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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第六章 喧嘩上等編

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第272話 ルドルフ・ タイレ

 翌日。朝は観光を楽しみ、昼には宿に戻って食事がてらダラダラ過ごす。

 それからカードの色が変わっていないのを確認した後、午後四時には目的地、ルドルフ・ タイレの店兼工場に到着できるように宿を出た。

 そうして日が傾き始めた頃あいに、竜郎達は迷う事もなくそこへ辿り着く事が出来た。



「ここだな」

「おー。おっちゃんの師匠とか言ってたから、どんな店かと不安だったけど。

 店構えはいい感じだね!」



 オブスルで出会った鍛冶師のオッサンの店は、手入れも放棄し壁も汚れた残念な外装だった。

 けれどその師匠ルドルフ・タイレの店は汚れ一つなく、素材はありふれた石材であるにも関わらず、豪快で力強く、けれど粗雑ではない見事な彫刻が彫られていた。

 それは左半分には様々な武器などをモチーフにした彫刻が、右半分には基本的な魔法の十二属性をモチーフにした彫刻が彫られている。

 そして店の扉の両脇には大剣を持った男と、杖を構えた女性の石像が立体絵の様に建物自体から飛び出し、今にも歩き出しそうなほどの躍動感を宿していた。



「なんか冒険が始まる! って感じの店だな」

「うん。見てるだけでワクワクするね!」



 そんな感想を抱きつつ、さっそく大剣と杖を持った石像の間を通って店の中に足を踏み入れた。

 するとそこには大小様々な装備品が並べられていた。

 そしてその全てが素材となった物質の質は低いものの、どれも名刀、名槍、名杖だと言われても納得できるほどの出来栄えで、造り手の技術レベルが高い事が素人目にも解る程。

 なので《万象解識眼》を持ったリアには、そのレベルの高さを如実に識る事が出来た。



「凄いですよこれ……。

 その素材が持つ全てを引き出して、完璧な装備品へと昇華してます」

「そんなに凄いんですの?

 でもそれなら、なんで上級の素材は扱わないのかが疑問ですの」



 技術があるのなら、当然それを扱う物質のグレードを上げれば、もっと凄いものをこの店に並べることは出来るはずだ。

 そんな疑問を誰もが持っていると奥から見た目年齢は五十歳やそこらで、肌は浅黒く、耳が上にとんがった形。

 それでいて愛衣よりも低い小柄な身長ながら、どっしりとした体格で太い手足。

 そして前後、横の髪を上で束ねた白髪交じりの銀髪玉ねぎ頭という、妙ちくりんな髪形をしている人物がノシノシと歩み寄ってきた。



「紹介状を持って来ると聞いているが、それはお前らか?」

「はい。という事は、あなたがルドルフ・タイレさんですか?」

「そうだ。では早速だが、紹介状と貰ったカードを渡してもらえるか?」

「はい」



 そうして竜郎は紹介状と緑色のカードをルドルフ・タイレに渡した。

 ルドルフがそれを受け取ると直ぐに紹介状の中身を確かめ、わずかに眉を寄せていた。



「ヤメイトか……。あやつは、まだ元気にしとっか?」

「僕らにそれを渡した時は、元気すぎるほど元気でしたね。

 今はどうかは解りませんが」



 正直魔竜問題も解決した後も、竜郎から受け取った大金で放蕩して身を持ち崩す……。

 などという想像もあり得ない話では無く心配だったので、最後に一言加えておいた。



「そうか。まあ、あ奴の事はいいか。

 それで、ここには俺に口が堅く、腕利きの職人を紹介してほしいと書いてあるが、その通りでいいのか?」

「あー。実はですね、少々事情が変わりまして」

「ほう。ではどんな?」

「実は鍛冶師自体は当てができたのですが、ちょっと技術不足が本人的に気になるらしくてですね」

「ってことは、どこかに弟子入りしたいって事か?」

「えーと。弟子入りというより、ぶっちゃけてしまえば技術を盗ませて欲しいってだけでして……。無理ですかね?」

「そんなに容易く盗めるもんでもないと思うがな。

 それでも自分とこの技術を継承していくんでもなく、ただ見せてくれってのは難しいだろうな。

 腕のいい職人ほどそういうのは一子相伝、または直弟子に継承させるってのが当たり前だしな」

「お金で解決とかはできませんかね?」

「腕利きが金に困っているとは思えんぞ」

「ですよねぇ」



 お金で解決が一番楽そうだったので、とりあえず聞いては見たが、案の定それは無駄なようだった。

 であるなら、第二案を提示するほかない。



「では珍しい素材っていうのはどうでしょうか?」

「それなら、まあ……いるかもしれんな。

 けどそれこそ余程珍しくない限り意味はないだろうが、具体的には何が出せるんだ?」

「レベル10ダンジョンの魔物達の素材ですね」

「ほー。レベル10ダンジョン…………──レベル10!?

 そんなもんどうやって手に入れたんだ!」

「どうやったって、そりゃ現地調達ですけど」

「現地調達ってお前たち…」



 事前に高ランクの冒険者たちが訪ねてくるとは聞いていたので、実力者であるのは知っていたが、自分の予想以上だったことに驚愕した。

 レベル10のダンジョンともなれば、ちょっと潜るだけでも並みの者なら直ぐに全滅してしまう。

 そんなところの魔物の素材をと言っていったのだから、その実力はルドルフには想像もつかなかった。



「だ、だがまあ……。それが本当だったのなら、契約内容次第で技術を見せてくれる奴はいるだろうな。

 そういうのを喉から手が出るほど欲しがる連中には心当たりがある」

「本当ですか! では──」



 その人たちを紹介してください。そう竜郎が言おうとした時、リアがその言葉を打ち切った。



「待ってください!」

「どうしたんですの? リア」



 突然何をといった風に、全員を代表して隣に立っていた奈々が問いかけた。

 すると意を決したようにキリッと眉をあげて、リアは声を張った。



「私は、ルドルフ・タイレさんに教えて欲しいです!」

「んああ?」



 上級素材を加工できる当てというのが同族のドワーフとはいえ、自分の十分の一も生きていなさそうな少女というのと、事情によって下級素材しか加工できない自分の名前が出てきたことで、二重の驚きの声をルドルフが上げた。

 竜郎も職人協同組合でルドルフは中級以上の素材が扱えないと聞いていたので、こちらとしても何故そういう結論に至ったのか解らずただ茫然とした。

 けれど当然、リアにはちゃんとした理由があった。



「ここに置いてある剣一本取っても、その技術は一級品です。

 他にも色々と見たことはありますが、ここまで完璧に素材を生かして造りあげた物なんて見たことないです。

 だからお願いします。あなたの技術を私に下さい!」

「下さいって言われてもなぁ」



 年端もいかない少女が土下座すらしそうな勢いで頭を下げてきたことに気圧されながら、ルドルフは困った風に頬を掻いた。

 竜郎達としては、リアがそれでいいなら勿論それを援護するしかない。

 なのでこちらからも頼んでみることにした。



「あの。この子もこう言っているので、何とか教えて貰えませんか。

 先ほど言っていた貴重な素材も色々ありますし、どこかに欲しいものがあれば無茶な場所じゃなければ取ってきます。ですから──」

「そんな事を言われてもな。俺はこれで飯を食ってるんだ。

 俺はスキルのせいで下級素材しか扱えねえ。だからこそ、それを技術でカバーしてここまで来たんだ。

 それを教えちまったら商売上がったりってもんだ」

「スキルのせい……ですか?」

「ああ、俺は《下級素材完全理解》という初期スキルを与えられた。

 最初は便利そうだと思ったが、調べてみて愕然としたね」



 聞けばこの《下級素材完全理解》というスキル。

 下級素材に限っては、リアの《万象解識眼》並みに理解が出来る。

 けれどその反動は凄まじく、中級以上の素材の理解が出来なくなるのだと言う。

 どんなに理解しようとしても、頭に入ってこないのだそうだ。

 なので最初は皆に馬鹿にされたりもしたらしい。

 けれど悔しさをバネに下級素材を扱わせたら誰も右に出る物はいないという、確固たる地位を努力と根性で勝ち取ったのだ。

 ちなみにチラリと聞いたところによれば、このスキルはレベルが無いので竜郎でもどうしようもない。



「ってことで俺は金には困っていないし、自分で扱える素材はそこらへんで簡単に手に入る物だけだ。

 ヤメイトの奴は、アイツの親父に借りがあったから教えたに過ぎない。

 だから俺にってのは、すまんが諦めてくれ」



 ルドルフの瞳に映る感情は完全なる拒絶。それでもリアは懸命に説得を続ける。



「何も商売敵になろうとは思っていませんし、その技術を他者に広めることもしないと誓います。

 契約書を交わしたっていいです」

「だがなあ、同族の嬢ちゃん。

 それじゃあ、そっちはどんな見返りを俺にくれるっていうんだ?

 俺が人生かけて磨いてきた結晶を見せるに足る、魅力的な何かを出せるって言うのか?」

「それは……」



 追いすがろうとするリアだったが、他に何も手が思い浮かばない。

 その様子に竜郎も何とかできないかと頭をフル回転させて、説得の糸口を探す。

 とそんな時。竜郎は、ルドルフの妙な髪形に目線が行く。



(あれ? もしかして……)



 竜郎はコッソリと遠見眼鏡を《無限アイテムフィールド》から出して、そこをよーく確かめる。



(あー。だからこんな変な髪形を……)



「あのー。もしルドルフさんが魅力的だと思える物を用意する事が出来れば、ですよ」

「ん? ああ、できれば何だ?」

「この辺り──そうですね。いっその事リューシテン領と、その隣領内では商売をしない。

 技術を勝手に他者に伝授したり広めたりしない。

 その条件をちゃんと誓えば、教えてもらう事は出来ますか?」

「ああ? あーまあ、そうだな。

 それなら俺が技術を教えてもいいと思えるだけの、魅力的な物が用意できるってんなら考えてもいい」

「ならですね──ちょっと、耳を貸してもらえますか」

「お、おう。まあ、それくらいなら別にいいが……」



 胡乱気な視線を向けてくるルドルフを無視して、竜郎は少しばかり強引に耳元まで寄っていった。



「──実はですね──で────なんですけど──で──どうですか?」

「な、何故それをっ!?」

「やっぱり。それでですね────を────で────」

「な、なん、だと……。

 ──ま、まさかっ。そんな物が用意できるというのか!?」

「ええ。今は事情があってその研究は止まっていたのですが、可能性はかなり高いかと」

「お───おお……、お前はカミか……」



 男二人で何を話してんだと愛衣達は思っているものの、何だかいけそうなのでとりあえず黙っておく。

 そしてそれからも何度か男同士で耳打ちし合って、最後には両者笑顔でサムズアップし合っていた。



「乗ったぜ我が友よ!

 もしそれが用意できるってんなら、いくらでも教えてやるぜ!」

「もちろんさ!」



 そして商談成立だとばかりに、竜郎とルドルフはガッチリと握手を交わした。

 愛衣やカルディナ達は相変わらず蚊帳の外だが、もっとも近くにいて何となく竜郎の声も漏れ聞いていたリアは、そんな事で良いのか…と、何とも言えない表情をするのであった。

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