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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五章 呪われた少女編
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第258話 取引材料

 竜郎は割って入ってきた人物の内、知っている相手にまずは話しかけた。



「お久しぶりですね、ビヴァリーさん。

 36年も経っていると聞かされたのですが、お変わりないようで。

 それと……後ろの方達は新しいパーティメンバーですか?」



 一人は、フォルネーシスのリーダーであるビヴァリー。

 そしてその横には見たことのない青い鎧を纏い、頭から二本の鬼の角を生やした二メートル近くある巨漢の男。

 さらにその少し後ろには細長いレンズのメガネをかけた、神経質そうな黒いローブを羽織った蜥蜴の爬虫人の老人が立っていた。



「久しぶりだねえ。こちらからしたら、そっちこそお変わりないようでって言いたいところだけど。

 それでこっちの奴らは──」

「俺は『ケットチェリカ』のリーダーのエコアリチだ」

「儂は『ナレントニス』のリーダーのサンジヴじゃ」

「……竜郎です。

 特にパーティ名とかはないです──が。えっと……ああ」



 いきなり別のパーティのリーダー達に挨拶されて、一体何かと思ったが直ぐに竜郎は察しがついた。

 先ほど付け込むのは卑怯と言っていたが、その実ダンジョンの情報を自分たちのチームだけで独占したいのであろう。



「さっそくだけどね。

 あんた達はこれからも、ここを根城にやっていく気はあるかい?」

「ない、ですね。色んな所を見て回ろうと思っているので」

「それは良かったぞ! ──であるのなら」

「儂らの内のどれかのパーティに、情報を売ってほしいのじゃ」



 竜郎がここを根城にするつもりはないと知った三人は、グイグイとこちらに押し寄ってきた。

 けれど国から派遣されている鎧の男もここは引けないと、強者たちに立ち向かうようにズイッと前に出てきた。



「こちらとしても、情報が手に入るのであれば幾ばくかの金銭を──」

「あんた達じゃ、有効活用できないじゃないかい。

 それに、むやみやたらに情報を拡散されても困るんだよねえ。こっちも」

「その通りだ。

 それにお前たちが払える額で済ませる気など、こちらは毛頭ない!」

「──ぐ」



 国としてはここで情報を得て大々的に発表し、数多くの冒険者を引き寄せようとしていたようだが、今この男の裁量で支払える額などたかが知れている。

 そして竜郎達は国の判断がくるまで、ここで待っている義理もない。

 なので直ぐに三人の圧力に屈して下がってしまった。

 それに竜郎達は可哀そうに思いながらも、この必死な人達の相手をこれからしなければならないのかと疲れた顔をした。



「取りあえず、僕らが情報を提供するかどうかは条件次第だとして。

 ここで立って話し合うんですか?」

「おっと、そうだったね。それじゃあ、うちを使うといいさね」

「──何? それなら、うちでも構わんぞ」

「別にどこで話しても取引に影響はしませんから、ビヴァリーさん達の所にしましょう」

「じゃあ、決定だねえ」



 よく知らないメンツの拠点に連れて行かれるよりはマシだろうと竜郎は判断し、フォルネーシスの詰めている屋敷へと全員で向かっていった。

 その際、衛兵の鎧の男もついて行こうかどうか迷っていたようだが、軽くビヴァリー達にあしらわれて防衛任務にトボトボ戻っていった。


 フォルネーシスの根城は、そこから十分ほど歩いたところにあった。

 そこは頑丈そうな大きな金属製の柵に覆われ、庭付き六階建ての家──というより屋敷と言った方が正しいほど立派な佇まいだった。



「こっちだよ」



 そう言うビヴァリーの後ろについて行きながら玄関を通り、入って直ぐの所を右に行った場所にある広い応接室に通された。

 大きなソファーに座るように言われたので左からアテナ、愛衣、竜郎、リア、奈々と座り、ジャンヌは《幼体化》姿は見せたくなかったのもあり、《成体化》のまま後ろに控えてもらった。

 そして金属製の机を挟んだ向こう側に、鬼人のエコアリチ、ビヴァリー、爬虫人のサンジヴが間を空けて座った。

 それから最初に口を開いたのは、ホストであるビヴァリーである。



「ではまず、これだけは聞かせて貰いたい。

 君たちは、どこまで潜った?」



 その質問に素直に答えるかどうか一瞬迷ったものの、直ぐに竜郎は決断した。



「僕らは全て攻略してきました」

「──なんとっ」「やっぱりねえ」「ありえんっ」



 サンジヴだけが疑いの目を放ってきたので、竜郎の中で査定を下げた。

 見た目で判断し、最初から疑ってくるような人では、こちらも信用できないからだ。

 こちらがそう思ったのが向こうにも伝わったのか、エコアリチとビヴァリーは口角を上げ、サンジヴは一瞬苦い顔をして直ぐに無表情に戻した。



「じゃあ、手間をかけさせるようだがね。私たち三人それぞれ一人ずつ、話を聞いていってほしいと思っている。

 その取引内容は他の二人には絶対に口外しないで、私らも他の二人が何で取引しようとするのか知らない状態で、最終的に一番いいと思ったパーティを選んでほしい。

 それでどうかな?」



 三人いっぺんに競い合いプレゼンしてくるかと思っていたが、どうやら取引内容に至る全てを他に知られないように徹底しておきたいようだ。

 それはライバルに一片たりとも自分たちの持ち札や、手持ちの資金などの情報を与えない様に。

 また、そちらがこれだけ出すなら自分はこれだけ。と、オークション形式になって余計な出費をしない様に、下手な揉め事を起こさない様にとの判断だろうと竜郎は考察した。

 けれどそうなると向こう側は相手の手札を目隠しで想像し、それよりも強いカードを出さなくてはならないので、非常に難しい駆け引きにも思えた。



(まあ。こちらとしては、欲しい何かがあれば取引に応じればいいわけだし。

 そこまで固く考える必要はないから楽な方だ)



 そこで竜郎が左右を見て皆の反応をうかがうと、そちらも異論はないようだった。



『じゃあ、受けてもいいか?』

『私はいいと思うよ』

『解った』



 最後に愛衣とも念話で確認してから返事をした。



「それで問題ありません」

「解ったよ。それで順番はどうしようかねえ。

 そちらに希望はあるかい?」

「特にないですね。どんな順番であろうと、一番魅力を感じた方に情報をお譲りしたいと思っています。

 勿論。どれも魅力を感じなければ、全てお断りさせて頂きますけど」

「まあ。それは当然だな。

 ちなみに今潜っていて、情報を持った少年達がいる事を知らないパーティが他に六組ある。

 もし俺達の取引材料が気に入らなければ、そちらに話を持っていけばいい」

(──ちっ。わざわざ教えんでもいいことを)



 エコアリチがさらっと言った情報に、一瞬だけだがサンジヴが横目で睨んでいた。



「ただそっちに行っても、こちらよりいい条件が来るとは限らないけどねえ」



 その場合戻ってきてこの三人との再交渉も可能だろうが、心証も悪いうえに足元を見られるかもしれない。

 ここで変な欲を出すよりも、欲しい物があったらそれに手を伸ばすのが得策だろう。

 そう考えた竜郎は頷き返すだけで理解した旨を伝えた。



「じゃあ『ケットチェリカ』と『ナレントニス』に希望の順番はあるかい?」

「お前たちが何番目でもいいと言うのなら、俺は最初にしてもらいたい」

「ほお。じゃあ、儂は二番でかまわんよ」

「それじゃあ、うちは最後だね。

 という事で、最初は『ケットチェリカ』のエコアリチ。

 二番目に『ナレントニス』のサンジヴ。

 三番目に『フォルネーシス』のビヴァリー──つまり私だね。

 それでいいかい?」

「はい。大丈夫です」

「なら私とサンジヴは席を外すから、ここを使ってくれてかまわないよ」

「解りました」「解った」



 そうしてビヴァリーとサンジヴが部屋を出て、少し離れた場所から別の部屋へ入っていく音が聞こえた。

 そこでエコアリチは、単刀直入に取引材料を公開し始めた。



「まず10億払おう。

 さらにそれに追加してアイテムや装備品を見せていくから、その中で気に入ったものを五点まで好きに選んでくれ」

「─…解りました。では、まずそのアイテムなどを見せて貰えますか?」



 いきなり出てきた10億という言葉に軽く驚いたが、それをおくびにも出さずに竜郎はエコアリチに続きを促した。

 それに頷いたエコアリチは《アイテムボックス》から、次々と物品を机に並べていく。

 竜郎達から見て左から、人の頭蓋骨──にそっくりな何か。

 四つ折りにされた何かの動物の皮の様な素材の紙。

 十センチほどの緑色の細長い笛。

 カードが二十枚ほど入ったカードホルダー。

 五角形の黒いガラス版に、奇怪な文字がいくつも書かれたもの。

 刀身一メートル半ほどの日本刀のような刀。

 全長二メートルほどもある長い錫杖。

 三十センチほどの銀色の棒の両脇に、鷹の足の形を模した物が付いた何か。

 四十センチ四方の白い石版に丸や三角、四角などがいくつも重なりあって描かれた何か。

 十センチほどのオシャレなガラスの小瓶に入った、謎の赤い液体。

 二十センチほどの、文字盤むき出しで秒針も分針も無い中で時針だけがあり、1から13までの数字の中で8を指して動かない懐中時計。

 竜郎でも装備するには大きいであろう──おそらく愛衣の宝石剣の元となっている翠聖石という宝石で造られた全身鎧。

 透明なダイヤモンドの様な美しさを持つ、棒術家用の細長い棍。

 漆黒の金属でできた、右腕だけのガントレット。

 以上、計14点が今回の取引材料の全ての様だ。

 

 そうして机いっぱいに出し終わると、一つ一つ簡単に説明し始めた。



「まずこの『死霊の髑髏しゃれこうべ』と呼ばれる頭蓋骨は、死体を近くに置いた状態で魔力を込めると、ソイツを魔力が切れるまでの間使役できる。

 これは人間、魔物どんなモノでも使えるが、腐敗度が酷くなるにつれて性能が悪くなる」

「死体を武器にするアイテムですか。

 人間は倫理的に使いたくはないですが、魔物なら状況によっては役に立ちそうですね。

 ちなみにそれで使役されたゾンビは、生前のスキルなどは使えるんですか?」



 もしそれが可能なら、強力な魔物の死体を用意して常に《無限アイテムフィールド》に時間を止めて収納しておけば、かなり強力な武器になりそうだと竜郎は思った。

 しかしその問いかけに対して帰ってきた答えは、NOだった。



「スキルは全部使えない様になっちまってるから、純粋に生前もっていたステータスによる膂力だけで闘わせる事になるな。

 ああ、だけど一つ例外があってな。完全に骨だけの綺麗な死体に対してこれを使うと、それはゾンビではなく新しい骸骨の魔物に変質するんだ」

「それは常に従わせられるんですか?」

「いいや。この『死霊の髑髏』に魔力を通していても、生前がこちらよりも強い存在だった場合は命令を聞かずに、周囲にいる生者全てに襲い掛かる。

 その上、骸骨魔物としてのスキルまで身に付けるから、厄介な敵を生み出す事にもなりかねない。

 けれどこちらが相手よりも生前強かった場合に限り、『死霊の髑髏』を使っている間だけは言う事を聞かせられる」

「なんか、おっかないアイテムだね。

 それってつまり『死霊の髑髏』を使わなくなった途端、襲い掛かってくるんでしょ?」

「その通りだ。だからこいつを使って骸骨魔物を造るんだったら、最後は自分で殺すのがエチケットだな」



 中々珍しそうなアイテムではあるが、使って自分たちの役に立たせられるかと言われれば微妙だと、竜郎達は判断を下した。

 エコアリチもこれ以上説明する事はないので、四つ折りにされた何かの動物の皮の様な素材の紙を手に取った。



「次にこの『迷宮地図』についてだが、こいつはダンジョン内に限り使えるアイテムで、これに魔力を注ぐと一度の潜入につき一度だけ、一つの階層の全マップがここに表示される」

「それはすごいですね。ダンジョンだと、マップ機能も役に立たないらしいですし」



 暗にマップ機能は誰も持っていないといった体で竜郎はそう言った。

 実際に低レベルダンジョンではマッピングくらいはできていたのだが、レベル7のダンジョンでは何も表示されず全く役に立たなかったのだ。



「そうだ。低レベルダンジョンならマップ機能も多少使えるんだが、高レベルダンジョンだと何もできなくなるからな。

 だがこいつは、どんなダンジョンでも使えるぞ」



 それは純粋に凄いと思ったが、しかしこれがあればダンジョン攻略にも役に立つし、これから攻略していこうとする上では、エコアリチにも必要になってきそうな重要アイテムに思えた。

 だから何故、これを渡してもいいと思ったのか単刀直入に竜郎が聞いてみた。



「ああ。それは単純に、それより良いアイテムをウチが保有していて、それは予備扱いだからだ」

「ああ。そう言う事ですか」



 それなら頷けると竜郎はそこで質問を打ち切った。それが何かと聞いても答えてはくれそうに無かったからだ。

 そして次に取り上げたのはガラスの小瓶に入った、謎の赤い液体。



「こいつを一口飲めば、一時的に全ステータスが二倍になる──らしい」

「らしいって、えこりゃーち?さんは使った事ないの?

 二倍にもなるなら便利そうだけど」



 愛衣のその素直な疑問に苦笑いしながら、エコアリチは名前の間違いも気にもせずに答えてくれる。



「確かに効果自体は強力なんだが、その効能が切れた途端三日三晩熱に侵され、半分の確率で死ぬ可能性もある劇薬でもあるんだ。

 そんなもんは退路もなく、ただ死に向かうだけって状況でもない限り仲間にも使えないさ」

「それは……確かに使えないね」

「だが、それでも欲しいって奴はいるからな。

 うちでは死蔵してたが、もし欲しい奴がいるなら、こういう取引の材料にはなるのさ」



 その欲しい奴とは、大抵が自分以外に使うつもりなんだろうなと竜郎は思った。



「うちではちょっと……」



 そんな風に竜郎が嫌そうな顔をすると、エコアリチも解っていたのか置いてみただけだと笑って、次の大きな懐中時計の説明に移っていった。



「この懐中時計は凄いぞ。これまたダンジョン内限定のアイテムなんだが、この頭のボタンを押すと、一時的に自分以外の時間の流れがスローになるんだ。

 ただ使いきりのアイテムでな。計13回使い終わると、砂となって消えてしまうらしい」

「となると、その文字盤に記されている数字は使った回数、もしくは残り回数を示しているんですか?」



 たった一つ付いている時針が8を指している懐中時計を見て、竜郎がそう指摘した。



「そうだ。ちなみにウチが今までに五回使ったから、この数字は残り8回使えるという意味だな」

「へー」



 正直面白そうではあるがダンジョン限定という所と、回数制限があるのがネックなアイテムだった。



「じゃあ、次のだが──」



 そうして竜郎達は、残り全てのアイテムの説明も簡単に受けていったのであった。

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