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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五章 呪われた少女編

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第220話 正解と不正解

 竜郎達が新たな装備について話をしていると、それに割ってくる様にして次の対戦カードが発表された。



〔それでは第十試合目を発表します。

 じゃかじゃかじゃかじゃか─────じゃん。

 種目は相手のキューブ破壊二個。

 参加選手は、たつろーチームからアイさーん。

 フォルネーシスからは、コデルロスさんの武術系対決に決まりましたー〕



「私だ!

 ねーねー、たつろー。私の対戦相手のコデロデロって人は何の人?」

「なんか不定形物質みたいな名前になっているのが気になるが……。

 あと武術系で残ってるのは棒術だけだ。

 というか、本当に望みどおりに当たったな」

「へへーん。これで棒術の気獣技も見れそうだね!」



 などと愛衣は棒術の人物に当たって喜んでいる中。

 フォルネーシスサイドはせっかく先の試合では勝ったというのに、真逆の雰囲気になっていた。

 何故ならあと一回も負けられないというのに、圧倒的武力を誇る相手とやり合わなければならないのだ。

 ニコラスとの戦いを見ても、巨人族のミロウシュが最圧縮モードでやっと相手にして貰えるかどうかといったレベルだ。

 何もそんな人間を当ててこなくても……。と、半ばダンジョンを恨めしくも思っていた。



「でもコデルロスには《危機感知》があるだろう。

 あれは直感で動けるし、勝つ見込みがないわけではないのでは?」

「いや、オーハンゼー。それは難しいと思う。

 私の《危機感知》は身体に危機が訪れる程に精度を上げるが、今回はキューブを破壊し合う──言わばゲームだ。

 まるで使えないわけじゃないが、あのスピードの戦闘に付いていけるほどの精度は出せないだろう」

「あー……。せっかくのお宝が……」

「まあまあ、ディジャちゃん。お宝なんてもういいじゃないか。

 俺達は強敵との戦いを安全に経験できたんだぜ!

 それはどんな金銀にも勝るお宝さ!」

「そりゃあ、ニコラスは一人だけ力に目覚めたからいいかもしんないけどさぁ」



 この中で万金に勝るものを一人だけ得たニコラスだけは、負けたっていいじゃないオーラ全開で爽やかに励ましていた。

 しかし他のメンバーからしたら、本当に経験だけで後は何もないのだ。不満も出てくるだろう。

 そしてそんな気配を感じたニコラスは、これは自分だけ美味しい思いをするのはよくないのかもしれない。

 と思い、もう一人仲間に引きずり込めるかもしれない相手に話しかけた。



「なあ、コデルロス。ちょっと耳を貸してくれ」

「ん? なんだ急に──って、何をする!」

「いーから、いーからっ」



 ニコラスはコデルロスの腕を引っ張って隅っこまで連れてくると、内緒話をするように小さな声で耳打ちし始めた。



「いいか。もしコデルロスが戦う女の子に気獣技を見せて欲しいとか、教えて欲しいとか言われたら、素直に教えてやった方が良いぞ」

「訳が解らないな。何故、私がそのような事をしなければならないのだ」

「それは言えない。言えないが、そうした方が良いとだけ言っておく」

「……──もしかしてお前が──むぐっ」



 ニコラスはコデルロスの口を手でふさいで、それ以上の言葉を強制的に打ち切らせた。



「それ以上先は言うもんじゃないし、詮索もしないでくれ」

「…………解った。一応心に留めておこう」



 そうして他のメンバーが何してんだあの二人はと思っている中で、愛衣が舞台上で待ちぼうけをくらっているのに気が付いたコデルロスは急いで控室を出ていった。



「待たせたな。すまない」

「ん、別にいーよ。

 そっちはもう負けられないから、慎重になるのも解るし」

「そうか。ありがとう」



 そうしてお互いの準備も終わったところで、ダンジョンからのアナウンスが始まった。



〔はーい。それでは、お二人に二つのキューブを出しますねー〕



 愛衣とコデルロスの周りに、二個づつキューブが周囲を漂い始めた。



〔それでは、早速始めさせていただきまーす。3、2、1───始め!〕



 その合図の声と共に愛衣は竜骨棍棒を取り出して、コデルロスは何か上等な樹で造られているのであろう立派な茶色い棍棒を取りだした。



「ねーねー。棒術って、お猿さんが気獣なんだよね?」

「……そうだ」

「見せて見せて! どんな感じの奴なの?」



 興味津々といった感じで天真爛漫に接してくる愛衣に、少し戸惑いながらもコデルロスは先ほどニコラスが言っていた事を思いだしていた。

 コデルロスの考えでは、ニコラスが新たな力を開眼できたのは彼女に力の使い方をレクチャーした事で何らかの出来事があり、それで双子竜双方の力を手に入れた。

 さらにそれを他者に口外することは、良くない事が起こる。

 おそらく何らかの契約が発生したのでは。というものであった。


 そしてそれは概ね間違いではないと確信を持っていた。

 契約、もしくは何らかの制約に縛られる事になったとしても、コデルロスとしても望む所だ。

 ニコラスは軽薄そうに見えるが、仲間思いの良い人間だ。

 そんな男が、害になる様なものを勧めてくるはずもない。

 そうして慎重に推考した結果、コデルロスは愛衣に教えてみることにした。



「……棒術の基本的な気獣技は、一般的に猿の尻尾を貸してもらえる事が一番多い。

 そしてその尻尾を使うと、こんな事ができる」



 コデルロスは実演してみせる為に気力を練って猿の気獣技を発現させれば、棒の先から薄茶に可視化された気力が吹き出し、全体の長さがニョキニョキ伸びていった。



「如意棒だ!」

「にょいぼーう?

 良く解らんが、これは只伸びるだけじゃない。こうやって──はあっ」

「──おっと」



 薄茶色に伸びた棒部分がしなったかと思えば、デコピンの要領で弾かれ横殴りに愛衣に襲い掛かってきた。

 だがそれを愛衣は軽くジャンプして難なく躱して見せた。

 コデルロスも動作の一部始終を見せていたのだから、当てられるとは思っていなかったので気にせずに話を進める。



「次に棒術の利点であり、他の気獣技ではマネできない手を借りたものがある」



 そう言うや否やコデルロスの持った棒が元の長さに戻り、代わりに先から巨大な猿の左手を模した薄茶の気力が出てきた。



「えーと……マジックハンド?」

「まじくーはんどお?

 それも知らんが、これはこんな事ができる──はっ」



 舞台の床にペタッと猿の手の平を付けると、そのまま拳を握らせる。

 すると硬い床を指の一本一本が抉り取って、そこへ小さな穴を掘ってしまった。



「このように握る力が強く、上手くコントロール出来るようになれば細かい作業も出来る。

 そしてさらに、さっきの尻尾と混ぜて使えば──」

「──ほいさっ」



 棍棒を如意棒の様に愛衣にまっすぐ伸ばしてくると、その先に猿の左手が飛び出しキューブを破壊にやって来た。

 けれどそれも、愛衣は軽く手に持った棒で受け流して見せた。



「まあ、俺が出来る気獣技を大雑把に説明すればこんなものだ」

「うーん。遠くの物を取ったり掴んだり、良く解らない宝箱を開けたりするのにも便利そうだね。

 気力だから壊れても何度でも造り直せるし」

「ああ。そう言う使い方もできるな」

「うーん。こうかな──」



 愛衣は棒術スキルを意識しながら、今見た猿の手を思い浮かべていく。



(うーん。色は薄茶色だし、ウスチャちゃんでいーい?)



 竜郎にこれを聞かれていたら、それはあんまりだろう。と言われるほど、なんの捻りも無い名付けだが、それでも猿の気獣は喜びの感情を愛衣に伝え直ぐに反応した。



「とおっ」

「…………今更驚きはしないが、棒術の気獣技まで使うとはな」

「おおっ、なんか可愛いね。ウスチャちゃん」



 愛衣は竜骨棍棒が壊れないレベルまで気力を抑えた状態で行使した為、猿の小さな手がポンッと棒の先に現れた。

 そしてそれは愛衣の意思で閉じたり開いたりを繰り返していた。


 一方その様を真正面で見せられたコデルロスは、驚きを通り越して呆れていた。

 気獣技が使えるという事は、即ち棒術のスキルレベルが10以上という事になる。

 そしてそれはニコラス戦でも体術スキルによる気獣技を行使していたことから、そちらもレベル10以上だという事だ。

 そしてこの調子で行くと、ずっと鎧の腰につけっぱなしの弓も恐らくスキルレベル10以上なのだろうと、そのハチャメチャ具合に思考を放棄した。

 どうせ聞いても教えてくれないだろうし、自分で考えた所で理解も出来ないのだろうから。



「それで、もう聞きたい事はないな」

「うん。とっても解り易かったよ。ありがとー」

「なら、試合開始だっ」

「おうよっ」



 愛衣はせっかくなので棒でチャレンジしてみようと、《身体強化》をレベル10まで一気に引き上げる。

 そして猿の手が出ている先端の逆側から猿の足を出し、それをバネの様にしてコデルロスに突っ込んでいった。


 いきなり自分でも貸し与えられていない足を使われた事にショックを受けながらも直ぐに持ち直し、どんなに速かろうと直線軌道ならやってやれない事は無いと棒を構えるコデルロス。

 だが愛衣は棒の先端部から出た小さな手を伸ばして何度も細かく床に当て、軌道をジグザグに変化させてしまった。

 ただ左右に変則的に動いているだけなのだが、ここまで速いスピードでやられてしまうと予想がつかない。

 右か左か。はたまた正面からか。そんな風に考えた時、その全てに《危機感知》が反応して使い物にならない。



(くそっ。こうなったら自棄やけだ!)



 左、右、前全て駄目ならもう後しかないだろと、捨て鉢になって背中側に振り返って適当に気獣技で伸ばした棒を振り下ろした。



「─っうわ!?」「──なっ!?」



 その選択は正解だった。

 愛衣は限界ギリギリまで棒術の猿の手だけを使って移動していたのだが、あと一メートルを切ったところで自分の足で地面を抉るほどの強さで蹴りつけ一瞬でコデルロスの後方へ。

 それは完全なフェイントが決まったと、愛衣が自画自賛するほどだった。


 だがその慢心が、愛衣のキューブを一つ破壊してしまった。

 コデルロスの目線からも、選択肢は三個しか思い浮かべていないと愛衣は確信していたし、本人ですら自棄になって適当に振るっただけだった。

 そんなどちらも来るわけがないと思っていた場所に、突然棒が降ってきたため愛衣は驚きのあまり回避が遅れてしまったのだ。



「まさか、今ので一本取られるなんて思わなかったなあ。

 凄いね、マッチョのエルフさん」

「………………ま、まあな。

 ううう後ろっから来るだろうと、読んでいたさっ」



 実力で勝てないとは情けないが、愛衣の反応からして心理戦が苦手なタイプだとコデルロスは察した。

 なので「え? 私解ってましたけどー?」と、引きつったドヤ顔で愛衣にアピールしておいた。



(これで私の実力をミスリードしてくれれば、相手も手を出しにくくなるだろう。

 戦い慣れもそこまでしていなさそうだから、後は絡め手でなんとかできるはずだっ)



 ここで勝ち星を拾えれば、かなり大きい。

 これほどの戦力が負けたとなれば、相手チームにも精神的ダメージもあるだろう。

 そんな考えの元。必死に脳内で作戦を練っていたのだが、今度のその選択は間違いだったようだ。



「うん、本当に……。

 棒術の先輩に棒術だけで挑もうなんて、失礼千万だったね。

 それじゃあ───全力全開でいかせてもらうよ!」

「──えっ、ちょっ、まっ」



 その瞬間、愛衣は体術の気獣技で鱗の分身十体を一瞬で造り上げた。

 そしてそれをコデルロスが見た時には、その全てが消えていた。



「は?」



〔そこまで! 試合終了でーす。

 勝者は────アイさーん。

 これにて『たつろーチーム』に、勝ち7点目が加算されました!

 そして勝ち点を先に7点取り終わりましたので、この試合も決着がつきましたよー!

 総合優勝は────『たつろーチーム』に決まりでーーーーすっ!!

 わーわーどんどんどんどんーぱふぱふぱふうぅーーー!〕



「ぶいっ!」

「は?」



 そうして最後までコデルロスは、何があったのか解らないままに決着がついてしまったのであった。

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