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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五章 呪われた少女編

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第231話 石化の対処法

 超大型の魔物。

 それだけで脅威だというのに、それは生物どころか非生物までも石化してしまう強力なスキルまで使う。

 それは落ちた白い粉が、水面をも石化させてしまっている事からもうかがえる。

 そしてさらに悪い事に、その石化した水面を取り込んで、五十メートルはあった巨体をさらに成長させていた。



「石化した物体を喰って吸収か……。

 あのスキル自体、あまり使わせたくはないな」

「攻撃して体を削っても、その辺を石化させて食べちゃえば元通りーって事だよね?」

「だと思います。そしてあの魔物の下には、いくらでも供給されるダンジョン製の水が溢れていますので…。

 石化スキルを何とかしないと、回復用の資源が溢れているこの場所は厄介すぎますよ」

「かと言って、とーさんの《レベルイーター》の射程範囲まで近づこうものなら、石化をブワーで危険っすよね」

「面倒な奴ですの」

「ピュィー」「ヒヒーン」



 奈々がもらした言葉に同調する様に、カルディナとジャンヌも鳴いていた。

 それに竜郎も心の中で頷きながら、情報整理の為に今回とれる方法をいくつか思い浮かべてみる。


 まず一番手っ取り早いのは、アテナが言った様に《レベルイーター》を当ててスキルを使えなくさせる事。

 だがこれもアテナが言った通り、あの石化の粉を吹きだす射程範囲は、かなり広いので近寄るのは危険。

 相手は文字通り山の如き動かざる魔物ではあるが、その射程外からの《レベルイーター》の行使は厳しい。

 次に思い浮かべられるのは、魔法をミルフィーユの様に何層も重ねて防御コーティングした、先ほどと同様の魔弾を打ち込んでみるというもの。

 これは自分に防御コーティングして近づいていき、《レベルイーター》の射程範囲にまで近づいてみるというのもいいかもしれない。

 そこで試しにカルディナと一緒に軽く作った魔弾に、十層の防御層を組み上げて打ち込んでみた。

 だがこの石化スキルは伝染病の様に近くに石化中の物体があった場合、隣接する物体まで石化させてしまうらしい。

 これはさすがに五層目あたりで伝染は食い止められるが、それでも石化した物体にさらに石化スキルをかぶせれば伝染力は強まり、より奥まで浸食できるようだと遠見の眼鏡で観測していたリアが解説してくれた。



(あと残る手は……)



 最後に一番安全な策。即ち逃走である。

 レベルが上がってから相手が厄介なのもあって、なかなかSPを確保できないが、それでもここまででかなり稼ぐことができた。

 そして宝物庫や、これまでの行程で実入りも十分すぎる程だ。

 ここで帰ってしまっても、問題は無いといえばない。



(けどなあ。せっかく道中レベル7の状態で、この層までショートカットできたんだ。

 こんな機会は二度とないだろうし、何とか攻略してみたいという気持ちもある…)



 けれど欲にかられて大切なものを失うよりはいいかもしれない。

 竜郎にとってどんな宝よりも愛衣が、そしてカルディナ達が大切なのだから。

 そう考えた竜郎の気持ちが逃走に傾きかけ、気落ちしながら下を見た。



(………………待てよ。あの水面は確か……──っいけるかもしれない!)



 竜郎は今持つアイテムなども加味しつつ、作戦を組み立てていく。



「カルディナ。調べたいことがある。手を貸してくれない?」

「ピュィーーー!!」



 竜郎に頼りにされることが何よりも嬉しいカルディナは、張り切ってそれに応じた。



「それと愛衣も少し手伝ってくれ」

「もちろん、任せて!」



 カルディナと同じくらい、もしくはそれ以上に竜郎に頼られた事に喜びながら、愛衣は満面の笑顔で応えた。



「それじゃあ。できるだけ水面に近い辺りで、あいつに攻撃してくれないか?

 威力はそこそこってくらいでいいから」

「水面近くにね。うん、解った。やってみるね」



 なんだか良く解らないが竜郎が言っているのなら、まあいいかと軽く引き受けた愛衣は、自分にとってソコソコの攻撃をするために鞭を取り出した。

 そして黄緑色の気力を先端の三角錐の部分から放出し、やがてそれは猪の形を取り始めた。



「ん。こっちは準備できたよ」

「じゃあ、ジャンヌ。水面ギリギリまで高度を落としてくれ」

「ヒヒーン!」



 岩雨の処理をしていたジャンヌが一声鳴くと、高度を下げて水面ギリギリまでの高さになった。



「よし。それじゃあ、愛衣。いっちょ頼んだ」

「はいよー! ───てりゃあっ!!」



 愛衣は掛け声と共に鞭に気力を注ぎながら上から下へと振りぬいて、先端部分を遠くに向かって撃ち放つ。

 そして程々に勢いが付いた所で鞭を引き戻すが、先端の黄緑色の気力で構成された猪だけは切り離されて、そのまま真っ直ぐ突き進んでいく。

 それは四本の足で空を蹴りながら、水面を走る様にその速度を上げて岩山魔物に穴を穿たんとする。



「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ーーーー!」



 だがそれを黙って受けてくれる訳もなく、石化の粉を気獣の猪に向かって放出し、水面ごと石に変えていった。

 そして石に変えた部分をズルズルと自分の体に引き込んでいき、また体積を大きくさせていた。

 だがその間に、竜郎は知りたい事をカルディナと共に綿密に調べ終わった。



「やっぱりそうかっ。これなら何とかなるかもしれない」

「ほうほう。して、その心は」

「今回は二方面作戦でいこうと思う。

 まず俺と愛衣を除く他の皆には、空からあいつの注意を引き付けておいてほしい」

「それはいいですけど、おとーさま方は何処へ?」

「俺と愛衣は、ちょっくらダイビングして来ようと思う」

「「「「だいびんぐ?」」」」「ピュィーイ?」「ヒヒン?」



 一言では伝わりきれなかったようなので、竜郎はさらに細く説明をしていった。

 


「まず最初に目を付けたのは、ダンジョンの特性だ。

 ダンジョンってのは、例えばこうやって────ここの水を《無限アイテムフィールド》に大量にしまいこんでも、一瞬で元に戻るだろ?」

「そうっすね。戻らなきゃ深海のステージ何かは、全部の水を《無限アイテムフィールド》にしまっちゃえば楽ちんっすから」

「ああ。何というか、環境を維持しようとする力みたいなのが常に働いてる状態だ。

 そこでだ。もし水面を石化させた場合、水の体積はどう変化するのか調べてみたんだ。

 そしたら石化した端から新しい水が供給されて、水深6メートル以上下なら直接水面を石化させようとしても、それ以上は範囲から逃れられるんだ」

「ああっ。って事は他の皆が空に注目させている間に、私とたつろーが水深6メートルより下から近づいて《レベルイーター》を当てると。そういう事?」

「ああ。そういう事だ。

 そして俺達は水中で息をするための道具、視界を確保する道具、濡れないスーツを持っている」

「確かに。不測の事態があっても、お二人なら実力や情報共有能力からみても何とかできるでしょうし。

 それで石化スキルをどうにかできれば、こちらの攻撃も当たるようになりますね」



 こうして竜郎と愛衣。その他のメンバーによる二方面作戦の決行が決まった。

 まず竜郎と愛衣は、大海犬のドロップアイテムで手に入れた品々を身に着けていく。

 コートと鎧の上からウェットスーツを着込み、ゴーグルとシュノーケルを付け水迷彩の羽衣も念の為肩にかけた。

 そして竜郎の片手には杖、愛衣の片手には宝石剣、残った方の手でお互いの手を握り合った。



「皆は念の為、回復薬を飲んでおいてくれ。大分消耗してるしな」



 せっかく大量に手に入れたのに一度も使っていなかった回復薬を出すと、それぞれに配って飲んでもらう。

 これでカルディナ達は、ド派手に注意を引き付けてくれることだろう。

 そうして万全に準備を整えて、竜郎と愛衣は水の中へと飛び込んでいった。

 それを見届けたカルディナ達は、水面とは真逆の空へと高く昇っていく。



「それでは、派手にいくですの!」

「ピュィー!」「ヒヒーーン」「はい!」「了解っす~!」



 回復薬を飲んだおかげで再び全力でのパフォーマンスが期待できるようになった面々は、気を引き締めて現在65メートル近くまで成長した岩山魔物よりも高い位置から各々攻撃を加えていく。

 カルディナは魔弾を次々と打ち込み、ジャンヌは《竜角槍刃》にアテナの発想を付け加えた──言うなれば竜角槍風刃を撃ち放つ。

 それに倣って奈々も《竜爪襲撃》にステータス下降の呪魔法を宿した、竜爪呪襲撃を、リアはロケットランチャーを構えて広範囲に魔弾が散らばる炸裂弾を、アテナは鎌の斬撃と雷と風を混ぜた雷風斬撃を──と。

 一つ一つが大抵の魔物を滅殺するほど威力の攻撃を、いくつも放ち倒してしまうくらいの気概で注意を引いていく。

 そしてそれはしっかりと功を奏し、魔物も人数が減った事など気にも留めずに空に釘付けになっていったのであった。


 一方その頃。水中に潜った竜郎と愛衣の二人は、魔道具のシュノーケルでの慣れない呼吸法にも適応し始め、順調に水深10メートル辺りから魔物に向かって進行中だった。

 道中剣魚が度々見受けられたが、水迷彩が効いているのか偶然こちらに向かってきた個体以外は、戦闘になることなく穏やかに竜郎の水魔法で二人は運ばれていった。

 そうして長い距離を潜水状態でやって来た二人の目には、巨大な岩肌が見えてきた。



『水底からの高さも合わせたら、こいつ百メートル以上は余裕でありそうだな』

『デカイは強い。ジャンヌちゃんで解ってたけど、敵で出てくると、それが身に染みて解るね』



 念話で会話しながら水魔法を切って、自分たちの手足でゆっくりと泳いで近づいていく。



『よし。これくらいの距離ならばっちりだ。とっとと済ませてしまおう』

『その間の護衛は任せて』

『ああ、頼りにしてるよ』



 竜郎はコートに染み込んだセコム君も念のため展開し、一度シュノーケルから肺一杯に空気を吸い込む。

 そうしたら、それを外して《レベルイーター》を発動させ、黒球を至近距離から着弾させた。



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 レベル:94


 スキル:《石化の息吹 Lv.14》《石喰い Lv.5》《巨岩棘 Lv.7》

     《巨岩大剣 Lv.9》《散弾巨岩石 Lv.5》《超鋼体 Lv.3》

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(───はあっ!?)



 巨大エイの時も衝撃的だったが、この魔物はさらにその上をいっていた。

 その為、竜郎は思わず肺から息を出してしまいそうになるのを何とか押し込む。



(スキルレベル14って、そりゃあ高いことは解っていたが……かなりやばいな。

 それ以外もそこそこ高いし、早い所全部取っておこう)



 竜郎は急いで、まずは一番厄介な《石化の息吹》を吸収していく。

 それから岩雨を降らすスキルや岩棘のスキルを奪っていき……息が持たなくなってきたので、一旦黒球を飲み込んで糧にしてから、もう一度酸素を供給して《レベルイーター》を再開する。



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 レベル:85


 スキル:《石化の息吹 Lv.0》《石喰い Lv.0》《巨岩棘 Lv.0》

     《巨岩大剣 Lv.0》《散弾巨岩石 Lv.0》《超鋼体 Lv.0》

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 今回は巨大で危険そうな敵なので、少しだけレベルの方も頂いておく。

 それから黒球を飲み込めば、この魔物からトータルで(214)ものSPを入手することに成功した。



『よっしゃ。これで石化スキルも、他のスキルも無くなったぞ』

『やったね! それじゃあ、カルディナちゃん達と合流して倒しちゃお』

『ああ!』



 そうして竜郎と愛衣は、カルディナ達が待つ方へと、水魔法を使った流れに乗って急ぐのであった。

次回、第232話は5月10日(水)更新です。

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