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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五章 呪われた少女編

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第229話 無限海藻

 巨大な魔物を追加で三体倒した後、竜郎達は再び静かに流れるようになったいかだに乗って更に先へと進んでいく。

 これでやっと落ち着けたかと少し筏に腰掛けようとした──のだが、そう甘くはないとでも言うかの如くまた足場が傾いていく。

 そうして傾いたと思えば直ぐに八十度の傾斜になり、竜郎たちは落とされる前に《真体化》したジャンヌの背に避難した。



「この流れからして、また何かが出てくるんだろうな」

「結構しんどいね。もう少し休ませて欲しいよお」

「右に同じくです…」



 大量の大きな蚊に、剣のような魚の群れ。

 そして先ほどは強力な魔物複数体と戦って体力や精神が消耗しているというのに、このダンジョンは勝手に進んでいってしまうので碌に休む事も出来なかった。

 なのでカルディナ達はまだしも、普通の人間では少々きつくなってきた。

 そんな弱音がこぼれた所で、探査魔法に魔物の反応を感知した。



「早速お出ましだ。今回は……細長くて平べったい何かだな」



 細長く平べったい何かとは何ぞやと、皆がほぼ直角に降りていく筏を追いながら水面を注視していると、その奥底から紫色の海藻が何本も飛び出してきた。

 しかも幅一メートル、長さ数十メートルの超特大サイズの海藻が。



「不味そうな、でっかい昆布ってとこかな」

「だろうな。──あれはなんだ?」

「どれですの?」

「海藻の裏っかわに、何か別の魔物がついてる」

「別の魔物ってどんな──って。またあれっすか」

「うげえ。蚊じゃん!」



 海藻の裏に付いていた黒い玉がボトボトと水面に落ちていくと、孵化してボウフラをすっ飛ばし、十センチの蚊の魔物になって宙を舞い始めた。



「反応からして最初に見たのよりは……弱いと思う。だが──」

「数が多いですね」

「って、それだけじゃないよ!

 たつろー、マズ昆布が筏を壊そうとしてる!」



 蚊に気を取られていた竜郎達が愛衣の指差す方に目をやれば、何本もの巨大紫昆布──愛衣曰くマズ昆布が何本も滝の様に傾斜のついた水面から現れていた、

 そしてそのマズ昆布は筏の四辺に万遍なく張り付いて、隅から浸食するかの如く足場をへし折って破壊活動を始めていた。



「───ホントだ! 直ぐに止めないと、何処に行けばいいか解らなくなるぞ!

 俺とジャンヌは蚊の殲滅にかかるから、愛衣たちは昆布の撃破。

 カルディナは魔法対策として、愛衣の護衛を最優先にそっちに参加してくれ!」

「解った!」「ピュィー!」「ヒヒーーン!」



 そうして数千もの蚊が再び舞い始めた頃、竜郎達は一斉に動き始めた。

 竜郎はジャンヌと一緒に風と光、闇と土、そして火の混合魔法を選択する。

 まず土と闇の混合魔法で頑丈で柔軟性のある管を何本も造りだし、その先に火が煌々と燃えるボックスを造り上げた。

 そしてそのボックスの後ろには、太い排熱の管を取り付けた。

 それが出来れば後、数十本の管を操り風魔法で掃除機の様に蚊をドンドン吸い取っていく。

 吸い込まれた蚊は火のボックス内で炭と化して、後ろの太い管から熱風と共に排出された。

 それでも吸いきれずに竜郎の方にやってきたモノには、コートに染み込ませていたスライム──セコム君を起動して自動排除。

 そしてジャンヌは、硬皮と耐久力なら蚊の攻撃は何もしなくても無効化できた。

 そうして蚊は、みるみる内に数を減らしていった。


 一方。マズ昆布対策に乗り出した愛衣たちは、自分の周りにいる蚊を適当に退けながら筏に近づく為に行動を開始した。

 まず愛衣は以前ジャンヌが倒した全身金属の鎧魔物から手に入れたモーニングスターをリアがパパッと改造して、大きさなどを調整した物を取り出した。

 そして薄茶色の気力を放出し、モーニングスターのトゲトゲ鉄球の先から猿の尻尾の形を取った気力を伸ばしていく。

 そうして筏のふちまで伸ばしたら、その先端に猿の右手を出して掴んだ。

 そうしたらターザンロープの様に愛衣はジャンヌの背から飛び、ほぼ直立した筏に降り立った。

 カルディナは竜郎の願い通りに、愛衣の護衛としてその後ろに付いていく。


 そしてそれを見ていたアテナは、「なるほど」と口に出した後。竜装を称号:譎詭変幻の効果を使って形を変化させ、尻尾をさらに長く伸ばしていく。

 そして体に対してアンバランスな長い尻尾にすると、それを筏に伸ばして愛衣と同じように縁を掴んで後を追う。

 最後に残った二人はと言えば、奈々に抱えられてリアが筏に隣接すると、まず赤茶の炎を右手に宿して表面を撫で火を塗布していく。

 そうしたら左手に金槌を出して同じ形の赤茶の金槌を重ね合わせると、《アイテムボックス》から鉄を取り出してそちらにも赤茶の炎を灯す。

 その鉄を赤茶の炎を塗布した筏の部分にベチャッと押し付け、金槌で叩く。 

 すると鉄と筏の木材らしき物体が混ざりあった状態で、板が飛び出し足場になった。



「もう大丈夫ですから、ナナも行って下さい」

「解ったですの!」



 その足場に降ろしてもらったリアは、奈々と別れて独自に足場を次々と生成していった。


 そんな事をしている一方で、竜装の尻尾で縁を掴んだまま筏の上を走ってアテナが昆布を切り裂こうと鎌を振り降ろす。

 しかし見た目に反して異様に硬く、鎌が弾かれてしまった。



「なんすかこいつ。海藻のくせして、とんでもなく硬いっすね。

 今までのなら、このくらいで大概サクッといけたんすけど───ねっ!」



 今度は竜力の出力を上げ、新しく覚えた雷と風の魔法をブレンドし威力を押し上げ再度斬撃を食らわせた。

 そうして、ようやくマズ昆布を一枚切り裂くことに成功した。



「ふうっ──。こりゃあ、しんどそうっすね」

「てりゃああ!」「ピィューーー」

「あっちは絶好調っすね。あたしもガンガンいくっす!」



 愛衣とカルディナがザクザク昆布の伐採をしている姿に背中を押され、アテナも大鎌を手に行動を再開したのだった。


 その間に足場をリアが十分に造り終えた頃には、そこを愛衣やアテナも利用し、機動力が増して次から次へと水面から出てくる昆布を切っていく。

 だがその度に蚊を追加され、竜郎とジャンヌはそちらに掛かりきり。

 他の皆も、とんでもなく硬い昆布伐採に掛かりきり。

 正直に言って、これではきりがなかった。そんないつ終わるかもしれぬ様子に、皆が焦れてきはじめる。

 そんな中で竜郎は、蚊を除去しながら考えていた。



(何か突破口を見つけないとまずいな……。

 そういえば、あの昆布はどっから湧いているんだ?)



 今この状態で、それを探るための解魔法での探査は厳しい。だが、多少無理をしてでもやらなければ押し負けるのは必至。



(しょうがない。魔力の消費はもっと激しくなるが……)



 竜郎は覚えたばかりのスキル《多重思考 Lv.1》を起動させ、それで出来たもう一つの思考領域を使って、もう片方の手に出した解魔法用の杖で水中探査を試みた。



(──あれか! 何か薄い板のような魔物が、背中から生えた昆布を切り離して操縦しているみたいだな。

 んでもって補充はし放題と)



 見つけた魔物はいくら昆布を伐採されても、すぐに新しい昆布を生成しこちらの筏を破壊しにかかってくる。

 そしてその際、律儀に蚊の卵もつけていた。

 それが解ったところで竜郎は一度、多重思考を打ち切った。



「あれさえ何とかできれば、この場はしのげそうだ」

『おーい。愛衣、今大丈夫か?』

『うん。大丈夫だけど、これじゃあキリがないよー。何か見つかったの?』

『ああ。その昆布と蚊の発生源を見つけた』

『ほんと!?』



 竜郎は念話に切り替えて愛衣に話しかけると、先ほどの魔物の情報を愛衣に心象伝達でダイレクトに伝えた。



『でだ。俺が今から、その魔物までの道を開ける。

 だから愛衣には止めをさしてほしいんだ。

 けど少しの間しかできないから、一撃で頼む』

『解った。けど、この魔物はこの昆布よりも硬いみたいだね。頑張んなきゃ』



 竜郎から心象伝達で伝えられた探査魔法の情報から、愛衣はある程度の耐久力を想定して気合を入れ直した。

 何故なら、その魔物は背中から切り離す用の昆布と、さらに亀の甲羅の様に守るための昆布も生やしている。

 そしてその上で本体自身は昆布の数倍の硬度を誇っているので、愛衣でも中途半端な攻撃をすれば一撃での撃破は困難なのだ。


 そんな事を考えつつ愛衣は護衛をカルディナに任せて、自身は右手に白い気力、左手に黒い気力を纏って力を溜めはじめた。

 竜郎もそれを感じつつ、こちらも再び多重思考を発動して深い水の中に潜む魔物までの道を作る準備をしていく。



『こっちの準備はOKだよ! いつでもどうぞ!』

『こっちも────よし。準備ができた。それじゃあ、やるぞ──五秒前』

『『四、三、ニ、一──』』

『いくぞ!』

『ばっちこーい!』



 タイミングをしっかりと念話で合わせ、竜郎はジャンヌとの蚊対策の方も疎かにする事なく水魔法を行使した。

 すると竹を割ったように真っ直ぐ水面に切れ目が入り、標的の魔物がいるかなり深い所まで水が退いた。



「はあああああああっ!!」



 愛衣はその瞬間。ひじを曲げて後ろに引いていた両腕を同時に前にだし、手首同士を当てて手の平を開いて勢いよく突き出した。

 すると白と黒の気力が混ざり合い、モノクロの鱗をもつ巨竜が放たれた。

 それは触れる全てを消し去りながら、竜郎が一時だけ切り開いた道を突き進んで目的の魔物へ迫っていく。

 そして背中の昆布を消滅させながら、本体に接触したその時──気力で構成された巨竜の顎が容易く魔物を砕いて破壊した。



《『レベル:66』になりました。》



『また結構レベル上がったよー』

『って事は、無事倒せたみたいだな』

『うん。それに昆布が動かなくなったよ!』

『みたいだな。それじゃあ、蚊を全部殺したらそっちに行く──おっと』



 竜郎が愛衣と念話で話していると、水面と筏も水平に戻っていった。



『これで一心地つけられればいいんだが…』

『ちょっとは休憩したいよねぇ』



 愛衣も特大の大技を使ったばかりで、体がだるくなるのを感じていた。

 それに竜郎も同意しながら蚊を全て倒してから、一回り程小さくなってしまった筏の上に戻った。

 それから水魔法で水を操って、先ほど愛衣に粉々にされた魔物の死骸と大量に伐採された硬い昆布を回収していった。

 どうやら昆布を生み出していた魔物は、二十センチほどの厚さの物凄く硬い透明な板の様な物体に、紫色の昆布を生やしたモノ。

 といった風体のモノだったようで、透明な硬い板の欠片が大量に手に入った。

 そしてそれを《万象解識眼》で観ていたリアは、また貴重な素材が手に入ったと喜んでいた。



「これは強度もさることながら、魔力との相性が凄くいいですよ。

 タツロウさんの杖の素材の一部として使えそうです」

「マジか。なら、できるだけ回収しておこう」



 そうして竜郎は愛衣をんぶしながら魔力回復を図りつつ、先ほどの魔物の死骸をさらに密に探していくのであった。

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