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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第一章 森からの脱出編

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第25話 ゼンドー

 二人はできるだけ相手の情報を得ようと、目を凝らして馬車やそれに乗っている人物をさりげなく観察していく。

 そして、その際にも念話で会話をしていた。



『こんなに警戒する必要あるかな』

『そもそも異世界人に対して、どういう対応をこの世界の人たちがとるのかが解らないってのが一番恐い』

『恐いというと例えば?』

『異世界人を異分子として扱い、殺されるかもしれない』

『殺伐としてんね』



 愛衣はうへぇと嫌そうな顔をしてそう言った。だが、竜郎はこうも補足した。



『まあそれは極端な話だし、むしろフレンドリーに相対してくれるかもしれない』

『結局は異世界人という情報は隠して、どんな人間性の世界なのか探ってこう。そんなとこ?』

『まあ、とりあえずな。情報が少なすぎて、あらゆる可能性が出てきて整理できない。

 だから有事の際はAと言ったら攻撃、Bと言ったらダッシュで逃げるってことにしよう』

『はーい、もうすぐ合流するよ』

『ああ、解ってる。まずは気さくな少年少女作戦で行くぞ』

『いつの間にか変な作戦ができあがってる!?』


 

 近づくと段々とどんな人物なのか解ってきた。

 まず御者をしているのは、おじいさんだった。髪は白髪で頭頂部が禿げており、髭はない。

 顔つきは少し厳つい頑固ジジイといった風体だが、恐い人という印象は受けなかった。


 また馬車は荷馬車のようで、二匹の馬に繋がれ、荷台には大きなかめをいくつか積み込み、ほろで覆って落ちないようにしていた。

 見る限り他に人はいないようで、どうやら老人一人で荷馬車を駆っているようだ。



「○○○○ ○○○ ○ ○○○ ○ ○○○○ ぞ?」

「「え?」」



 声が届く範囲に入ると、おじいさんの方から話しかけてきた。

 しかし文字は解るが言葉はまだ聞いたことがないので、最後の「ぞ?」しか聞き取れずに二人して聞き返してしまった。



「なんだあ、若いくせに二人して耳が遠いのか?」

「ああいえ、すみません。二人してぼーとしてたみたいで」

「ごめんね、おじいちゃん」

「ん? まあいいけどよ。お前らそんな軽装で森の方に行くのは止めとけ」

「「え?」」

「なんだ、またぼーとしてたんか?」



 そこでようやく、おじいさんの意図を理解した。

 おそらく、あまりにも身軽だったから森から来たようには見えず、何も持たずに森に行こうとしていると勘違いして止めようとしてくれた。

 そんな所だろうと、竜郎は警戒レベルを一段下げた。



「ああ、違います。僕らは森から町に向かっていたところだったんです」

「森からだあ!?」



 突然驚くおじいさんに、二人は何かおかしなことを言っただろうかと、お互いの顔を見合った。



「いやいや、森をその格好でうろつくなんて自殺行為だぞ」

「あーですね。もし次に行くことがあるなら、ちゃんと準備を整えてから行くことにします」

「せめて食料くらいは欲しかったよね」

「食料って……、まさかお前ら森を何も持たずに突っ切ってきたのか!?」

「突っ切ったと言うより、川に沿って歩いてきただけですよ」

「うんうん」



 おじいさんは、目の前の二人がたばかってるんじゃないかと思い始めるも、嘘をついてるようには見えなかった。

 だがそうすると、何故この二人はそんな危ないことをしたのか。

 そう思った時に、おじいさんは竜郎達の仲睦まじい姿に、一つの結論に思い至った。



「────駆け落ちか」

「「かけおち?」」



 何かの専門用語か?と二人がクエスチョンマークを浮かべている間に、おじいさんの頭の中では壮大なストーリーが展開されていく。

 この二人は愛し合っているのに親に反対され、引き離されそうになる。

 そこで二人は決意した。離れるくらいなら、二人でどこまでも逃げよう。そうして、手と手を取り合い森の中へ……要約するとこんなお話を想像していた。



「そうか……辛かったよなあ……」

「え? あーまあ、そうですね。大変でしたけど、愛衣がいたから何とか頑張れました」

「私も、たつろーがいなかったら、きっと死んじゃってたよ」



(死んじゃってただあ!? あんちゃんと一緒になれないなら死んだ方がましってことか!

 若いのに、こんなにもお互いを愛し合うことができるなんてなあ……てえしたもんだよ)



 そんな二人を想って、おじいさんの目には一粒の涙が流れた。



『ええっ、おじいちゃん泣いちゃったよっ? なんで!?』

『俺が解るわけないだろ!』



 おじいさんの脳内ストーリーの主演にされているなど露知らず、二人は念話で会話をしながら、その涙に恐々とした。

 そんな姿もおじいさんフィルターを通せば、二人で見つめ合って、これからの未来に不安を感じているんだろうと、また目頭が熱くなっていた。



「ちくしょう、歳を取ると涙もろくなっていけねえ。おいっお前ら!」

「「はいっ」」

「俺の馬車に乗んな! 町まで行くんだろ、歩いていったんじゃ日が暮れらあ」

「え、でも……」

「あーいい、いい。何も言うな、ちゃんとわかってっからよう」



 最高の笑顔を見せてきたおじいさんに、何が解っているのか解らない二人は意味が解らない。

 けれどおじいさんの迫力と押しに負けたのもあるが、なにより今日中に町に行きたい二人には断ることなどできなかった。



「えーと、それでどこに…」

「荷台の隙間乗ってくれ。かめが邪魔なら捨てちまってもいいからよ!」

「いや、捨てちゃ駄目でしょ、おじいちゃん」『なんでこんなに親切なの!?』

『もう、そういうもんだと受け入れよう』「じゃあ、この辺に乗りますね」

「おうっ、落ちんじゃねーぞ」

「「はーい」」



 そうして、おじいさんは馬に合図し荷馬車を動かした。

 すると御者席から少し声を張って竜郎たちに話しかけてきた。



「俺の名前はゼンドー・バウリンだ。お前ら名前はなんてーんだ?」

「俺は、はさ──竜郎、波佐見です」

「私は愛衣、八敷だよ。よろしくね、おじいちゃん」

「おう、よろしくな」

 


 愛衣の人懐っこい対応が気に入ったのか、ガハハと笑った。

 そして荷台で「はやいはやーい、らくちーん」とはしゃいでいる愛衣と、それをなだめている竜郎に、気になっていたことをゼンドーは問いかけた。



「なあ、タツロウとアイは町に行ったらどうすんだ? 何か当てはあんのか?」

「あーと、とりあえず冒険者ギルド? という所に行ってみるつもりです」

「今から行く町にあるんでしょ?」

「ああ、あるぜ。けどそうか、冒険者か……。

 まあ曲がりなりにも森を抜けてきたんだ、そこそこ腕には覚えがあるんだろうし、それだったら冒険者になるってのが一番手っ取り早く稼げる方法かもなあ」

 


 エルレンの遺体と手紙の件で寄る予定だっただけなのだが、二人はゼンドーの、「一番手っ取り早く稼げる」という言葉が気になった。



「えっと、その冒険者ってのは俺たちでもなれて、稼げるんですか?」

「ん? そりゃ、問題起こして資格を剥奪はくだつされたりとか、よっぽどの重罪を犯した、とかじゃなけりゃ、身分も出身も関係なくなれるぞ。その点は大丈夫なんだ……よな?」



 まさか親元から逃げるときに殺人行為を……と少し心配になったゼンドーだが、二人は焦ることも無く「問題ない」と言ったので胸をなでおろした。



「じゃあじゃあ、その冒険者ギルドに行けばその資格を貰えるの?」

「そのはずだが……おう? 冒険者になるためにギルドに行くつもりじゃなかったのか?」

「ええ、ちょっと道中で頼まれごとをされたので、それでちょっと……」

 


 竜郎からしたら内容が内容だけに言い辛かっただけなのだが、ゼンドーはそれを深読みし、なにか事情があるのだと脳内で勝手に納得した。



「そうか、まあ色々あるからな。とりあえずその頼まれごとってのを頑張れや」

「え? ええ、ありがとうございます」



 何故かすごく俺は応援してるぜオーラを感じて、謎が深まるばかりだが、竜郎は一応礼を言っておいた。



「ねえねえ、それはいいとして、冒険者っていったい何してお金を貰う仕事なの?」

「ああ? お前ら冒険者が何かも知らねえのか?」



 その呆れすら孕んだ言い方に、この世界ではかなりメジャーな仕事なのだと察した竜郎は、焦りながら言葉を選んだ。



「えっと、すみません。ちょっと俺たち世間知らずな所があって……」

「そうか……」



 その言葉で、ゼンドーの二人の設定に貴族が新たに加わり、どんどん話の世界観が広がっていく。

 しかし、それを知らない二人は物わかりが良すぎて、逆にこのおじいさんが詐欺にあわないか心配になってしまった。



「えーと、おじいちゃん?」

「おっと、わりーな。今度は俺がぼーとしまったい」

「大丈夫?」

「俺の心配してる暇があるんなら、自分たちの心配をしとけ。二人だけじゃあ、これからも大変だろうしよ。

 んでだ。冒険者っていうのはまあ……なんだ、一番花形の仕事はやっぱり世界を股にかけ、未踏の地や高レベルダンジョンの踏破、危険な魔物の討伐、貴重な素材の調達ってところだが──」

「「だが?」」



 なんだか、普通の人間にはとても務まりそうもない内容に二人は息をのんだ。



「一般的な冒険者は定住してその近辺で自分のレベルにあった魔物を狩ったり、薬草採ったりして、それをギルドに卸して金を貰って生活してる。まあ狩人の魔物版みたいな事をしてるな」

「あー、そっちならできそうですね」

「まあなあ、ちょっとでも腕に覚えがありゃ、子供でも小遣い稼ぎにやってるくらいだ。

 よっぽど無茶なことでもしなけりゃ、そう危ないものでもないさ」

「それいいじゃん。ねえ、たつろー。私たちもなろうよ冒険者!」

「ああ、そうしよう」



 SPを稼ぐついでに魔物を倒せばお金も貰えるなんて、まさに渡りに船である。

 二人は町に行ったら冒険者になることを、お互いに決めたのだった。

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