腰を上げて立ち上がると、長い銀髪を揺らしながら礼を述べてきた。



「みなさん、今回は本当にありがとうございました。

 いくら高ランクの冒険者とはいえ、大分大きくなってしまっていると聞いていたので、もう少しかかる思っていたんですが流石ですね」

「魔物自体はそんなに強くなかったですからね。

 面倒ではありましたが、何とか早めに終わらせられました」

「迅速な対応痛み入ります。では、そちらのソファーにおかけください。

 今、約束の報酬をだしますから」



 ギルド長が机の引き出しを開けてコインを取り出している間に、言われた通り竜郎達はソファに並んで腰掛けてそれを待った。



「こちらが報酬のお金です」



 竜郎達から見て机を挟んだ向こう側のソファーに、ギルド長──ヒルデ・ウェバーが目の前にコインを置いた。

 それを受け取り事前に提示されていた額が入っている事を確認してから、一度全部を竜郎が預かっておいた。

 コインを入金したのを確認した後、ヒルデは黄色く光る半透明で、三角形の薄い板を差し出してきた。



「これが、もう一つの方の報酬です」

「もう一つっていうのは、困った事があったら助けてくれると言う事でしたが、これをどうすれば?」

「代表者──出来ればランクのついているタツロウさんか、アイさんが手に持ってください」

「たつろーが持っててよ」

「ん、そうか? じゃあ俺が」



 愛衣は自分が持つより竜郎が持った方が良いだろうと促してきた。

 なので竜郎は遠慮なく黄色く光る三角プレートを手に持つと、粒子となって体に吸収されていった。



「これでタツロウさんのギルド証には、冒険者ギルドに貸しを持っている事を示す印が付くはずです」

「印ですか。えーっと…………ああ、このランクの書いてある後ろにあるコレですか?」

「はい。それです」



 実際にギルド証を出して愛衣達にも見えるように表示させてみると、個人ランクの数字の後ろに黄色い三角マークが新しく付いていた。



「それは世界中どこの冒険者ギルドでも使えます」

「使う? 使う物なんすか?」

「はい。それをギルドの正規職員に提示して、『借りを返してほしい』と言えば、悪事に携わる事でもない限り、出来る限り力を貸してくれるはずです」

「へー。それで借りを返してもらったら、これは消えちゃうの?」

「はい。ですが冒険者ギルドは、受けた恩は必ず返すことを約束します。

 ──もっとも、あなた方に解決できない様な事が我々にどうにか出来るかと言われれば難しい所ですけどね」



 最後に冗談めかしてヒルデがそう付け足した。けれど竜郎は、そうとは思わなかった。

 確かにレベル10のダンジョンを抜けた竜郎達は、今や個々の持つ戦力としては破格だと言える。

 大抵の事は力づくで解決してしまう事も出来るだろう。

 けれど組織的な強さで言えば皆無と言ってもいい。

 ランクという冒険者ギルドが保証してくれる社会的地位はあるが、大きな組織と揉めた時に個人でどこまで主張が通るか解ったものではない。

 なのでそういう時の保険として、世界中に根を張る巨大組織の筆頭である、冒険者ギルドの組織力が欲しかったのだ。



「まあ、取れる手は沢山あった方がいいですからね。

 有難く頂戴しておきます」



 社交辞令でない言葉で感謝を伝え、軽く事後報告もしておくことにした。



「そういえば巣を破壊するときに地盤を少し沈めてしまったのですが、大丈夫ですかね」

「地盤をですか? そうですね、あの辺りは人の居住区でもないですし問題ないかと。

 後は自然が何とかしてくれるでしょう」

「そうですか。なら良かった」



 たぶん大丈夫だろうと思っていたのだが、改めて言質が取れたので竜郎は安心した。

 後は適当に巣の規模などを話し、世間話も少々交えてからヒルデに別れを告げて冒険者ギルドを後にした。

 ギルドを出ればすっかり辺りは夜になっており、竜郎達は芸術品でもある街灯照らす道を足早に宿へと急いだ。


 宿に着いてからロビーで寛いでいたアーレンフリートに、先ほど貰った報酬金額から人数分で割った額を手渡そうとした。

 けれどただ金を渡そうとしているだけなのに、また「やはり先生から金銭は受け取れない」と面倒臭い事を言い始めたので、半ば強引に言いくるめた。



「うむ。先生が、そこまで言うのなら受け取ろう」

「はいはい、是非そうしてくれ」



 それから後でまた竜郎と会う約束を念押しされてから、一度別れた。



「やっぱり、な~んかアイツ苦手だ」

「人見知りあんましない、たつろーにしては珍しいね」

「んー。たぶん自分の言葉を最優先で話してくるから、こっちの言いたいことがまるで伝わらない。

 そういう話の通じない相手ってのが苦手なのかもしれない」

「あははっ。それは解るかも。すっごい我が強い感じだもんね、あの人」

「そうそう、あー……。また食後に話さなきゃならんのか…………」



 だが約束は約束だ。借りを返さずにしらばっくれるのは、竜郎としても気持ちが悪い。

 それにいつまでも、というわけでもない。

 リアは行き詰ったり技術的に困った時があってもいいようにと、近くにルドルフがいるこの町で、最初の一つ目の魔力頭脳を造りたいと考えていた。

 なのでそれまでは竜郎もいるつもりだが、それも一月や二月といった時間ではない。設計図さえ出来てしまえば、後はそれにそって迷わず造るだけなのだから。

 長くても一週間くらいで出来るそうなので、それまでの辛抱だ。



「まーとりあえず、ご飯食べよっ」

「だな」



 愛衣に腕を引かれながら、竜郎は自分の部屋へと帰っていった。

 それから一服した後、リアの様子を軽く覗いてみれば忙しそうだったので、休憩を適度に取る様に忠告してから夕食を取った。

 いつもなら食後に愛衣とイチャつくのが常であるが、今日からは少しの間それはお預けである。

 なのでジャンヌはこのフロアの警護に残って貰って、アテナはいつでも守って貰えるように竜郎の中に戻って貰った。



「んじゃあ、いってくるよ愛衣」

「いってらっしゃい、あなた。早く帰ってきてね」

「ああ。解ってるよ」



 玄関口で新婚ごっこをしながら「行ってらっしゃい」と「行ってきます」のキスを交わしてから、竜郎は後ろ髪を引かれる思いで階下に戻った。

 一階のロビー、開放スペースに並ぶ椅子と丸机のセットに視線を送りながら、そこへいるはずの男を探すと、やはり目立つローブのお蔭で直ぐに解った。



「待たせたな」

「いいや、待ってないとも」

「………………」

「何だい先生、その顔は」



 男と待ち合わせで何だかもの凄く微妙な気持ちになった事を胸の奥に押し込んで、こちらとしても意味のある会話にしていこうと頭を切り替えた。



「それで、どんな事を話すんだ?」

「勿論、呪魔法について語り明かそうと──」

「あー。悪いんだが、その前に俺からも聞いておきたかった事があるんだが、先にそっちをいいか?」

「勿論、問題ないさ」



 この男の呪魔法についての話を聞くのも、これから日本に帰ってリアの事などを誤魔化す参考になると思うので無駄ではない。

 けれどそれよりも前に、竜郎は出会った時から聞きたかったことを問うてみる事にした。



「まずモーリッツ・ホルバイン。

 リアの事を探して三十年以上さまよっていたのなら、この男についても多少は調べていたんじゃないのか?

 どこまでアーレンフリートが知っているのか聞きたい」

「モーリッツか。懐かしい男の名前だな。

 ふーむ。それは勿論、調べていたとも。当時は、あ奴も探していたし周りを探れば何か解るのではないかと周囲をうろついていた事もあった」

「やっぱりそうか、それで?」

「それがな。近くで観察して思ったのだが、とにかく凡人だと言うほか感じなかったのだ。

 だからつまらなくなって直ぐにやめてしまったよ。これは自分で探した方が早い、と思ったのもあるが」

「……? でも何件もの犯罪を完全に隠蔽していた可能性が高い男だという情報を得ているんだが、凡人にそれが出来るのか?」



 リアも珍しいスキルも何も無い凡人と言っていたが、ダンジョンの情報と引き換えに手に入れた資料だけで竜郎が感じたモーリッツという男は、非常に優秀な印象を抱いた。

 そんな男が凡人なはずがない。もしかしたらアーレンフリートは魔法的な観点しか見ていなかったのではないかと、竜郎は遠回しに確認してみることにした。



「それは私には解らんな。私が近くから離れた後の話であって、その後は独自に捜索していたのだから。だが──」

「だが?」

「あの男に、それが出来るとは到底思えない。

 当時、犯罪の規模も規模だったから、この国が保有する中でも最精鋭の調査機関も動かして証拠を探した様だが何も見つからなかった。

 けれどあの男は近くで数ヶ月見ていた限りでは、人間としても中の中。

 特に優れた才も見当たらない、そこいらに混ざれば解らなくなるほど一般的な男だ。

 とても優秀な人材の目を盗めるような頭も無ければ、力もない男に出来る所業ではないのだよ」

「……という事は、誰かが手助けしたって考える方が自然だな」

「当時、金払いは良かったようだし、それに目を付けた犯罪の才覚を持った存在をバックに付けていた可能性は、とても高いと思うぞ」

「そう言う事もあるか。となると脱走に手を貸したのも、その存在が関わって逃がしたかもしれないな」



 死刑囚が死刑執行日にホイホイ自力で抜け出せるわけもないので、何らかの外部的な存在がいるとは思っていたが、もし九十件近い重犯罪を証拠も残さず行えるようなヤバい奴が今も付いているとなると、竜郎達でも危険だ。

 これはもっと警戒レベルを引き上げておいた方がいいかもしれないと、竜郎は改めて考えていったのであった。

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