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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五章 呪われた少女編

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第255話 旅の道具を造ろう

 カルディナの変化も調べ終わり、食事によって張っていたお腹も大分元に戻ってきていた。



「それでだ。これからどうするかだが。

 現在リアは、こっちの世界の暦的に6ヶ月弱は雲隠れしていた事になっているはずだ。

 それくらいだと、まだ安全になっているとは考えにくい。

 だが呪魔法で誤魔化せる上に、今ならジャンヌに雲迷彩を使ってもらえば真昼でも、それほど目立つことなくこの国から出ることも可能だ。

 だからとりあえず外に出て、現状確認はそろそろしておきたいと思っている」

「ここでする事もないしね」

「ですね。それに私もかなり自衛手段を身に付けましたし、今なら多少の妨害なら跳ね除ける自信があります」



 つい数ヶ月前までレベル1だったリアも、現在はレベル81。

 この世界の人間でレベルが50に達していれば強者と看做みなされる中、それを大幅に超えていた。

 例え純粋な戦闘職でなくとも破落戸ごろつき程度なら、もはや数十人に囲まれても素手で蹴散らせるだろう。

 さらに造った装備品も合わせれば、強者の中でも上位に位置する存在で無ければ倒すのは困難。

 それに少なくとも、この国の中にいる間は一人にするつもりはない。

 竜郎含め誰かが付いていれば、どんな者が来ようと遅れを取るとは思えない。

 なのでダンジョンを出て、町の様子を偵察してみるのが良いという事に落ち着いた。



「だが、ここでポンと出て面倒そうだったら他国に逃亡するつもりだ。

 だから、その為にも空を移動するための箱を用意したい」

「箱? ジャンヌちゃんの背中に乗っていくんじゃないの?

 その為に苦労してファーも手に入れたんだし」

「ヒヒン?」



 ジャンヌも「違うのー?」と可愛らしく首をかしげていた。

 その姿に竜郎は微笑みかけながら、首を縦に振った。



「ジャンヌの背中に乗せてもらうつもりだ。

 けどせっかくなら、快適にしたいとは思わないか?」

「そうですね。

 タツロウさんとアイさんは称号のおかげで耐性が出来たようですが、私では上空は寒いでしょうし」

「あー…。それに何時間も背中に座りっぱなしってのも、何だしね」



 ジャンヌの背中は言うまでもなく岩より固く、表面もゴツゴツしていて決して座り心地がいいとは言えない。

 なので素のままでの長時間飛行は、意外と大変そうだと愛衣も理解した。



「だからショルダータイプの箱を造って、そこに犀車の様な空間をしつらえれば、どんなに遠い国にも一っ飛びだ」

「ショルダータイプなんだね。

 まあ、お腹の方にでっかい箱を抱えてたら、ジャンヌちゃんも邪魔かぁ」

「そう言う事。それでだ。

 ここでリアには飛行して運ぶための部屋となるのに最も適した形で、ゲシュマグミンの加工をしてもらいたい」

「解りました。やってみます。量はどうしましょう?」

「複製ポイントも溜まってるし、最も適した量を使ってもらって構わない」

「では、初めにジャンヌさんの採寸をしてもいいですか?

 ピッタリな物を造った方が、ジャンヌさんも動きやすいでしょうし」

「ヒヒーーン」



「そうだねー」と、ジャンヌも乗り気で《真体化》してくれた。

 そこで竜郎とカルディナも手伝いながら、リアから指示して貰った場所を細かく採寸したり、背中の型を土魔法で取ったり忙しなく動いていった。


 そうしてジャンヌの背中のボディラインを分厚い鱗の一枚一枚に至るまで精密に計り終ると、今度は竜郎にゲシュマグミンを宝物庫で手に入れたものも含めて出してもらう。



「それで複製用に残した一番でかい塊以外の全部だ。

 足りない様ならすぐ増やすから言ってくれ」

「うーん。そうですね、後は──」



 ゲシュマグミン以外のこれまでに手に入れた素材も、必要だと言われた物を全て出していく。

 そして材料の見積もりを大まかに終わらせた後は、魔物も出てこないらしいので本格的に家を出してリビングに入る。

 そして大きな丸テーブルに沿うように全員が椅子に腰かけて、形状やデザインなどを決めつつ設計図をリアが細かく書いていく。

 その手の動きは淀みなく、他の全員が目を丸くして感心していた。



「凄いね、リアちゃん。どんどんイメージが形になってって、魔法みたい!」

「そうですか?

 これまでも何枚も設計図は書いてますから、自ずと上手くなったんでしょうね」

「いやー。ここまで来ると最早、才能っすよ」



 それはただ枚数を重ねていくだけで出来るようになるとは思えないほど、素人目に見ても優れた図形だった。

 そんな風に手放しで褒められる事にまだ慣れていないリアは、頬を赤らめながらも気にしてない風に装って手をより早く動かした。



「皆さんの意見を取り入れつつ、ジャンヌさんの飛行に出来るだけ邪魔にならない様にとなると────こんな感じですですかね」

「おー。いい感じだけど結構おっきいな。

 ジャンヌ的には大丈夫そうか?」

「ヒヒーーン」



「まかせてー」と言うかのように、小サイ状態で椅子にペタリと座っていたジャンヌが前足をパタパタさせた。



「ジャンヌさんなら多少の重さでも大丈夫なんでしょうが、これは見た目以上に軽いはずなので心配ないかと」

「なら安心ですの! まずは何から始めるんですの?」

「まずはゲシュマグミンの素材を加工するところからですね。

 今回はそこが全ての肝になるでしょうし」

「それじゃあ、さっそく取り掛かろう。

 リアは手伝って欲しい事を遠慮なく言って、仕事を振り分けてくれ」

「解りました。ではタツロウさんには──」



 今回はかなり大がかりな仕事になりそうなので、ジャンヌ飛行用籠作成にはリア指揮の元、全員で行動を開始したのだった。




 それからはそれぞれ魔法や力仕事を宝物庫で手に入れたゴーレムなども使ってこなしていき、着実に仕上げていく。

 大きさ的にはジャンヌの背中部分の首から尻尾の付け根までなので、かなり大きい。

 それに凝り性なのか、リアは見た目や内装にも手を抜かないし、素材の加工方法もパーツごとに最適な物を選択していた。

 その為、施工期間は竜郎達の想定を大幅に超過していき、《魔法域超越》を使ってジャンヌ達の体のレベルの更新作業も空いた時間で少しずつこなしながら、ボス部屋にそのまま三十日近く居座る事となってしまった。

 

 けれどそれに対して不満を抱く者はいなかった。

 何故なら手間をかけ、形になるにつれて完成した姿を想像でき、半端な物を造るわけにはいかないという気持ちに駆られていったからだ。

 なので不満どころか十日も過ぎた頃には、皆すっかり職人魂を芽生えさせていた。


 そして今。リアが最後の仕上げとして、出入り口のドアの取り付けをしているのを全員で眺めていた。



「完成です。お疲れ様でした!」

「お疲れ様!」「おつかれー!」「ピィュユー!」「ヒヒーーン!」「お疲れですの!」「お疲れっす~」



 横並びになっていた竜郎達に合流して、リアも完成した空駕籠そらかごを満足げに見つめた。

 それは風魔法で空気抵抗を和らげなくても、ジャンヌに負担にならないようにと設計された黒を基調にした流線型ボディ。

 そして見事な模様が刻まれ、さらにそこには嫌らしくなく、されど質素でもないように金や宝石などが、あしらわれていた。



「中に入ってみよう」

「おー」



 愛衣の元気のいい声と共に、遠慮がちになっているリアを前に押し出しながら扉を開いて中へと全員で入っていった。

 勿論内装も手伝ったので、どうなっているのか知っている。

 けれどそれでも、これを自分たちの力で造り上げたのだと思えば、感動も一入ひとしおだった。



「フカフカですのー」

「ヒヒーーン」



 奈々と《幼体化》したジャンヌはてててーっと駆け出して、リクライニングシートに寝そべっている。

 まずこの入ってすぐの空間は、離陸する際や寝るときの事を考えて造られた、飛行機のファーストクラスに置かれているような、大きな座席が等間隔に固定されていた。

 座席には宝物庫で手に入れた──武器や防具に使えるほどではないが、こういう家具雑貨に使うのに適した魔物の毛皮や皮を有効活用した一品。

 そしてそこにはジャンヌが荒い飛行をせざるを得ない時や、横向きではなく縦に飛行する時の為に、体を固定するシートベルトもちゃんとついていた。

 さらに座席からは頑丈な丸窓から見える、外の景色を見ることも可能。


 そうして座席が並ぶ場所を通って、ジャンヌが背負った場合に首の上あたりに位置する部屋の扉をあけ放つ。

 すると大きなフロントガラスから外が一望できた。

 ただ便宜上ガラスと言っているが、素材は硝子ではなく主に竜の大きな目からとった水晶体を加工した物だ。

 そしてその部屋の床には小さな蓋があり、そこを外せば竜郎が外に出られない状況があったとしても、直接ジャンヌに触れて魔力補給が出来るようになっていた。

 さらに他の設備と言えばボリューム調整機能の付いた伝声管が置かれ、ここから外のジャンヌとコミュニケーションを取ったり、中央の座席と開けたスペースのある部屋と、最後尾のシャワー室やトイレがある部屋へ、声を一斉に伝えることも出来るよう設計された。

 後はそこまで広いというわけでもないので、座る椅子や机など最低限の物が置かれ、脱出用の扉が付いた小さな部屋という印象だろう。


 ちなみに全部屋にリアがベットに付いた冷暖房装置から着想を得た、帰還石を動力にした魔道具も完備されている。

 なので気候に関係なく、誰でも快適にすごせる空間となっていた。



「ここまでやっちゃうと、外で頑張る事になるジャンヌに悪い気がしてくるな」

「ヒヒーーーン。ヒヒーーーン、ヒヒン」

「皆を乗せて飛ぶのも好きだから、気にしないでほしい。

 だそうですの」

「んー。ありがとねージャンヌちゃ~ん!」

「ヒヒーーン♪」



 感極まった愛衣に抱きつかれ、かいぐりかいぐり可愛がられたジャンヌは嬉しそうに鳴いていた。

 なので竜郎も頭をぽんぽんと優しくなでて、感謝を伝えた。


 それから最後尾に位置する部屋に設置されたトイレ、シャワーも使えるかどうか確かめた後はまた外に出る。

 今度はジャンヌに背負った時の感じを確かめてもらうのだ。


 まずジャンヌには、その空駕籠を持ち上げ砂浜を土魔法で固めた地面に付いていた部分をあらわにしてもらった。

 見た目よりもずっと軽いので、ひょいとジャンヌが持ち上げると、そこにはリュックの様な肩ベルトが両脇に一本ずつぶら下がっていた。

 しかしパッと見、それでは《真体化》したジャンヌでは両肩を通せないのではと思うほど、ゆとりのない造りになっている。

 けれども──。



「ヒヒーーン」



 ジャンヌが引っ張るとゴムの様に伸びて、簡単に肩を通して背負う事が出来ていた。



「付け心地はどうですかー?」

「ヒヒーーン! ヒヒーーンヒヒーーン!」

「フカフカしていて、気持ちいいくらいだそうっすよ」

「それなら良かったです」



 自信はあったのだが、それでも造ったのは初めてなので不安があったリアなのだが、元気に横を向いたり、しゃがんだりしてズレないかどうかチェックしているジャンヌに胸を撫で下ろした。



「甲羅にも見えないことはないが、リュックを背負ってるみたいにも見えて可愛いな」

「ヒヒーーン♪」



 竜郎が漏らした言葉に嬉しそうにジャンヌは、空駕籠の肩ベルトに手をやって、小学生の子がランドセルを見せびらかすようなポーズをとっていた。



「あはは。かわいー。こっち向いてー。写真撮ったげるー!」

「ヒヒーーン!」

「おっ、なら俺も」



 そうして竜郎と愛衣はスマホを取り出して、ポーズを取ってくれるジャンヌを撮影していった。


 ちなみに。今ジャンヌがつけている空駕籠。

 肩ベルトはゲシュマグミンの伸縮性をより出せるように加工してあるので、見た目よりも長く伸ばすことが可能。

 さらにその表面には肩に吸い付く様な低反発素材になる様に加工したゲシュマグミンを採用しているので、ベルトが食い込むことなく優しいタッチで支えてくれる。

 とはいえジャンヌの固い皮膚に食い込むことはないだろうが、心情的にそういう風にした。


 そして背中部分。

 こちらの面にも凹凸によって一番最適な形になるように、部分部分によって固さを変えた低反発素材のゲシュマグミンを使っているので、背中にピッタリフィットし、ズレる事もなくクッションの様に柔軟に受け止めてくれる。

 さらに二層目は衝撃吸収に特化するよう加工したゲシュマグミンの硬板が張り巡らされ、三層目は内部の床に相当するので固すぎず柔らかすぎない様に加工したものを使った。

 特に二層目が衝撃緩和作用が強いのだが、一層目と三層目にもその効果はついているので、下手なサスペンションを使うよりもずっと揺れを抑える事が出来るとの事。

 そして外装は硬質化した耐熱、耐寒、耐衝撃性に優れるように加工したゲシュマグミン合金。

 ちょっとやそっとの魔法や打撃ではビクともしない程の耐久力を備えているので、空を飛ぶ魔物に攻撃されても大抵は何とかなる様に設計されている。


 そんな風に、どこの国の王様の乗り物だと勘違いされても仕方ないほどの華麗さと堅牢さを兼ね備えた最高の空駕籠と言えるだろう。


 そうしてジャンヌの写真を撮り、皆で集合写真まで撮り終った竜郎達は、最後に『ダンジョン攻略&空駕籠完成おめでとう』の祝いとして、宴会さながらの豪華な食事を竜郎と愛衣も手伝って用意した。



「「「「「かんぱーい!」」」」」「ピィイーー」「ヒヒーーーン!」



 そんなこんなで長く居座ってしまったこの地とも、別れの時が近づいてきたのであった。

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