第251話 鬼畜の素材回収祭り
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レベル:96
スキル:《超自己再生》《超鱗生成》《竜力変換・水》
《竜水歩 Lv.5》《竜飛翔 Lv.0》《かみつく Lv.1》
《ひっかく Lv.0》《竜力超収束砲 Lv.0》
《竜燐旋風 Lv.0》《重燐装甲 Lv.0》《炎熱爪 Lv.0》
《炎熱竜爪襲撃 Lv.0》《竜骨棘 Lv.0》
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(後は水歩だけだ!)
ここへ挑みに来る前。
竜郎はリアに前の魔竜戦の事を話したので、竜がスキルを直ぐ覚えてしまう存在であり、うちの子たちだけが特別素晴らしい才能を持っているから、というわけではないと知っていた。
薄々感づいていたが、それがはっきりしている今、出来るだけ覚え直させないようにしておきたかった。
その為、使えるスキルがあったのなら、それを集中して使ってくれるだろうと、囮用に《かみつく》は1レベルだけ残しておく。
そして水歩は取ってしまえば沈んでしまうだろうから、最後まで残していたのだ。
(よしっ。終わった! 後は──)
竜郎は口の中に出来上がった黒球を一気に飲み込んで、自分の糧にできたことを感覚で理解しつつ一度竜から離れる。
そして小さく爆発魔法で音を鳴らして、吸出しが終わった事を全員に伝えた。
その瞬間。全員が沈み始めた竜に向かって動き始めたのを確認してから、竜郎はシステムを立ち上げた。
「どうしたの?」
「せっかく大量にSPが手に入ったからな。
さっそく重力魔法を取るんだ」
「重力魔法! 名前だけで何か強そー! 早く見して見して」
システムを弄る竜郎の胸にグリグリ押し付けてくる愛衣の頭にキスをしながら、《重力魔法》を選択してSP(500)を支払う。
そして残りSP(484)にして、新たな魔法。重力魔法を手に入れた。
《エレメンタルマスター より 大賢者 にクラスチェンジしました。》
《スキル 魔法域超越 を取得しました。》
《称号『創造主・破』を取得しました。》
ここまで来ると、クラスチェンジするかもしれないと予想はしていた。
なのでそこまで驚くことはなかったのだが、取得スキルは気になった。
けれど沈みながら、もがいている竜を放っておけば、直ぐに水歩を習得し直してしまうだろう。
なので、こちらを優先することにした。
「また新しいクラスになったんだが、それは後で話そう」
「はーい。んじゃあ、まずはあれを岸に乗せないとね」
「ああ。ということで、さっそく重力魔法のお披露目だ」
「よっ。待ってました!」
落語の合いの手のように言葉を挟んできた愛衣に微笑みながら、竜郎はアイテムボックスからマガジンを取り出して、ライフル杖についているものと交換した。
そしてレバーは12に回したままなので、そのまま、また引き金を一度引いた。
するとやや弱くなってきていた青い光に元気が戻り、また三十分フル稼働する事が出来るようになった。
そうして準備を整えてから、重力魔法のスキルを意識して使っていく。
ヘルプから得た情報を頼りに、こんな魔法だろうとシミュレーションはしてきたおかげか、使うだけなら割とすぐに出来そうだった。
「────ふ」
竜郎は集中しながら、巨大な魔物全体に呪と重力の混合魔法の魔力を浴びせていく。
やはり竜。かなり高い魔法抵抗値をもっていたようだ。
愛衣との称号効果が100パーセント出せている状態なので、普通なら一瞬でかかりそうなものを数秒耐えて見せた。
「キイィイィイィイィルオゥーー」
「凄い。あんなでっかいのが──風船みたいに浮いてるよっ!」
「──だけど要求される魔力がアホみたいに多いな。
称号効果が無いと連発は難しそうだ──ぞっと!」
軽量化の魔法を行使して重さを無くし、風魔法で軽く巻き上げれば思うがままに空飛ぶ竜の出来上がりだ。
だがこのまま魔法を維持し続けるのは大変なので、さっさと海岸まで突風で吹き飛ばす。
「キィィィィッ────」
「──はあ!」
「ギュッ──」
砂浜の上まで吹き飛んでいったところで、竜郎は重さを一気に増やして地面に叩き落とした。
「さて。お楽しみの素材回収タイムだ!」
「おー!」
素材回収の合図の鐘の音ならぬ破裂音を爆発魔法で打ち鳴らし、全員が意図を察して砂浜にめり込んだ竜めがけて飛んでいく。
そして竜郎は前に立っている愛衣をギュッと抱きしめて自分、愛衣、ボードに呪と重力の混合魔法で軽量化し、一気に飛んでいく。
「あはははっ! はやーーーい!」
『舌かむなよ』
『噛まないよー』
そして一番遠くにいたはずの竜郎達がカルディナに次いで二番乗りを果たし、やや遅れてジャンヌ達も到着した。
「相手にスキルの習得をさせないためにも、足を重点的に切り取ってくれ!」
そういいながら愛衣を降ろした竜郎は、砂浜からようやく脱出した竜の片側の足に向けて極細のレーザーカッターを放出しながら切り取っていく。
「足だね! じゃあ、私は竜郎とは逆の右側のを切り取るよ」
「頼む。それからジャンヌはリアに魔石の位置を聞いて、それを壊さないように体をハルバートでぶった切ってくれ」
「ヒヒーーン!」
「アテナは頭の方に向かって、脳を破壊しないように気を付けながら、顎を切り取ったり、収束砲を使うような素振りを見せたら速攻でやめさせてくれ!」
「了解っす~」
「カルディナは竜飛翔を覚え直させないように、ひたすら翼を切り飛ばしてくれ!」
「ピュユイィー!」
「奈々とリアは俺と愛衣の援護を頼む!」
「了解ですの!」「はいっ!」
全員に支持を出し終えた竜郎は再び重力魔法で自分の体重を軽くして、風魔法でアテナと愛衣が向かっている前の方に向かっていく。
そして頭付近にまで一瞬でやってくると、ライフル杖から超高温の巨大な光と火魔法で剣を造り出し、それを伸ばして左側の足を次々に切り落としていく。
またその反対側から追いかけてくるように、奈々が一本一本丁寧に足を切り取っていた。
切り取ったはしからタケノコのように伸びてくるので、なかなか大変だ。
けれど竜郎の《無限アイテムフィールド》には、次々と竜の素材が溜めこまれていった。
愛衣は宝石剣で足伐採にいそしんでいたのだが、今一切りにくいと思った。
宝石剣は獅子の気獣に借りた爪を束ねて強力な一本の剣にしているのだが、それでも片側の竜郎の魔法ほど切れ味が良くない気がしたのだ。
それは確かに事実ではあるのだが、別に竜郎の魔法の切れ味に劣っているわけではない。
単にこの魔物が、魔法抵抗値よりも耐久力の方が高いというだけであった。
けれど愛衣はそんなことを知らないので、これはいかんなと頭を巡らせる。
(んー。これよりもっと気力を注いでみる?
……でもただ気力の量を増やしただけで、これ以上の切れ味を出すのは難しそうだなぁ)
気獣技の操作にもだいぶ慣れてきたが、それでもここからさらに追加で気力を増やして切れ味が増すように成形するのは、愛衣自身の技術力が必要になってくる。
けれど愛衣はガサツとまでは言わないが大雑把。
細かい作業は出来るだけ避けてきた女の子。
そんな彼女に精密な操作を要求して出来るかと言われれば、自分でも疑問だった。
そこでその案は却下して、別の方法を思案していく。
(一発多貫で手数を増やす?
……それだと切れる場所が二か所に増えるだけだし………………ん?)
一発多貫とは攻撃を増やすスキルである。それは解っていたが、本当にそれしかできないのだろうか。そんな疑問に愛衣は捕らわれた。
(一発多貫。一発って言ってるくらいなんだから、その一発に何重にも攻撃を重ねたりはできないのかな?)
さっそくやってみようと、愛衣は一発多貫のスキルを発動させる。
すると剣がぶれるようにして、本物の横にもう一本現れた。
そこで愛衣は、そのもう一本が本物と重なり合うように意識してみた。
すると段々とお互いが近寄っていき、最終的にくっついて一本の剣に戻った。
けれどそれは、ただ元に戻ったわけではない。
その刀身には先の二倍の威力を内包しているのを、愛衣は感じ取った。
「これならっ! ──でやあ!」
まるで豆腐を切るような滑らかな感触で、足を切り落とす事が出来た。
「こりゃ凄いや!」
そうして愛衣は俊足を生かして、足を再生する度に次々と切り落としていった。
カルディナは竜の背中側を舞いながら、翼を刃と変えて真・竜翼刃を纏った状態で敵の八枚ある翼を切り取っていく。
真・竜翼刃は翼を構成する一本一本の羽、全てに竜翼刃を行使することで使える上位スキルだ。
けれど翼を刃に変えてしまったら、羽がなくなり一枚の翼と化してしまう。
なのでカルディナは、この状態では真・竜翼刃は使えないのだろうと考えていた。
けれどその刃はカルディナの翼を形態変化したもので、よくそれを見てみれば小さなプレートが密集して網目のように繋がって構築されていた。
だからそのプレートの一枚一枚に竜翼刃が使えないかとやってみたところ、問題なくできた。
つまりは羽がプレートであり、翼が刃に変わっただけだったと言うわけである。
だが翼を刃と化すことで切れ味はさらに増し、カルディナは猛烈な勢いで草刈りでもするかの如く切り取っていった。
ジャンヌはリアに魔石の場所を教えて貰ったので、そこだけは壊さないように波動を使ったハルバートで何重にも重なっていた鱗が落ちて、一回り細くなった竜にぶち当てて体を大きくぶつ切りにしていく。
そうして出た魔石のない方の体は《アイテムボックス》に収納できるようになるので、入れては直ぐに竜郎に送っていった。
奈々は魔法と獣術を切り替えながら、愛衣達ほどではないにしろ的確に足を落としていき、リアも手榴弾とハンマーで千切っていく。
そして最後に頭を任されたアテナは、《かみつく》を出される前に気獣技を使った大鎌で下あご、上あごと順に切り落とし、収束砲を使おうとするそぶりを見せたら頭に雷撃をお見舞いして阻止する。
そして二個しかない貴重な素材。目玉も沢山あったら竜郎や愛衣が喜んでくれるかもしれないと、余裕がある時に、そちらも鎌で抉って取り出していく。
そんな散々な目に合って、もはやボスではなく。
素材を生み出してくれる何かくらいにしか扱われなくなった竜は、泣き叫ぶことも許されないままに体を切り取られていく。
スキルを使えないことに疑問を持っていたが、今はそれよりも何よりも、この状況を抜け出す方が優先だ。
──と、そんな風に考えているのだが、足も翼も再生しては切り取られてしまうので動けない。
せめて目の前に立っている相手だけでもと、唯一発動する《かみつく》を使って応戦しているのだが……。
口を開けたそばから顎を斬り落とされ攻撃できない。
真面にできるのは、《超自己再生》で死なないように体を回復させる事だけ。
けれど、その回復する力はどこからきているのか?
さすがに無から体を作ってはくれない。体を回復するのには、その傷の量に対して必要なだけの竜力を要求させられているのだ。
水に触れていれば、いくらでもそれは回復できるので問題なかったのだが、ここは砂浜の上。
そうなるとどうなるか。
やがて竜力は枯渇していき《超自己再生》もできなくなり、そのまま死んでしまうだろう。
その事に恐怖を覚えた魔物は、こんな死に方は嫌だと本能のままに海を目指そうとする。
足が使えないのなら、体を芋虫の様にして這ってでも行けばいい。
そんな風に体を無理やり動かしても、途中で体を千切られて砂浜に引っ張り上げられ、たどり着けなかった。
そんな足掻きを見ていた竜郎は悪いとは思いつつも、上位の竜の素材を大量に取得するチャンスなんて、そうそうないのだ。
可哀そうだが、このまま死んで貰うのが竜郎にとって、ひいては竜郎達にとって都合がいい。
「そろそろか」
精霊眼で内包している竜力の色を覗きみると、ほとんど消えかかっていた。
そしてそのまま終わるのかと見守っていると、残った竜力が点々になって体の表面にいくつも集まり始めた。
「────皆! 離れろ! 竜骨棘だ!」
「「「「「「──っ」」」」」」
竜郎は竜から離れながら叫ぶと、直ぐにその声を聴いた全員が後ろにさがった。
すると以前見た《竜骨棘 Lv.7》とは比べ物にもならない弱弱しさで、骨の棘が体中から飛び出してきた。
けれどそれは誰にも掠ることなく、無駄に竜力を消費しただけに終わった。
もう竜は傷を回復するだけの竜力も持ち合わせていない。
けれど放っておけば、自然に竜力も回復してしまう。
「もう素材は十分取れたしな」
また回復を待って、この苦しみを、この竜に与える事もできるにはできる。
しかし《無限アイテムフィールド》内には大量の素材があり、これ以上あっても持て余すだけだろうと、竜郎は全員を竜の首元に集結させた。
竜は竜力が自然回復するのを待ちながら、弱った息を吐いていた。
「じゃあ、俺とカルディナ達は魔弾で混合魔法。
愛衣とリアは、それに合わせて一斉に首に向かって攻撃してくれ。
それで経験値も称号も全員に行き渡るはずだ」
その言葉のままに全員が行動し、竜郎、カルディナ、ジャンヌ、奈々、アテナはそれぞれの得意属性を込めた魔弾を。
愛衣は剣を構え、リアはロケットランチャーを構えた。
「それじゃあ、いくぞ。
五秒前。4、3、2──1。発射!」
「「「「「「──!」」」」」」
愛衣は本能で、リアは《万象解識眼》で完璧にタイミングを読み取って、全く同時に竜の首に向けて攻撃が飛んで行った。
そしてそれは竜の首の皮を吹き飛ばし、頸椎を砕き向こう側へと突き抜け頭部を切断し、そのすぐ後に全員にレベルアップのアナウンスが流れたのであった。
次回、第252話は6月7日(水)更新です。




