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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五章 呪われた少女編

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第261話 受け取り

 無事?取引先も決まり、これで一安心だと全員の気持ちが弛緩した頃。

 ソファーの後ろでジッとしていたジャンヌが、樹魔法で造った細い蔦を角先から伸ばして竜郎の肩をポムポムと叩いてきた。



「ん? どうしたジャンヌ」



 ジャンヌの方に振り向くと、今度は部屋の隅の方に転がったままになっていたサンジヴが吐き捨てていった奥歯の破片をチョイチョイと蔦で指し示していた。

 何かあるのかと精霊眼で観てみると、そこから魔力の糸の様な物が出て、外へと伸びているのが見えた。

 なのでさらに精霊眼を凝らして、どこまで繋がっているのか観ていく。

 するとそのまま魔力の糸が百メートルほど行った先に、腰が少し曲がった雷属性の魔法使いらしき人間まで繋がっていた。

 そしてさらにさらに目を凝らしてよく観れば、どうやら魔力の糸は、その人物の耳の部分に繋がっているように思えた。



(背の高さと、猫背の具合からしてサンジヴっぽいな。

 そしてこの糸が耳の辺りに繋がっているのが気になる……。

 ──盗聴系のスキルか?)



 竜郎は黙ってこちらを何事かと見守っていたビヴァリーに、ジェスチャーで静かにするように伝えた。

 するとコクリと頷いてくれたので、《無限アイテムフィールド》から紙とペンを取り出して筆談していく。



〈あそこの歯の破片から外へと向かって、魔力の糸の様なモノが伸びていますが、それが何か解りますか?〉

「──っ!?」



 竜郎の書いた文字にビヴァリーは驚きながらバッと首を、そちらへと向けてジッと目を凝らした。

 おそらく魔力視あたりのスキルを使っているのだろうと思いつつ待っていると、ペンを貸してほしいという素振りを見せてきたので素直に渡す。



〈私には何も見えなかったけれど、確かなのかい?〉

〈見えないんですか? ちょっとこちらで解析してみても?〉

〈ああ。構わないよ〉



 そこでカルディナに顔を近づけて耳打ちし、レベル14の解魔法を使って解析してもらう。

 それにさり気なく同期して竜郎も情報を調べて行く。



(これは──かなり高い隠蔽効果を持った盗聴スキルか。

 魔力視が、少なくともレベル10は無いと見えなさそうだな。

 んで、実際にスキルが掛かっているのは歯ではなく血と唾液。

 歯を片付けられても、床を拭いても見えない魔力は残って聞き耳を立てられると。

 そして盗聴範囲も広く、別の場所に移っても数十メートル範囲内なら聞き取れる……。──やっかいだな)



 竜郎はカルディナに鳴いてもらって、さもカルディナの言葉を理解して聞きましたというように頷くと、その結果を紙に書いた。



〈うちの解魔法使いを呼んで解除させるよ。

 そういうスキルがあるのなら、うちの奴にも覚えておいてほしいからね〉

〈解りました〉



 そう言ってビヴァリーは部屋を出ていくと、直ぐに階段を上る音が響いてきた。

 そして数分後に、還暦は過ぎていそうな爬虫人が杖を片手にやってきた。



『もしかしてあの人、俺と対決した人じゃないか?』

『──ええっ!? すっかりおじいちゃんになっちゃってまあ』

『同じような種族で、同じようなスキル構成をした別人って──……事もないようだな』



 その老人に顔を見られるなり少し驚いた表情をされたので、おそらく正しいのだろうと竜郎は判断した。

 それから竜郎と争った時よりもさらに成長した解魔法で、今ではすっかりおじいさんになったオーハンゼーが調べていくと、何やらビヴァリーに頷いていた。

 おそらく竜郎の言ったことを肯定してくれたのだろう。

 そうして竜郎はジッと精霊眼で、歳を重ねた熟練解魔法使いの技を観させてもらった。



「これで大丈夫のはずですよ。ビヴァリーさん」

「そうかい。ありがとう。そっちから見てどうだい?」

「ピィー」

「……大丈夫そうですね」



 竜郎の精霊眼、カルディナの解魔法で調べてみても、魔力の糸は完全に断ち切られていた。

 そして百メートル程向こう側で隠れていたサンジヴらしき人の形をした存在は、慌てて逃げて行ったのも精霊眼で確認した。



「あまり潜って無い割には情報が多そうなパーティだと思っていたが、こんな絡繰りがあったとはねえ」

「ですね。もう覚えましたから、次に見つけるのは容易だと思います」

「ああ。頼むよオーハンゼー。

 あと、出来る事なら後任にも教えといておくれ」

「解ってますよ。俺も、もう後何年かで引退でしょうし」

「もったいないねえ──と、すまないね。

 こっちの奴は覚えているかい?」



 じっと二人を見つめていた竜郎達の目線に気が付いたビヴァリーが、話を振ってきた。

 それに竜郎は少し自信なさげに口を開いた。



「僕と試合したオーハンゼーさん……ですよね?」

「ああ。そちらは変わりないようだが、こっちは随分歳を取ってしまったよ」



 その冗談交じりの言葉を発したオーハンゼーに、竜郎達はダンジョンを出て知らない人や見た目が変わっていない人しか会ってこなかった為に実感が持てなかった時間の進みに、急に現実味が帯びた気がした。



「でも元気そうで何よりですよ」

「そうか? 体が言う事を聞かなくて困っているところだよ」



 と。軽く挨拶をしていると、また扉が開いて見覚えのある人物が入ってきた。



「おお。変な事があったみたいじゃが、もう大丈夫そうじゃのう」

「あなたはたしか──」

「ミロウシュじゃ。久しいのう」



 そうして入ってきた百七十センチほどに縮み、白髪交じりだった黒髪が完全に白髪となったミロウシュがそこにいた。

 その顔を見れば老いているのは確かなのだが、以前よりもずっと力強い生命力を感じさせてもいた。



「じゃあ、こっちはこの三人で話を聞かせてもらう事にするよ。

 紙は持ってきてくれたかい? ミロウシュ」

「ああ。たんまり持ってきたぞ」



 そう言ってミロウシュは、片手に持っていた三十センチ以上の厚みの紙束を机にドンと豪快に置いた。

 そんなに話す内容があるだろうかと苦笑いしながら、竜郎は向こうの準備も整ったと判断して話を切り出した。



「それでは、話す前に約束の物を頂けますか?」

「ああ。勿論だよ」



 オーハンゼーとミロウシュがソファーに座りこんでいる間に、ビヴァリーは用意していた品々を机の上に並べ始めた。



「まずは4億シスのコインが一枚。そして、これが自重を軽くする魔道具。

 それから精霊魔法で使える木人形を三種。妖精の化石。

 呪魔法の拡散魔道具である弦楽器。竜瞳玉の原石。

 ここまでで問題はあるかい?」



 竜郎はコインを持って額を確かめ終わると、見ただけでは解らない魔道具などはリアに確かめるような視線を送る。

 すると、直ぐに大丈夫そうだと極小さく頷いてくれた。



「問題ないです」

「ならよかった。それじゃあ、後は情報だけだねえ。

 まずこっちの資料が、関わったとされる人物たちの現在の情報。

 これが、この国で起きた重要な出来事を纏めた情報。

 そして最後にこれが、この三十六年間の『リア・シュライエルマッハー』に纏わる情報だよ」

「中を少し確かめてみても?」

「ああ。今ここで真剣に読み込まれても困るがね、大まかに内容を確認するくらいならしてくれていいよ」

「では、拝見させていただきます」



 竜郎はリアに自分の事が載っている物を、自分はこの国で起こった重要な出来事を、愛衣には関わった人達のその後の資料を、それぞれ渡して軽く読んでみる。


 まず竜郎が資料を開くと、一ページ目には大まかな年表が纏められており、その詳しい内容が何ページ目に書かれているのかが書かれていた。

 そしてその中で一番気になった、国歴1026年──つまり今より2年前の出来事。人工魔石の生成に初めて成功、という所を開いてみた。

 するとそこには研究を主導した、リャダス前領主と現領主、町長の名前。

 原料となる特殊な苔の育成方法を確立し、重大な成果を残したヒースコート・カレッジという人物──恐らく博士の名前。

 その苔から成分を抽出し、人工魔石を造り上げた研究者たちの名前。

 など関わった人たちの一覧が書かれ、その後にはそれがこの国にどのような影響を与え始めているのかなどが書かれていた。


 愛衣が開いた資料には、関わったとされる人物たちの現在──といっても一月前くらいまでの情報。

 だがやはり全員ではなく、竜郎達がリャダスに到着してから密接に関わった人までしか追いきれなかった様で、ゼンドーやリャダスで別れた獣人の兄妹たちの事まで載せられてはいなかった。

 しかしパッと見た感じ、不幸になった人はいなさそうなので、一先ず愛衣は胸を撫で下ろした。


 そしてリアは、自分が今の時代。どういう扱いを受けているのか書かれた資料のページに手をかけた。

 しかし怖くなって中々指が動いてくれなかった。

 けれどそれを見かねた隣に座っていた奈々が、ぎゅっと手を握ってくれた。

 その手から伝わる心を落ち着かせる生魔法に背中を押され、リアは何が記載されていても受け止めようとページをめくった。

 そして書かれている事をざっと目を通していく。



「──っ」



 そこに書かれていた事で良かったことは、モーリッツ・ホルバインがリューシテンの商会ギルド長を解任され、さらに多くの殺人事件の関与を疑われ逮捕。

 その後、証拠不十分でほとんどが立件できなかったが、たった一つの事件だけは証拠が見つかり、四人の殺害の罪に問われた。

 そして悪かった事。

 そこには、恐らくモーリッツが命令して殺したであろう人たちの名前が列挙されていた。

 実にその数、八十七人。

 モーリッツの屋敷内でリアの世話をしていた女性たちから、チラリと見たことがあったかもしれない見張り番。

 研究に携わってリアと面識のある学者たち。それら全ての人たちが徹底的に殺されているらしい。

 その事実にリアは吐き気を催したが、すぐに奈々が察して生魔法で抑えてくれた。

 けれど完全に収まることなく、涙がこぼれだした。


 自分はただ自由になりたいと思って選択した結果が、こんなにも多くの人の命を奪う事になるなどとは考えてもいなかったのだ。

 もちろん、殺した奴が一番悪いに決まっている。

 けれどそれを全てモーリッツのせいだと正当化して、平気でいられるような神経をリアは持ち合わせていなかった。

 そこで奈々が涙でインクが滲んでしまわない様にと、横から資料をそっと抜き取った。

 そして内容をぱらぱらと軽く確認してから、竜郎に資料としては問題ないと代わりに告げた。



「この三つの資料に問題はないようです。

 なので、これで全て支払って貰ったという事で構いません」

「そうかい。なら良かったよ。

 じゃあ、私らは忘れ物をしたから少し席を外すよ。

 そんなに長くは無いと思うけど、待っていて貰えるかな?」

「ええ。ここでちゃんと待たせて頂きます」



 ビヴァリーの目には、リアは黒い靄で小さな少女の形を取っている──くらいは解ったが、それ以上はどんな容姿なのか、どんな表情をしているのかも解らなかった。

 けれど鼻をすする音や、微かに漏れる泣き声に気が付き、忘れ物と言って落ち着くまで席を外してくれるらしい。

 それに竜郎が軽く頭を下げると、オーハンゼーとミロウシュを連れてビヴァリー達が部屋を出ていった。


 それからリアが落ち着き、三十分ほどしてからやってきたビヴァリー達。

 こうして竜郎達は、今度は自分たちが渡す側になるのであった。

次回、第262話は6月21日(水)更新です。

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