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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五章 呪われた少女編

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第250話 それぞれの役割を

 嫌がらせし隊。遊撃隊。イーター当て隊。

 そんな三チームに分かれて行動し始めた竜郎達。

 竜の魔物からしたら今までは一か所に纏まってくれていた為、どこに攻撃をすればいいのか碌に考える必要もなかった。

 だが分散されてしまった結果。どこを優先して攻撃すればいいのか迷いながら、長い体をフラフラ動かして方々に視線を送り始めた。


 そんな中、ジャンヌとその背に乗ったリアとアテナがそれぞれ遠くから攻撃をしつつ近づいてきた。

 なのでまずは、そちらから優先しようと魔物はジャンヌ達の方角に顔を固定した。


 遊撃隊が視線を集めてくれている間に、竜郎と愛衣はお互いくっついてボードに乗って空に浮かぶ。

 カルディナと奈々も竜飛翔で飛んで、ちょうど魔物を二等辺三角形に取り囲むように動き始めた。

 他のメンバーも気になっている様子ではあるが、それでもやはり近い敵が一番の警戒対象であり、自分の防御に絶対の自信を持っているからこそ残りは放置した竜。


 そこで二人を乗せたジャンヌが出来るだけ派手に動いて視線を集めてくれている間に、死角に回り込んだカルディナと奈々が、魔弾と生の混合魔法を最大出力で造り上げ撃ち放った。

 その弾丸を、全長七十メートルもある巨体に当てるのは簡単だった。

 特に集中して狙ったわけでもないのに、半分よりも尾の先端にやや近い方に着弾した。

 その瞬間。竜の動きがピタリと止まった。



「──キィィッ!?」



 ガラスを引っ掻いたような耳障りな声を短く上げて、人で例えるのなら体の表面にミミズが這うような不快感を覚えた場所を、しきりに振り返って確認していた。

 けれど何もない事を悟った竜は不思議そうな顔で顔をひねって、弱い攻撃を放って挑発してきたジャンヌたちに顔を向けた。

 けれどまた、今度は体のあちこちにその悪寒が走り出した。

 それにはさすがに気持ち悪くなった竜は、その根源を必死の形相で探し始めた。

 そうして注意力が散漫になったところで、今度はジャンヌたちが強めの攻撃を同時に放ってみた。



「キイュゥルルルルーーーーーーーーー!」



 うるさい! とばかりに《竜燐旋風》を使って攻撃を防ぐと、ようやく空を移動する二体の敵を補足した。

 竜はカルディナ達に向かって《竜力超収束砲》を放つため、溜め動作に入った。

 その間にジャンヌは一気に肉薄すると、巨大で長いハルバートを構えて《竜燐旋風》の外から、波動を使った一撃を横っ面にお見舞いした。

 旋風に舞う鱗は波動を纏ったハルバートに消し飛ばされて、ほとんど威力を失うことなく殴る事が出来た。

 けれど斧の切っ先が当たったにも関わらず、文字通り殴っただけの状態にされるほど鱗の層は分厚かった。

 だが顔を殴られた衝撃で、ほぼノーダメージではあったが収束したエネルギーは霧散してしまった。


 それには自分のペースを守ってきた竜も、怒りのゲージが上がってきた。

 けれどそれでもまだ冷静な部分が残っており、暴れる事なく、さっさと上空に逃げて行ったジャンヌを睨んだ。

 しかしそれを馬鹿にするかのように、生魔法の魔弾がまた降り注ぎ始めた。



「キイイイイイイイィィュューーーー!」



 明らかにイラッときている様子を出してくれたことに、カルディナと奈々はほくそ笑んでそれを見つめた。

 竜は自分はおちょくられているのだと感じ取り、歯ぎしりをしながらも自分を抑えて《竜燐旋風》を行使した。


 この竜は、こう考えたのだ。

 ジャンヌの一撃は《竜燐旋風》では止められないから、あっちに集中したい。

 けれどカルディナの攻撃は不快なだけで威力はない。

 なら常に《竜燐旋風》を展開していれば、あの弾丸だけなら防げるはずだと。

 だからこそ竜は旋風が収まりそうになるタイミングを気にしながら、カルディナは忘れることにした。

 竜は少し溜飲が下がった所でジャンヌを見つめながら尻尾の先、十メートルだけは海水に付けた状態を保ちながら空へと登って行った。

 そして《炎熱竜爪襲撃》と《炎熱爪》での《ひっかく》をお見舞いするべく、ジャンヌたちを追いかけ始めた。



「カルディナおねーさま。あれでは魔弾が遮られてしまいますの」

「ピィーー」

「え?」



 常に《竜燐旋風》を纏うようになってしまった竜に対し、焦った声を出した奈々であったが、それにカルディナは大丈夫だと伝えた。

 どこが大丈夫なのかと思いながらも、生の魔力を生成して魔弾に混ぜていく。

 そしてカルディナは魔弾の生成を行いながら、探査魔法の魔力を飛ばして吹きすさぶ鱗の嵐を解析していく。

 鱗の位置は再生しても全く変わらない。そして旋風の威力も常に一定。

 同じ位置からはじけ飛んで、同じ威力の風で機械的に行われるそのスキル。

 それは風も何もないこの空間では、ある一定のパターンしか取られていなかった。

 それを予測し確認し終えたカルディナは、鱗が何枚も舞う中で同じパターンで生まれる小さな隙間を狙い始める。

 意図を察した奈々は、黙ってそれを見守った。

 そうしてあらゆるタイミングを見切ったカルディナは、奈々をつかんで飛び始める。

 そして空中で舞いながら、探査魔法で確認して完璧なタイミングで生魔弾を次々と打ち込んでいく。

 その生魔弾全てが一瞬生まれる隙間を通って潜り抜け、竜の体のあちこちに着弾した。



「──キィィッ!? ──キィィッ!?」



 それは魔力で構成された頭脳を持つカルディナだからできたこと。

 普通の人間がやろうと思えば、途中で思考が追いつかずに断念していただろう。

 それほど難易度の高い技術を使わなければ、当てられないのだ。

 だからこそ。

 もう二度と味わう事はないと思っていた怖気を体中で感じたことに衝撃を受け、見えているのに《竜燐旋風》が切れたのかと、またはどこかに穴でも開いているのかとグルグル横に回転してあちこちを確認し始めた。

 しかしその間にも容赦のない嫌がらせ弾を何度も浴びせられ、そちらに意識が向けばジャンヌに殴られる。

 ジャンヌに意識を向けば、怖気に体を震わせている間に逃げ去られてしまう。


 そんな事を何度も何度も何度も何度も繰り返し、執拗に、執念深く行われた結果。



「キ゛ュ゛ュ゛ル゛ル゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛オ゛ル゛ル゛ゥ゛ーーーー!」



 遂に竜の尊厳も捨て去って怒り狂い、カルディナ達とジャンヌ達に完全に夢中になったのだった。



「おー。魔物の割に結構時間がかかったな」

「そんじゃあ。私たちの事は忘れてくれたみたいだし、そろそろ行く準備をしよっか」

「そうだな。それじゃあ、これを持っててくれ」

「はーい」



 今竜郎が何処にいるかと言えば、竜やカルディナ達から少し離れた後方。

 その場所に氷で造った板を浮かべて、水迷彩の羽衣を纏って寝そべっていた。

 それは遠目からでは、解らないくらいに巧妙に隠れられていた。

 さらに氷の上に直に寝そべっているというのに、二人は称号効果のおかげで直ぐに適応し、凍傷どころか冷たさすら心地よく感じながら観察していたのだ。


 竜は気配を何となく察してはいたようだが、今度はカルディナやジャンヌ達のおかげで意識が完全に切れた。

 なのでまずは、竜郎が火魔法を海面に使って水蒸気を発生させる。

 そして同時に樹魔法で生み出した樹に火をつけて煙をたいて、風を操って水蒸気に混ぜていく。

 それから氷魔法で一気に水蒸気の温度を下げて雲を造り上げると、それを次々と上空に上げていく。


 ここは雲一つない場所だったはずなのに、今や竜郎のおかげでそこらじゅうに浮かんでいた。

 けれど怒りに我を忘れてカルディナ達と追いかけっこしている呑気な竜は、雲がある事に目がいっても、それが何だとまるで気にしていない。



「しめしめ。うまくっていってるね」

「しめしめって、生で聞いたの初めてだな。

 ──ん。このくらいでいいか。

 それじゃあ、愛衣。これを巻きつけるぞ」

「ほいほい」



 次に取り出したるは雲迷彩のファー。一つしかないが、長さはそこそこあるので二人で仲良く巻きあった。

 そして氷の上でボードを足に固定すると、水迷彩の羽衣はしまって雲迷彩を起動した。

 すると竜郎と愛衣。そしてその装備品扱いのボードも雲の迷彩を纏う。

 それから風魔法で真下からの風を起こして、二人は空へと舞いあがった。

 注意深く見ていれば、沢山浮かんでいる雲の中でも一際妙な動きをする雲である。

 直ぐに何かとばれてしまいそうなものだが、今や竜郎達の事をすっかりと忘れた竜は気づく様子はまるでない。

 なのでガシガシ水を二十本足で走ったり、空を飛んでむやみに攻撃を放ったりと大忙しな竜にゆっくりと近づいていく。



『それにしても、カルディナちゃんとジャンヌちゃん。

 煽るの上手いねえ』

『絶妙に竜がイラッとするタイミングで攻撃を当ててるしなぁ。

 チクチクあんなのされたら、人間でも怒りそうだ』



 それに加えて攻撃を当てた後もわざと鳴いたり、余計な決めポーズまで入れ始めているカルディナ達に竜郎は苦笑いした。

 そんな事を思いながらも《竜燐旋風》に巻き込まれないように、それが止むのを待って水につけている尾の先端の方に接近していく。

 その長い体が竜には災いし、竜郎たちには幸いし、頭の方をカルディナ達が引き付けてくれている間に意識のいかない尻尾の方は簡単に近寄れた。

 そうしてとっとと《レベルイーター》を当ててしまおうと、ボードを横付けして黒球を吹き出そうとした。

 けれどその時に限って全身から骨の棘を出してきて、体全体を蠕動ぜんどうさせた。



「──っ!?」「──っぶな」



 あわや骨の棘が竜郎に刺さりそうになったところを、竜郎に抱かれるように前に立っていた愛衣が空中飛びをして中空を蹴って離脱しつつ、盾術の受け流しを素手で使って回避した。



『気づかれたか?』

『──んーん。大丈夫っぽい』



 ちなみに。意図しないところで出てきて存在がバレるのも嫌だったのと、愛衣が近くにいるのもあって、スライム型の魔道具セコム君の自動防御は、竜郎の意志で切っていたので発動しなかった。


 けれど愛衣が骨に触ってしまったので、尾の方に何かいるか感づかれたかと、しばらく遠巻きに観察してみた。

 けれど竜郎達の動向を探査魔法で察したカルディナが、慌てて意識をそらしてくれたのもあってか、魔物は気にした様子を見せていない。

 それに安堵した竜郎と愛衣は骨が引っ込むのを待ち、再び使った《竜燐旋風》が止むのも待ち──と。

 それから十分ほどの観察をしてようやく、また隙が生まれる。


 竜郎達は竜がジャンヌに炎熱竜爪襲撃を放っている間に、一気に近づき黒球を当てることに成功した。

 吹き出す準備をしていた為に、開けっ放しで痛くなってきた顎に手を置きながら、《レベルイーター》が安定して使用できるギリギリまで下がって吸い出しに取り掛かる。



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 レベル:96


 スキル:《超自己再生》《超鱗生成》《竜力変換・水》

   《竜水歩 Lv.5》《竜飛翔 Lv.5》《かみつく Lv.6》

   《ひっかく Lv.10》《竜力超収束砲 Lv.15》

   《竜燐旋風 Lv.12》《重燐装甲 Lv.12》《炎熱爪 Lv.11》

   《炎熱竜爪襲撃 Lv.7》《竜骨棘 Lv.7》

 --------------------------------



 (レベルだけ見れば前に戦った元ボスの方が上だが、こいつは竜だからな。

 ただの96とはわけが違うだろう。

 それにしてもさすがというべきか、軒並みスキルレベルが高い。

 十以上が5つとか、今まで身内以外で見たことないぞ……)



 まずは今、竜郎達がいる場所で発動されては困るスキル。

 《竜燐旋風》と《竜骨棘》を優先的に吸い出していた。

 けれどその途中。《竜燐旋風》をレベル6まで下げたあたりで、そのスキルを発動してきた。

 けれど今は《レベルイーター》を使っているので、離れるわけにはいかない。

 なので愛衣は盾術の気獣技で亀の甲羅を造り出すと、自分たちをすっぽりと覆ってガードした。

 レベルが下がった事で旋風の勢いが弱くなっており、簡単にガードは可能だった。

 しかしこちらの居場所は確実にバレてしまった。



「キ゛ロ゛ロ゛ロュ゛ュ゛ル゛ロ゛ロ゛ロ゛ル゛ロ゛オ゛ル゛ル゛ゥ゛ーーーー!」



 そこで何をしている! とでも言わんばかりに、緑色の気力の甲羅に守られている竜郎達に向かって、未だLv.15の《竜力超収束砲》を放とうとしてきた。



『タイミングは覚えてる。後は躱すだけだが。

 この距離を保ったまま動くことは可能か?』

『出来るよ!』

『じゃあ頼む! ──3、2、1──来る!』

「──とうっとうっとう!」



 収束砲が放出される一瞬の間に、愛衣は空中を蹴って空飛ぶボードを滑らせながら、竜の野太い体を沿うようにしてグルリと向こう側に回り込もうとした。

 けれどそれに気が付いた竜は、全身から骨の棘を出して刺し殺そうとする。

 ──しかし。



「キュィロロルゥ──?」



 いつもなら直ぐにでも発動していたスキルが、まったく発動しなくなっていた。

 ならば《竜燐旋風》だと、そちらのスキル発動を行使してみる。



「──キィィッ!?」



 しかしそちらも、もう発動しなくなっていた。

 そのことに呆然としている間に、竜郎は《重燐装甲 Lv.12》に手を付けていく。

 そちらに着手していると、竜の体を何重にも覆っていた鱗がボロボロと海面に落ち始めた。



『OH! MOTTAINAI!

 愛衣、《アイテムボックス》に出来るだけ回収してくれ!』

『もー。貧乏性だなあ』

『はやくー! 沈んじゃうからー!』

『はいはい。解りましたよー』



 と言いつつ。これが誰かの身を守る防具に、敵を倒す武器になるかもしれないのだ。

 愛衣は竜郎が集中して《レベルイーター》が出来るように、《アイテムボックス》に回収していく。


 そんな呑気な竜郎達であるが、自分の体に起きた異変に何が何だか解らない竜は混乱し始める。

 もはや怒りはどこかにすっ飛んで行き、剥がれ落ちる鱗を驚愕の色に染めた目で見つめて、動きが止まってしまう。



『今のうちに全部取っちゃえー!』

『任せとけ!』



 そうして竜郎は、一気に残りのスキルも取るべく《レベルイーター》に集中していくのであった。

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