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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五章 呪われた少女編

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第218話 火炎の男

 魚人種の男は、無暗に婦女子に触ることを良しとしない。

 なのでハブルルは少々心苦しくはあったが、リアをそのままにして戻っていった。

 リアもただの体力切れなので、少々休めば自力で歩き回れるくらいには戻れる。

 なので、それにどうとも思うことなく円形舞台で寝転がって一休みした。

 そうして気だるさは残るものの、普通に歩けるようになったところで壊してしまったハンマーの破片を回収して回った。

 使っている素材が貴重なので、そうホイホイと捨て置くことは出来ないのだ。



「やはり、これでは武器とは言えませんね。

 使うごとに壊れてしまうなんて、ただの道具です」



 ヒマな時にコツコツ造っていたので、まだ試作段階の代物。

 なので欠陥品でもしょうがないのだが、そこはドワーフの職人の気質というのか、完璧を求めるリアは不満げだった。



「でも、実戦で性能テスト出来たのは有難いですね。

 壊れてしまうのは解っていたので、こんな時でなければ使う踏ん切りがつきませんし」



 試作型墳式ハンマーに、試作型黄金水晶のパイルバンカーを埋め込んだこの装備。

 完成品が目の前にあれば、それを観て解を得られるのだが。

 そんなものは存在していない。

 さらに職人歴の浅いリアには頭に技術が追い付かず、未だ試作という言葉が取れる日は遠そうだと実感しつつ全ての破片を集め終わった。


 そうして少し遅い帰還を果たすと、負けてそしる様な人間もいないのでリアは温かく迎えいれられた。

 そんな、つい数か月前までは考えもつかなかった仲間。

 または友といえる人達に囲まれている状況に、リアは密かに感激したのであった。



「これで全員やったし、後は二巡目が誰かに回ってくるってわけか」

「私はもう一回やりたいなあ。

 今度は棒術の気獣技を近くで見たーい!」

「あたしも、もう一回やりたいっす」



 アテナは未だに燻る物があるのか、戦意が高まっているようである。



「あと向こうのチームで危険だとタツロウさんが言っていたのは、リーダーの女性でしたっけ」

「だな。おーはんぜー?とか言ってた人を運んだ時に一瞬、精霊眼で観させてもらったんだが。

 多分、風魔法限定で精霊魔法が使えるかもしれない」

「かもしれないって、フワッとしてんね」

「精霊魔法は覚えたばっかりで精霊眼での色の判別がまだ甘いのと、自分の精霊魔法の色とは微妙に違うんだよ。

 だから似た別のスキルかも知れない。

 けど俺の対戦相手は精霊魔法を普段から見ていそうな感じだったし、まだ残ってる誰かがそのスキルを持っている可能性は高い」

「あー、そゆことね」



 などとプチ作戦会議をしている間に円形舞台の修繕が終り、次の組がアナウンスされ始めた。



〔それでは第八試合目を発表しまーす。

 じゃかじゃかじゃかじゃか─────じゃん。

 種目は早打ち二個先取。

 参加選手は、たつろーチームからアテナさーん。

 フォルネーシスからはヌータウさんの、魔法系対決に決まりましたー〕



「やったっす!」

「…………ん? アテナという女はミロウシュとやった奴だろう。

 何故、魔法対決で名前が出る」



 爬虫人の兄弟の弟ヌータウは、あれだけミロウシュとやり合えた人物が魔法も使えるのかと冷や汗が出てきた。

 一方アテナは、リベンジの時だとばかりに目がやる気に満ち溢れていた。



「行ってくるっす!」

「怪我だけは気を付けてな」

「わかったっす」



 そうしてアテナは、ズンズンと大股で円形舞台まで歩いて行った。

 そうしてヌータウもやってくれば、戦いの準備は整った。

 ルールはもう解っているので省略。

 様はランダムで出現するキューブを、先に魔法で二個壊した方が勝ちというだけだ。



〔はーい。それでは、始めさせていただきまーす。3、2、1───始め!〕



「《竜装》」「《火装》」



 はじまりの合図と共にアテナは《真体化》して竜装を展開し、それだけでは物理スキル扱いになりそうなので直ぐに雷と風の混合属性に切り替える。

 そして、それと対を成す様にヌータウも類似のスキル。《火装》を展開し、火の鎧を身に纏った。

 

 同じようなスキルを同時に行使した二人は互いに驚きながらも、集中を切らさずさらに行動を続けていく。

 アテナは、手足から出る琥珀色の煙を辺りに薄くのばして広く展開していく。

 ヌータウは、魔法で自分の顔の前に出現させた火の玉を口を開けて吸い込み始めた。



(火の玉を食べてる……。どんなスキルっすかね)

(俺と同系統の……いや──風と雷の複属性の鎧……というより、自分の好きな属性に切り替えられる上位のスキルのようだな。

 そして何やら舞台上に広げている、この琥珀色の煙は何だ? 何かの攻撃魔法か?

 くそ、こういう時に兄貴がいればすぐに教えて貰えるんだが)



 普段兄弟で共に行動する事が多いので、探査や解析は解魔法使いの兄に全て任せて攻撃は自分が。

 というスタイルで長年やってきていた為、ヌータウは自分で敵の攻撃を推察するのが苦手だった。

 そして慣れぬことに頭を図らせていると、舞台の上に立っている二人の丁度ど真ん中にキューブが出現した。



「「───っ!」」



 当然自分たちの真ん前に現れたのだから、気付いたのはほぼ同時。

 ヌータウは今まで自前の魔法で生み出した炎を吸い続けて溜め込み、それを圧縮して吹きだす《火炎圧縮息吹》というスキルを使う為、炎を吸い込むのを打ち切りブレスの動作に入った。

 その動作は何度も行って体に染みこんだもの。

 時間にして1秒もかからずに、キューブに届かせる事が可能だった。


 だが、それが届く前にキューブは破壊されてしまう。



「──なっ」

「一個もーらいっす」



 それもそのはず。

 ヌータウが1秒もかからないのなら、アテナは0.1秒もかからない。

 何故なら既に自分の体の一部とも言える竜力の煙は、辺り一面に展開されている。

 その一部を雷属性に切り替えるだけで、キューブを破壊する位の火力など容易く出せる。

 そう。今現在この舞台の上は、アテナの手の内に収まっているも同義なのだ。



「この煙はそういう事かっ───ブゥーーー!!」

「まあ、ふつーそうくるっすよね~」



 このまま舞台上に琥珀色の煙を展開させてしまっていたら、ヌータウに勝ち目は皆無。

 そうなれば、やることは一つしかない。

 即ち琥珀色の煙の破壊だ。

 ヌータウはキューブよりも前に、そこらじゅうに広がっている煙に《火炎圧縮息吹》を放射し消し飛ばしていく。

 その火力は只でさえレベルの高い火魔法が更に強化され、苛烈な炎のブレスが舞い踊る。



「じゃあ、こっちも頑張らなきゃっすね」



 今度何もしなければ負けてしまうのは、アテナの番だ。

 このまま只消させてしまうのでは竜力を無駄に消費するだけなので、自分の周囲に集め直して雷と風の混属性を、同属性の竜装の腕に纏わせて巨大な竜の手の形に作り替えた。

 それに対し、周囲を覆っていた煙が消えたので、ヌータウも《火炎圧縮息吹》を止めてアテナと対峙し視線を交わす。



「あそこまで武に秀でていたというのに、魔法までそのレベルとはな。

 生まれの違いを恨みたくなるな」

「恨まれるのは嫌っすね~」



 軽口を叩きあってはいるものの、二人は目線を辺りにチラチラと送りながら次のキューブを待つ。

 その間。アテナは何処にでも行けるよう、四方八方に《竜力路》のレールを張り巡らせていく。

 ヌータウの方は、再び炎を吸い込み《火炎圧縮息吹》の火炎を体内に補給していく。

 お互い攻撃し合わずに自分の準備とキューブ探しに集中しつつ、目線の攻防を繰り返す事数十秒。

 ようやくそれは現れた。



「──っ!」

「─っ!」



 キューブは、円形舞台のアテナから見て正面左斜め前。

 アテナの目の前に立つヌータウから見て右斜め後ろ。

 偶々アテナが右斜め前に視線を送っていた瞬間に、これまた偶々ヌータウが右方面に意識を向けていた瞬間に出てきてしまう。

 なのでそちらに近い場所に目線を向けていたヌータウがアテナよりも数瞬早く、その存在に気が付いた。

 これをアテナに取られてしまえば、ヌータウの完封負け。

 それだけは避けねばならないと、気合を込めて《火炎圧縮息吹》を吹きだすために炎を吸うのを打ち切り、苛烈な炎のブレスがキューブに向かって放たれた。



「──ブゥーーーーーーーーッ!!」

「このっ」



 これをヌータウにとられた所で、アテナはまだ余裕がある。

 けれど今回目指すのは完全勝利。一つだって取らせるつもりはない。

 キューブの方角に一直線に伸びるレールに足を乗せ、雷と風の属性に切り替え発進する。

 まるでカタパルトから飛び出す様に、電撃の速度で突き進む。

 ヌータウの炎のブレスの速度は目を見張るものがある。ただアテナが闇雲に走っても、追いつけないほどだ。

 だが、今のアテナは路を真っ直ぐ進む電撃の速度。

 例え向こうが早かろうと、それには及びはしなかった。



「はああああああああっ!!」

(なにっ!?)



 アテナの竜力の煙から造りだされた竜の手の形をした雷風属性の塊が、ヌータウの口から噴き出す炎の息吹の前に躍り出て行先を塞いだ。

 だが、あちらはそのアテナの壁を貫いて突破する気の様で、未だにブレスを止めずに吹き続ける。

 アテナは全力で以って雷風属性の竜力の塊だけでなく、自前の魔力を使って雷と風の魔法でさらに強化していく。

 アテナからすれば少し手を伸ばした先にキューブがあるにもかかわらず、少しでも意識を逸らせば途端にブレスに押し負けるだろう。

 それを感覚で理解しているアテナはキューブ破壊に向かえず、必死で向こうの種が尽きるまで防ぎ続ける。

 ─────そして。



「ブーーーーーーフーー……ゥゥゥーー─────かはっ」



 長かったヌータウの息が遂に切れ、ブレスが一旦止まり息を急いで吸い直す。

 しかし、吸い直す一瞬があればアテナにとっては永遠にも等しい。



「てりゃあああっす!」

「──はあっ、はあっ、はあっ……くっ……、そ……」



 見事二個目のキューブを、アテナが竜力で造った大きな手で叩き潰したのだった。



〔そこまで! 試合終了でーす。勝者は─────アテナさーん。

 これにて『たつろーチーム』に、勝ち6点目が加算されまーす!

 これで『たつろーチーム』はリーチですよー!

 フォルネーシスさん達も頑張ってくださーい!〕



 アテナは竜装を解くと竜郎たちにも良く見えるように、振り返って竜力の煙でVサインを造って勝利を喜んだ。

 そして自分のせいで遂にリーチを取られてしまったヌータウは、落ち込みながらトボトボと帰っていった。

 その背をチラリと見たアテナは、自分も戻らねばと思い直ぐに《成体化》して竜郎たちの元へと急いだ。



「勝ったっす~!」



 控室に戻ってくるなり見せたその笑顔は本当に嬉しそうで、竜郎達まで満面の笑顔になっていくのであった。

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