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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第一章 森からの脱出編

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第27話 いざ、オブスルへ!


「おつかれー」

「お疲れと言うほど疲れてないけどな」


 戦い始めてから時間にしてほんの三、四分。旅の疲れは確かにあるが、今の戦闘での疲労はほぼなかった。



「これ、このまま置いてったら通行の邪魔だよね」

「あー……確かに。仕方がない、《アイテムボックス+3》にして容量確保するから、それで持ってくよ」

「うん、お願い」



 ちなみに《アイテムボックス》の+の数字を増やすごとに、容量は倍々で増えていく。なので現在使用率:96%でキツキツの竜郎は、SP(9)を使って《アイテムボックス+3》にし、使用量を半分以下にした。

 それから、二匹の死骸を回収していった。またその際地面の割れてしまった石畳も、土魔法でくっつけておいた。

 全てが終わった後、二人で荷馬車に戻るとゼンドーが呆然と立ち尽くしていた。しかし、後片付けに集中していた二人はそのことに気付かなかった。



「いやー見かけは青いのとかとそっくりだったのに、強さが違ってビックリしましたよ。

 あ、馬の方はもう大丈夫ですか?」

「あ、ああ、馬はだいじょ───今青いのって言ったか?」

「そうだよ、水晶が白じゃなくて青いやつ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! その言い方だと、た、戦ったのか? 青水晶のデフルスタルと…」

「あれってデフルスタルって言うんですね。えーとほら、これが戦利品です」


 

 竜郎は証拠とばかりに青い水晶をいくつか取り出して、ゼンドーに見せた。見せられた方は心臓がこれでもかと言うほど鳴り響き、今にも倒れそうだった。それが放つ輝きと美しさが、本物であると物語っていたからだ。

 しかしそんな事とも露知らず、愛衣が得意げな顔で《アイテムボックス》からアレを取り出して止めをさした。



「金色もあるよっ」

「──────────」



 ゼンドーは白目を剥いて、後ろ向きに倒れていった。



「ぎゃーおじいちゃんが死んじゃったー!」

「死んでねーよっ、縁起でもないこと言うな! 気絶してるだけだっての」

「突然気絶なんて……元気そうなのに持病でも持ってたのかな?」

「いやー……たぶんそうじゃない」



 竜郎は、気の毒そうな視線をゼンドーに向ける愛衣が持つ水晶を見つめながらそう言った。青い水晶を出したときの反応で薄々気が付いていた竜郎は、黄金水晶を見せたら倒れるんじゃないか、と思った矢先のことだったのだ。

 


「とりあえず、その黄金の水晶はあまり人には見せない方向でいこう。だからしまっといてくれ」

「えー、せっかくおじいちゃんにも見せてあげようと思ったのにー」

「その無邪気さで人が死ぬかもしれんのだ、自重しとけ」



 「んー?」と首を傾げる愛衣の姿に、解ってないんだろうなと思いながらも説明を放棄した。

 それから速やかに水晶を全部しまい、直前の会話はなかったことにするよう軽く打ち合わせをすませると、未だ起きないゼンドーを生魔法で起こした。



「ん……あれ? 俺はいったい何を……!? そうだ、俺は確か黄金の──」

「大丈夫ですか? ゼンドーさん。白水晶のデフルスタル?が来て、すぐ倒れてしまったので心配しましたよ」

「あ? あれ? そうだった……か? なんだ、あれは夢だったのか。ははっ、そりゃそうだ──って、それじゃあデフルスタルの奴はどうしたんだ!」



 そういって周りを急いで見渡すが、それらしき影はない。

 そんなゼンドーを落ち着かせるように、愛衣が竜郎の後を継いだ。



「そっちは私たちが、バーンってして追い払ったから大丈夫だよ。どこにもいないでしょ」

「追い払ったのか? じゃあ、あそこの大量の血の跡はいったい…」

「あああああれは、それよ! こうバーンてした時にビシャーってなったから、ビューンって逃げたんだよ」

「んんん? えーと、まあよくわかんねーが、もういなくなったってことでいいんだな?」

「うん、そうだよ。おんまさんも元気でしょ?」



 そう言う愛衣の指の先を目で追えば、確かに荷台に繋がれた二頭は普段の状態に戻っていた。そこでようやく、自分が白水晶のデフルスタルを見て失神してしまったのだと納得した。



「かー情けねえ! 若い連中に全部押し付けてオネンネたーいい御身分だよなあ。

 まったく……歳なんか取るもんじゃねーなあ…………」

 


 しかしそうなると熊を見ただけで倒れた老人ということになってしまい、ゼンドーは本気で凹みだしてしまった。



「えーと、あれはーそのーねえ。しょうがないですよ。タイ…ミング? っていうか……そう! あいつら絶妙に失神するタイミングで来ちゃったんですよ、ありゃー失神するよな!」

「う、うん! そうだよ、あのタイミングは絶妙な失神タイミングだったよー」

「んなタイミングなんてあるかっ」

「すいません…」「ごめんなさい…」



 自分が蒔いた種を摘み取ろうとしたが、竜郎には急にいい言葉を思い浮かべることはできなかった。

 しかし自分を慰めようとしてくれている子供に対していじけたままでは、それこそ耄碌もうろくだ。

 そう自分に活を入れ、ゼンドーは立ち上がった。



「まあ、うじうじしてても始まらねーか」

「そうですよ」

「そうだよー」

「だな。んじゃ、夜になっちまう前にオブスルに帰るか!」



 そうしてまた三人は荷馬車に乗り、急ぎ足で町へと向かったのだった。




 それから夕方に入る頃になると、いよいよオブスルの町が姿を現してきた。それは真っ白な外壁に囲まれ中は見えないが、とても美しい外装をしていた。



「うわー、でっかいかべーっ!」

「汚れ一つない真っ白で綺麗な外壁ですね!」



 そう二人が壁についての感想を述べたとき、御者席でゼンドーはニヤリと笑った。



「知ってっか? あの白い壁は塩でできてるんだぜ!」

「「え!?」」

「がははっ、冗談だ!」

「な、なんだ、冗談ですか…」

「こらー! 信じちゃったでしょー!」

「わりぃ、わりぃ。オブスルの町の人間は、初めて来たやつにはだいたいこれを言うんだよ。

 するってーと大概の奴がお前たちみたいな反応して、そんなリアクションを取るってわけだ。

 まあ、一種のオブスルジョークだな、がはははっ」



 愛衣は「がははは、じゃないよーまったくー」と言ってむくれたふりをするが、いつか自分も誰かに言って驚かせてやると、心の中でほくそ笑んだ。

 そしてそんなオブスルジョークを楽しんでいる間にも荷馬車は進み、ゼンドーは外壁の近くまでやってくると徐々にスピードを緩め、外壁の門の手前の詰所で停車した。

 そうしてから三人が馬車を降りると、詰所の中にいた茶色い髪色の若い男の衛兵が現れた。



「ゼンドーさん。おかえりなさい」

「おう、帰ったぜ!」



 そこまで言うと、衛兵の若い男はゼンドーの隣にいる竜郎たちに目を向けた。



「えーと、こちらのお二人はどなたで?」

「タツロウとアイだ。この町に来る予定だって言うから、一緒に乗せてきたんだ」

「ああ、そうなんですね。では、念のため身分証を提示していただけますか?」

「「え?」」



 そんなことを言われても、この二人がこの世界の身分証など持っているわけがない。



「えーと、身分証を……」

「身分証がないと町には入れませんか?」

「あー持っていないのですね。それだと、気軽に町に入れるのはちょっと……」

「え? もしかして入れないの?」

「入れないというわけではないですが、色々審査やらなんやらをしてから、仮の身分証を発行と、いくつか手順を踏まないといけないので、また明日の朝以降に来ていただくしか……」

「そんな……」



 衛兵の男も心苦しそうに説明してくれたが、今の竜郎たちはこの町を取りあえずの終着点としてやってきたのだから、もう食料もほぼなくなり、心身共に疲れ切っていた。

 そんな中で目の前に町があるのに入ることができず、もう一日塀の外で過ごさなくてはならないのかと、二人は絶望的な表情を作った。


 その表情にゼンドーは、着の身着のままで親元を飛び出してきた──設定を思い出し、そんな二人が身分証など持ってこれはしなかったのだろうと思い至った。

 そしてまた、愛衣の今にも泣きだしそうな顔に、孫がいじめられているのを見るくらい、心がかき乱されるのを感じた。



「ばっきゃろー! てめぇーにゃ人の血が流れていねーのかあ!?」

「ぶへっ!」



 ゼンドーの腰の入ったいい拳で、衛兵の頬をぶん殴った。



「なな、何をするんですか!?

 いくらゼンドーさんだからといっても、こんなことをされたら───」

「ちょっとこっちに来いっ」



 衛兵の口上を途中でぶった切ると、ゼンドーはその首根っこを捕まえて詰所に入っていってしまった。

 その姿を竜郎と愛衣は唖然として見つめていた。




 ゼンドーは詰所に入ると、衛兵の男を放して椅子に座らせた。



「いったいなんなんですか! こんな横暴許されませんよ!」

「まあ、俺の話をまず聞け。実はあの二人はな────」



 そうしてゼンドーの思い込みにより作られた、誰もが泣ける一大スペクタクル逃避行劇が、今ここに語られたのであった。



「ううっ、まさかあの二人にそんなことが……ううう~、まだあんなに若いのに……ううっ」

「グスッ。ああ、だから通してやってくれねーか。

 もしあの二人が問題を起こしてなんかあった時にゃあ──俺の首を持っていきな!」

「ゼンドーさん、あなたって人はっ!」



 そうしてゼンドーの保証の下、仮の身分証の発行が許可された。


 そして、そんなこととは知らない二人はと言うと。



「ゼンドーさんが、説得してくれているのかな?」

「うん……でも殴っちゃったから、おじいちゃん捕まっちゃうのかな……」



 自分たちのせいでゼンドーが、と心配して数十分が経った頃、ようやく二人は詰所から出てきた。それもなぜか目を赤くして。



「お二人の入町を許可します! こちら仮の身分証です。

 冒険者ギルドで登録できましたら、身分の保証は冒険者ギルドがしてくれますので、その仮の身分証の期限が切れる前に、ここに更新しに来てください」



 竜郎達に刻印の入った金属プレートを渡しながら、必要事項を説明してくれた。



「えーと、それじゃあこれを持っていれば、入ってもいいということですか?」

「ええ。ですがその身分証の時に問題を起こされますと、ゼンドーさんも処罰されることになっています。

 ですからゼンドーさんの顔に泥を塗るような真似だけはしないでくださいね。

 まあ、お二人なら大丈夫だと私も信じていますよ!」



 なぜか無駄に爽やかな笑顔でそう言われ、竜郎は「はい」としか言えなかった。

 そして愛衣の方は、不安から一気に解放されたため涙を流していた。なんだかんだ明るく振舞っていても、今まで内心不安を抱えていたのだ。



「おじ~ちゃん、ありがとおおー」

「気にすんじゃねえ、デフルスタルを追っ払ってくれた礼だよ」



 そして何故かゼンドーも泣きだし、それを見た衛兵も泣き出して現場は混沌と化した。



「え? 何これ?」



 一人涙を流すことの無かった竜郎は、泣きやむまでの間ただただ立ち尽くすだけだった。


 そんなこんなで、ようやく入町と相成った。

 ゼンドーは荷馬車を引き、その後ろに続くようにして二人は真っ白で大きな門をくぐった。



「ようこそ、ここが塩の町、オブスルだ!」



 荷馬車から振り返って、ゼンドーは竜郎達に歓迎の言葉を述べた。

 そして二人もそれに笑顔で返すと、町を見渡した。



「ここがオブスルか!」

「町だあー! やっと着いたあーーーーーー!」



 かくして、長い道のりを乗り越えて、ここでようやく目指してきた町に到着したのだった。

これにて、第一章の終了となります。

今後ともお付き合いの程、よろしくお願いいたします。

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