第228話 新技開発
腕を伸ばせば二十五メートルはあった巨大エイを水面に落とし、そこで竜郎達は筏に目を向けた。
すると既に剣魚達に埋もれて、沈もうとしている所だった。
あれがこのダンジョンの行先案内を兼ねているのだろうと感じていた竜郎は、慌てて剣魚を吹き飛ばした。
そして風魔法と愛衣の盾で剣魚の突撃をいなしつつ、巨大エイの両腕の十メートル級の大剣を回収してから死体の元へ近づいていく。
だが両腕を千切られ口元はグチャグチャ、さらに毒まで体内に入っていたというのに未だに息をしていた。
「これで生きてるのか。とんでもなくしぶといな。
ついでだからSPを貰っておこう」
「おー。貰ったれー!」
愛衣の言葉を耳にしながら、竜郎は瀕死の魔物に《レベルイーター》を当てていった。
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レベル:81
スキル:《斬鋏 Lv.12》《切断強化 Lv.8》《速泳 Lv.3》
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(レベル81!? しかもスキルレベルも12って……。
たった一レベルダンジョンのレベルが上がっただけのくせして、どんだけ強化されてんだ。
そりゃ、危険なわけだよ)
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レベル:81
スキル:《斬鋏 Lv.0》《切断強化 Lv.0》《速泳 Lv.0》
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竜郎は全てのスキルレベルを吸い取って黒球を飲み込めば、SPを120も入手した。
「よし。レベルは残しておいたから、今一番レベルの低いアテナが止めをさしてくれ」
「わかったっす。それにちょうどやってみたい技もあったんで、丁度いいっす」
そう言いながら毒が回って動けない巨大エイの前に立って、アテナは大鎌を構え竜力を纏わせる。
ここで気力の放出の様に、竜力を放てば斬撃を飛ばすことも可能だ。
しかしそれは既に出来ることは解っていたので、今回アテナがやりたい事ではない。
アテナは大鎌が壊れてしまうであろう量の半分の竜力を乗せ終わると、さらにそこへ雷と風の属性を持った竜力をミックスしていく。
すると気力代わりの竜力と魔力代わりの竜力が混ざり合い、竜郎と愛衣の行う気魔混合程ではないが、それに近い力がそこへ宿った。
「いくっすよ───はあああっ!」
そしてそれを横一線に振り払い竜力を放出すると、風と雷の力を持った斬撃が巨大エイの肉を切り裂きながら飛んで行った。
《『レベル:48』になりました。》
「わっ。一気に2レベルも上がったっすよ!
こいつ、一体何レベルだったんすか?」
「81レベルだったんだが……。今の攻撃は何だったんだ?」
「81っすか。いきなり大物っすね~。
えーと、それで今のあたしのやった事ってのはっすね。
竜力ってのは気力としても魔力としても使えるから、もしかして武術スキルと魔法スキルを合体できるんじゃないかって考えたんす」
「って事は、さっきのは鎌術の気力の斬撃と雷と風魔法の合体攻撃みたいな技って事?」
「そうっす。いやー。ほぼ勘でやってみたっすけど、案外うまくいくもんすね」
などとアテナはあっけらかんと言っているが、これができるのは本来竜種の中でも上位に位置する存在だけである。
それには魔法と武術、両方を高レベルで修める必要があるからだ。
しかしそんな事を知らない竜郎達は勿論。竜種についてそこまで詳しくないこちらの住人のリアでさえも、そんな物かと受け流した。
「ヒヒーーン、ヒヒーーン?」
「え? 私にもできるかっすか?
そりゃ、あたしに出来たんならジャン姉でもできるっすよ」
「ピュィーーイ?」「わたくしもですの?」
「カル姉も奈々姉もっすよ。
コツさえ掴めば、結構楽にできそうっすよ」
「ピィイイ!」「ヒヒーーン!」「それはおもしろそうですの!」
そうして新技を試した所で竜郎が巨大エイの死骸を《無限アイテムフィールド》に収納し、ジャンヌの背中から顔を出して未だ揺れながら回転を続ける筏を見つめた。
「にしても、あの回転はもうずっと続くのか?
あれじゃあ、降りるに降りられないじゃないか」
「だよねー。あんなのにずっと乗ってたら酔っちゃいそうだし」
「私も右に同じです」
竜郎は三半規管が鈍いのか乗り物酔いはしない質なのだが、愛衣とリアはそうではないようだ。
なのでこのままジャンヌの上で筏を追っていくしかないかと嘆息しながら、風魔法で剣魚を散らしていると──またまた魔物の反応が現れた。
「……おいおい。うそだろ」
「どうしたんですの?」
「さっきのデカブツが、追加で三体くる」
「三体も? こりゃ大量だわね。どうする、たつろー?」
さっきは寄ってたかって一体を始末すれば良かったので、消耗はそこそこだったが余裕はあった。
だが今回は同時に三体。しかも強さも先ほどと、どっこいどっこい。
あの《斬鋏》と《切断強化》のスキルの併用は、かなり危険な上に範囲も広い。
なので一塊になっている所で、三体同時に《斬鋏》をやられれば厄介極まりないだろう。
「戦力を三分割しよう。一体は俺と愛衣で受け持つ。
後は飛べないリア、アテナを分散したほうがいいか」
「なら一体はカル姉とあたしでいくっすよ」
「ピュィーー」
カルディナもそれで異存は無いのか、大きく頷いた。
となると後残るはジャンヌ、奈々、リアの三人である。
「その三人なら戦力としては十分じゃない?
後は早く終わったところから、順に危なそうな所へ援軍に行けば十分だろうし」
「だな。三分割した状態で三体ずつと戦うならまだしも、一体ずつなら気を付ければ大丈夫だろう。
それじゃあ、各自行動開始!」
竜郎の号令と時を同じくして、水面から十メートル級の剣の腕が六本飛び出し、筏の上を飛んでいたジャンヌに向かって叩きつけようとして来た。
だがその前にジャンヌが届かない所まで急上昇して躱すと、その背から竜郎と愛衣、カルディナとアテナが飛び出していく。
まず愛衣が竜郎を抱えて飛び出すと、その先で飛行用のボードを出して二人乗りして風魔法で滑空しながら目標の一体に向かっていく。
そしてカルディナは、アテナを乗せて別の一体に向かって行く。
最後に残りの一体は、ジャンヌとその背に残った奈々とリアが向かって行った。
向かって左側にいた一番遠くにいる巨大エイ型の魔物に、空を飛びながら突っ込んで行く竜郎と愛衣。
まずは他の二体から切り離すために、こちらに注意を向けさせる事にした。
「こっちだ──」「こっちゃこーい!」
「─────」
正面から魔物の体の真ん中上を通って、後ろへと通り抜ける際。
竜郎はボードを浮かす風魔法を維持しながら全力で下に向けてレーザーを放ち、愛衣は宝石剣に大量の気力を注いで刀身から十メートルサイズの五本の赤い獅子の爪を出して背中を引き裂いていく。
そうすることで巨大なエイの背中に六本の筋が出来上がり、痛そうに身を捩っていた。
「これだけじゃ、まだダメみたいだね」
「だな。けど皆も心配だし、直ぐに片付けないと筏も沈む。
今なら称号効果もあるし一気に決めよう」
「了解!」
竜郎はボードを操りながら、怒り狂ってこちらを追いかけ回す一体の魔物を誘導して他の二体から距離を取らせた。
そうしたらまず手始めに、竜郎は《無限アイテムフィールド》から以前採取しておいたスプラクと呼ばれていたバネ状の茎で頑丈な植物の種を取り出すと、それを樹魔法と闇魔法で良く言えば品種改良。悪く言えば魔改造していく。
そうして出来た一掴みの種に樹の精霊魔法をくっつけて、してほしい事をお願いしておき、さらに同じものを五組造った。
そして竜郎はその五組の種の塊を氷魔法で造った鋭く三メートルはある銛の内部に仕込んでから、さらに火の精霊魔法をくっつけてお願いする。
これで準備は整った。
「んじゃあ、いくぞ」
「おー!」
竜郎は氷の銛を計五つ、爆発と風の混合魔法で銃弾の様に巨大エイの背中に向けて撃ち放った。
それらは全てエイの広い背中のそれぞれ離れた場所に奥深く突き刺さると、氷の銛にくっ付けていた火の精霊魔法が行動を開始し、蒸気を上げて氷を溶かし肉を焼く。
その時点でエイは痛そうにしながら水に潜るが、その程度では消すことは出来ない。
やがて氷の銛が溶け、内部に仕込んだ種達が魔物の体内に触れて数秒後。
くっ付けておいた樹の精霊魔法が、種に無理矢理働きかけて根を出し始めた。
「そろそろか。愛衣、止めをさす準備をしておいてくれ」
「はいさー!」
種から出た根が魔物の肉に触れると、それはまるで土に根を張るように肉を掘り進み広がっていく。
そしてその根は水や光、二酸化炭素ではなく、魔物の気力と魔力を吸い上げてグングン成長し、さらに体内を侵して巨大なバネ状の茎を何本も天へと伸ばす。
その成長はとどまることを知らず、ジャックと豆の木に出てくる木の様に伸びていき、魔物の力を吸い取っていく量も上がっていく。
両の手の巨大な剣で伐採しても気力と魔力という栄養が尽きぬ限り、切られた所からまた成長を続けるので意味が無かった。
そうしてエイ型の魔物は背中から何本ものバネ状植物を生やしたまま、力なく浮上してきた。
「よっこいせ!」
そしてその瞬間。
愛衣は空中飛びの足場で踏ん張り、バネ状植物を引っ掴んで上に放り投げた。
すると大きな巨体は釣り上げられた魚の様に宙を舞い、落下してくる。
そこで元気があるのなら滑空しながら両の腕の大剣を振り回して攻撃してくるのだろうが、生憎今は体中に植物の根が張りその養分にされているので力が出ない。
そんな魔物へ、愛衣は軍荼利明王全ての手と共に宝石剣に気力を込める。
すると刀身から真っ赤な気力が溢れだし、巨大な獅子の爪で構成された十字の刃が出来上がる。
「いっくよーーー!」
そしてジャンプして竜郎のボードから離れると、空中飛びを駆使して落下するエイの真下を通り抜けた。
するとその瞬間、エイは綺麗に十字に四分割され命を落とした。
《『レベル:61』になりました。》
「めっさ上がった! ──おっと」
レベルアップに驚きながら落下している途中で、竜郎が通り際に魔物の死骸を回収してから愛衣を受け止めた。
「よかったな。んじゃあ、次いくぞ」
「あいあい」
今なお戦闘継続中の二グループに目を向けて、どちらも大丈夫そうだったので、まずは筏の上に乗った剣魚を吹き飛ばす。
それから人数の少ないカルディナとアテナのペアの所に行けば、丁度アテナが竜力路で上から下へ駆け抜けてエイ型魔物に大穴を開けていた所だった。
そしてもっと見れば、体中カルディナの竜翼刃による裂傷とアテナの竜力路による穿孔で巨大エイはボロボロだった。
しかしそれでも元気に動いている辺り、この魔物も相当だ。
「丁度穴があいてるし、あそこに種を植え付けるか」
「さっきのアレかぁ。あんな事も出来たんだね」
「闇魔法が12になったからか、変質の力も相当強まったみたいだからな」
そう言いながら竜郎は先ほどの種と樹の精霊魔法を氷のボールで包んで、火魔法の精霊魔法をくっ付けてお願いしてからボードに乗ったまま前にいる愛衣に手渡した。
「わっ、ひゃっこいねー。これを投げればいいの?」
「ああ。穴の中に入れてくれ」
「了解!」
愛衣は竜郎に腰を抱かれて支えられた状態で右手を振り上げると、そのまま穴に向けて氷ボールを投げ放った。
すると綺麗に穴に吸い込まれ、そのまま体内にめりこんだ。
それから数秒もすれば火の精霊魔法が行動を開始して氷を溶かし、樹の精霊魔法で成長し始めた。
そうなれば先と同じように、気力と魔力を糧として急成長し始めた。
「これならもう大丈夫っす~!
後は任せて貰っていいっすよ~」
「わかった! じゃあ俺達はジャンヌ達の方へ行くなー!」
「がんばってー」
「ピィーー!」
そうして竜郎と愛衣がジャンヌ達の方へ行くと、その時には既に決着がついていた。
片腕の剣を奈々とリアがもぎ取り、それを樹魔法のパワードスーツを纏ったジャンヌが掴みとる。
そして身の丈近くある大剣を振りかぶって、エイ型魔物を一刀のもとに叩き切った。
「ヒヒーーン!」「やったですの!」「やりました!」
「こっちも、もう大丈夫そうだな──っと。筏の回転も止まったな」
「剣のお魚も突撃してこなくなったよ」
「ああ。後は死体を回収して筏の上に戻るとしよう」
「うん!」
そうして竜郎は、三体の巨大魔物の死骸を《無限アイテムフィールド》にしまっていったのであった。




