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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五章 呪われた少女編

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第223話 取得物分配

 腹も満たした後は、今回の取得物の話に戻っていく。



「取りあえず現金だけでも大量に手に入ったから、七等分しておこう」

「別にあたしは、お金なんていらないっすよ」

「ピュィー」「ヒヒーーン」「わたくしもですの」「三百万シスも既に貰ってますし」

「せっかくシステムも有るんだから、持っときなよ。

 あって困るもんじゃないし、私らばっかり持ってても使い道ないしさ」



 と、半ば強引に竜郎と愛衣は七等分した現金を渡していった。

 それから拾った装備品の検分に移っていく。

 それらの殆どは挑戦者達の遺品(リサイクル品)らしく、汚れは取り払われてはいるが使い込んだ跡や名前が刻まれている物まであった。

 そんな心情的に使いにくい武器や防具、そもそもサイズが誰にもフィットしない物もある中で、大当たりもいくつか見つかった。


 まず一つ目は、紺を基調にしたツルリとした皮の様な素材に、赤で美しい花の刺繍が施された扇の天装。

 二つ目は、柄が二十センチ弱と短い割に打撃部が三十センチもあるハンマーの天装。

 扇は振った場所とは違う場所に斬撃を放つ事が出来、ハンマーは打撃した個所を氷漬けに出来るらしい。

 扇はリアに教えてもらった刺繍の花(希少で手に入れにくく、粉末にして乾燥させ、それを燃やした煙を吸い込むと強い多幸感と共に幻覚が見える花)の名からとって幻想花リーナモルテ

 ハンマーは特に情報もないので、愛衣がカチカチ君と名付けた。

 とりあえず使いまわす事も加味するが、基本的にこれらは愛衣が持つこととなった。


 そして三つ目。強力な魔物だったが光と寒さが苦手で、比較的狩りやすかった事もあり素材の為に乱獲。

 そのせいもあって今では絶滅したと言われている、グザンという獣型魔物の牙から造られた刺突武器が四本。

 これはおそらく獣術家の遺品らしく、グリップの状態からかなり使い込んではいたようだが武器としては一級品だった。

 さらにこの武器は元の牙の持ち主である魔物が血を好んで飲む性質だった事から、ある特殊な能力も持っていた。

 これは腕利きの鍛冶師によって造られなければ、その能力は消えてしまうモノである。

 けれど幸いこれを手掛けた鍛冶師は一流だったようで、しっかりと能力を継承させていた。

 その能力は血を浴びせる度に、より上等な牙へと昇華していくという。

 今現在の状態をリアが観てみた所、かなり血を吸ってきた様子が見て取れた。

 なので武器としての能力は今、奈々が使っている一レベルの魔竜の牙とは比べ物にならないほど進化していた。

 現代で外にこれを売りに出せば唯でさえ相当な値段が付くらしいが、これならどれだけ吹っかけても欲しがる人間は出てくるとの事。

 しかしせっかくなので、これは売らずに奈々が使う事となった。

 売る気は毛頭なかったが、奈々がウルウルした目で見つめてきて、さらに売ることはできなくなったという事情もあるのだが……。


 四つ目は赤黒い三センチほどの大きさのガラス玉のような物体で、これは土の魔力をそれに込めると五十センチほどのゴーレムになるという。

 込めた土魔法のレベルによって硬度が変わり、戦闘能力は体当たりか腕を振り回して殴打するくらいしかできないのでお世辞にも高くはない。

 けれど足は意外にも速く、竜郎が全速力で走るよりも速く移動できる。

 それに力はリアよりもあるので、荷運びや魔物をおびき出す囮にしたりする事が出来るそうだ。

 ただかなり貴重なアイテムらしく、囮にして壊すのはもったいない上に、ただ所持しているだけで土魔法の威力が上がるらしい。

 なので、とりあえずこれは竜郎が持っている事になった。


 五つ目は、なんの曇りもない真っ透明な短剣とその鞘。

 けれど攻撃力は皆無で、気力を少しでも流すと崩壊するらしい。

 ではいったい何なのかと言えば、所持者の魔力を少しずつ吸い取って溜めこみ、魔力が足りない時の外部バッテリーとして使用できるとの事。

 これは本来なら溜めこんだ本人にしか使えないがカルディナ達は例外で、竜郎の魔力なら取り込むことが出来る。

 また微量ながら魔法関係のステータスも上げてくれるようなので、基本的に竜郎が所持することに決まった。


 最後に六つ目。

 これは竜郎が個人的に一番嬉しかった魔道具の装備品で、形状は十五センチ強の水で出来たスライムというのが一番近いだろうか。

 その使用方法は、まず自分の着ている服──竜郎で言うと防具にもなっているコートにこれを押し当てながら水魔法の魔力を流し込む。

 するとそのスライムはコートに染み込んでいき、全体に広がって見た目には全く解らなくなる。

 そうしたら今度は、水魔法の魔力をスライムが染み込んだコートに流す。

 するとそこから細い水の血管の様な管で繋がりあった水の玉が、竜郎の周囲に網目状にいくつも展開される。

 これが全ての準備を整えた状態だ。



「いっくよー!」

「ああ。まずは程々の速さで頼むー」



 水の玉が展開されている状態で、少し離れたところから愛衣に当たっても痛くない様に闇魔法で弄った柔らか土玉を軽く投げてもらった。

 軽くと言ってもプロ野球選手も真っ青の剛速球。

 普段の竜郎なら簡単にデッドボールを食らうのだが、それが当たりそうになる前に水の玉から棘の様に鋭く尖ったスライムが一斉に攻撃し、土玉を自動的に破壊してくれた。



「おー。かっくいー!」

「オートって所がいいな。

 自分で反応できない攻撃でも、これが何とかしてくれる」



 さらに水魔法が使える人物なら、これを自分で自由に操作する事も出来る。

 それに加えて水魔法のスキルレベルが高くなればなるほど、反応速度や攻撃力なども上がっていく優れもの。

 今現在竜郎の水魔法のレベルは10の上限解放なので、そこいらの魔物程度ならただ突っ立っているだけで、このスライムが自動排除してくれるらしい。

 ちなみに非殺傷モードにも切り替えられる上に、攻撃ではなく水の壁を張っての防御形態もとれるので汎用性も抜群に高かった。



「それに、このコートとの相性が抜群だしな」

「ですね。

 スライムが発動する瞬間コート全体に魔力が通いますから、万が一水の包囲網を掻い潜れても、そちらが硬質化して自動的に守りを固めてくれます」



 そう。今までは竜郎自身でコートを硬質化させるタイミングを計らなければいけなかったが、これがあればスライムが判断して勝手に発動する。

 まさに一石二鳥で守りを固め、新たな攻撃方法も手に入れられたというわけだった。



 ちなみに。

 この魔道具はダンジョンが自ら造り上げた特製品。

 だがエネルギー消費を増やす事だけ考えて造られた為に、レベル7ダンジョンのレギュレーションを大きく逸脱してしまっていた。

 なのでダンジョン内に置く事も、ドロップ品として出すことも出来なかった曰く付きでもあった。

 もしレギュレーション内に収めていたら威力も反応速度も決め打ちで、ただ盲目的に攻撃するだけで汎用性に欠け、水魔法のレベルによる強化など出来ない物となっていただろう。

 実はこういったダンジョンのうっかりで出来たものが偶然人の手に渡り、天装と呼ばれたり強力な魔道具などとして世に出ていったりするのが殆どである。

 けれどそれを人間は天からの贈り物として有り難がるのだから、皮肉な話である。



 他にも装備品の類はあれど、リア曰く。今の竜郎達で大当たりと言える装備は有用性においても資産的に見ても、この六点くらいなのだそうだ。

 そうしてあらかた検分も終わったので、直ぐに流用できそうな他の物も配って身に着けていく。


 まず竜郎には、履くと速力が上がるブーツと締めると耐久力が上がるベルト。

 嵌めれば筋力が上がる手袋に、火と風以外の各属性の補正が付いた杖を十本。


 愛衣には魔法抵抗力が上がるサークレット、イヤリング、指輪三つにペンダントと執拗に弱点を補える装備品を。


 カルディナには、持っていると魔法力の上がる直径十センチの宝玉。

 解魔法、土魔法、水魔法に補正が付く杖三本。


 ジャンヌには樹魔法で持って使うように三本の剣と一本の槍、盾を二枚。風魔法、樹魔法に補正が付く杖を二本。


 奈々には魔法力の上がるネックレスに、魔法関連のステータスが全体的に上がる──おそらく小人種用の小さな帽子。それと───。



「後は杖とかもいるだろ。呪魔法と生魔法に補正が入るのは──」

「いえ。杖はいらないですの」

「え? それまたどうして?」

「わたくしには、カエル君杖がありますの! あれは無敵ですの!」

「いやいや、無敵じゃないだろ」

「むー」



 可愛らしく頬を膨らませる奈々の頭を竜郎は撫で、どうしたものかと考える。

 確かにあれも杖と同じように魔法系に補正が入ってはいるが、それ専用に特化した杖には及ばない。

 だからこそ専用の杖を持たせようと思ったのだ。



「まあ、そこまで強化に拘る必要も無いし本人が良いなら良いんだが」

「浮気はよくないですの」

「そうだね。浮気はよくないねぇ」

「ああ。それは良くないな」



 その点においては竜郎も愛衣も理解できたし、何よりそれだけこだわりを持って使うと決めたのなら、それはそれで良いだろうと思い直した。



「カエル君杖の構造は大体理解できてますし、よかったら空いてる時間にでも改造しましょうか?」

「改造……?

 ──まさか、わたくしのカエル君杖がカエル君杖・改になるんですの!?」

「いや、まんまだな」

「ええ。それでいいなら、そちらに呪魔法や生魔法の補正を付け足したりとかも出来ますし」

「それはいいっす。良かったっすね、奈々姉」

「ですのー!」



 何故か妹のアテナにも頭を撫でられ、まだ見ぬカエル君杖・改に思いを馳せる奈々なのであった。


 そんな脱線も有りつつ装備の分配を続けていき、リアには筋力が上がる指輪とグローブ。

 魔法抵抗力を上げるペンダント。速力を上げるブーツ。耐久力が上がる軽装鎧の下に着るインナーを渡す。


 そして最後にアテナには、雷魔法と風魔法の各属性に補正が付く杖二本。

 魔法力が上がるチョーカー、イヤリング。耐久力と速力の上がるバングル。

 予備の鎌を二本を渡し、今回の拾得物の配布全てを終わらせた。


 他にも便利アイテムがいくつかあったが、それは皆で使い回せばいいと竜郎が責任を持って保管する事になった。


 そうして一通り装備品の分配も一段落つき、全体的に一回りくらいは強くなった。

 けれどそれと同時に今回拾った付加効果のある装備品の数々は、一度もこれまで立ち寄った店ではお目にかかれなかった。

 特に魔法抵抗力が上がる品々が置いてあったのなら、竜郎は真っ先にそれを買って愛衣に渡していただろう。



「それはそうでしょう。

 装備品自体の効果にプラスして付加効果を付けられるのは、鍛冶師でも中の上くらいの実力がなければできません。

 なのでそうそう大衆向けの店頭には並びませんよ」

「それくらいの実力があれば、自分のお店開いてもやってけそうだもんね」

「だな。そうか、鍛冶師ならできるわけか。

 そういえば、リアは鍛冶術のレベルが5を超えたんだよな」

「ええ、今は《鍛冶術 Lv.6》ですね。

 あと1レベル位なら、自力でいけそうです」



 竜郎たちは解っていないが、ハッキリ言って《土精の血脈+8》の影響があっても、この速さでここまでレベルが上がるのは異常である。

 では何故と言えば、その秘密は《万象解識眼》にあった。


 鍛冶術のレベルを上げるのに必要な経験値の量は、どれだけ高度な素材を加工したかで決まってくる。

 普通の鍛冶師は一つ一つ素材を理解しつつ加工方法を勉強して、段々に難しい方法へと歩んでいく。

 しかしリアは《万象解識眼》のおかげで素材理解、加工方法の模倣からの応用と最初から難易度の高い事をやってのけれた。

 だからこそ、異常な速度でここまでやってこれたのだ。



「でだ。確か鍛冶術ってのは、レベル5を超えたら専門特化ってのが選べるって言ったよな。

 それはもう決めたのか?」

「ああ、言ってたね。

 確か専門に選んだ物は、他のよりも上手に出来るようになるんだったけ?」

「ああ、それなんですが。さっき見たら、面白い項目が増えてたんですよ」

「面白いってどんなのですの?」

「──魔力頭脳です」

「まりょくずのーって、なんすか?

 こっちの世界じゃ有名な何かなんすか?」



 リア以外の全員が頭の上にクエスチョンマークを浮かべ、アテナが素直にそれに対しての解答を求めた。



「いえ。私も初めて見ましたし、そんな言葉は聞いた事も見たことも無いです。

 ただ恐らくですが今、私がメインで行っている研究の、人工知能の到達点なんだと思っています。

 ここまで天装やら珍しいアイテムを沢山見てきて、研究が大分進みましたし」

「ふーむ。魔力頭脳ってのは、用はコンピューターみたいなもんなのかもな」

「こんぴーたあ?」

「うん。私達の手近なものでゆーと、スマホとかかな。ほら、これとか」



 今度はリアがクエスチョンマークを浮かべていたので、愛衣はすっかり充電が切れて久しい自分のスマホを取り出してリアに渡した。

 それを受け取ったリアは、直ぐに《万象解識眼》を発動して空色の目で解析していく。



「─────っ。す、すごいですね。電気を使って……ええ、ええっ。

 これですよ! ちょ、ちょっとお借りしてもよろしいですか?」

「うん。いーよ。どうせ今は使えないし」

「ああ。なら俺のも持ってくか? サンプルは多い方がいいだろ」

「助かります!」



 竜郎のスマホも渡すと、リアはさっそく紙とペンを取り出して研究資料を纏めていった。

 その様子に長くかかりそうだと思った竜郎は、念の為ここの管理者にお伺いを立てておくことにした。



「おーい。ダンジョンやーい」

〔なにかごよーですかー?〕

「リアがあんな感じになっちゃったんだけどさ。

 ここって居座っても大丈夫な所なのか?」

〔ええ、かまいませんよー。

 どうせ扉を無理やりこじ開けても中身は取り出せませんしー〕

「ちなみに魔物が出たりはするのか?」

〔頻繁には出てきませんが、偶に出てきますよー。

 実はここもランダムで来られるようになってますので、階層の一つになってるんですよー〕

「ランダムでここに来れた人も、さっきの挑戦ができるんすか?」

〔いいえー。この無数にある扉の内五つだけ鍵を開けてあるので、自力でそれを一つでも見つければ次の階層へ行けるようになってるんですよー〕

「自力でって、この中からたった五個を?」

〔はいー〕



 一面だけでも途方も無く横に伸びる壁に、びっしりと備え付けられた扉の数々。

 それがさらに後ろにもう一面あるのだ。

 そんな中から、たった五つの当たりを引く確率は想像もしたくない。



「何日かかるんだよ……」

〔すごく粘った人達でも、3年が限界でしたねー。

 食料が完全に尽きて帰っちゃいましたけどー〕

「まるで悪夢ですの…」



 いつ当たるかも解らない扉を三年間探し続けた人達の姿を思い浮かべただけで、悲惨な気持ちになってきた。



〔けど、十分で当てた人もいますけどねー〕

「それはそれで、なんだかなあ」



 運という非情な不条理に、竜郎はまた陰鬱な気持ちになった。



「とはいえ、魔物さえ警戒すればいられるわけか。

 次の層へ行くポイントは消えないよな?」

〔消すこともできますけど、基本入るまで消すつもりはありませんよー〕

「ならよかった。また少し逗留させてもらうよ」

〔どぞどぞー〕



 と、竜郎的には数時間くらいのつもりでいた。

 けれど思いのほかリアが熱を入れてしまっているため、まさかこちらの世界の一週間。

 つまり十二日間もここにいるとは、この時はまだ思いもよらなかったのであった。

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