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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第六章 喧嘩上等編

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第274話 技術習得

 残った魔物の残骸を回収しつつ振り返ると、先ほど助けた男女六人の冒険者たちがこちらにやってきた。



「危ない所を助けてくれて、ありがとうございます!」



 明らかに年下に見える竜郎達に、敬意をもって全員が頭を下げてきた。

 結局のところ、冒険者は年齢ではなく強さが重要なのだ。

 けれど竜郎にとっては居心地が悪くてたまらないので、直ぐに頭を上げて貰った。



「いえ。御気になさらず。

 それよりも聞きたいのですが、こいつはこの近辺の魔物よりも強めですよね?

 どこで見つけたんですか?」

「ああ、それはですね──」



 あのレベルの魔物がウヨウヨいる様な場所が近辺にあるのなら、ぜひ知っておきたいと、ここよりも質のいい狩場情報を聞こうとした竜郎。

 けれどどうやら、そんな場所は無いようだ。

 男の話によれば、ここからさらに奥に踏み入った所にある小規模な竹林地帯に最近目撃された魔物だと言う。

 なので強い個体が偶々出てきただけで、竜郎の思い浮かべるような狩場は、この近辺には存在しない様だ。

 そしてこの者達は新しく手に入れた装備品で気分が良くなり、ちょっと強い魔物に戦いを挑んだら、歯が立たずに逃げる羽目になった残念な人達だった。



「これからは、もう少し慎重に考えて戦う事にします。

 それじゃあ、本当にありがとうございました」



 そうして竜郎の聞きたいことを話し終わると、最後に礼を言って去っていった。



「そりゃあ町の近辺に、三十レベル近い魔物がウロチョロしてたら危ないか」

「だねえ。やっぱりこの辺でのSP集めは面倒なだけかも」

「これだけ時間かけて合計100にも届かないんだもんなあ。

 リアの修行が終わったら、もう少し良い所を探してみよう」

「そっちの方が効率良さそうっす」



 という事で、明日からは雑魚は無視して依頼を適当にこなしていくことに決め、日が傾きだしたのをきっかけに町へと帰還することにした。




 一方。技術向上のために町で修行に勤しむリア達はと言えば……。


 ルドルフが滅多に人を入れない工房で、リアとそのオマケの奈々が並んで話を聞いていた。

 そしてその足元には、リアの力量を見る為に造らせた剣や槍、杖などが数本転がっていた。



「いいか。さっき見せて貰ったお前の鍛冶術、確かにアレは一定レベルは超えていた。

 別に俺に師事しなくても、そこいらで店が開けるレベルだってのは保障しよう。

 だがな、それは高い鍛冶術のレベルで強引に形を整えているだけで、決して上手いわけじゃあない。

 それはまあ、解ってるんだよな?」

「はい。そしてそれだけでは、どんなに素材を理解しようと到達できない域がある事も、嫌というほど」

「だな。お前は極論、結果しかイメージ出来ていないんだ。

 結果に伴う過程を無視して、どうやって具体的な完成像をイメージできているのかは知らないが、それじゃあやっぱり綻びが出ちまうんだよなぁ。

 それだけ鍛冶術ってのは繊細なんだ」

「はい」



 そこで同じ素材で同じ形の物を造ったはずなのに、ルドルフが造ったものの劣化版にしかならなかった自分の作品をリアは見つめた。

 これが今の到達できていない領域だと、なまじよく解るだけにルドルフの言葉が胸に突き刺さった。



「だが、その歳でそこまで出来るんだ。まだまだ、お前は成長途中なんだろう。

 これからその辺を埋めていけば、いくらでも上を見られるはずだ。

 だからこそ、もう一度問いたい。本当に俺の技術でいいのか?」



 どう見てもリアが自分の歳に到達する頃には、今持っているルドルフの技術を超えていくのは明白だ。

 そんな自分よりも、もっと才能に恵まれた者に教えを乞うた方が、もっと高みにリアが登れるのではないかと考えてしまったのだ。



「はい。あなたの技術が欲しいんです」



 けれどリアは、はっきりとルドルフの目を見てそう言った。

 ルドルフが持っているスキルは、言うなれば《万象解識眼》の超劣化版だ。

 けれど下級素材に関してだけは、同じだけの効果を発揮できる。

 そんな人物の技術だからこそ、リアは心から欲しているのだ。


 どこまでも透き通ったリアの本気の目に、ルドルフも心を決めた。

 自分の全てを見せてやろうと。



「解った。なら、俺の技術全部を盗んでけ!」

「はい!」

(青春ですの~)



 スポコン並みに激しい感情のぶつかり合いを真横で見せられていた奈々は、そんな感想を抱きながら二人を見守りつつ、自分にもリアを手伝えそうな部分が無いか研究するためにもと、しっかりと目を見開いた。


 そうして始まったルドルフの講義。簡単な説明をしながら、自分なりに人生をかけて磨いてきたイメージの伝え方、その際に必要な細かな補足や道具の選び方なども踏まえて実際にその場でやって見せた。


 見せられた技術を出来るだけ早く盗もうと、リアは《万象解識眼》、《思考加速》、称号《一心傾注》をフル活用して凝視していった。

 それから時は過ぎて、町並みが夕日で真っ赤に染まった頃。



「んじゃあ、今日はこれぐらいにするか。また明日来い」

「はい。ありがとうございました!」

「ありがとうですの」

「おう」



 そうして三人で後片付けをして、リアと奈々は並んでルドルフの店を出て行った。

 二人の背を見送りながら、ルドルフはため息を吐きながら店の床に尻を付けた。



「はあ~。やんなっちゃうよなあ。

 まさか俺が数十年かけて培ってきた技術を、どれも一回や二回で覚えちまう。

 マジでこのままだと、あっという間に抜かれちまうぞ、こりゃ」



 リアは《万象解識眼》でその全てを読み解き、《一心傾注》の称号効果で感覚を遅延して一瞬の動作も見逃さず、多く頭に入ってくる情報を《思考加速》で纏め上げていた。

 だからこその驚異的な吸収力であるし、ルドルフ自体も何らかの裏技を使っているのは解っていた。

 けれど使える物を全部使うのは当たり前。それだけ真剣に自分の技術を欲してくれていると感じたくらいだ。

 だからそれはいい。けれど一から教えている間に、いつの間にか十まで覚え終わっていて、次々と技術を吸収されては、さすがに今までの自分の人生は何だったのだろうと憂鬱になるというもの。



「だがまあ、教えるって言っちまったし、それに──」



 教えている途中で、偶に飛び込んでくる質問。

 それは下級素材しか見てこれなかったルドルフに、沢山の上級素材を見てきたリアだからこそ思う疑問もあり、自身も新たな視点から鍛冶術に向き合う事が出来始めていた。



「こりゃあ、アイツだけでなく俺も成長できるかもしれねぇ」



 長年積み重ねてきた鍛冶業によって厚ぼったくなった手の平に視線をやって、思い切り握りこんだ。



「よっしゃ! 明日からもやってやるぜ!」



 そこには先ほどのアンニュイな感情は無く、まだ成長できるかもしれない自分の未来に心が高鳴った。



「おっと、そろそろ風呂に入って、お薬付けないとなぁ~。俺のフサフサちゃ~ん」



 なんともしまりのない低音ボイスでの猫なで声を上げながら、ルドルフは昨日よりもさらに伸びた天頂部の髪をポンポンと撫でつけ、店に鍵をかけて風呂場へと直行したのであった。




 竜郎達が宿へ戻っている途中で、ちょうど奈々とリアに出くわした。

 そこで話される会話は、当然今日別れていた間の話だった。



「リアちゃんは、どうだったの?」

「ええ。すごく参考になりました。明日が楽しみです!」

「頑張りすぎて倒れたりしないでくれよ」

「勿論ですよ! 倒れている暇なんてないんですから」

「楽しいのは解りましたから、もっと落ち着いた方がいいですの」



 奈々に諭され興奮したままの頭が幾分冷えて、感情の高鳴りが収まった。

 けれど早く明日にならないかとワクワクする気持ちだけは収まらず、結局この日の夜は奈々に生魔法をかけて貰ってやっと眠りにつく事が出来たのだった。


 竜郎や愛衣は今後の為に百貨店での物資補給、冒険者の依頼などをこなしながら過ごしていき、リアと奈々は毎日のようにルドルフの店に通い詰めた。

 そんな日々が数日ほど過ぎ去った後、その生活も終わりを告げることになった。



「──まさか、たった一週間で全部吸収されるとはな……」

「教え方が良かったんですよ」

「それならいいんだがな」



 次々と実演と教えを受けながら、その全てをどんどん吸収していった結果。

 リアは、その全てをたった十二日で習得してしまった。

 あまりの短さに教えていたルドルフでさえ、もう終わったのか? と、以前の弟子と比べながら信じられない気持ちで一杯だった。

 けれど気がついた時には教える事が無くなってしまっていたのだから、間違いでない事は自身が一番解っていた。



「あの……。もしまた行き詰ったら、話だけでも聞いてもらえますか?」

「…………あ? ああ、勿論だ。

 たった十二日とはいえ弟子だったんだ。いつでも来い」

「ありがとうございます!」

「とはいえ、もう免許皆伝だ。

 お前にゃあ、いらねえかもしれねえが……一応その証にコレをやるよ」



 そう言ってルドルフはリアに、スクリスという下級素材の中では最上級の金属でできたナイフを渡してきた。

 鍛冶師の師弟の間では、その実力が独り立ちするに十分だと判断したら、師は自分が持てるすべてを注ぎ込んで造った一品を贈ることが慣例となっているのだ。

 勿論リアもそれを知っていたので、心から感謝と礼の気持ちを持って有難く受け取った。

 それが今の自分なら、もっと上級の素材で同じものが造れるとしてもだ。



「綺麗なナイフですの」

「はい。本当に」



 それは武器として使うのなら、愛衣どころかリアにとっても使っただけで気力耐久量的に壊してしまう代物だ。

 けれど普通に物を切るだけなら、そこいらの包丁や剣などでは比べ物にならないほどの切れ味を有し、さらに持ち主の安寧を意味する花をモチーフにした装飾まで施されていた。

 それを大事に手に持ち、リアは最後にもう一度礼を述べた。



「本当に、厚かましいお願いを聞いて下さり、ありがとうございました」

「厚かましいってこたあねーよ。俺だって、ほら見てみろ!」



 ルドルフが指差す頭には、もうお皿だった部分は完全になくなり、どこからどう見てもフッサフサな銀髪が生えそろっていた。



「これで数年後かには、嫁が出来ているかもしれねえからな!

 むしろ礼を言いたいぐらいだぜ」

「なら良かったです。では──」

「ああ。お前がこれからどんな道を歩むかは知らねえが、頑張んな!」

「はい!」



 そうして短い師弟関係は終わり、リアは今回得た技術を総動員した魔力頭脳の設計図を脳内で纏め上げながら、奈々と一緒に宿へと戻っていったのであった。

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