第246話 合流
戦いが終わり、その全てを見事打倒した事により、全員を閉じ込めていた扉が自動的に開き始めた。
扉の近くにいたので直ぐ気が付いた竜郎、愛衣、カルディナ、奈々、リア、アテナは、合流するために出てきた。
「おつかれ」「おつかれー」
「ピィー」「はいですの」「おつかれさまです」「ガウガー」
と。竜郎は小虎状態になっていたアテナも気になる所だが、一体まだ出てこないことに疑問を抱いた。
「あれ。ジャンヌは?」
「おーい。ジャンヌちゃーーーん!」
まさか危機を察して帰ってしまった? もしくは──と不安になり、大声でジャンヌが入っていった扉の方に向かって愛衣が叫んだ。
「ヒヒーーン」
しかし扉の向こう側から、ちゃんとジャンヌの声が聞こえてきたことに、この場の全員が胸を撫で下ろした。
けれどそれならば何故来ないのだろうと不思議に思い、みんなで半開きになった扉の方に近づいていく。
「もう終わったんだから、入ってもいいよな?」
〔はーい、いいですよー〕
竜郎が念のためダンジョンに聞いてから開いた扉を潜ると、最初の時の真っ白な部屋が目に入り、次にジャンヌ──ではなく……巨大な蒼いサファイアのような物体が視界にドンと映りこんだ。
その自己主張の強い謎の物体を無視しながらジャンヌを探すと、その影に隠れるようにして《幼体化》状態で横になっているのを見つけた。
「──ジャンヌっ。奈々、急いで生魔法を」
「はいですのっ!」
《幼体化》しているジャンヌの体は、全身罅割れ状態。さらに右肩から下も無ければ、角もなかった。
どんな戦いをしたんだと思いながらも竜郎は全力で魔力を補充し、奈々は生魔法で傷を治していく。
竜郎の魔力をモリモリ蓄えていき、奈々の生魔法で少しずつ欠損箇所も治っていく。
魔力の補充が終われば竜郎も光魔法と生魔法で奈々に協力し、直ぐにジャンヌは元の状態へと復活を遂げた。
「ヒヒーーン♪」
「おっと。無事でよかったよ、ジャンヌ」
完全に復調するや否や、小サイ状態で力強く飛び込んできたのを竜郎が、しっかりと受け止め──る事が出来ずに後ろに倒れそうになる。
けれど直ぐに愛衣に支えられて、バランスを立て直した。
「それにしても、ジャンヌをここまで傷つけるなんて、相当ヤバいのと当たったみたいだな」
「だね。一人でも大丈夫だと思ってたんだけど、無理させちゃったみたいだし……。
ごめんね、ジャンヌちゃん」
「ヒヒン!」
「自分で決めたことだから、気にしないで欲しいそうですの」
「それにアテナも、大分消耗してるみたいだな。
おいで、魔力を補充するから」
「ガァ~」
ジャンヌほどではないが、よく見ればアテナもボロボロだった。
なのでアテナが竜郎に抱っこされながら魔力補給している間に、奈々が生魔法で癒していった。
そうして完全に治った後も、竜郎に甘えるように小虎のまま腕の中で幸せそうに目を細めていた。
それに対抗してジャンヌも、愛衣に抱っこして貰い横に並んだ。
カルディナと奈々は、一人組は凄く大変だったようなので今回は我慢した。
そうして状況が落ち着いた所で、さっきから自己主張の激しい謎の蒼い物体に話題は移っていく。
「それにしても、このサファイアみたいなデカ物は一体……」
「──これはっ。……どうやら、ジャンヌさん専用の武器みたいですよ」
「ヒヒン?」
ジャンヌとしては強制的に意識を失い、目が覚めたら白い部屋。
そんな状況で横に、これが置いてあっただけなので何も解らなかった。
「武器って──これ一個の武器なのか!?」
竜郎も解魔法で全体像を確認してみれば、全長十五メートルはある美しい蒼い宝石で出来た槍に、斧をつけたような形をした武器──つまりは巨大なハルバートだった。
「へー。でもさっきのリアちゃんの言い方だと、大きいからジャンヌちゃん専用って訳でもないんでしょ?」
「はい。試しに愛衣さんが持ってみてください」
「え。私が? ジャンヌちゃん、ちょっと触ってもいーい?」
「ヒヒン!」
勿論!とでも言うように力強く頷いてくれたので、愛衣は優しく抱っこしていたジャンヌを床に下すと、その武器の柄に当たる部分まで歩いていく。
さすがに使うには大きすぎるが、愛衣のステータスなら持ち上げるくらい訳はない。
なので愛衣は、柄に抱きつくようにして持とうとした。
「──あれ。なんか水みたいに手が沈んじゃって持てないよ?」
愛衣が持とうとすると、水に手を入れた時と同じような感触と共に中に腕が入り込んでしまい、そもそも真面に触ることすらできなかった。
「それでは今度は、ジャンヌさんが《真体化》して持ってみてください」
「ヒヒーン」
リアに言われた通りに《真体化》すると、ジャンヌは片手ではキツイと思ったので、両手でぐっと持ち上げた。
《スキル 斧術 Lv.10 を取得しました。》
《スキル 槍術 Lv.10 を取得しました。》
《称号『斧を修めし者』を取得しました。》
《称号『槍を修めし者』を取得しました。》
「ヒヒンッ!?」
普通に固い宝石の様な感覚で握りこめば、しっかりと手にフィットし、見た目ほどの重量もなかった。
だがそれに驚くよりも前に、いきなり斧と槍を修めてしまった事の方が衝撃的だった。
けれどアナウンスが聞こえていたのはジャンヌだけだったので、皆は持てたことに驚いていると思っているようだった。
「ジャンヌだけしか触れないし、持てないのか。
まさに専用だな」
「すごいっす。でもなんでジャン姉には、そんな物がプレゼントされたんすか?」
「アテナは何か貰いませんでしたの?
ジャンヌおねーさまと同じく、一人でやったんですよね?」
「いや~。あたしの場合は無理やり、もぎ取っただけっすからねー。あはは~」
「なんか今もの凄く不穏な言葉が聞こえたけど……」
強化に繋がるのなら問題はないのだが、ジャンヌだけというのは好奇心が湧いてきた。
なので唯一答えを知っているであろうモノに、竜郎は聞いてみることにした。
「そこんとこ、どうなんだ? ダンジョン」
〔あー。それはですねー。
フォーネリウス──ああ、ジャンヌさんが戦った魔物の名前なんですがー。
フォーネリウスは、よっぽどジャンヌさんを気に入ったんだと思いますー。
なので魂どころか体ごと捧げたって事でしょうねー
もてる女は違いますねーまったくー〕
「ってことは。ジャンヌちゃんの魅力にメロメロになった魔物が、死んでも俺と一緒にいてくれ的な?」
〔あー。近いかもしれませんねー。
まさに全身全霊を捧げちゃったみたいですしー〕
「そう聞くと、ちょっとストーカーチックになるからやめてくれ……」
まるで魔物の怨念が籠っているように見えてしまいそうなので、竜郎は愛衣の言葉を頭の隅に追いやった。
〔フォーネリウスは最初に生んだ子ですしー。このダンジョンと最も近しい存在でもありましたー。
なので強化率も一番高くなってしまったしー。その分、自我も強く芽生えたみたいですねー。
正直、気に入ったからってあげすぎじゃね?と怒りたくもなりましたが、最初で最後の我儘ですし見逃すことにしますー〕
「あげすぎっていっても、武器になっただけじゃないのか?」
それならレベル3のダンジョンでも、オオガエルの魔物がカエル君杖に丸ごと変わった事もある。
だから、それよりも強い魔物から強い武器が貰えてもいい気がする。
そんな竜郎たちの疑問に、ダンジョンよりも前にジャンヌが奈々とアテナを通して、スキルが手に入ったことを告げた。
「いきなりレベル10の武術系スキルが二つもか……」
「それは確かに、あげすぎって言われても仕方ないかも」
「うらやましいですの」
「それに魔物を倒した時に得た称号で、特殊能力みたいのを手に入れられるみたいですし、それも合わせれば、まさに破格の収穫だったのかもしれません」
「そういえば、皆も変わった名前の称号を手に入れたのか」
「手に入れたっすよ~。それにレベルの壁を越えたっす~」
どうやらレベルの壁を超えたのはアテナだけじゃないらしく、皆それぞれの戦いの中で成長したらしい。
ということで、せっかくなのでステータスをここで見ていくことにした。
竜郎と愛衣はレベルと称号が加わったくらいなので、こちらは後で軽く触れるくらいでいい。なので、先にカルディナのものを皆で見ていく。
--------------------------------
名前:カルディナ
クラス:刃竜
レベル:56
竜力:1409
筋力:620+20
耐久力:420+30
速力:706+50
魔法力:1196
魔法抵抗力:1231
魔法制御力:1312
◆取得スキル◆
《真体化》《成体化》《幼体化》
《竜飛翔 Lv.12》《竜翼刃 Lv.10》《真・竜翼刃 Lv.3》
《解魔法 Lv.11》《土魔法 Lv.10》《水魔法 Lv.10》
《魔弾》《自動追尾 Lv.3》《竜力回復速度上昇 Lv.8》
◆システムスキル◆
《アイテムボックス+4》
残存スキルポイント:299
◆称号◆
《解を修めし者》《土を修めし者》《水を修めし者》
《すごーい!》《竜飛鳳舞》《竜刃之権化》
《デヴェルリュート》
--------------------------------
「真・竜翼刃! って、なんか響きがかっこいいね!」
「確かに中二心を擽ってくるスキルだ。んで、具体的に何が違うんだ?」
竜郎がそう聞くと、羽の一枚一枚全てを刃として、その全てを結合して一つの刃とする。
そんなスキルだと、奈々とアテナの通訳で教えられた。
「魔弾持ちで自動追尾とかも、結構エグそうっすよね」
「ですね。本来直線軌道の弾丸が曲がって追いかけてくるなんて、敵側だったらゾッとしますよ」
「レベルが付いてるし、高レベルになったら面白いことになりそうだね!」
「ピィー♪」
そうして上から下へと見ていき、やはり気になるのは新たな称号《竜刃之権化》と《デヴェルリュート》だ。
なので順に皆で確かめていく。
--------------------------------------
称号名:竜刃之権化
レアリティ:11
効果:竜力+100、筋力+100。
竜翼刃使用時の竜力消費大減、制御力上昇。
--------------------------------------
--------------------------------------
称号名:デヴェルリュート
レアリティ:ユニーク
効果:体の一部を刃と化して、刃断防御を行使できるようになる。
全ステータス+35。
--------------------------------------
「竜刃之権化ってのは、ジャンヌの竜角槍刃の時に貰った称号と同じ様な効果だから、まあいいとして……。
このデヴェルリュートってやつの、体の一部をなんちゃらとか、刃断防御とか。
こっちは良く解らないな。実際にやってみて貰ってもいいか?」
「ピィー!」
力強くカルディナは頷くと、その力を意識してみる。
するとカルディナの翼が金属の様に平べったくなり、直ぐに鳥の翼というよりも、三角形の飛行機の様な翼に変化。
さらにその周囲は軽く当てただけで指がコロリと落ちてしまいそうなほど、見事な切断面に覆われていた。
「ピィーュユュユィィー」
「何か切ってもいいものを、翼に向かって放ってほしいそうですの」
「切ってもいいものか。んじゃあ、これで──ほっ」
竜郎が土魔法で造ったボールを放物線を描くようにカルディナの翼に落とすと、切るような動作はまるでしていないにも関わらず触れた瞬間、土のボールが縦にスライスされ、五から六個ほどに分割されてしまった。
「要は、斬撃の防御層がその翼に宿せるって事みたいですね。
なので不用意に触れた敵は、それだけで傷を負ってしまうと」
「正に攻撃は最大の防御ってのを、地でいくスキルって訳だね」
「だな。刃竜のクラスにピッタリな能力だ」
「ピユィーー」
ちなみに《成体化》状態でこれをやってしまうと上手く飛べなくなるが、《真体化》状態の竜飛翔でなら多少飛行能力が落ちる程度で済むらしい。
そうしてカルディナのステータスを見終われば、次はジャンヌである。
--------------------------------
名前:ジャンヌ
クラス:聖竜
レベル:50
竜力:1497
筋 力:761
耐久力:992
速 力:648+50
魔法力:746+30
魔法抵抗力:1097
魔法制御力:727+20
◆取得スキル◆
《真体化》《成体化》《幼体化》
《竜聖剣》《竜角槍刃 Lv.12》《竜飛翔 Lv.7》
《風魔法 Lv.11》《樹魔法 Lv.10》《火魔法 Lv.10》
《竜尾閃 Lv.7》《斧術 Lv.10》《槍術 Lv.10》
《魔法生成上昇 Lv.6》《竜力回復速度上昇 Lv.8》
《超硬化外皮》《魔力減退粒子》
◆システムスキル◆
《アイテムボックス+4》
残存スキルポイント:276
◆称号◆
《風を修めし者》《樹を修めし者》《火を修めし者》
《斧を修めし者》《槍を修めし者》《すごーい!》
《竜槍之権化》《フォーネリウス》
--------------------------------
「聖竜……。なんか神々しいクラスだな」
「それに竜聖剣ってどんなスキルなの!? 見して見してっ」
「ヒヒーーン」
愛衣のキラキラした瞳にジャンヌも嬉しそうに立ち上がると、大きな手を前に突き出し、自身も初めて使うそのスキルを発動させた。
するとジャンヌの突き出した手の先に、輝く竜を模した柄と鍔をもつ巨大な光の剣が現れた。
そしてジャンヌが手を振ると、その光の剣は真っすぐ飛んでいき、壁に突き刺さりながら高貴な光と破壊をまき散らして消え去った。
「魔法で造った剣といった感じですかね。
おそらく一時的なら手に持って振る事もできるでしょうが、その場合込めた竜力が尽きれば消滅するスキルのようです。
後は魔法制御力が上がっていけば、今の大きさでも本数を増やしたり出来ますし、小さくすることで、より多くの竜聖剣を生み出せると思います」
「ヒヒーーン。ヒヒーーン」
「調べてくれて、ありがとう。だそうですの」
「いえいえ。どういたしまして」
リアの説明通り、今の段階で巨大な剣は一本が限界だった。
けれど人間が持てるサイズにすれば、数十本の剣をいっぺんに敵に降らすこともでき、中々強力そうなスキルであった。
それから少しお試しすると、やがて称号フォーネリウスに話題は移っていく。
--------------------------------------
称号名:フォーネリウス
レアリティ:ユニーク
効果:体から波動を発生させ、破壊力の上乗せが可能になる。
全ステータス+70。
--------------------------------------
「そうかなと思っていたが、皆がそれぞれ手に入れた称号は、魔物の名前だったんだな」
「みたいだねー。ん……。なんかこっちも凶悪そうだね」
中々物騒な能力なようなので、どれほどの物かリアにまた解析を頼んでから、その力を使って貰った。
「ヒヒーーーーン!」
ジャンヌの振り上げた拳から波動が放たれ、ただ軽く触れただけなのに床の一部が粉と化した。
「これは──。かなり強いスキルの様ですね。
ただ難点として、波動を発している個所に何か身に着けていると、それも砕けてしまうみたいなので、武器との併用は無理そ───うでもないですね。
あの武器なら、いけると思います」
「あの武器っていうと、ジャンヌおねーさま専用のアレですの?」
「はい。どうやら、それに併用して使える武器として生まれたようです」
「ヒヒーン」
ということなので、さっそく両手で踏ん張りながら巨大なサファイアの様なハルバートを手に持った。
そして持ち手から波動を送り込むと、普通の武器なら砕け散ってしまう所に対し、このジャンヌ専用の武器は全体が波打ち始めた。
そしてジャンヌが力強く振り上げて、誰もいない方へと叩き付ければ、そこは隕石でも落ちたかのような巨大なクレーターが出来上がっていた。
「なんというか。さっきダンジョンが、あげすぎって言ったのが良く解ったっす……」
「今の全力じゃないよね?」
「ヒヒーーン。ヒヒーン」
「ほとんど、ただ落ちるに任せて降ろしただけらしいですの…」
「凄いな。ジャンヌが味方でよかったよ、ほんとに」
その破壊力に皆が驚きながら、ジャンヌの防御に破壊能力まで加わった事に頼もしく思った。
「後この称号で気になると言えば、強化能力値が俺や愛衣とかカルディナの倍あるな。
もしかして基本70で、倒した人数で割られるのかもしれない」
「そういえば、あたしも70っすね」
「私とナナは18です」
「うーん。
カルディナちゃん達のところは、2体で1体みたいなのだったんだよね?」
「ですの。魔物を半分に分散させて、一体はカルディナおねーさま。
もう一体は、わたくしとリアが倒しましたの」
「となると……奈々とリアは、4分の1倍の17.5から繰上りで18。
俺と愛衣、カルディナが2分の1倍で35。
ジャンヌとアテナは1倍で70。
そう考えると基本強化値は70で、少人数で手に入れるほど割られる数は少ないって事でいいみたいだな」
そうして細かな謎も解いた所で、ジャンヌは《幼体化》してハルバートを《アイテムボックス》にしまいこみ、次の人物のステータスを見ていく事にしたのであった。
次回、第247話は5月31日(水)更新です。




