第240話 第二グループ2
諦めかけていた心を叩き起こしたカルディナは、さっそく照準を合わさせないように滅茶苦茶な軌道で飛行しながら魔弾を生成し始めた。
まず最初の実験は、魔法に武術スキルを乗せられるのかと言う点だ。
カルディナは魔弾が出来たら今度は竜翼刃を発動させて、その竜力を魔弾に流し込む様なイメージを取る。
すると魔弾に竜翼刃の力が吸い込まれていき、銃弾の様な形から紙飛行機を上から見た時の様な薄い二等辺三角形に変わった。
「ピィイッ!」
これはいけると確信し、打撃に切断がのった強力な魔弾に手ごたえを感じつつも、これでもまだあれを破壊するには及ばない。
なので一旦それは霧散させて解除する。
そして今度は両の翼に生える羽の一枚一枚を意識しながら、その一つ一つに丁寧に竜力を流して竜翼刃のスキルを発動させてみる。
「──ピィッ」
その制御が難しく飛行速度が緩んでしまった所を、巨大刀の魔物が襲い掛かってきて、また足を切り裂かれてしまった。
だがそれは奈々の生と呪の混合魔法の自動回復に任せ、無視して竜翼刃に集中していく。
するとそれは羽の一枚一枚に竜翼刃の力が生み出され、再びそれが混ざり合って再構築が始まった。
そして翼が光り輝き、両の翼から竜力の刃を具現化させた。
《スキル 竜翼刃 Lv.10 を取得しました。》
《称号『竜刃之権化』を取得しました。》
《スキル 真・竜翼刃 Lv.3 を取得しました。》
そんなアナウンスが流れた瞬間、カルディナの竜翼刃──真・竜翼刃の制御が軽くなるのを感じた。
そして楽になった事で一気に魔弾を造り上げ、そこへ真・竜翼刃の竜力を流し込んでいく。
すると、ただの竜翼刃の時は二等辺三角形だった魔弾が、V字型が二つ同じ向きで縦横に融合した様な形状に変化した。
《『レベル:50』になりました。》
《魔弾射手 より 刃竜 にクラスチェンジしました。》
《スキル 自動追尾 Lv.3 を取得しました。》
「ピユィーーー」
カルディナは先ほど造りだした魔弾と真・竜翼刃の合体技。
真・竜翼刃魔弾を頭の前でセットしたまま、壁を越えレベルが上がったことに喜ぶ。
そしてさっそく、覚えたばかりのスキル《自動追尾》を起動する。
その瞬間。右目の辺りに真っ赤なレンズが現れて、それで目標を視認した。
するとカーソルが現れ、巨大刀の魔物にロックオンした。
滅茶苦茶な軌道を飛んでいるため中々照準を合わせづらかったのだが、これを使えばどこに向かって撃っても勝手に修正してくれるはずだ。
だがそれでも射出中に噛み合ってしまうと、逃げ切られてしまう恐れもある。
なのでタイミングを計るためにカルディナは、あえてスピードを緩めていく。
今までの傾向から、アレは刀の形をした持ち手に当たる先端部──柄頭から気力をロケットの様に噴出して推進力を得るスキルを有しているらしい。
それは再噴出まで二秒ほど時間を必要としていることも解っていた。
なので一度撃たせたかったのだ。
そんな思惑の元にスピードが緩まったのだと知らずに、魔物は浮遊しながら切っ先をカルディナに合わせていき、後ろに少しだけ引っ張られる動作をしてから発射された。
発射タイミングは完全に解っていたので、直撃だけはしないように回避。
レベルが上がってスピードも上がったはずなのだが、それでも相変わらず無傷では済まなかった。
けれど今回は、こちらもただで終わるつもりはない。
魔物が射出後スピードが緩んだ辺りで、カルディナは真・竜翼刃魔弾を発射。
猛烈な勢いで魔物の後部めがけて飛んで行き、打ち抜こうと迫っていく。
だが魔物もそれに気が付いて、その射線上から浮遊で逸れようとする。
けれど、そこで《自動追尾》が意味を成してくる。
射線上からずれ始めても曲線を描くように軌道が修正され、真・竜翼刃魔弾は正確に直撃ルートを辿る。
カーーーン──。
それを見た魔物はこのままでは逃げ切れないと悟ったのか、そんな音を響き渡らせ形態を元のプロペラ型に瞬時に移行。
この形態なら飛行能力が高いので、追尾から逃れられると思った様だ。
ジグザグに泳ぐように空を移動する魔物。
追尾性能よりも優れた逃げ足に、カルディナも次の一手を撃ちだした。
それは《自動追尾》を使った真・竜翼刃魔弾より制御が楽な、ただの竜翼刃魔弾。
これでも今の形体なら、触れるだけで切り裂かれるスキルも発動されないので、充分ダメージを見込める。
それを連続で撃ちだしていき、さらに追い打ちを開始すると、魔物が逃げねばならない弾が増えていく。
そして大量に撃ち放った一個の竜翼刃魔弾が着弾。
それにより魔物の動きが鈍った──その瞬間、大本命の真・竜翼刃魔弾が魔物の体を縦に貫いて粉々に破壊した。
《『レベル:56』になりました。》
《称号『デヴェルリュート』を取得しました。》
「ピィイイイイイイイイイイーーーーーーーーーー!」
そうしてカルディナは勝利の雄たけびを上げたのであった。
一方、時は戻って下のゴーレムの元へと向かった奈々とリア。
二人はカルディナが真正面からぶつかって敵を食い止めてくれている間に、脇をすり抜け地面へと着地した。
そうして待ち受けていたのは馬の様な体を持つ縦三メートル、横四メートルの大きなゴーレムの魔物。
先ほどまではカルディナが相手をしている魔物のスキル、《寄生強化》によってステータスが底上げされていたので、あまり攻撃は効いてはいなかった。
だが今はそれも解除されているので、どれほどの物だろうと試しに奈々が竜氷爪襲撃を放ってみた。
「避けるなですの!」
魔物はサイドステップで華麗に竜氷爪襲撃を躱して、こちらに突進してきた。
「そりゃアホじゃないんですから、攻撃してきたら避けますよ。
どうします、ナナ?」
「ならこうですの」
それに対して奈々はもう空は飛べないのだからと、地面を凍らせて移動を阻害してみた。
以前はこれで足を滑らせていたので、いけるだろうと踏んでいた奈々。
けれども今回の魔物は地面が凍り付くのを確認した途端、土魔法系統のスキルを行使して鉱物で出来た体を変形。
やがて四本の脚はピッケル付きの蹄に変わり、氷の上を引っ掻きながらガシガシと進んできた。
「自分で自分の体を操って体形を変えるスキルですね。
あそこまで汎用性が有るなんて驚きです」
「冷静に見ている暇はないですの!」
「解ってますよっと!」
氷がダメならとリアは手榴弾を四方に投げまくって透明の液体で辺りを浸す、そして地面の構造を《万象解識眼》で観てから、直ぐに鍛冶術スキルで赤茶の炎地帯を造り上げる。
そしてこれまた鍛冶術スキルを使った金槌でそこを打ち付け、自分達の足場は少し高く。魔物の踏んでいる場所には穴を。
そんなイメージを伝えると、そのままの地形に一瞬で変化して、もう目の前まで来ていた魔物が穴に吸い込まれていった。
「直ぐに出てきますよ」
「ならその時にやるですの!」
「ゴーレムの魔石は右後ろ足、根元付近の腹部の中です!」
「解ったですの!」
リアが言った通り、体を変化させて四本の足をバネの様な形にして大ジャンプし、穴から飛び出してきた。
だがその瞬間を見計らっていた奈々が竜飛翔で横から現れ、魔石があると言われていた腹部に《かみつく》をお見舞いした。
しかし───。
「なっ──ぐぅあ"っ!?」
「ナナ!」
かみつくで穿とうとした箇所だけを変形させて、攻撃が当たる前にそこに穴をあけてやり過ごされてしまう。
そしてお返しとばかりに、動物だったらありえない方向に右後ろ足を曲げて奈々を蹴り飛ばした。
奈々は蹴られた勢いのままに地面にめり込み、生魔法でガードした時に粉砕された両腕を再生しながら立ち上がる。
だがその目の前には、後ろ足で立って前足二本で踏み潰そうとする魔物の姿があった。
「させませんっ!!」
けれどリアによって放たれたロケットランチャーが四発飛んできて、魔物の横面に着弾。
巨体をずらすことに成功し、奈々の一メートル横に足を踏み降ろし大地を凹ませた。
その間に奈々は完全に体を修復し、氷魔法で魔物の足を地面にくっつけるように凍らせてから、竜飛翔で上空に逃げつつ竜爪襲撃で攻撃も加えていく。
一瞬でとはいえ、奈々が大出力で凍りつかせた分厚い氷から足を抜けずにいたゴーレムは、その表面に爪の斬撃でいくつも傷をつけていた。
「硬いですの! 何か弱点とかはないですの?」
奈々は空からリアの横へと戻って来るなり、苦々しげな顔でそう言い放つ。
それにリアは青い目に変えながら、氷から足を引き抜こうと奮闘するゴーレムを見つめて、残り時間内にその魔物を倒す一番可能性のある道筋を探していく。
「ナナの毒魔法は今、9レベルですよね?」
「え? ええ。その通りですの。
それが何か関係あるんですの? アレは鉱物ですのよ?」
生物型の魔物なら、毒魔法は非常に有効だ。
しかし今回は鉱物の塊で生体部分は皆無。毒など放っても、素知らぬ顔で歩き回ることだろう。
そんな疑問の上で投げかけた言葉に、リアは確信をもって口を開いた。
「レベル10に上がれば、鉱物や金属すら侵す猛毒。
腐食毒が造れるはずです」
「ふしょく……ですの?
それが本当なら凄いですの。さっそく取るですの!」
「まって下さい。
システムでSPを払って取るのではなく。自力で上げてください」
「そんな悠長なことを言っている暇はないですの!」
システムを立ち上げると同時に腕を掴まれ阻まれた奈々は、理解できないと言った風にリアに口角泡を飛ばした。
だがリアは冷静に、その理由を話してくれた。
「何も私はSP勿体なさに、そう言っているのでは有りません」
「じゃあ、何だというんですの?」
冷静なリアに釣られるように、奈々も直ぐに頭が冷えた。
この子がこの状況で、意味のない事を言うはずがないのだと思い出したからだ。
「腐食毒は毒魔法の中でも難しい部類の魔法です。
ですのでシステム経由で早道して覚えた場合、その力を直ぐに十全に使う事が出来ず、それどころか急に上がった出力のせいで、余計に時間がかかってしまうでしょう。
ですが自分でスキルレベルを上げた場合、自力で到達したのだから腐食毒を出せるようになるまでも早くなるはずです。
そして魔力体生物として現在レベル14の体を持つナナなら、自力での到達が可能なはずです」
「ですが戦いながら覚えるのは難しいですの。
空に逃げるにしても、あまり高く飛べばカルディナお姉さまの邪魔になりますし。
かと言って中途半端な高さなら、先ほど穴から抜け出したジャンプで届かれてしまうですの」
「はい。ですからそれまで、私が足止めします。
その間に、ちゃっちゃと覚えてください」
「───なっ。それは無茶ですの!
それに、そんなに直ぐにスキルを上げられないですの!」
「大丈夫です。ナナならできます。自分を信じてください。
それに私も色々小細工を用意できますので、少しの間くらい持たせて見せます」
奈々の目に映る真摯な瞳は、とても強がって言っているわけではないと痛いほど伝わってきた。
そして自分ならできると信じてくれた友を、奈々も信じてみる事にした。
「死んだら地獄の底まで追いかけて呪ってやるですの。
だから危なくなったら、直ぐにわたくしを呼ぶですの」
「ふふっ。なんで私が地獄に行くことになってるんですか。
せめて天国にしてください」
「友達の信頼を裏切る様な奴は地獄行きですの」
「……ともだち」
この歳になるまで、そんな存在は一人たりとていなかった。
そしてそれを相手が口に出してくれた事が、リアにとって何より勇気を与えてくれた。
「──なら早く覚えられなかったら、ナナも地獄行きですね!
だからナナも、友達の信頼に応えて下さい」
「当たり前ですの!」
そうして二人はお互い拳を軽く当て合い、奈々は毒魔法のレベル上げ。
リアはゴーレムの足止めへと向かって行くのであった。




