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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第六章 喧嘩上等編

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第271話 女性の買い物

 取りあえずルドルフ・ タイレという鍛冶師の居場所は解った竜郎達。これで一番の目的は終わった事になる。

 となれば今度は持ち家に置く家財道具を、この町で揃えておきたい。



「という事で、それ系の職人さん達の店を、ここで教えて貰おう」

「ねーねー。家具だけじゃなくて、お洋服も見たいよね?」

「ええ? 服なんて、もう沢山持っているじゃないか」

「でもでも、リアちゃんのお洋服ももっと用意しておいたほーがいいでしょ?」

「ああ。それはあるか」

「うんうん♪」



 どう見ても自分が見たいからという欲求がほとんどを占めていそうだが、リアの服なんかももっと用意しておいた方が良いと言うのは確かだった。

 なので案内掲示板から、それっぽいのも教えて貰えそうな場所を記憶していき、最短で回れるルートを頭の中で考えながら竜郎達は進み始めた。


 ここ職人協同組合は適当に予算がこれ位で、こんな感じの物がいいなあ、と。

 かなりふんわりした条件で聞いたにもかかわらず、的確に資料を揃えてカタログなども見せて貰え、実に消費者にとって便利な所だと知った。

 その結果よさそうなお店を何軒か教えてもらい、一度宿に戻って昼食を頼んで腹を満たした後は、さっそくお店巡りに乗り出した。


 服関係は長くなりそうなので、まずは家具類から回っていく。

 この町では食料品や消耗品ぐらいしか百貨店で買う人は、そうはいない。

 なので商会ギルド経営の店も存在はするが、値段が多少割高でも客は個人経営店の方に行く人が圧倒的に多かった。

 そんなこの町ならではの商店街の超豪華版といった店が並ぶ中。

 竜郎達は地図片手に紹介された店を探しながら、ウィンドウショッピングを楽しんだ。


 そうしてのんびりと移動しながら、目的の店を発見した。

 今回は予算的に少々高めでもいいので、長く使える物というのが一番念頭に置いておきたい部分だった。

 そこで紹介された「メーベルト」と言うこの店は、二階建てで裏に工房と住居があるという個人経営の店。

 お店の佇まいは高級感あふれるシックなデザイン。

 そんなお店の扉を開いて中に入ると、広々とした店内に見える範囲で数人の客らしき人達、そして何人かの店員が接客をしていた。

 入って直ぐに竜郎達を発見した店員の一人がやってきたが、とりあえず見せてほしいと追っ払って、全員で気に入りそうな物が無いか見ていくことにした。



「全部オサレだなぁ。値段もそれなりにするが、それだけ良いものでもあるってことだろうな」

「このドレッサー可愛いー!」

「ほんとうですね。あっ、こういうのもいいですね」

「本当ですの!」

「こういうのを部屋に置いたら良さそうっす~」

「ピーピー」「ヒヒーーン」



 竜郎がただただ店の内装や、置かれた商品に感心している中。

 その他の女性陣は、もうお買い物モードを発動して商品を物色していた。

 カルディナやジャンヌも、一メートル以下でちゃんと躾がされている動物なら入ってもいいという事は事前に聞いてあるので、堂々と《幼体化》状態で愛衣の頭の上と足元で商品を物色していた。

 アテナ辺りはそういうのに興味が無さそうなので、二人で遠巻きに買い物を見る羽目になるのかなとも思いきや、やはりそういうものは気になる様で、愛衣達に混じって楽しそうにキャイキャイはしゃいでいた。



「んじゃあ俺は俺で、ノンビリと見させて貰いましょうかね」



 あの中に混ざっていけるような乙女回路を持ち合わせていないので、竜郎は愛衣達に少し遅れるようなペースで、自分用の机なんかが欲しいなと探していく。

 そうして竜郎がフラフラと商品を見ながら、机が並ぶ区画を見つけた。



「おっ、これいいな」



 竜郎の目に留まったのは白を基調とした学習机よりも、一回り大きいサイズの机。

 どっしりとした構えの中に、繊細な黒金の彫刻が全面に掘られ、それを保護するように全面に透明で滑らかな質感の保護膜が張られていた。

 それのおかげで彫刻によって生まれた凸凹も無くなり、細かな模様が刻まれた机上でも筆記作業が出来るようになっているのだろう。


 購入意欲が湧いてきたので、竜郎は左右についている引き出しも開けてみたくなった。

 けれどここに置いてある物は量産品ではなく、一品物ばかり。

 なので勝手に触っていいか気になり、ちょうど視界に入ってきたヒョロリと背の高い男性店員に聞いてみることにした。



「ちょっといいですか?」

「──はい。いかがなされましたか?」

「こちらの机の引き出しの中を見てみたいのですが、開けても大丈夫ですか?」

「ああ。では念のために、こちらの手袋を着用して貰えますか?」

「解りました」



 そういって男性店員は、元から嵌めている白い手袋ではなく、こういう時に出すために用意しているのであろう白手袋を竜郎に差し出してきた。

 それに勝手に触らなくて良かったと安堵しながら、言われたとおり両手にしっかりと手袋をはめた。

 見た目は麻の手袋に見えたが、着けてみると質感はゴム手袋に少し近かった事に軽く驚きながらも、竜郎は引き出しをゆっくりと開けていった。

 そして男性店員は、そんな竜郎を横から見守っていた。



「おー。やっぱり中にも──凄いな」



 竜郎の予想していた通り、引き出しの中にも美麗な彫刻が施されていた。

 それに目を丸くしながら右三段、左六段の引き出し。それら全てに違った模様が刻まれており、実に凝っていた。

 なので竜郎は片っ端から開けて覗いては、無意識に感嘆の声を上げていた。

 その様子に男性店員は気を良くしたのか、饒舌に竜郎に向かって語りかけてきた。



「お客様もお目が高い。

 それは当メーベルトのオーナー兼職人のメーベルト夫妻、渾身の一品でございます」

「ああ、ご夫婦で造られているんですね」

「はい、夫婦二人三脚で造るからこそ生まれる作品というのが、売りでございます」

「へー」



 そんなこの店のプチ情報を聞いていると、男はさらにこの机について色々語ってくれた。

 その中で気になったのは、この机を覆っている保護膜はある程度の衝撃を吸収し、簡単な傷位なら勝手に塞がってくれるとのこと。

 さらに保護膜のおかげで経年劣化も防いでくれるので、長く品質を損なうことなく使い続けられるのだそう。



「ちょうど長く使える物を探していたんですよ。

 これに合う椅子とかはないですかね?」

「椅子ですか。そうですね、これに合わせるなら──」



 男性店員に促されるままについて行き、机に合いそうな椅子を選んでもらった。

 特にあの机に合わせて造ったというわけでもないらしいが、実際に並べて貰うとかなりしっくりときた。



「これ二つでいくらですか?」

「そうですね、二つで三百四十万シスなんですが、ご一緒に購入してくださるのなら三百二十までお下げさせて頂きますが、いかがいたしましょう」

「これで三百万ちょっとか、安いな…」

「──は?」



 何気なく竜郎が口にした言葉に、店員は目を見開いた。

 ここまで真剣に聞いてくるのだから、冷やかしではないだろうとは思っていたが、それでも外見年齢的に大きな買い物をしに来たんだろうと推察していた。

 なので高いと言われる事はあれど、安いと言われるとは思ってみなかったのだ。

 そんな風に店員が驚いている中で、竜郎自身も自分の発言にビックリしていた。



(いかんいかん。貨幣価値がおかしくなってきてる。

 日本じゃシスなんて使えないんだから気を付けないと)



 テレビなどで聞きかじった情報によれば、生活水準を上げるのは簡単だが下げるのは難しいという。

 なので旅行感覚での贅沢はまだいいかもしれないが、完全に染みついてしまうと危ないかもしれない。

 けれどそう考えている途中で、ふと閃くものがあった。



(ん? でも待てよ。帰ってからもシステムを使えるって言う確証は得た。

 それから転移魔法で帰る事が出来るなら、ここへ戻ってくることもできるだろう。

 って事はだ。こういう店で買った品物を、《無限アイテムフィールド》に入れて地球に持ち帰る。

 そして日本で売る事が出来れば、シスを円に換える事が出来るんじゃ……)



 さすがに異世界にしかない代物で造った物品は不味いかもしれないが、素材を持ち込んでそれを加工して貰えれば、それだけでも高値で売る事が出来るのではないだろうか。

 これだけの技術を持った職人が、この町には多くいるのだから。


 将来子供が出来て養うにしてもお金がいるだろうし、愛衣に苦労を掛けたくもない。

 普通に働きつつ、副業でこっちに手を出すのも面白いかもしれない。



(さしずめ異世界貿易業とでも言ったところか。

 地球でも探せば、こっちで売れる品物が有るだろうし、元手シスももっと増やせるかもしれない)



 と。そこまで考え込んでいると、男性店員が口元に営業スマイルを浮かべながら、固まって動かなくなった竜郎に困っている様子が目に入った。



「っと。すいません。すこし考え込んでしまって。

 それでですね。僕のツレも何か買うと思うので、会計はそちらと一緒にして貰えますか?」

「え、ええ。勿論構いませんよ」



 男性店員は他の店員を呼んで、会計所まで運んで行った。

 それを見送りながら、竜郎は先の案を脳内で纏めつつ愛衣達と合流しにいったのだった。

 愛衣達もそれぞれ琴線に触れた物があったらしく、会計所には多くの家具類が並んだ。

 それを一括で払うと言った時は、また男性店員は内心驚いていた。

 だがその後。何処に運べばいいか聞いた時に、全て一人の《アイテムボックス》らしき物に一瞬で収納してしまった時は、いよいよ驚きを隠しきれずに竜郎達に疑問を投げかけたいのを必死で我慢するはめになってしまった。

 それから──その他何軒かも梯子して、まだまだ殺風景な持家に飾るインテリアなどまでも買い揃えた。


 そうして次に向かったのは洋服関連の店。

 メインはリアだと言っていたのに、一番ウキウキ顔になっている愛衣に「なんだかなあ」と苦笑をしていた竜郎。

 けれど初めての女子のお買い物にソワソワしているリアを見て、まあいいかと長期戦を覚悟して臨んでいった。


 結果として、その考えは間違っていなかった。

 家具類を選ぶのにもソコソコ時間がかかったと思っていたのだが、それでもまだいい方だった。

 やはり女性というのは買い物好きが多いらしく、リアもその例外ではなかった。

 なので愛衣達も興がのってしまい、すっかり着せ替え人形の様にあれやこれやを試着させたり、自分たちが着たりと大忙しだった。

 それに対して竜郎は、良いか悪いか、好みか好みじゃないかという簡単な質問に答えていくだけであったが、適当な答えは顰蹙ひんしゅくを買うだけなので真剣にその全てに応じていった。

 その為、女性陣は疲れていても精神的には満たされていたが、竜郎だけは肉体も精神も疲れ果てていた。



(こういう時に男が俺しかいないっていうのも、大変だな……)



 けれどそうホイホイとメンバーを増やすつもりはない。

 自分たちは誰もが特殊すぎるからだ。



(けどまあ、それ以外にも愛衣は宇宙一可愛いからな。

 異世界の男だろうが惚れてしまうに違いない。そんな奴らを近くに置くわけには、いかないからな!)



 確かに愛衣は平均以上の美少女ではあるが、客観的に見て絶世にして傾国の美女かと言われれば、そこまでではない。

 けれど竜郎の彼氏ビジョンにかかれば、愛衣の前では世の女性全てが霞む。

 まあそれは、愛衣も同じなのではあるが……。

 そんな彼氏バカ全開の為、今後もこの辛さを共有してくれるような者は現れないのだろう。



「たつろー。早く帰ろっ」

「解ってるよ」



 けれど愛衣が手を握って笑いかけてくれば、竜郎はそれだけで活力が湧いてくる。それは称号効果もあるのかもしれないが、きっとそれだけでは無いと竜郎は自信を持って言う事が出来る。

 辺りはすっかり街灯に照らされ、昼とは変わった趣を見せてくれる街並みを、竜郎も元気よく愛衣の手を握りしめながら宿へと帰っていくのであった。

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