第238話 第一グループ2
竜郎が考え付いた作戦を、自分を抱えながら逃げ回ってくれている愛衣に心象伝達も交えて伝えると、直ぐに頷き返して同意してくれた。
竜郎は再び精霊魔法で足止めを頼みつつ、愛衣にはその足で逃げ回ってもらう。
その間に竜郎は愛衣の腕の中である植物の種を出して、樹と闇の混合魔法で魔改造していく。
そしてその種。計二十個に樹の精霊魔法を纏わせて、お願いをした。
「よし。準備完了だ。愛衣は疲れてないか?」
「まだ全然、走り回れるよ!」
「なら良かった。それじゃあ、この種を頼む」
「はいよ」
竜郎が土魔法で適当に造った手提げの付いた籠に種を入れて、それを愛衣に渡した。
籠を受け取った愛衣は、手提げに腕を通して宝石剣をしまう。
そうしたら籠から種を数個取り出して両手に持った。
それを見た竜郎は、氷と風と水と光と闇の魔力の塊をできるだけ沢山生み出し、その全てに精霊を降ろした。
新しいライフル杖のおかげもあって、その量は今までの限界を容易く超えて千と少しもの精霊魔法を、いっぺんに生み出すことに成功した。
「アンチ化されないように常に波長を変えつつ、アイツをできる限り足止めして愛衣の援護を頼む」
「じゃあ行くね」
「頼んだ。魔法の攻撃は絶対に防いでみせる」
「うん、頼りにしてるよ! ───ふっ」
愛衣は体術スキルの気獣技で鱗を何重にも纏って防御性能を更に高め、千以上もの精霊魔法を引きつれて、魔物から放たれる気力の弓矢を避けて近づいていく。
竜郎は愛衣から送られてくる心象伝達の情報を《多重思考》で観ながら、自分と愛衣にくる魔法攻撃両方を対処していく。
そして精霊魔法たちが、衝撃を与えないように凍らせたり粘着性の水や土を引っ掻けたりしてさらに魔物を絡め取っていく。
そこまでやれば多勢に無勢。相手の処理が遅れていく、どんどんこちらの手数が有効になっていく。
そしてさらに愛衣は先ほどの種を優しく魔物に張り付けていき、二十個全てを一秒もかからずセットし終わると、脱兎のごとく後退しつつ鱗の分身を四体残して竜郎と合流。
魔物は完全に包囲されてしまったので、《霧散回避》を使って逃げようと試みた。
だが。何故か出来なくなっていた。
「─────?───?─?」
「仕掛けは上々みたいだな」
先ほど愛衣が張り付けた種が、付与しておいた樹の精霊魔法で一気に芽吹き、魔物の体に一切の隙も無く根を張って体内から縛り付ける。
そうして一ミリたりとも離れられないようにしつつ更に気力、魔力を養分に物凄い勢いで増殖して、樹魔法で枯らそうとする魔物を手子摺らせる。
そこへ精霊魔法でさらに外側から氷と土と水が纏わりつき、更に動きを制限されていく。
だがこれも竜郎と愛衣、両者の特性の美味しいとこ取りしている魔物ならば、三分もすれば無力化してしまうだろう。
なのでその前に、こちらができる最大の攻撃で微塵も残さず消滅させなければ勝機は無い。
「愛衣」「たつろー」
二人は手を繋ぎ合う。
そして余った片方の手でライフル杖を、宝石剣を握って自分達の前でそれをクロスさせた。
そして気魔混合の準備に取り掛かる。
だが、今回は今までとは少し趣向が違った。
今回使うのは以前と比べて格段に増えた竜力も使い、愛衣の竜気力と竜郎の竜魔力による、言うなれば竜気魔混合。
「───ぐっ」「───ふぅっ」
だがそれは気魔混合に慣れてきた竜郎と愛衣にとっても制御が難しく、混ぜるだけでも苦戦してしまう。
それでも相手を心の底から思い、受け入れられれば出来ないはずは無いと、微塵も相手を疑う事なく握った手に力を込めた。
「いくぞ──」「いくよ──」
そうして出来た虹色に輝く力が超巨大な竜の頭部の形を取っていき、やがてその咢を開いた。
そして─────。
「「はああああああっ──!」」
二人同時にクロスしたライフル杖と宝石剣を振り下ろせば、それと同時に巨竜の口内から莫大なエネルギーを持った、レーザーの様な虹色の息吹が放たれ、二人の視界を色鮮やかな光で染め上げた。
「─────」
未だ体内で増殖し続ける植物を必死で枯らそうと、もがきつつ、未だに四方八方から攻撃してくる精霊魔法も対処していた魔物は、動く事も出来ずに、その息吹をモロに受け──そしてこの世界から微塵も残すことなく消滅していった。
《『レベル:87』になりました。》《『レベル:80』になりました。》
《《称号『響きあう存在+2』を取得しました。》》
《《称号『エンデニエンテ』を取得しました。》》
「えんでにえんて?」「円で二円です?」
レベルが上がったこと自体は、魔物を撃退した証の様なモノだと思って受け入れられる。
また《響きあう存在》のプラス値が上がったことも、この際置いておいてもいいだろう。
問題は最後の聞き馴染みのない謎の称号である。
しかし二人は取りあえずこの部屋から出てから確認すればいいやと、踵を返して扉を押した。
けれどもビクともしない。そこで扉の開閉は、全部同時に行われると言われていた事を思い出した。
なので恐らく全員クリアできた時にでも開くのだろうと、竜郎たちは手を繋いだまま装備をしまい、ゴツゴツした鍾乳洞の様な地面に尻餅を突きながら仲良く寄り添ってそれを確かめた。
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称号名:エンデニエンテ
レアリティ:ユニーク
効果:あらゆる環境に適応し、あらゆる肉体のダメージを回復する。
全ステータス+35。
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「ステータスプラスはいいんだが、前述の環境と肉体のダメージの回復が気になるな。
ちょっと実験してみるか」
「実験って、あんまり危ない事しないでよ」
「解ってるって───────っ」
竜郎は極細レーザーを左の人差し指に当てて、自身の魔法抵抗値をギリギリ超える辺りまで徐々に出力を上げ、一ミリ程度の軽度な火傷を負わせた。
すると生魔法を使ってもいないのに、直ぐにその傷が治ってしまった。
だが自身を傷付けるという行為に、愛衣は竜郎を軽くぽかりと叩いた。
「こらっ。そう言うことしちゃダメでしょ。まったく」
「いやいや。これくらい平気だってば。
仮に治らなくても、生魔法でどうとでもなるし」
「でもそーゆー事をしちゃダメなの。
仕方なく怪我したならともかく自分でなんて、とんでもないよ」
実験だと解っていても見ていて気持ちのいいものでは無かったのだろうと、竜郎は素直に謝ってむくれる愛衣を鎮め、それから次の実験に移っていく。
「じゃあ今度は、危なくないのでいくな。愛衣もやるか?」
「もちろん」
愛衣も参加したいとの事なので、今度は氷魔法で周囲を氷結させて、一帯を即席冷凍庫に変えてしまう。
「「さむっ───────……………………ん?」」
極寒の場所に最初は体を震わせたのだが、数秒後には全く寒さを感じなくなっていた。
「本当に適応したな」
「したね。もー寒くないや、凄いねこりゃ」
「あらゆるって言うくらいだから、これくらいは何とかなるだろうとは思ってはいたが……。
実際に体験するとビックリだな」
そうして称号:エンデニエンテの効果を確かめた後は、もう一つプラス値の増えた称号を確認していった。
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称号名:響きあう存在+2
レアリティ:17
効果:この称号を同時に取得した人物との念話が可能になる。
同人物へ心象伝達が可能になる。
同人物を媒介として、離れた場所でのスキル能力の行使が可能になる。
同人物と接触している間、任意での五感上昇。
同人物と接触している間、疲労回復速度大上昇。
同人物と接触している間、気力、魔力の回復速度超特大上昇。
同人物と接触している間、全ステータス特大上昇。
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「既存の項目は一段上がって、追加されたのは任意での五感上昇。
これは何となく解るな。
でだ。媒介として離れた──って、これはどういう意味なんだろうな」
「うーん。とりあえず離れてみる?」
「ああ。とりあえず試してみるか」
そうして二人は距離を取って、五メートルほどの場所で向かい合ってみた。
そして称号効果を意識してみると、目を瞑っても相手と見えない何かで繋がっている様な不思議な感覚を覚えた。
なのでその存在が何処にいるのかも、お互い何となく解るようになっていた。
そして竜郎は杖に魔力を流すような感覚で、その見えない何か伝って通していき、レーザーを放つイメージを取った。
すると愛衣の目前で魔法が構築され、レーザーが飛び出し地面を焦がした。
「すごーい。私がレーザーを使ったみたいになった!」
「じゃあ、愛衣からもやってみてくれ!」
「はいよー」
そして愛衣は拳に白い気力を纏って竜の頭部へと変化させると、それをただ放出するのではなく、竜郎と繋がっている何かに通す様にイメージしながら虚空を殴った。
するとその白い竜頭は愛衣の手から消え去って、その代わりに竜郎の目の前から現れ放たれ地面を抉った。
「これはもしや、かなり便利なのでは?」
「うん。心象伝達や念話もあるし、離れてても充分使えそう」
それから色々試した後に、今度は五感の上昇を試してみることにする。
まず二人で手を繋いで称号効果が表れたのを確認したら、竜郎は触覚を上げ、愛衣は臭覚を上げてみた。
すると竜郎は体に触れているモノがより敏感に感じ取れるようになり、床を指先で擦るだけで、どんな凹凸をしているのか前より細かく解るようになっていた。
そして愛衣は、この空間に蔓延する匂いから、嗅ぎなれた竜郎の匂いを間近に感じる事が出来るようになった。
「たつろーの匂いがする! くんくん」
「おいっ。さっき汗かいたし臭いだろ。やめろって」
「ん~ん。私、たつろーの匂い好きだよ。くんくんくん」
「ちょっと、くすぐったいって」
竜郎の首筋に鼻を押しつけている愛衣を押しのけようとするも、この世界では男女差よりもステータス差が物をいう。
なので到底そんな事ができるはずも無く、竜郎はなされるがままに愛衣に臭いをかぎまくられた。
ただ。竜郎もその後、なんだかんだと口八丁で言いくるめ、同じようにして愛衣に復讐したのは言うまでもない。
そうして新たに得た能力を確かめ終わると、いつの間にか扉が開いている事に気が付いた。
「あっ。扉が開いてるね」
「だな。じゃあ出るか」
二人は同時に立ち上がって、扉まで歩みを進めていった。
「そう言えば、あの魔物に使った種ってコメ。だよね?」
「ああ。博士が生態系を崩すほど繁殖力が強いって言ってたから、今回はそれを利用させてもらった。
闇魔法で弄って更に、それを強化した奴だったんだが……。
あれは自分でも一度根付かれたら、全部枯らすのはしんどいだろうな」
「こわっ。そんなのだったんだ。取扱い注意だね」
「ちゃんと精霊魔法で魔物にくっついてから根を張る様にとは頼んではいたが、過信は禁物だからな。
もしあんなのが地上で根付いたら、それこそパニックだ」
そもそも先ほどの魔物くらいの再生と分散の能力を持っていなければ、最終兵器コメを出さなくても他の普通の植物で良かったのだ。
そして地上で使ってしまったのなら、先ほど同様欠片も残さず魔物ごと消滅させる必要がある。
他の植物は何種か魔改造した種を持っているが、コメだけは持ち運ぶのをやめておこうと竜郎は心に決めつつ、愛衣と二人で扉を出て行ったのであった。




