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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五章 呪われた少女編

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第215話 恩恵

 惨敗。たった一個のキューブも、お情けで貰ったものだけ。

 しかもその相手は、年下の女の子だった。

 ニコラスは少なからずあったプライドが、ズタズタのボロボロのケチョンケチョンにされ、円形舞台の床に手をついて打ちひしがれていた。

 愛衣はとにかく竜郎にレベルの壁を越えて50になったことを伝えたくて、終わるなりさっさと帰ってしまった。



(なんだよあれ。気獣技が出来なかったってのは嘘だったのか?

 おちょくられてた?

 けど嘘をついている様子はなかったし、もしかして本当に……。

 もし本当だったら、俺が教えちまったから強くなっちまったって事だよな。

 何やってんだよ俺はあああーーーー!)



 などと心の中で後悔の念を吹雪かせていると、誰も周りにいないはずなのに声が頭の中に響いてきた。



『『此度。主ノ力ヲ受ケシ娘ニ助言シ、見事我ラガ手ヲ貸セルヨウニナッタ事。礼ヲ言オウ』』

「……? ダンジョンじゃないよな?」

〔呼びましたかー?〕

「え? いや──今の…」



 ダンジョンのように女性らしき声ではなく、地の底から響くような荘厳な声に戸惑っていると、本人が直ぐに正体を明かしてくれた。



『『ダンジョン デハナイ。我ラハ体術ノ、スキルニ宿ル気獣ナリ』』

(……は? 気獣技って、あの双子竜の?)

『『ソウダ。我ラハ本来人間如キニ声ナゾカケヌガ、今回ハ礼ガシタクテナ』』

(はあ。何かくれるんですか?)

『『物ハヤレン。ダガ、貴様ニ力ヲ貸ソウ。

 今後、貴様ガ呼ベバ何時如何ナル時ニモ応ジヨウ』』

「まじっすか!」



 上位の、それも気獣技を使える体術使いからしたら、いつでも呼べば出てきてくれる他の武術系スキルが羨ましくてしょうがなかった。

 であるのに今回少女にちょっと助言しただけで、その苦悩が取り払われるのだ。

 体術使いで、それを喜ばない者はいないだろう。

 だが、礼はそれだけではなかった。



『ソシテ我ハ新タニ何者ヲモ貫ク牙ヲ』

『ソシテ我ハ何者ヲモ切リ裂ク爪ヲ』

『『貸スコトヲ約束シヨウ』』

「はあ。それはどうも………………………………はああっ!?」



 二体から助力を得られた体術使いなど、先ほど愛衣がやってのけたのが初めてであろう。

 その恩恵に自分も僅かながらも与れるというのだ。驚くなと言う方が無理である。

 そしてさらに元から鱗を貸してくれていた白竜も、新たに牙を貸してくれると言うのだから、まさに我が世の春である。


 ただ、この会話はニコラスにしか聞こえてはいないので仲間はあまりに見事な負けっぷりに頭がおかしくなったと気の毒な視線を向けていた。

 それにも気が付かず、ニコラスはある意味どんな宝よりも貴重な物を手に入れたと有頂天になっていた。

 が、一つ気になる事を言っていたのを思い出した。



(さっき、あの子の事を主の力を受けし娘って言ってませんでしたか?

 ──主ってもしかして…)

『『我ラノ主ハタダ一人。武神様ニ他ナラナイ』』

(武神……、そんなのの力を受けてるってか。

 そりゃあ、化け物じみてるわけだ)

『『ソウダ。コレデヨウヤク我ラニ遠慮シテイタ他ノ者達モ、出テコレヨウゾ。

 ダガコノ話、他言スルデハナイゾ。

 モシ他ノ者ニ話シデモシタラ、先ノ約定ハ破棄サセテモラウ』』

(絶対守ります! 死んでも誰にも言わないです!!)



 せっかく純粋な人種でありながら世紀の体術使いになれそうなのに、その力を失うわけにはいかない。

 ニコラスは、誰もいない方向に最敬礼で応えた。


 ……だが。その奇行に竜郎達も気が付いて、仲間たちプラス、そちらからの変人を見る視線も混ざってきた。

 けれど相も変わらずニコラスは気が付かない。



『『ナラバソノヨウニ。

 貴様ガ約定ヲ守ル限リ、我ラモ力ヲ貸シ続ケルコトヲ誓オウ。

 ──デハ、サラバダ』』

(ありがとうございましたーーー!)



 そうして誰にも知られる事なく、語られる事のない気獣との会話が終わった。

 ニコラスはさっそく先ほど手に入れた力を試しにと軽く使ってみる。

 右の拳から白い気力の牙が、左の指先から黒い気力の爪が出てきた。

 さらに体を白鱗で覆えば、攻防優れた体術家の完成である。

 こればかりは、どんなに金銀財宝を積もうとも、どんなに経験を積もうとも得られるものではない。

 ニコラスは興奮で負けた事など、どうでもよくなり気獣技を切ると意気揚々と控室へと戻っていった。



「おい。沈んでたかと思えば、急に満面の笑みできやがって。

 ニコラスお前、負けたせいで頭がおかしくなったのではないか?」

「何言ってんだよ、ヌータウ。俺はなあ……。

 あー…えーと…──そうっ、負けたショックで開眼したんだよ!」

「「「「「「「「「「「「はあ?」」」」」」」」」」」」



 そのまま正直にいう訳にはいかないので、そんな言い訳で新たに使えるようになった技を自慢しようとしたのだが、こりゃ駄目だと他のメンバーはニコラスを座らせ、しばらく誰も聞く耳を持ってくれなかったのであった。


 そんな事がニコラス側であった中、見事勝利しすぐさま竜郎の元にやって来た愛衣は満面の笑みで抱きついてきた。



「たつろー♪」

「おおっ、良かったな。愛衣、気獣技できるようになったんだな!」

「ふふふーーん」

「ん?」



 竜郎の胸に頭をぐりぐりした後、気がすんだ愛衣はパッと離れて両手でピースしてみせた。

 その謎の動作に何事かと、他のメンバーの視線も集まってくる。



「実は気獣技が使える様なった後に、レベルも上がって50レベルになりましたー!」

「まじか!」「ピィッ!」「ヒヒン!」「やったですの!」「おめでとうございます!」「羨ましいっすー!」

「ふふふふーーーーん!」



 皆の喜びの声に、愛衣も鼻高々に胸を張った。

 なので、そこへ竜郎はポンと手を置いた。



「何をしているのかな? えろろー君」

「いや、触ってほしいのかと」

「んなわけあるかいっ」

「いて」



 軽く叩かれながらも糞真面目な顔のままの竜郎に愛衣はため息を吐くと、一度頬にキスをしてから自分で確認するのもかねてステータスを公開していった。



 --------------------------------

 名前:アイ・ヤシキ

 クラス:武将

 レベル:50


 気力:7182

 魔力:135

 竜力:100


 筋力:1903

 耐久力:1855

 速力:1668

 魔法力:131

 魔法抵抗力:131+100

 魔法制御力:131

 ◆取得スキル◆

 《武神》《一発多貫 Lv.1》《体術 Lv.10》

 《棒術 Lv.10》《投擲 Lv.9》《槍術 Lv.8》

 《剣術 Lv.9》《盾術 Lv.9》《鞭術 Lv.9》

 《斧術 Lv.2》《弓術 Lv.9》《扇術 Lv.4》

 《気力回復速度上昇 Lv.8》《身体強化 Lv.10》《集中 Lv.1》

 《空中飛び Lv.3》《遠見 Lv.4》《受け流し Lv.3》

 《危機感知 Lv.3》《全言語理解》

 ◆システムスキル◆

 《アイテムボックス+7》

 残存スキルポイント:193

 ◆称号◆

 《体を修めし者》《棒を修めし者》《剛なる者》

 《打ち破る者》《響きあう存在+1》《竜殺し》

 《竜を喰らう者》《すごーい!》

 --------------------------------



「武将か。厳ついクラスになったな。

 んで。只でさえ初期値が一桁だった魔法関係のステがまた下がった代わりに、物理系のスキルが一気に伸びたと」

「そーみたいだね。

 まあステータスは置いとくとしてさ、新しいスキルを見てよ」

「一発多貫。これは具体的にどんなスキルなんですの?」



 奈々の質問に、愛衣は先ほど調べたままの効果を説明した。

 それから、さらに詳しく調べていく。



「これはレベルの数だけ、攻撃の手数を倍化できるみたいね」

「レベルの数だけ増やすのではなく、倍化と言う所がミソですね」

「あー。最初から──例えばジャン姉の対戦相手の時みたいに、一度に五撃放てる場合は六撃になるんじゃなくて十撃に増えるって事っすよね。

 凄いっす~」



 自前の一手目を一倍としているのでレベル2にすれば1+2の三倍、10にまですれば1+10の十一倍になる。

 なので極端な話。

 平時に五撃の攻撃を撃てるのなら、レベル十の時に使えば一回に五十五撃もの攻撃を片手の一振りで出せるようになってしまうのだ。



「まあ、その分消費気力も倍乗せドンッ! だけどね」

「けど愛衣は量と回復速度も並みじゃないから、よほどの技でない限り使いたい放題だな」

「だね!」



 そうして愛衣のステータスの品評会も終わったところで、気獣技について奈々やアテナが聞きたがった。

 二人はそれぞれ獣術と鎌術を持っているので、他人事でもないのだ。

 だが、詳しい事を聞く前に次の対戦が決まったようである。



〔それでは第六試合目を発表します。

 じゃかじゃかじゃかじゃか─────じゃん。

 種目は三分間キューブ破壊対決ー。

 参加選手は、たつろーチームからタツロウさん。

 フォルネーシスからはオーハンゼーさんの、魔法対決に決まりましたー〕


「俺か」「よしっ。相性のいい相手だ!」



 竜郎が火魔法使いと勘違いしている爬虫人のオーハンゼーは、解魔法使いで火魔法の逆位相で打ち消すことが出来る上に、自前で《皮膚魔感知》という魔法の気配を皮膚で感じとる能力も有る。

 この二つを合わせることで、この男は本来なら発動後にしかできないアンチ魔法を同時に発動できる。

 なので竜郎の魔法全てをアンチしてしまえば、勝てると思っているのだ。


 そんな中。竜郎は《精霊眼》で相手の方を見て、相手が何系の魔法使いなのか確認していく。



「解と水魔法持ちの人か。

 このダンジョン用に、水中探査も出来るようにしてるんだろうな。

 水魔法はそこまで強くはなさそうだし」

「攻撃能力はないのかな。

 それなら、たつろーが解魔法で消せない属性魔法でやっちゃえば楽に勝てそうだけど」

「うーん。けど、最初に見せた火魔法以外あんまり見せたくないな」

「色んな属性を高レベルで使えるとばれると、色々目立ちそうですからね」

「ああ。それにこの先アンチ魔法に対して対処しなければならない様な奴が出てこないとも言い切れない。

 そして、おあつらえ向きに高レベルの解魔法使いで練習できるときてる。

 だからいっちょ、なるべく火魔法だけでチャレンジしてみようかな。

 アンチ魔法対策の方法も考えがあるし」



 そうして竜郎は皆の声援を背に、オーハンゼーからやや遅れて控室を出ると円形舞台までやって来た。



〔今回の種目は第三試合目とほぼ同じものですがー。

 改めて説明した方がいいですかー?〕

「いや、大丈夫だ」「しなくていい」

〔はーい。それでは、始めさせていただきまーす。3、2、1───始め!〕



 ダンジョンの開始の合図と共に、辺り一面にキューブが発生し始めた。

 まず竜郎は相手がどの程度の解魔法使いなのか正確に知る為に、火魔法だけで周囲のキューブを破壊しようと魔法を構築していった。



「魔法は使わせない!」

「うおっ。こりゃ凄いな」



 竜郎の頭の中では完成後、少しキューブを破壊したくらいで消されると思っていた。

 だが、その考えがかなり相手を見くびっていたのだと思い知らされる結果となった。


 竜郎が魔法を構築し終わり、発動する前。

 そのわずかな合間に、アンチ魔法を完全に造られて打ち消されてしまったのだ。

 その速度は、竜郎ではできないレベルだ。

 そしてアンチ魔法で竜郎の火魔法を消しつつ、とうの本人は手に嵌めたメリケンサック。

 竜郎達が雲迷彩のファーを手に入れる途中で宝箱から出てきた、水鉄砲の指甲を使って指から水鉄砲を撃ちつつキューブを破壊していた。



(俺達の知っている奴よりも威力が強いが……。

 ──そうか、水魔法を持っていれば威力を上乗せできるのかもしれない。

 面白い使い方だ)



 その威力は鋭く、五本の指からでた水鉄砲はいくつものキューブを貫いていた。

 現状竜郎は0、オーハンゼーは24。一気に引き離されてしまっている。



(こりゃ火魔法だけで勝つなら、本気でいかなきゃ完封されるな)



 そうして竜郎は、事前に考えていた魔法を使うために集中し始めたのであった。

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