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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五章 呪われた少女編

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第242話 第二グループ4

 毒魔法を得て、さらにレベルの壁を越え邪竜というクラスに変わった奈々は、さっそくリアの待つ場所へと駆け出そうとしていた。

 けれどふと違和感を感じて自分の足元を見ると、いつの間にかひざから下に灰色に可視化した、竜力で構成されたオオカミの足らしきものが覆っていた。



「──なんですの? これは……」



 試しに右足をブンッと軽く蹴り上げてみると、自分の想定以上の力で地面を風圧だけで抉ってしまった。

 そこで一瞬驚きはしたものの、これが何かを理解した。



「これは獣術の気獣技ではないですの?

 けれどいつの間に使えるように……。

 それに発動した記憶すらないですの。どうなってるんですの?」



 発動できるようになったのなら別にいい。──といえば確かにそうである。

 そしてもう残り時間も大してない。

 なので、まあいいか。と軽く思い直し、リアとの合流を優先する事にした。

 そうして奈々は十円拾ったラッキー程度の気持ちで、リアのいる場所へと足を踏み出していった。


 奈々は基本前に立ってガッツリ戦闘するタイプでもないので、アテナほどは気獣技に興味を持っていなかった。

 勿論戦力増強は喜ぶべきことだが、使えないのなら別の手を考えればいいと気長に見ていたというのもあって、何故急に気獣技が使えるようになったのか詮索する気は薄かった。


 なのでこのままでは永遠にその何故が闇の中になってしまうので、ここで説明をさせてもらう。

 今回の気獣技は奈々が先ほど毒魔法の修練を終えたと同時に、勝手に発動した。

 そして何故そこで発動したのかといえば、それが獣術の狼の気獣の琴線に触れたからだ。

 狼の気獣は群れを、仲間を思えるかという友愛の心を重んじている。

 奈々は危険な魔物が近くにいるというのに、友の言葉を一切の疑いも持たずに信じ抜いて壁を超えて見せた。

 そこを気に入ったので、より早く友のいる場所へ辿り着けるようにと両の後ろ足を貸し与える事にしたのだ。


 ちなみに獣術は体術と同じく肉体に直接纏うことができる気獣技で、それは肉体の大幅な強化にも繋がる。

 そして今回与えられた後ろ足二本は、純粋に脚力の強化である。



「これは速いです──のっ!!」

「ナナっ!」



 常人に比べたら強い脚力がさらに強化され、二歩踏み出すだけで離れた場所にいたリアに、あっという間に追いついた。

 そして三歩目で踏み切って、いつの間にかドでかくなっているゴーレムに、力いっぱい飛び蹴りをかました。

 それは一瞬の出来事で、ゴーレムの反射速度を大きく上まわり、表面の土で嵩増しした部分を吹き飛ばして本体に直接ぶち当たる。

 それを見たリアは「これだけで勝てるんじゃ?」とも思ったが、やはり相手も元ボスだ。

 それを食らっても大したダメージは負わずに、奈々に吹き飛ばされた土の体を纏い直した。



「ここに来たということは?」

「ええ。鉱物に対する毒を身に着けてきましたの。

 それにしても、随分大きく成長したんですのね。この魔物は」

「はい。そういうスキル持ちですので。

 ただこれは所詮土で、素材としては全く価値のないレベルなので、これだけならどうとでもなるのですが」

「中身に攻撃できなければ意味がないと」

「そうです」



 奈々が帰ってきたことにより、張りつめていた緊張の糸がほどけそうになるのを堪えながら、リアは魔物が強力な助っ人を警戒して纏う土を増強している間に、これからのプランを説明し始めた。



「まず、あの邪魔な土は私の方で何とかします。

 ですので奈々は、あの土がなくなった瞬間に、アイツの表面を毒で侵してください」

「表面だけでいいんですの? ──って、それが今の限界ですのね」

「はい。ですが表面の数センチさえ劣化させてもらえれば、こっちのものです。

 それから──」



 そうして二人で打ち合わせを終えてゴーレムを見れば、十五メートルほどに拡大されていた魔物が、さらに二十メートルほどの大きさにまで膨らんでいた。



「あれくらいの大きさだと……………………これくらいですかね。

 では上の方はお任せします。私は下をやりますので」

「解ったですの」



 奈々はリアに土魔法ブレンドの鍛冶炎材・LLサイズの手榴弾を《アイテムボックス》経由で受け取り、未だに膨張し続けるゴーレムに気獣を纏った足でもって向かって行く。

 そこでようやく向こうも膨張をやめて、一番危険度が高いと見做みなしている奈々に、大きな前足で踏みつけようとしてきた。



「あなた馬鹿ですの? 動きが鈍重すぎて欠伸が出ますのっ」



 防御を優先しすぎたためか、ゴーレムは初期の頃の動きの冴えがまるでなく、ただ重いだけの体で奈々に攻撃をしてきた。

 だがそんな攻撃は以前の奈々でも余裕で躱せるし、強化された今なら止まっているのと変わらない。

 そうして踏み潰すために下した足に奈々は飛びつき、ほぼ垂直な道を走って上る。

 飛んでもいいが、走った方が速いのだ。

 しかし魔物もただ鈍重になっただけではないようで、体表面全体から土の鎖が触手のように飛び出して捕えようとしてきた。



「──邪魔ですのっ!」



 その鎖の強度は鉄以上。普通の相手なら、それで十分だろう。だが奈々には力不足だ。

 絡んだ端から無抵抗に千切られて、さらに爪で紙の如く切り裂かれ、まるで進行速度を落とせていない。

 そうして奈々はゴーレムの頭に飛び乗ると、ジャンプして空を飛び、上部分にリアの鍛冶炎材をばら撒いて浸していく。


 リアも奈々に意識が向いている間に、下部分に鍛冶炎材の手榴弾を投げていき、こちらも既定の個数を着弾し終えた。

 それから完全に鍛冶炎材がゴーレムの土の体に浸透するのを少し待つ。

 その間は奈々が上で注意を引き続けてくれていた。

 リアはそれに感謝しながら《万象解識眼》でも良いと結果が出たので、作戦の実行に移っていく。



「行きますっ」



 誰に言うでもなくリアは、鍛冶術と鍛冶炎を纏った柄の長い金槌を持って駆け出す。

 そして大きな前足の先端部分に金槌を当てると、一気に赤茶の鍛冶炎がゴーレムの土の体全てに一瞬で着火。

 それから二撃目を振り上げ、イメージを伝えた。



「てりゃあっ!」



 その瞬間。ゴーレムが纏っていた土が、地面に引っ張られるようにして脱げていき、圧縮して固くなった土塊が本体の足を四本固めた。

 そして完全に土の防御層を失い落下する中で奈々は、その本体に向けて毒魔法を行使しつつ地面に蹴り落とした。


 蹴り落とされながら体の表面が毒に侵され、劣化していくゴーレム。

 そこへちょうど居合わせるように位置取っていたリアに、やや粘性の強い鍛冶炎材をぶちまけられて、表面全てを覆ってしまう。

 そうなればこちらの物だと、金槌を二本出して片方で火をつけ、片方でイメージを伝える。

 そして──。



「今です! 解毒してください!」

「はいですの!」



 解毒魔法は9レベルだが自分で作り上げて、どんなものなのか解っている毒に対しての事。

 すぐにそれは追いついて、完全にゴーレムの表面に付着した毒を消し去った。



《スキル 解毒魔法 Lv.10 を取得しました。》

《称号『解毒を修めし者』を取得しました。》



 そうすれば目の前には、見た目は何も変わらないゴーレムだけが残った。

 だが魔物はガタガタ振動するものの、一切の攻撃はおろか、行動すらできていなかった。



「捕獲完了ですの!」

「はい!」



 これはどういう事かと言えば、まず奈々の毒魔法で本体表面の数センチを劣化。

 劣化した部分だけならリアも一撃でイメージを伝えられるので、それで変形と創造を行った。

 けれど今回は、まるで形を変えてはいない。

 では何をといえば、それは表面の構成要素の変革である。

 以前にも言ったように、このゴーレムの体は芸術レベルでの繊細な構成によって出来ている。

 だが繊細であるが故に、少し変わるだけでまったく別の物質になってしまう。

 そしてこのゴーレムが体の形を弄れるのは、自分の肉体のみ。

 違う物質まで変形させる力は持っていない。

 一つの物質に限定したからこそ、あそこまで細かな操作が素早く出来ていたのだから。


 そしてリアはそこを突いた。

 奈々の毒が含有されている事を念頭に置き、それが抜けた時にどうなるかまで予測。

 そうした上で毒が抜けた時に硬度だけを見るなら、前以上の性質を持つ物質に配合し直し、内側からも破られないように頑丈なゴーレムを閉じ込める殻を造り上げた。

 すると元自分の体を内側から破らなければ、身動き一つできない置物の出来上がり──というわけだ。



「後は魔石の破壊で、完全に機能停止させます。

 これで中身の素材もゲットです♪」

「あなた……。

 素材がほしいから、こんな回りくどい倒し方を考えたんじゃないですの?」

「そんな事ないですよっ。

 一番安全で確実な方法を考えたら、こうなっただけですっ!」



 それでも疑わしそうな視線を向けてくる奈々に背を向けながら、リアは《万象解識眼》で魔石の在り処を再検索してみる。



「やはり最初に奈々が、そこを攻撃しようとしたからなのか、場所を変えられてるみたいですね。

 今は馬でいう首のあたりにあります」

「外側は魔物の体ではないと言っていたのに、内側の見えない魔物の魔石の位置も《万象解識眼》で正確に解るんですの?」

「正確にはこのゴーレムにとって体と見做せなくなっただけで、他者からしたら魔物の一部には変わりない。という事ですね。

 このあたりですね──よいしょっと」



 今は殻を破ろうと必死になっているのか動かす気配はないので、今のうちに仕留めるために、リアは直接手で触って目標ポイントだけに円形の鍛冶炎を染み込ませる。

 そして《アイテムボックス》にしまっていたロケットハンマーを取り出して、柄の頭部分をカチカチと一回転させた。



「何をしてるんですの?」

「リミッターを解除してるんです。

 今の私の筋力じゃ振り回されるだけなので調整していたんです──っと、これでよし」



 さらに鍛冶術で同じ形の赤茶色のハンマーを造り出して、それを重ねる。



「だからナナも持ってください。

 今回はピンポイントで、あそこに杭を打ち込みますから」

「そういう事でしたの。

 どこを持てばいいですの?」

「色のついていない部分なら、どこでもいいですよ」



 言われた通りに色のついていない場所を握って持つと、その腕の間にリアがスッポリ入って小さな手で赤色の部分を握りこんだ。



「いきますよ! 良いと言うまで、その場で堪えてくださいっ!」

「解ったですの!」



 リアはカチッと右へ赤い柄の部分を回すと、ロケットが噴射。

 けれどそこで前に進まないように二人で堪えると、その噴射力は増していき、奈々でも一人で厳しいレベルまで、その推進力は増して足が地面にめり込んでいく。



「まだっ、です、のっ!?」

「もう──すこしっ、ですっ──────────良いです!」

「「はあああああっ」」



 極限まで高められた推進力を使って、二人は鍛冶炎が燃え盛るポイントにピンポイントで黄金水晶の杭の先端を打ち付ける。

 すると杭の先端が触れた瞬間、リアのイメージがそこへ伝わり一瞬で硬度が少しだけ落ちる。

 杭はそこへめり込んでいき、それを見計らって赤と緑の柄の部分を、それぞれ上と下に引っ張ってガチャンと伸ばしてから赤は左へ、緑は右へ回す。

 すると内部で圧縮された強力な爆発が起きて、パイルバンカーが発動。

 杭がハンマーの打撃部から飛び出して、ゴーレム本体にまで到達。

 そしてそのまま杭が鉱物を抉って、魔石を砕き割った。



《『レベル:50』になりました。》《『レベル:54』になりました。》

《《称号『ソルドルング』を取得しました。》》

《鍛冶師 より 解識鍛冶師 にクラスチェンジしました。》

《スキル 思考加速 を取得しました。》



「終わったみたいですね。それに何故か私のレベルも上がりました。

 私にとっての壁は魔力頭脳造りかと思っていたんですが」

「上がったんなら、それはそれで良いですの」

「それもそうですね──あっ。カルディナさんも、こっちに来ますよ」

「本当ですの! おねーさまーー!」

「ピィーーー!」



 二人そろって上空に手を振れば、心なしか前よりも力強く羽ばたくカルディナが舞い降りてきたのであった。

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