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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五章 呪われた少女編

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第249話 ボス狩り開始

 この日は愛衣の目覚めも良く、リアとも合流して朝食を取り、30分ほどお茶を飲んで静かに過ごした。

 そして今、竜郎達は巨大な扉の前にフル装備状態で立っていた。



「じゃあ、出発だ。ジャンヌ、先鋒を頼めるか?」

「ヒヒーーーン!」



 既に《真体化》して直ぐにでも全力戦闘が出来る状態で、ジャンヌは一番前に立つと、その扉を両の手でゆっくりと押し開いていく。

 そこへと入っていくジャンヌの後ろに続くように竜郎達も入っていき、最後に殿を務めていたアテナも入っていた。


 そうして出てきた場所は広大な砂浜と、どこまでも続く夕暮れ時の赤い空、赤い海。

 それ以外は砂浜には貝殻一つ落ちていないし、空にも雲一つないし、海にも漂流物一つなかった。

 そんな美しい光景ながらも、どこか人工的な造られた空間であると思わせる場所に、全員が油断なく視線を巡らせる。


 すると真正面の夕暮れに染まる海の上。

 そこに五十メートルはあろう巨大な黒い渦が出現した。



「いよいよ登場だな。全員準備はいいな」



 竜郎はライフル杖を横に構え、魔法の準備をしながら問いかける。



「ばっちりだよ」「ピィー」「ヒヒーーン」



 愛衣はロケドラぱん。カルディナは真・竜翼刃魔弾。ジャンヌは竜聖剣を、それぞれ、いつでも打ち出せるように構える。



「万端ですの!」「いつでも行けます」「勿論っす~」



 奈々は竜毒呪氷爪襲撃を爪に宿す。リアは遠見メガネをかけて、《万象解識眼》を直ぐにでも発動出来るよう準備を。アテナは大鎌を振りかぶり、燦然輝雷を使った雷風と竜力の斬撃を構えた。


 そんな万全の状態で待つ中で形作り始めた魔物。

 やがて大きな翼をはためかせ、水の内に佇んだ。


 それは聞いていた通り竜だった。形は東洋の龍に近いだろうか。

 細長く胴回りはかなり太い蛇の様な体に、やたらと堅そうな青い鱗を持った全長七十メートルはありそうな巨体を持つ。

 背中には横長で硬質な質感を持った翼を等間隔に八枚持っており、それらをばらばらに動かし、その時生じた風が海面に波を立てていた。

 それから足。

 これはムカデ──ほどではないが、それに近い生え方で長い胴から、こちらも鱗を纏った野太い物が片側十本づつの計二十の足を持っていた。

 その足先には真っ赤な鋭い爪が三本づつ生えており、そこから熱を発しているのか、常に海に触れている部分からは蒸気を発していた。

 そして顔はと言えば、何かに例えるというのならトリケラトプスに近いだろうか。

 首の後ろを守るかのように堅そうな頭蓋骨の鎧が伸びており、額の辺りからは鋭く尖った真っ直ぐな角が二本。

 しかしその口元には草食動物ではありえない、肉を切り裂くナイフのような牙が何本も見て取れた。



「キュイィィーロロロロロゥーーー」



 鳴き声はその巨大で危険な見た目に反して、鳥の様な透き通った高音で美しい音色を奏でていた。

 しかしそれから放たれる圧力は、二百メートルほど先にいるにもかかわらず伝わってくるほど。

 正に竜の中でも上位に位置するランクの存在だと知らしめてきた。


 けれどそれに臆することなく冷静に、竜郎達全員が一斉に動き始めた。

 竜郎は杖の演算によって容易くできるようになった、超圧縮された極細高出力レーザーをライフル杖の先端から、左側面部の一番手前の足に向かって射出した。

 愛衣達もそれぞれ溜めこんでいた攻撃を一斉に開放して、魔物から先手を貰うことにした。

 一秒もしない間に、竜郎の糸の様に細いレーザーが左足に当たった。

 そしてレーザーを射出したまま下にライフル杖を振り下ろして、カッターの様にして切り落とそうとした。



「──かたいっ」



 竜郎が思わずそう口に出すほど守りは固く、切り落とすどころか鱗に傷ができただけで、反応からして中の肉にまで届いてはいない。

 そしてその傷ついた鱗はボトボト落ちていき、新しい鱗へと換装されてしまった。

 さらにその頃になれば愛衣たちの攻撃も遅れてやってくる。



「キュュルルロロロロオルルゥィーーーー」

「「「「「「「──!?」」」」」」」



 しかしそれが当たる前に、全身の鱗を周囲に旋風を巻き起こしながら吹き飛ばし、それをシールドの様に展開して防いでいく。

 その為体にたどり着くころには、威力が激減した攻撃ばかりになってしまう。

 なので鱗の表面に軽く傷をつけるのが、やっとだった。



「今のは《竜燐旋風》というスキルです。

 鱗を体から勢いよく弾き飛ばした上で竜巻を起こし、三十秒間ほどの間……ですかね。

 何百枚もの固い鱗を周囲に展開して、防御と攻撃を同時に行うものです。

 そして《重燐装甲》というスキルで、実際の体より一メートルほど鱗の層を生成して何重にも着込んでいます。

 さらに《超自己再生》と《超鱗生成》の二重効果で、一瞬で弾き飛ばしたり傷ついた鱗が再生してしまうようですね。

 この両スキルのせいで、《竜燐旋風》は効果が切れて直ぐに連続使用ができるようになっています」



 リアが早口で伝えてくれる情報を皆で共有していきながら、竜郎は頭の中でそれらを整理していく。



「とりあえず防御は万全って事だね」

「万全すぎるだろっ。

 あんなん《レベルイーター》なかったら、どうやって倒すんだ?」

「あの防御網を抜けて肉体を傷つける威力なんて、そうそう出せないっすからね」



 鱗一枚程度の防御なら問題はそこまでではないが、《竜燐旋風》によって何枚も宙を舞う鱗に攻撃は遮られる。

 そしてそこを抜けても、本体も《重燐装甲》で何重にも着膨れして真面まともにダメージが通らない。

 そんな防衛網を貫ける攻撃があるなら見てみたいと、全員が思った。

 しかし完璧に見える防衛スキル達だが、完璧すぎるが故の弱点もある事をリアは見つけていた。



「いえ。どうやらあの鱗、生魔法が苦手みたいですよ。

 自前の回復力が強すぎて、外側から余分に回復されると過回復になって異常が出ます。

 そうなると、暫くの間その部分が剥げてしまうようです。

 まあ、かなり強力な生魔法が必要ではありますが……」

「それに、どうやってあそこまで行って生魔法を使うんですの?

 って、話にもなりそうですの」

「そこは気合で乗り切れとしか言いようがないですね……。あはは……」

「さすがレベル10のダンジョン。鬼畜難易度を用意して──」

「キイイイイイイイィィュューーーー」


 鬼畜難易度を用意しているな。そんな言葉を竜郎が発そうとした時、探査魔法を使っていなくても気が付く程の莫大なエネルギーが、竜の口元に収束していくのを全員が感じ取った。



「《竜力超収束砲》が来ます!

 威力は凄まじいですが、直線軌道で射出後の軌道修正はできません!

 なのでタイミングを合図しますので、その瞬間に射線上から避難してください!!」

「解った!」

「4、3、2、1──今です!」

「「「「「「「────っ」」」」」」」



 竜郎は愛衣に、リアは奈々に、アテナはカルディナに持たれて、全員が上空へと飛び上がった。

 その瞬間。完璧なタイミングでジャンプしたおかげで、余波にも巻き込まれることなく全員無傷で回避ができた。

 しかし眼下に放たれた竜力のレーザー砲とも言えるその一撃は、ありえないほどの破壊力を秘めていた。

 竜郎達のいた砂浜辺りは掠っただけで、砂粒が消滅して塵すら残すことはなかった。



「あれを防ぐのは無理っぽいな」

「やるなら──」

「キイイイイイイイィィュューーーー」

「二撃目が来ます! …………4、3、2、1──今です!」

「こんな威力を連続でって、どんだけ竜力を蓄えてるのさー!」



 そう愛衣が叫びながら竜郎を抱えた状態で、空中を蹴って今度は真下に急降下した。

 他の面々も問題なく下へと降りて、バカみたいな威力の攻撃をやり過ごす。



「竜力の問題は、《竜力変換・水》というスキルで解決しているようです。

 体に触れている水を体内に取り込んで、それを竜力に変換できるというものですね。

 そしてあの竜の下には、無限に湧き出るダンジョンの海水があります。

 今のままだと実質、竜力は無限大ということになりますね」

「はあ!? そんなの、ずるっ子ですの!

 後はどんなスキルを持っているんですの……?」



 もうないよね?と、そんな願望を込めて奈々が抱きかかえているリアに問いかければ、当たり前のように首を横に振って否定された。



「爪に常時高熱を持たせる《炎熱爪》。その炎熱の爪の斬撃を放つ《炎熱竜爪襲撃》。

 体のいたるところから骨の棘を出す《竜骨棘》。

 水の中や上を移動できる《竜水歩》。

 後はお馴染みの《かみつく》《ひっかく》《竜飛翔》。

 これで全部ですかね」

「……今まで言った中で、レベルのないスキルは解るか?」

「はい。《超自己再生》《超鱗生成》《竜力変換・水》の三つだけです」

「それなら《レベルイーター》さえ使えれば、十分倒せそうだね」

「けど、そこまでの道のりが長そうっすけど」



 今回リアが調べてくれた竜の全スキルを列挙すると。

 《超自己再生》《超鱗生成》《竜力変換・水》《竜水歩》《竜飛翔》。

 《かみつく》《ひっかく》《竜力超収束砲》《竜燐旋風》《重燐装甲》。

 《竜骨棘》《炎熱爪》《炎熱竜爪襲撃》。

 これら13個ものスキルを何とかしつつ、近づいて《レベルイーター》を使わなければならない。

 それは確かに大変そうだと、竜郎も難しい顔をしていた。



「けど、それでも動かなきゃ勝てないか。──と」

「《炎熱竜爪襲撃》が来ます!」



 竜が収束砲は当たらないと学んだのか、今度は芋虫の様に体を後ろにらして後方八本の足で立ち上がり始めた。

 そして前方十二本全ての爪に竜力を込め、体を水面に叩き付けるように戻しながら炎熱の斬撃を計五十四も放ってきた。

 けれどそれは愛衣の気力の盾でも防御可能な威力だったので、全員愛衣の後ろに回って、その全てを受け流しで散らしてもらった。

 散らした先の砂浜を見れば、三本一組の爪痕がそこらじゅうに刻まれ、さらに熱で溶けた部分が未だに赤く光っていた。



「俺が生身で受けたら即死コースだな」

「でもこれくらいなら、私とかジャンヌちゃんなら死にはしないと思う」

「ヒヒーーーン!」

「まあでも、当たらないようにしてくれ。

 あんなのを前にしてこう言うのはオカシイのかもしれないが、怪我はしてほしくないからな」

「でも怪我したら直ぐわたくしか、おとーさまの所に来てほしいですの」

「頼りにしてるよ」



 愛衣の言葉に奈々は嬉しそうに頷いていた。



「けどこれでアイツの手の内は全部見切った。

 そして実際に見て、ヤバそうなスキルの威力も確かめた」

「そうなったら、後は攻めるだけっすね!」

「ああ。けどただ何も考えずに突っ込んでも効率が────悪いからな」



 また飛んできた《炎熱竜爪襲撃》を、愛衣が周辺に受け流す。



「それじゃあどうする?」

「まずは大雑把に三チームに分けようと思う。

 まず、カルディナと奈々の嫌がらせし隊」

「ピィー?」「嫌がらせですの?」



 首を傾げるカルディナ達には手でまあまあとジェスチャーしながら、ほかの振り分けも伝えていく。



「それからジャンヌ、リア、アテナは遊撃隊。

 んで、俺と愛衣はイーター当て隊って所だな。

 まず─」

「収束砲来ます…………4、3、2、1──今!」



 もう慣れたもので、大して慌てることなく全員空に逃げた。

 そんな中、空中なら躱せないとでも思ったのか《炎熱竜爪襲撃》をお見舞いしてきたが、これも華麗に対処していく。

 それに視線を向けつつ、そのまま竜郎は続きを話していく。



「まず。今一番やっておきたいのは、相手のペースを崩したいって事だ。

 あの竜はただ目先の敵に突っ込んでくる様な奴じゃなく、俺達と同じ様にちゃんとコッチを分析しながら攻撃を放っている節がある。

 このままだと俺たちの攻撃は、冷静に対処されてしまう可能性が高い」

「最初の時みたいにだね」

「ああ。だからカルディナと奈々は、魔弾と生魔法の混合で相手の鱗を攻撃してほしい。

 それだと鱗を禿げさせる事はできないだろうが、不快な思いを抱かせることはできるかもしれない。

 その辺どう思う、リア?」

「それは……、はい。

 ちゃんと当たれば効きはしませんが、嫌な感覚は抱くと思います」



 もう一度遠見眼鏡越しに《万象解識眼》を発動させて、そのあたりも確かめてみれば、痛みともまた違う気持ち悪さを与える事が出来そうだと判明し、その事を、そのまま告げた。



「だからカルディナと奈々は協力して、体に生魔法魔弾をあちこちから撃ちまくって怒らせてくれ」

「ピュィー!」「了解ですの!」

「次に──」



 また攻撃を躱して竜郎達は砂浜に着地した。



「次に遊撃隊に指名されたジャンヌたち三人は、嫌がらせし隊とイーター当て隊の俺達を、各自の判断で援護してくれ」

「ヒヒーーン!」「はいっ」「了解っす~!」

「そうやって相手に隙ができた所で、俺と愛衣が接近して《レベルイーター》をって所だな。

 それでも無理そうならアイテムボックスに何かしら送るから、その合図が有ったらみんな砂浜に集合ということで。

 それじゃあ、何か質問は?」



 竜郎が全員を見ても、特に質問は無さそうである。



「それじゃあ。行動開始だ!」

「おーっ」「ピイイィー」「ヒヒーーン」「はいですの」「はいっ」「おっけーっす」



 そうして各員、それぞれ与えられた役割を果たすべく散開していくのであった。

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