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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第六章 喧嘩上等編

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第278話 蟻の巣破壊

 軽く探査した限りではアーレンフリートはおろか、ジャンヌとアテナもまだここまでたどり着いていない様子。

 ジャンヌ達ならいいが、赤の他人の──それも勘が鋭そうな男の近くで《レベルイーター》を使いたくはないので、二人で片付けてしまう事に決めた。



『殲滅するのは簡単だが、どうせなら女王アーマレからはSPを貰っときたいな』

『ってことは、アイツだけは生け捕りだね』



 念話での愛衣の言葉に竜郎は頷きながらライフル杖を構えるが、まだ魔法は使わない。



『今までの傾向からして、女王アーマレにも《魔力感知》は備わっているだろうし、魔法での先制攻撃は直ぐに気づかれるかもしれない。

 まずは愛衣から攻撃してみてくれ』

『はいよー。そんじゃ、近衛アーマルを排除しちゃおうかな』



 愛衣は折りたたまれている状態の軍荼利明王を腰から伸ばして、穴から大部屋の方に手を出しながら鎌術の派生スキル《隠密迷彩》を使って見えなくした弓を展開。一瞬で矢を番えて、《一発多貫 Lv.4》を発動する。

 すると矢が五本に増えて、女王アーマレの周囲にいる近衛アーマルの方に照準を合わせていく。



『撃つよー。準備はいーい?』

『ああ、いつでも大丈夫だ』

『3、2、1──ていっ』



 適当な掛け声とは打って変わって光線の様に真っすぐ飛んでいき、五本の矢が的確に近衛アーマルの頭部に突き刺さり、貫通して後ろにいるモノも屠っていく。

 さらに《軌道修正 Lv.3》を使って無理やり進行方向を捻じ曲げて微調整していき、女王アーマレの周囲をなぞる様な軌道を描いていく。

 ──結果。女王アーマレが気づいた時には、近衛アーマルは全滅していた。


 そこで近衛以外の普通のアーマルに命じて、自分を守る様に「ジジジジジイィーーーーー」と、蝉に似た鳴き声で指示を下した。

 けれどその瞬間には竜郎の魔法が発動し、混乱で切ってしまっていた《魔力感知》を起動する前に天井から無数の氷柱が雨霰と降り注いできた。



「ジジジジジィーー」



 ただ落下に任せて落としているだけなので、近衛アーマルだったのなら負傷で済んだかもしれない。

 けれどノーマルな個体では、それだけの攻撃に対しても抗う事が出来ずに、命令を与えて行動を一瞬止めてしまったことも重なって、無残に氷柱が突き刺さって死んでいった。

 けれど女王だけは体のあちこちに氷柱を刺してはいるが、分厚く固い皮膚のおかげで肉には到達せずに大してダメージにはなっていなかった。

 なので直ぐに卵を新たに生産しながら、それを強化しつつ先ほど感知した魔法の発生源に向かって口を開き何かを出そうとしてきた。



「頼む!」

「ジビビビビィビビッ──」



 けれど竜郎の頼むの一声が響き渡った瞬間、氷に付けていた保険が発動し、致命傷にならない足や臀部などの部分に刺さっていた氷柱の重量が異常なほど増した。

 いきなり質量からして有りえないほどの重量を持った氷柱は、分厚い皮膚を貫いて肉に突き刺さって貫通し、穴を穿ちながら地面にドンッと突き刺さった。



「あれは重力の精霊魔法?」

「ああ。属性魔法の範囲内になるかどうか不安だったんだが、試したら普通に出来た。

 だから大体あの辺の氷柱にくっ付いて、待機してくれって言っておいたんだ。

 あのくらいの魔力量だと一瞬だけしかできないみたいだが、それでも十分だったな」



 既に重力の精霊魔法は魔力を使い切って氷柱は元の重さに戻ってしまったが、一瞬とはいえ言葉一つで遠隔操作し、物の重さを変えられるというのは便利の一言で済ませられる技ではない。

 これなら他にも色々出来そうだと確信を得ながら、愛衣が新しく産み落とされた卵を弓で射抜くのを横目に、刺殺された魔物の死骸を出来る限り避けて巣の主の元へと歩いていった。



「ジジ──ジジジッ──」

「悪いが、これ以上卵は産まないでくれ」

「ジッ──」



 体中ボロボロになりながらも卵を産もうとするので、竜郎は産卵管に向けて小レーザーを放つと、混ぜていた爆発魔法によって極小規模な爆発と共に砕け散った。

 声にならない痛みを訴えかける三メートル近い蟻モドキの姿に、さすがに憐憫の念を抱く。



「もっと人気のない場所でなら会う事もなかったんだが、こんな町の近くで巣を広げられるのは困るんだ。

 人間のエゴに過ぎないかもしれないが、弱肉強食だと思ってあきらめてくれ」


 言葉なぞ理解できないことは解っていながらも、竜郎はそう語りかけながら《レベルイーター》を行使した。



 --------------------------------

 レベル:33

 スキル:《産卵》《分体産卵 Lv.3》《卵大強化 Lv.2》

     《精密魔力感知》《強酸性唾液 Lv.2》

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「OH……」

「どったの? 急に変な声を出して」

「スキルレベルが高いんじゃなくて、スキルのランクが高いだけだった……」

「どゆこと?」

「他の雑魚たちよりも良いスキルを持っているせいで、レベルが上がりにくいんだと思う。

 だから軒並みレベルが低くて、なんと合計(12)しかありませーん。

 いやー。暗算も楽にできるわー……………………はあ──」

「こりゃ、近衛の方がSP沢山だったかもねぇ」

「だなぁ。こいつが沢山持ってると思ったんだが、間違いだったかもしれない」



 後悔先に立たずとはよく言ったもので、いくらアーレンフリートが来る前にと焦ったからと言っても、もっと慎重にやるべきだったと反省しつつ、こういう事もあるのだと今後の参考にもした。



 --------------------------------

 レベル:33

 スキル:《産卵》《分体産卵 Lv.0》《卵大強化 Lv.0》

     《精密魔力感知》《強酸性唾液 Lv.0》

 --------------------------------



「じゃあ、カルディナ。楽にしてやってくれ」

「ピピッ────ピュィイイーー」



 《幼体化》状態で愛衣のポケットから飛び出して《真体化》すると、竜翼刃の斬撃を放って首を落とし、魔物を痛みから解放した。

 レベルは流石に上がらなかったが、そこいらの魔物よりはマシな経験値を稼いで、カルディナは《幼体化》して再び愛衣のポケットに入っていった。


 それから《無限アイテムフィールド》に全部の死体を回収しておいた。

 素材としては下位に過ぎないが、《アイテムボックス+7》で得た再資源化で邪魔なら資源に変えてしまえばいいのだ。



「ヒヒーーーン」

「遅くなっちゃったっすか~?」

「いいや、大丈夫だ。今終わったばかりだし」

「そーそ。全然だいじょーぶ!」



 死体の回収を終えた頃になると、無数に開いた穴の一つからジャンヌとアテナがヒョッコリ現れて、竜郎達をみつけると前足や手を振りながら声をかけてやってきた。

 数時間ぶりの合流に喜びながら、ここまでの事を話していると、ふと愛衣が何かを見つけたようだった。



「ねねっ。アレ何かな?」

「ん?」「ヒヒーン?」「何すか?」



 愛衣の指差す方角。大部屋の一番奥の壁に何かがめり込んで、その表面だけをこちらにさらしていた。

 警戒しながら直接手で触れずに魔法だけで掘りおこしてみれば、それは赤みが差した透明な握り拳大の水晶玉だった。



「こんなの蜂の魔物の時にも見たよね?

 確か──そうだ、女王蜂の卵だったんだよね?」

「ああ、ってことはコレもそうか。さしずめ女王アリの卵──」

「どうするんすか、それ? ギルドに渡すっすか?」

「いや、持っておこう。《無限アイテムフィールド》内で時間を止めとけば、孵化することもないし」

「卵コレクションでも作る気かな?」

「結構きれいっすから、飾っても見栄えがよさそうっす」



 竜郎としてはただの貧乏性が発動しただけなのだが、あのゼリー状の卵は無理だったが、これなら《無限アイテムフィールド》にも入るのでレアアイテム気分でしまっておいた。



「そんじゃあ、外にでる準備をしとくか」

「え? 来た道を戻るんじゃないの?」

「ちゃんと目で最深層を確かめて、女王のアーマレも討伐し終わった。後は外から巣を潰せば問題ないだろう」

「でもどうやって外へ出るんすか?」

「土魔法で上までトンネル掘って、階段でも作ればいいだろう。正直トンネル歩くのも飽きたしな」

「そんな理由かい。まあ、飽きたってのは私も解るけどね」



 特に反対意見もないようなので、アテナと《幼体化》したカルディナ達の土魔法の力も借りながら一気に斜め上に伸びる階段を造り上げ地上までつないでしまった。

 すると明るい光が差し込んできて、竜郎達は目を細めながら上を見上げた。


 それから階段の強度を解魔法で念のために調べていると、ようやっとアーレンフリートもやってきた。



「おおっ、これは凄い! 帰りは楽そうでいいじゃないか!」

「そりゃどーも。そんじゃ全員無事に合流出来たって事で、上に行こう」

「とすると、どうやら全部終わってしまったみたいだね。

 私の呪魔法を先生にもっと見てほしかったのだが……残念だよ」

「はいはい。取りあえず上に行くぞ。とっととしないと、巣ごと埋め立てるからな」



 心底残念そうにするアーレンフリートを尻目に、竜郎は愛衣やジャンヌ、アテナと共に階段を登って行ってしまった。

 それに肩をすくませると、アーレンフリートはローブをなびかせながら優雅に後ろに続いて階段に足をかけた。



「はいっ、とーちゃーーく!」

「ああ。ずっと穴倉にいたせいか、地面に立つとホッとするな」

「ヒヒーーン」「そうっすねー」



 竜郎達が仲間内で巣穴からの脱出を終えると、アーレンフリートも五分ほど遅れて出てきた。

 妙に気取った歩き方をするせいで、竜郎達よりも遅れてしまったのだ。

 けれど別に大して被害を被ったわけではないので、軽く迎え入れて後ろに下がらせた。



「これから何をする気なんだ? 先生」

「穴を爆破して埋める」

「爆破────爆発魔法も使えるのかっ、先生は!」

「まあね──と」

「聞いていた通り変わった杖だね、先生のは」

「ん? あーそうかもな」


 真面目に答える気もないので、竜郎は《無限アイテムフィールド》から出したライフル杖を右手に持ってトリガーを引き全てのコアを発動させる。

 そして左手では愛衣と手を繋ぎながら、アーレンフリートの言葉を軽く受け流した。


 何故愛衣の手を握るのか不思議に思っているようだが、それも答える気はないので疑問の視線を無視してライフル杖の先から光の筋を階段の下に通していった。

 それを最深層から繋がる全ての穴に分岐して通していき、三十分ほどかけて広大な巣の全域に光の筋を通し終った。



「ふぅ──よしできた。んじゃあ危ないから、こっから下がるぞ」



 全員を引き連れて、白線を引くかのようにライフル杖の先から光を出したまま竜郎は後ろに下がっていく。

 そうしてから《多重思考》を発動して、新たに生まれた思考域で解魔法を使って改めて周囲に人がいないかを確認した。



「よし。安全確認OK。

 じゃあいくぞ────3──2──1──爆破!」



 竜郎の声に反応するかのように光の筋が膨張していき、巣穴全域が光で満たされた。

 そしてそれを見計らって地下で大爆発が起きた。

 ボオオオオオン────。という籠った音と、大地の揺れがその規模の大きさを現しながら穴は破壊され、その分、地面は低くなってしまった。

 けれど地中探査で調べた限り穴は全て埋まり、生き残っていた数少ない残党も消し飛んだ。



「よし、全アーマル及びアーマレの駆逐。巣穴の破壊。全部オールクリアっと」

「おつかれ、たつろー」



 隣で手を握っていた愛衣は、そのまま集中して疲れているのを労うように、腕に巻きついて竜郎の頬にキスをした。

 そんな風に所構わずイチャつく二人にジャンヌ達はなれたもので、別段気にした様子もない。

 アーレンフリートも二人が何をしようと、それは魔法には関係ない事なので興味もなかった。


 けれど今竜郎がやってのけた大規模爆発には、どれほどの魔力と魔法制御力が必要になるのかと目を丸くした後、それをやってのけた竜郎へと恋情にも似た──けれど似て非なる視線を、アーレンフリートはウットリとした顔で送るのであった。

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