第24話 異世界文化はどんなもの?
そうと決まれば、いざ出発! と行きたいところだったが、そうであるならと竜郎は一つ考えていた。
「どうせやるなら、この遺体も持っていってあげないか?」
突然そんなことを話しかけてきた竜郎に、愛衣は目を見開いた。
「どどどどどどうやって────まさか担いで!?」
「いや、違うって。もう死んでしまっているんだから、《アイテムボックス》に入るだろ」
「《アイテムボックス》かあ、……それに入れてくの?」
《アイテムボックス》の中がどうなっているのかは知らないが、その中には二人の私物もほいほいしまってある。
だからこそ、そこに人の死体をしまうことに愛衣は抵抗を感じていた。しかし、もちろんそれは竜郎も同じようで、一先ずの解決案を提示した。
「さすがに直では抵抗があるから、土魔法で棺桶を作って入れてく」
「そう……そうだね。遺族からしたら、ちゃんと遺体があった方がいいよね……」
「そういうことだな」
では早速とばかりに竜郎は愛衣の手をとってブーストし、土魔法を使って地面の表面だけをベルトコンベアのように動かして、エルレンの死体を座った状態から、仰向けにさせる。
手の位置も同様の方法で体の横にそろえると、死体の背中側の土を固く押し固め箱状の入れ物にし、死体が収まった状態にする。それから、別の地面の土を使って蓋を作ると、後は手作業でかぶせていった。
「こんなもんかな、それじゃあ《アイテムボックス》に入れるぞ」
「うん」
竜郎が手をかざすと、光の粒子になって土でできた箱はしまわれていった。そして次に竜郎は、手紙からコインを出した。
「それじゃあ、先に貰っておこう。冒険者ギルドとやらに着くまでに、お金が必要になるかもしれないし、こっちの金銭のやり取りの仕方も学んでおきたい」
「あー、そのコインの使い方がいまいち解んないしね」
「じゃあとりあえず、入金とやらをしてみるか」
「うん、そうだね」
そうして竜郎がコインに指で触れると、また例の表示が出てきた。
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119,324シス を確認しました。 入金いたしますか?
はい / いいえ
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ここで竜郎は、はいを選択した。すると、コインが光の粒子となって消えてしまった。
「あれっ、たつろー消えちゃったよ!」
「いや、大丈夫だ。ちゃんと入金されてる」
そう言ってシステムの起動画面を見れば、ちゃんと金額が表示されていた。
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ステータス
所持金:119,324 シス
パーティ
スキル
マップ
アイテムボックス+2 - 使用率:96%
ヘルプ
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それを確認すると、竜郎はお金の渡し方を調べるために、とりあえず所持金の項目をいじってみると、コイン変換という項目を見つけ実行する。
するといくらか聞かれたので、竜郎は半分の59,662シスをコインに変換した。
その結果、竜郎の手には先ほどと全く同じ色形をしたコインが現れた。なので竜郎は、とりあえず愛衣にも同じことができるか検証することにした。
「愛衣、これを指で触ってくれ」
「わわっ、またコインが出てきた。なんか不思議だねー」
そう言いながら愛衣がコインに触ると、やはりそちらにも入金の確認をとられて、竜郎に言われるままに自分の所に入金した。
そんな風にしてあれこれとお金の使い方を二人で探っていき、最終的にはただ「○○シスをコインに変換したい」と思うだけでいいことが発覚し、二人はまたも超テクノロジーに目を丸くした。
こうして一通りこの世界のお金について理解を深めた二人は、再び町へと足を向けていった。
「このシステムの技術がすごいのは解ってたけど、暮らしてる人の格好は言っちゃなんだけど、昔の外国人みたいな感じだったね」
二人で歩いている途中、愛衣が不意にそんなことを竜郎に言ってきた。
その暮らしている人のサンプルはエルレン一人だが、あの人の手紙の文面から見ても、奇抜なファッションや、コスプレをするようにも思えない。ならあの古い感じの服装こそが、こちらの世界の標準なのだろうという結論にいき着いたのだ。
「そうだなあ、町にこの芋ジャーで行ったらスゲー浮きそうだ」
「エルレンさんの家族に会いに行くなら、せめて制服にでも着替えておく?」
「それも、あっちに行ってからかな。まだどんな街なのかすら定かじゃないんだから──って、あれっ分かれ道じゃないか!」
「どこっ!?」
そう竜郎が指差す先には石畳で作られた道が、右へ向かって延びていっているのがわずかに見えた。
「あれだねっ。早く行こ!」
「いやいや、あれがゴールじゃないからな」
急いで行きたそうな愛衣を窘めつつ、竜郎はマップでちゃんとあっているか念を押して確認する。
すると今の二人の位置と前に見える右折の道の位置を見比べて、間違いないと確信を持った。
「あれで間違いないみたいだ。ようやくまともな道を歩けるな」
「うん!」
代わり映えのしない道を延々歩かされた二人にとって、ようやく目で見て解る結果に嬉しさが込み上げてくる。
「よーし、ちょっとひとっ走りして見てくるね!」
「──あっ、ちょ、まっ、……ったく小学生じゃないんだから」
竜郎は制止も空しく、元気に駆けていく愛衣に呆れた風を装いながらも、その口元は微笑みを湛えていた。
そうして竜郎自身、無意識に早足になっていくのであった。
「ほい、とーちゃくっと、たつろー」
「はいはいっと」
結局駆け足で追いついた竜郎は、肩で息を切らしながら移動に使える魔法がないか考えておこう。そんなことを思いながらたどり着いたその道は、真っ直ぐと町の方へと向かって、石畳が雑多に生えた木々を突っ切るようにして整備されていた。
「ふーん、やっぱり調べてみてもただの石畳だ。科学はあまり発達していないのか?」
「えーじゃあ、電子レンジとか冷蔵庫とかもないのかなあ」
「それでも魔法がある世界なんだ、それに代わる何かがあってもおかしくないさ」
その言葉に愛衣も「なるほど」と、現代文明に代わる何かを頭の中で想像した。
その想像の中では、某猫型のロボット的なアレが出してくれるような不思議道具を思い描いた。
「うん、なかなか便利な世界かもしれないねぇ。それに期待しておくよ。
それにしても、おー歩きやすいねー」
「そうだな。ちゃんと綺麗に使われてるみたいだし。
それにしても、これだけ石畳がずーと真っ直ぐ続いてる道ってのも壮観だな」
その言葉に首を傾げた愛衣が、竜郎の横に立って真っ直ぐ遠くを見つめた。
「ほえー、すっごいねー。これ全部人の手でやったのかな?」
「いや、それこそ何かの魔法でやったんじゃないか?」
「そうだよね。ある意味私たちの世界の機械よりも、汎用性が高そうだし」
「こっちの魔法はイメージだから、条件さえ満たせばフワッとした命令でも実行できるからな。
──っと、見惚れてる場合じゃなかった。日が暮れる前に行くか」
「行くかぁー」
それからの二人の道中は、二度ほどイモムーがモソモソと一匹だけで現れたり、小さな昆虫型の生物が現れて竜郎に燃やされたりなんてことがあった。
だが、今の二人には何の問題もなく、速度優先で歩きながら対処していった。
そんな風に過ごしながら、何時間か歩き続けていると、ほぼ直角な右斜めに延びる分かれ道が見えてきた。
「このまま真っ直ぐでいいんだよね」
「ちょっと待ってくれ…………ああ、そうだ。このまま真っ直ぐで間違いない」
「ほーい」
そんな愛衣の質問にマップで確認してから答えていると、進む方角ではない分かれ道の方から、馬車がガラガラと音を立ててやってくるのが見えた。
「「馬車!?」」
日本暮らしの現代っ子の二人は、今までお目にかかったことも無い存在に声を上げて驚いた。
「うわー、馬車を初めて見たよ。てか、こっちの世界だとアレがまだ現役ってこと?」
「いやぁー、そういう文化として偶偶この地域では残っているという線も……」
「あっ、なんかこっちに手を振ってるよ」
その言葉に竜郎も目を細めて、遠くを見るようにして確認してみた。
「あ、ほんとだ。危ない人じゃなければいいが」
「うーん、とりあえず振り返しとくね」
「ああ、ひとまず友好的に接触しながら警戒。状況に合わせて警戒レベルを上げ下げしよう。
なんか気付いたら念話で報告。それでいいか?」
「了解」
二人して手を振ると、向こうも大きく振り返し、竜郎たちを待つように馬車を止めた。
それが好意からか悪意からなのか、二人は緊張の糸を張りつめながら馬車へと向かっていったのだった。




