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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五章 呪われた少女編

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第237話 第一グループ1

 竜郎と愛衣が二人で開いた扉の中へと入って行くと、そこには真っ白な空間が、ただ広がっているだけだった。

 そして他のメンバー全員も各担当の箇所に入っていったところで、開いていた扉が勝手に閉ざされた。

 すると真っ白な空間が揺らめき始め、やがてその場所はゴツゴツした岩肌に変化しだした。

 そうしてジメッと湿った冷たい空気が淀む、とても広い鍾乳洞の様な場所に変わっていった。

 そして更に、先ほどまでいなかった魔物がその鍾乳洞の部屋の真ん中に浮かんでいた。



「何あれ? シャボン玉?」

「魔物のようだが、一体……」



 その魔物は透明で、フワフワとした三メートル程はある巨大なシャボン玉の様な存在だった。

 そんな吹けば飛び、触れば割れそうな肉体を持ちながら、しかし竜郎の精霊眼に映る魔力や気力の量は今まで、このダンジョンで出会ってきた強力な魔物達の上をいっていた。



「なんだか良く解らんが、魔法も体術もどっちも得意なのかもしれない。

 気力と魔力の量が同じくらいだ」

「スキルは、どんなのを持っているかは解る?」

「……スキルは三つだけだな。

 けれど、どっちも初めて見る色で詳しい事は解らない。

 だが、一つは回復系な気がする」

「たった三つだけなの? それも一つは回復系? 逆に不気味だね」

「ああ。俺の方も探査をかけてるが、愛衣の方も危機感知での警告を逃さないようにしておいてくれ」

「うん。解ってる」



 ここまで来るのに、もう何度も魔物と戦ってきていたこともあり、見た目が弱そうでも二人とも警戒のアンテナを最大にして魔物を見つめていた。

 先制攻撃をしようかとも思ったが、相手の手の内が解らないため様子見を優先したからだ。


 そうして待っていると、やがてシャボン玉魔物の気力と魔力が溢れ出始めた。

 それを精霊眼で観た竜郎は、愛衣と心象伝達で情報を共有しつつ、お互いに何が来ても直ぐに動けるように身構えた。

 すると突然そのシャボン玉は、表面がミラーボールの様に小さな鏡面が密集した球体に切り替わった。

 そして次の瞬間に、それはまたグニャグニャと姿を変えていき、一人の少女そっくりなフォルムを取った。



「色や質感は鏡みたいなままだが、あの身長や形って……」

「……私みたいだね──くるよ!」

「──っ!?」



 愛衣が口にするのとほぼ同時に、竜郎の目の前に愛衣そっくりの形をした鏡面体の拳が間近に迫ってきていた。

 それを愛衣がいち早く左手一本で《受け流し》て躱し、右足で上段蹴りをお見舞いするも、それは敵の《受け流し》で躱された。



「これって──」



 愛衣が驚きつつも宝石剣を取りだせば、相手も宝石剣とそっくりなフォルムの鏡面体の剣を体から生やして手に取り、ほぼ同時に切りかかって鍔迫つばぜり合いになった。

 その力はほぼ互角。

 オリジナルの愛衣の方が若干勝っているが、一方的に押せるほどでもなく、これが一対一の戦いであったのなら状況が硬直していただろう。

 だが、ここにいるのは愛衣だけではない。

 竜郎は直ぐにライフル杖のトリガーを引いて十二個全てのサブコアを起動すると、銃口を偽愛衣に向けて細く圧縮し、貫通力に重きを置いたレーザーを一瞬で撃ち放った。



「この──!」

「─────」

「なっ!?」「えっ!?」



 だがそれは体の縦半分を一瞬で竜郎と同じフォルムに変形した魔物が、これまたこちらとそっくりの杖を取り出して十二属性の結界を張って防いでしまった。

 そして更に竜郎の精霊眼に、爆発と光の混合魔法の魔力が収束していくのが見て取れた。



「──愛衣!」

「─うん!!」



 愛衣はそれを心象伝達で伝えられながら名前を呼ばれた瞬間、竜郎を引っ掴んで全力で後方へと退避した。

 すると魔物と愛衣が鍔迫り合いしていた場所、つまり自身の足元に向けて大爆発の魔法を撃ち落とした。

 ドゴーーーーーーーンッと、既に百メートル以上後方に退避していた竜郎達でさえ、爆風に飲み込まれる程の威力の爆発に、二人は唖然としながら魔物がいた場所を見つめた。



「あの魔物の反応が無くなった」

「自爆して死んじゃったってこと?」

「解らない。今確認中だが、どうだろう…」



 竜郎は精霊眼と探査魔法を掛けつつ、念の為に光と火と解の魔力の塊を周囲にいくつか浮かべて精霊魔法で意思を持たせる。



「一種類ずつ三個で組んで周辺探索をしてくれ。

 その際、俺と愛衣以外の反応があったら容赦なくレーザーで焼き払ってくれ」



 そういうとフワフワと三色の魔力が一緒に寄り添いあいながら周囲に散らばっていき、竜郎の命令を遂行していった。

 そうして精霊魔法で手数を増やしながら周囲を確認していると、数千か所から先ほどの魔物と同一の、けれどかなり小さな反応が見つかった。

 そしてそれらは明確な意思を持って集結し始め、近くにいるモノ同士で合体して質量を大きくしていく。

 そして竜郎の精霊魔法に感知され、レーザーで焼かれてまた霧散していた。

 それを解析しながら、竜郎は眉根を寄せた。



「だから平気で自分を巻き込める様な魔法が出来たのか。

 それにしてもやっかいだな」

「ある程度固まったところで、一個一個潰せばいいんじゃないの?」

「いや。どうも精霊魔法の方の攻撃で散っていってるあいつを見るに、体は一定以上の衝撃が加わると目に見えないほど小さく自散するんだ。

 だから見た目には攻撃で消えてるように見えるが、実際にはダメージはほぼ通ってない。

 さらにそれでも失われてしまった一部は、ミクロ単位でも体の欠片が残っていれば再生可能ときてる。

 ただ唯一の救いは、全く攻撃してくる気配がないことからも、不完全な体だとコピー能力は使えない様だって事だな。

 それでも厄介な事には変わりないが……」

「うえー。それじゃあ、どうすれば倒せるの?」

「一番手っ取り早いのは、《レベルイーター》でスキルを無くすこと。

 それ以外だと完全に一つの塊に戻ったところで、霧散させることも出来ない程の高出力の攻撃でもって一撃で決めるってとこか。だが──」

「私達や私達の武器までかなり精巧にコピーして、その能力まで使えちゃうもんだから、まず《レベルイーター》も、高出力の攻撃を当てることも難しい?」

「その通りだ」



 先ほどの愛衣とほぼ同じ剣に武術スキル、竜郎とほぼ同じ杖に魔法スキル。

 これらから見ても、こちらを微劣化コピーして自在に使いこなす事ができるのは明白だった。

 なので向こうは強いスキルや良い装備を、こちらが持っているほど強くなる。



「それって《レベルイーター》もコピーされてるのかな?

 だとすると、迂闊に近づけないよ」

「……解らないが。それは無いんじゃないかと思ってる」

「そうなの?」



 憶測ではなく、ある程度確信を持っている様子に愛衣は意外そうに、その理由を問いかけた。



「エクストラステージで、ダンジョンと戦った時の事を覚えているよな?」

「うん。ちゃんと覚えてるよ」

「その際、仮想の体に入れられただろ? 

 んで。そうなった状態の時。俺の《レベルイーター》と、リアの《万象解識眼》だけは再現できなかった~みたいなことを言っていただろ?」

「あー。言ってた言ってた。

 なんか本当の体じゃないとできない程、複雑だとかなんとか。

 ──そっか。

 ダンジョンでも再現できないようなスキルを、それに生み出された存在がコピー出来るはずがないってことね」

「だと思う。かといって楽観視もできないから、一応警戒はしておこう」



 そうして一通り考察を終えて魔物に対して情報を纏め終わると、今度はどうやって倒そうかという問題になって来る。

 向こうは何時までも戦っていればいいかもしれないが、こちらには三十分という時間制限もある。

 うだうだと時間を費やしてしまい、自分達だけ時間切れで失格でしたー。なんてことになったら目も当てられない。



「という訳で、アイツが完全に元に戻りそうになる頃に、《レベルイーター》を使って当ててみようと思う」

「あの辺のちょっとずつ大きくなってる破片じゃだめなの?」

「不完全な状態の奴に当てると、逆にどうなるか解らないからな。

 今は確実にできそうな方を優先しようと思う」

「解った」



 そんな話が終わって一分半ほど経った頃。

 大分魔物が元のサイズのシャボン玉の体に戻り始め、最後の大きな三つの塊がそれぞれを求めて進みだしていた。

 そしてその速度から結合するであろう中心点を解魔法で割出し、丁度結合と同時に着弾するであろうタイミングで竜郎は黒球を口から吹き出した。


 するとこちらの読み通りに三つが合体した瞬間に、《レベルイーター》が魔物の中へと入っていった。



 --------------------------------

 レベル:101


 スキル:《鏡写複製+10》《霧散回避》《超復元能力》

 --------------------------------



「なっ!? 全部スキルレベルが無いぞっ」

「ええっ!?」



 その高いレベルにも驚くべきなのだろうが、一番の目的であるスキルの無効化ができない事に竜郎はショックが隠せなかった。

 けれど、そんな事を魔物は考慮してくれはしない。

 再びシャボン玉からミラーボールに早変わりすると右半分が竜郎、左半分が愛衣の形という不気味な物体に切り換わった。

 そして右半分が杖を片手に魔法を使い始め、左半分で偽軍荼利(ぐんだり)明王(みょうおう)のアームも使って弓矢を射出してきた。

 愛衣は直ぐに竜郎を持ち運べるように隣で待機していたので、一瞬で攫って弓矢を回避して行く。

 そして竜郎も直ぐに切り替えて、距離が離れてしまったことで《レベルイーター》の維持が辛くなってしまったので打ち切った。

 そして愛衣の腕に運ばれながら精霊眼で相手の魔法を見つつ、アンチ魔法と攻撃魔法を構築していった。



「どうする、たつろー?」

「プランB。高出力攻撃での滅殺しかない」

「だけど高出力の一撃を決めるには、アイツを足止めしなきゃなんないよね。

 それだけの物をするんだったら、こっちも準備がいるし……。

 だけど、あいつを一人で受け持つのはどっちも危ないよね」

「だな。俺だと速さに全くついていけないし、愛衣だと俺の魔法全部が使えるアイツは危険すぎる。

 かと言って今のうちに溜め始めても、完全に集まり終われば愛衣並みの反射神経で躱されてしまうかもしれない。

 だから無駄撃ちになる可能性もある──っと」



 竜郎は相手の使ってきた爆発属性付のレーザーと、風と氷の混合魔法の冷気の風をアンチ化しつつ、こちらからもレーザーを数本打ち込んで牽制した。

 だが向こうも竜郎ほどの速さはないが、それでもアンチ魔法を完成させて無力化していた。

 それを愛衣の腕に抱かれながら観察していた竜郎は、苦い顔を取った。



「うーん。霧散させずに、あいつの動きを数秒止められればいいんだけど……。

 たつろーは何か思いつく?」

「衝撃を与えずに封じ込めるってのは俺の魔法でもいくつか思い浮かぶが、向こうも全く俺と同じ魔法が使えるから、直ぐに無効化されてしまうだろうな」



 氷漬けにしてしまおうとも、土に埋めてしまおうとも、直ぐにアンチ魔法なりなんなりで自力で何とかしてしまうだろう。



「そう言えば、私の気獣技でのドラパンもマネできるのかな?

 あれって厳密に言えば私だけの力じゃないから、スキルがマネできるようになったからって出来るもんじゃ無いしさ」

「そう言う話なら、俺の精霊魔法もそうだな」



 竜郎は試しに大量の氷の魔力球を生み出し、それら全部に精霊魔法を使ってアンチ化されないように、技を変えながら魔物を氷漬けにしてくれと頼んでみた。

 すると向こうは精霊魔法を一切使うことなく、アンチが難しいと察して力ずくで蹴散らしていた。

 その時に左半身の愛衣のフォルムの方も使っていたが、気獣技を使う気配は一切なかった。

 勿論、それだけで気獣技も精霊魔法も使えないと決めつけたわけではない。

 だが気獣技は強力だし、精霊魔法は手数を増やすのに有効だ。

 それだけに出来たのなら、さっき竜郎の精霊魔法に対して使った方が良かっただろう。

 現に今、所々凍りついてしまっているのを治す羽目になっているのだから。


 そんな事を観察結果から考察し、竜郎は新たな作戦を考えていくのであった。

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