第232話 スキルを無くした岩山
竜郎と愛衣がミッションを終え、カルディナ達のいる方へと向かっている最中。
岩雨や岩棘。そしてこちらの攻撃に対して石化の粉を吐かなくなった事で、カルディナ達はその成功を確認した。
「ピィーー!」
「おとーさま達ですの!」
カルディナの探査魔法によって、竜郎と愛衣の反応を補足。その鳴き声に応じた奈々が、その方角を指差した。
なのでこちらから迎えに行けば、ちょうど竜郎と愛衣が浮上してくるほんの少し前に辿り着いた。
それから愛衣が竜郎を抱えて空中飛びを使ってジャンヌの背に乗り、ウェットスーツを脱がずにそのまま《アイテムボックス》などに収納して手間を省いた。
「どうだ? レベルの無いスキルは、一つも無かったから全部潰してきたんだが」
「ばっちりっすよ。さっきから、ただの顔と目がある岩山って感じっす」
「おー…ぉおお? なんかプルプルして───」
「ア゛ア゛ア゛ァ"ア゛ア゛ア゛ア゛ァ"ァ"ア゛ア゛ア゛ア゛ーーーーーア゛ア゛ア゛ア゛ァ"ァ"ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーーーア゛ア゛アア゛ア゛ア゛ア゛ァ"ァ"ァ"ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーーーア゛ア゛ァ"ァ"ア゛ア゛ア゛ーーア゛ア゛アーーーア゛ア゛ア゛ア゛アーーーー"ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ"ァ"ア゛ーーーア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ"ァ"ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ"ア゛ア゛ーーーア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーーーーア゛ア゛アア゛ア゛ア゛ア゛ア゛アーー"ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛アーーー"ア゛ア゛ァ"ァ"ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーァ"ーーーァ"ァ"ーーーァ"ーーア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーア゛ア゛ァ"ァ"ア゛ア゛ア゛ーー!!!!」
「「「「「「「─────っ」」」」」」」
愛衣が遠見スキルで岩山魔物を観察していると、唐突に痙攣し始めたかと思えば、それなりに離れた場所にいるというのに、耳が破壊されそうな程の大音量で喚き始めた。
「うるせえええええええええっ!!」「うるさあああああああああいっ!!」
竜郎は爆発属性を交えたレーザーで、愛衣はロケドラぱん(※愛衣曰く、ロケットドラゴンぱんちの略)を示し合わせてもいないのにまったく同時に撃ち放った。
するとまずレーザーが当たって岩山のほんの一部が削られ、白い気力でできた竜の頭が遅れて別の場所を削った。
「ァ"─────…………………………」
「し、静かになりましたね。
多分今のは、急にスキルが使えなくなったストレスによるものじゃないかと……」
「でかい図体の癖に、子供みたいですの」
「まあ、急にスキルが使えなくなったら恐いだろうけどな」
竜郎は取る側なので問題は無いのだが、確かにさっきまで使えていたはずのスキルが突然使えなくなったら、魔物であっても恐怖だろう。
元の世界ではスキルなんてないのが普通だったのに、今は無いと不便を感じてしまう。
自分も随分この世界に染まったもんだと、竜郎は少し苦笑した。
とそこで、黙りこくっていた岩山が今度はゆっくりと前進し始めた。
「ねー、たつろー。なんか、こっちに来てるよー」
「本当だな。スキルも使えないのに、何ができるんだろう」
「……けど。あれだけの巨体なら、こちらに倒れ掛かって来るだけでも相当な威力じゃないですか?」
「範囲も広いですし、威力も抜群。確かにそれは恐いですの。
ですけど、それって躱された場合自力で立てますの?」
「無理じゃないかなあ。口はあっても手も無いし。
……まあ、手があっても立てそうには見えないけど」
そんな事を話しあっている間にも、岩山が近づいてくる。
その光景は中々に壮観で、竜郎はもう少し見ていたくもあったのだが、近づかれて何をされるか解った物でもないので、一計を案じてみる事にした。
「とーさん。何をしてるんすか?」
「いや。あいつが近づいたら、何をする気なのか確かめたくなってな。
見た目も行動も知性の欠片も伺えないし、子供だましでもなんとかなるだろ」
そう言いながら竜郎は光と火の混合魔法で、人型の赤く光る物体を十体造りだした。
そこで大体何をするつもりなのか察した愛衣たちは、何も言わずに見守り続ける。
「そんじゃあ、いってこーい」
竜郎が杖を振って命令すると、その人型の光はフワフワと浮遊しながら岩山に近づいて行く。
そしてある程度近づくと、魔物が動きを止めた。
しかし動かなくなっただけで何をするでもなくジッとしていた為、竜郎は第二の作戦を実行した。
「てーー」
また杖を振って適当な命令を出すと、その赤い光の物体から人型のレーザーが一斉に放たれた。
そしてそれでようやく、この謎の光る物体が敵なのだと認識したようで、あちらも動きを見せてくれた。
その魔物は巨大な体躯を前後ろに少しずつ揺らし始め、暫く観察していればその揺れが大きくなっていき……。
「「「「「あ」」」」」「ピィ」「ヒヒン」
そのままリアが言っていた様に前向きに倒れ掛かり、盛大に水飛沫と音を立てながら竜郎の魔法で造った赤い光の人型十体。その全てが押し潰されて、消されてしまった。
だが竜郎達からしたら被害はそれだけ。今のところ、ほぼ無害な攻撃だったという他ない。
けれどその魔物は事前に指摘していた通り、自力で起き上がることができないらしい。
水に体が半分以上浸かった状態で、左右に体を揺らして暴れていた。
これが綺麗な円錐形の山だったのなら、まだ左右に転がって動くことも出来たのであろう。
だが生憎ゴツゴツとした体形が災いし、動けば動くほど水底にめり込んでいった。
「これなら全部レベルを残しておいても、問題なかったな」
「お馬鹿さんだなあ」
「全くですの…」
あれだけ猛威を振るっていた魔物。
それが今では哀れな、ただのでかい岩の塊と化したその姿に、竜郎たちはため息一つ吐いた。
「それじゃあ、解体していくか。どれくらい壊せば倒せるんだろうな」
「………………えーと。
どうやらゴーレムの一種のようなので、動力になってる魔石を破壊。
もしくは撤去してしまえば倒せるはずです」
「その場所は解るっすか?」
「はい。えーと、だいたい下部の水底に触れていた辺りで、そこの中央から左に十二メートル程いった場所です」
竜郎は解りやすいように、光魔法でマーキングしてリアの示す位置を確認していく。
「この辺りか?」
「もう少し右に───ストップ。その位置から、もう少しだけ上に───そこです」
「あそこを掘っていけばいいわけね」
「そのはずです」
そうして竜郎達は岩山の魔物に上陸すると、魔法や武器を使ってトッテンカッテン掘削を始めた。
掘っていくにつれて横揺れが酷くなっていくが、それでも無視してガンガン掘り進め、その時にでる瓦礫は竜郎が残さず《無限アイテムフィールド》にしまっていく。
そんな事をしながら十メートルも掘った辺りで、真っ青な色の魔石の一部分が見えてきた。
「これはかなり大きそうですの」
「売ったら相当の値が付きそうだな。まあ、お金には困ってないんだが……。
それでも念の為、傷付けないように取り外そう」
「そうだね。こんだけ大きいなら、綺麗な状態で見てみたいし」
そうして竜郎達は化石を掘るかの如く慎重に周りを掘り進めていき、やがてその全貌を暴きだした。
そこまで来ると、さすがに立っていられない程魔物は体を揺らして抵抗してきた。
何故ならダンジョンの魔物にとって魔石を敵前に晒すなど、心臓を差し出しているようなものなのだから。
「んじゃあ、今一番レベルが低いのは……奈々だったか」
「あー。あたしが強いの何匹か倒したせいで、レベルが一個上になったんすよね。
そんじゃあ、奈々姉がサクッと決めるっす」
「解ったですの。んしょっ、ん~~しょっ!」
せっかく綺麗に掘り出した魔石に傷を付けないように、奈々は《真体化》した状態で8メートル近くある魔石を持ち上げようとしていた。
体格的に考えたら絶対に無理なのだが、竜種の基礎能力とステータスでの補正も相まって、二つの手でボコッと岩山の魔物の体からもぎ取った。
《『レベル:49』になりました。》
「レベル49になったですの!」
「奈々も遂にレベルキャップ到達か。
これで後はアテナが1レベル上がれば、全員レベル上げの一段階クリアだな」
「それじゃあ、早く陸に上がろうよ。強敵続きで疲れちゃった」
「だな。んじゃあ、ぱぱっと後片付けして休もうか」
奈々の持つ巨大な魔石と死体を《無限アイテムフィールド》にしまうと、竜郎達はジャンヌの背に乗って一気に次のポイントがある陸地まで急いだ。
そうして水の上を飛んで行くと、突如陸地から砲台が横一列一杯に出現した。
「楽に上陸させてくれる気は無いみたいっすね」
「もー! 休ませてよー!!」
愛衣が愚痴をこぼしている間にも、その数百機の砲台から強力な爆発属性の魔法がかけられた砲弾を連射してきた。
「ジャンヌは回避優先。他は迎撃と防御を!」
「了解」「ピィ!」「ヒヒーン」「ハイですの」「了解です」「了解っす」
そうして砲弾の雨霰の中を掻い潜り、その全てを破壊するのに一時間以上かけてようやく陸地に着陸と相成った。
「はあー……。もうだめ、休ませて」
「右に同じく……」
次の階層へ渡るポイントの光る溜池の前で、竜郎達は休憩用の家を出す気力も無く、着の身着のまま地面にだらしなく寝転がった。
ここまでくれば、さすがに魔物もトラップも無いようで、疲労した体や消耗した魔力等をそれぞれ回復していった。
そうしてある程度回復すれば、家を出して食事や本格的な休憩を取り始めた。
「それにしてもですよ。
レベル7のダンジョンでも難易度が高い方なのに、それと比べても桁違いに攻略難度が上げられている気がします」
「確かに。
結構適当な性格っぽかったし、アップデート時の調整ミスッたんじゃないかと疑いたくなるな」
「何だか本当にありそうで嫌ですの…」
奈々の何気なく漏らした言葉に、全員が苦笑して応えた。
「でもまあ再開初日っすから、これから修正していくかもしんないっすよ」
「だったら、数日ここで待機してから次の層へ行ったらどうかな。
時間を空ければ、調整もし直しといてくれるかもしんないしさ」
「そうさなあ」
そんな愛衣の意見を耳にしつつ、竜郎は今後について考えてみる。
本当に調整ミスだとしたら、数日で直っているかもしれない。
その場合、今よりも楽に安全に攻略を続ける事ができる。
一方。調整ミスだと仮定して、そのまま時を置かずに超高難易度のダンジョンに挑戦した場合。
一匹から取れるSPや素材など、難しいだけのリターンも十分にあった。
それはこの層だけで取れた数々の素材を、先ほどリアに頼んで調べて貰った結果からも間違いない。
どれも以前より、さらに上級の素材ばかりだったのだ。
(安全を取るか。収入を取るか……か)
その二択で悩んだ末に、竜郎は答えを決めた。
「この世界での一週間。つまり十二日間ほど、ここで時間を置いてみよう。
確かに上質な素材が取れるのは有難いし、一体から取れるSPも破格だ。
だが逆に敵が強すぎると、《レベルイーター》が使い辛いという点がある」
「あっ──そっか。半殺しで止めてなんて、余裕があるからこそできる事だし。
そう考えるとSPの獲得量っていう点では、前とそう変わらないかもしんないね」
「ああ。実際に、この層で取れたSPを計算してみても、ちょっと多いかなくらいだったし。
ここは安全性を確保しておこうと思う。
まあそれに、こんな層が続くとしんどいしな」
「それは言えてますね。素材は惜しいですが、身の安全の為にもそうした方がいいかもしれません」
「おとーさまが、それでいいのなら。わたくしに異存はないですの」
「ピィユューー」「ヒヒーーン」「あたしもっす~」
誰からも否定の意見は出なかったので、竜郎達はあのなんだがポヤーっとしたダンジョンの調整ミスだと仮定して、修正されることを祈りながら十二日間をここで過ごすことにしたのであった。




