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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第一章 森からの脱出編

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第23話 異世界人


 竜郎はマップ機能を使いながら、現在地を確認していた。

 その地図が正しければもう町へと続く道にたどり着くはずである。



「もう少し行ったら、右に曲がる道があるはずだ。見逃さないようにしておこう」

「右だね、りょーかーい」



 そんな確認を二人でした矢先のことだった。

 曲がれる道はないかと、愛衣が遠くを見ていると、森の木に何かがもたれ掛かっていた。その何かに、これまた何かの獣が群がっているのが見えた。



「たつろー、あそこなんかいるよ」

「え? どこ──ってあれか? ここじゃよく解らん、もう少し近づこう」

「わかった」



 二人はできるだけ音を立てずに、その何かに向かって慎重に歩いていく。すると、段々と何かの正体が見えてきた。



「───っ」『あの獣に群がられているのって、人じゃないか!?』



 気付かれないように竜郎は念話に切り替えて話しかけ、愛衣も同じように応じた。



『──!? ホントだ、人だよ!? でも不味いよ、血があんなに出ちゃってる!』

『あれじゃあ、もう───いや、助けよう』

『わかった。最初はどうする?』

『俺はレーザーで、愛衣はクナイで同時に先制攻撃ってのはどうだ?』

『オーケー、たつろー人に当てちゃだめだかんねっ』

『当てねーよっ』



 最後に軽口を交わし、お互いの強張った心をほぐすと、手を握り合って攻撃の精密さ、威力を増大させる。



「はあっ」「ていっ!」



 気合と共に、竜郎は細いながらも強力なレーザーを右手で連続して二匹に撃ち込み。愛衣は《アイテムボックス》から取り出したクナイを左手で一本ずつ投げて別の二匹へと投げつけた。

 それは二人のかけ声で振り向いた獣の頭を打ち抜き、砕いた。その様を近くで見せられた残りの三匹は、唸り声を上げながらこちらに相対してきた。



「なんだ……こいつら……」「う"っ、気持ち悪い…」



 それはなんとも不気味な獣だった。

 全身黒っぽい灰色の短毛で覆われ、顔はハーモニカにボールをくっつけたような奇妙な形、濁った白色の目、大きな上を向いた鼻に、鮫のような歯を見せつけるように剥き出した歯茎、体はヒョロっとしているのに、野太い手足。

 その全てが、獣ではなく異形なのだと語っていた。



「「「ギルァァァァッ」」」



 質の悪い壊れかけのエンジン音のような声を上げ、残りの三匹が一斉に襲いかかってきた。それでようやく現実に戻された二人は、握っていた手を離し、すぐに受けて立った。

 まず初手を当てたのは竜郎だった。火魔法を使い砂利道に火を薄く広げて相手の足裏を焼いて機動力を削いだ。



「ていやっ」



 そこに愛衣のクナイが追い打ちをかけるように二本投げ、足裏を焼かれて暴れる異形の一体の肩、もう一体は頭に当たり一匹をまず仕留めた。



「一匹外れちゃったっ」

「気にするなっ」



 足裏を焼かれながらも、他は無傷の一体は痛がりながらもこちらに迫る。それを竜郎のレーザーで焼き殺し、肩に傷を負ってヒョコヒョコと歩く一体を愛衣がクナイを投げて仕留めた。



「行くぞっ」

「わかってる」



 竜郎は直ぐに地面の火を消して、二人で木にもたれ掛って倒れる人に向かって走っていった。

 しかし、その人まであと数メートルと行ったところで、二人の足は止まった。

 なぜなら、その異世界で会った初めての人は、内臓を食い荒らされ、とうの昔に事切れていたからだ。



「これじゃあ、残りのSP全部を生魔法に使っても無理だな」

「…………」



 血の匂いに、甘ったるいわずかな腐臭、普通なら悲鳴を上げたりしそうなものだが、半ば覚悟していただけに受け止めることができた。

 それどころか、竜郎の心は冷え込んで、逆に冷静に状況を判断できた。

 一方、愛衣は顔を逸らし、竜郎の腕に抱きついて無言になっていた。



「せめて埋めてあげよう」

「…………そう、だね……」



 竜郎は、愛衣を腕に巻きつけたまま、死体まで一メートルという所まで近づくと、土魔法の魔力を地面に流し込み、そのまま死体を沈みこませようとした。

 その時に竜郎は、死体の頭上、もたれかかっている木にナイフが刺さっているのを見つけた。また、そのナイフの刃で木に止められた封筒のような物があった。



「たつろー?」

「いや、あれはなんだ」



 急に動きが止まった事を不思議に思い声をかけた愛衣に、竜郎はその封筒らしきものを指差した。



「その人のものかな?」

「解らないが、埋める前に一応確認しておこう。取ってくるからここで待っててくれ」

「う、うん」



 離れたくなさそうだったが、死体に近づきたくはなかったようで、すっと離れて後ろを向いた。竜郎はそれを確認してから、死体の傍に寄り、できるだけそちらを見ないようにナイフと封筒らしき紙を外して、愛衣のもとに戻った。



「取ってきた」

「うん、なんだか立派なナイフだね」

「そうだな」



 柄には下品にならない程度の美しい装飾がなされ、そこから真っ直ぐに伸びる刃には、見たことも無いような紋様が描かれており、素人目にも相応の価値があるものだと解る。

 そうしてナイフを一通り観察し終わると、いよいよ紙の方に意識が移る。

 よくよく観察すると、それは封筒ではなく、紙を袋状に折っただけのものだった。それを竜郎が開いていくと、中から四つ折りにされた二枚の紙と、不思議な薄青く光る半透明のコインが入っていた。



「なんだこれは?」

「変わったコインだね」



 そう言いながら、竜郎がコインを抓みあげると、突然システムが起動して以下の文言が表示された。



 ----------------------------------------------------------------

   119,324シス を確認しました。 入金いたしますか?

             はい / いいえ

 ----------------------------------------------------------------



「これは……お金なのか?」

「えっどういうこと?」

「いや、触った途端システム画面が開いて、119,324シスを入金するかどうか聞いてきた」

「しす?」

「通貨単位だろうな。とりあえずこれは置いておこう」

「そうだね」



 なんだかわからないので、とりあえず竜郎はいいえを選択して画面を閉じ、コインを紙の上に戻した。

 次に二枚の紙を取り出すと、まずは手前の方を開いてみた。



「なにか書いてあるようだが、読めないな」

「うわー、こんな文字見たことないよ」



 二人して謎の記号の羅列に眉をひそめた。



「これはもう、あれを取るしかないか」

「うん。やっぱりこのまま町に行っても、言葉が解らないのが確定したっぽいし」

「じゃあ、さっそく取るか。愛衣も取るんだったよな」

「うん、さすがになに喋ってるのか解らないのは怖いだろうしね」



 そう言って二人は一度紙をしまい、システムを起動して、前々から目をつけていたスキルを生活の欄から探しだして取得する。



「《全言語理解》か、便利なもんだよな」

「おまけにSPも(5)だから、システム関連のスキルと比べて少ないし」

「言葉は努力次第で覚えられないことも無いしな」



 その《全言語理解》とは、取得すると文字なら五文字以上、言葉なら四単語以上を見たり、聞いたりすることで、どんなに解らない言葉でも理解できるようになる生活スキルだった。

 二人は町に行くことが決まってから、このスキルを見つけ、元々取得を考えていた。



「これで解るようになるはずだ。えーと、何々…」



 そうして竜郎が目を通し、五文字以上を認識すると、その羅列の意味が理解できるようになっていた。その内容は、以下のとおりである。



----------------------------------------------------------------

 この手紙とナイフを見つけてくれた人へ


 まずは、私の死体を見て驚かせてしまったのなら、すみませんでした。


 実は森の視察に来ていたのですが、その途中でトガルと遭遇し、その毒針を足に受けてしまいました。

 なんとか町に戻ろうとしましたが、もう足が動きません。ですので手が動かなくなる前に、私は残りの時間で手紙を残すことにしました。


 突然ですが、この手紙を見た、あなたに頼みたいことがあります。

 同封した、今の手持ちの全財産『119,324シス』をあなたに差し上げます。

 ですので残りの手紙と、一緒にあったナイフを私の家族に届けてほしいのです。

 このナイフは先祖代々受け継いできた我が家にとっては、とても大切な物なのです。できれば、私の息子に受け継がせたいのです。


 この手紙を持って私の名前をオブスルの冒険者ギルドに尋ねてくだされば、場所を教えてくれるはずです。


 どうか、私の最後の願いを叶えてください。


                       エルレン・ディカードより

----------------------------------------------------------------



 読めるようになったからか、この手紙が随分走り書きであることがわかった。それが余計に必死であったことを物語っているようだった。

 そして無言でもう一枚を開けると、どうやら家族に向けての手紙のようだったので、そっと読まずにしまった。



「オブスルにはこれから行くが、どうする?」

「……うん、届けよう。記念すべき最初に会った異世界人さんのお願いだもの、叶えてあげたいじゃない」



 その言い回しに、竜郎の心が温かくなるのを感じた。

 だからもう、どうすべきか決まった。



「ああ、そうだな。俺たちで叶えてあげよう」

「うんっ」



 そして二人にまた、町に着いてからの新たな目的が増えたのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 手を握っていたら、両手での、攻撃はできないんじゃ
[一言] 星五やでぇヽ(*´∀`)ノ
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