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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五章 呪われた少女編

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第208話 開戦

 ダンジョンが調整を終えるまでに、まだ少し時間がありそうだったので竜郎は《精霊眼》で相手の戦力を偵察しておくことにした。

 あまりガン見しても何かしていると勘繰られそうなので、できるだけ自然にそちらに顔が向いた時にチラチラと見て確かめていく。



(ざっと見た感じ魔法七人、武術八人。

 リーダーを名乗るだけあって、魔法使いの中じゃビヴァリーが図抜けて色が強いな。

 風魔法使いで光魔法でのブーストも可能、スキルレベルは余裕で10を超えてそうだ。

 んで次に警戒するのは、あの一番でかいおっさんか。

 あれが武術系のスキル持ちの中じゃ、頭一つどころか二つ三つ飛び出してる。

 あのスキルの色は……たぶん槍術だな。あとは──っ)



 出来るだけ自然にバレないように見ていたつもりであったのに、フォルネーシスのメンバーの一人と目が完全に合ってしまった。

 動揺して咄嗟に目を逸らしてしまったので、確実に何かをしていた事はバレてしまっただろう。



(しまったな。ルール違反ではないからいいかもしれないが、迂闊だったかもしれない)



 一方。竜郎と目が合った男は、想像されていた通り何かされていた事に気が付いた。

 この男の名はコデルロス。

 エルフと同じように耳は長く、端正な顔立ちをしている。

 が、その肉体はエルフの華奢な体とは打って変わり筋肉隆々であった。

 この男はエルフの中でもバトルエルフという種族に分類される者で、魔法に素養があるエルフと違い武術系統に特化しやすい種である。

 見た目で見分けるには筋肉質かどうか位で、後はエルフと変わらない。


 そんな男が何故竜郎の《精霊眼》を看破出来たかと言えば、この男は優れた棒術使いで元来──良く言えば慎重、悪く言えば臆病な性格が幸いしたのか《危機感知》のスキルレべルがずば抜けて高かったのだ。

 その《危機感知》が何かされているのだと訴えかけてきた結果、視線を向けられているくらいしか相手に悟らせない竜郎の《精霊眼》すら察することが出来たのだ。



「ビヴァリーさん。向こうの代表で話してたタツロウとかいう男に、今何か探られたようです」

「それは間違いないのかい? コデルロス」

「ええ。少なくとも私の《危機感知》が発動するほど深く」

「……おそらく視覚系のスキルだろうね。

 このガラスのせいで解魔法は使えないし、音も匂いも伝わらないだろうし」

「その条件で相手の情報をこちらに気が付かせずに深く見られるというと……、《技能眼》かもしれんな。だとするなら視界を塞ぐか」



 壮年のエルフ、オーレリーはそう言うと、土魔法で背もたれの大きな椅子を造り上げ、その背を竜郎達の方に向けるようにして設置する。

 そうしてから皆に横一列にして座らせた。

 これで竜郎達からは、目視では誰の姿も確認できなくなった。



「これで、視覚系の能力でも大丈夫であろう。

 私の土魔法はバレてしまったが、それくらいなら別にかまわんだろう」

「さすがオーレリーさんだぜ!」



 と、能力がバレるのを阻止できたと安心する中。

 バトルエルフのコデルロスだけは、本当にそれで防げるのだろうかと疑念を残したままだった。

 一方竜郎は壁を築かれた事で、やはり何らかのスキルを使ったことがばれたのだと悟ったので、それならと開き直って察知された人物以外をざっと観ていった。

 精霊眼に遮蔽物は関係ないのだから。



「相手の戦力を言うぞ。

 大まかに魔法系は、風光、土闇、火闇、解水、雷光、水、生光。

 武術系は槍、盾、体、扇、剣、棒。

 だが、それぞれ見たことも無い色も見えるから気を付けてくれ。

 特にさっき俺と話していた風と光魔法使いのビヴァリーと、一番の大男で槍術使いは、あの中でもかなり強いから気を付けてくれ」

「そんなに、その二人は強いんすか?」

「魔法か武術。どちらかが禁止された状態のカルディナ達だと、ちょっとキツイかもしれない。充分負ける可能性もある」

「他に気を付けた方が良い人はいる?」

「他は二番目にでかい──こう、耳に魚のヒレみたいのが付いてる……アレって何種になるんだ?」



 今まで見た事のない種族がいたので、この世界の住人であるリアに竜郎は問いかけた。



「それはたぶん魚人ですね。

 向こうのパーティーだと、後は女性が二人そうでした」

「そうなのか、ありがとう。

 それでその二番目にでかい魚人種の男が盾使いなんだが、そいつも注意しといたほうがいい。

 後は、さっき土魔法でこっちの視界を遮ったエルフのおっさんも先にあげた二人程じゃないが、注意しといた方がいいだろうな。

 それと力はあのパーティーの中じゃ普通だが、棒使いのマッチョエルフは、かなり《危機感知》能力に優れているみたいだから、そこも頭に入れておいてくれ」

「後は大体同じくらいですの?」

「だな。ああけど純人種っぽいウェーブがかかった濃い茶髪の女性は、生と光魔法使いだから今回の試合では戦力外のはずだ。

 ───と、ダンジョンの調整も終わったみたいだな」



 大体相手の情報を伝えた時分に、ようやく竜郎の視界に部屋の中央に立てかけられたガラス板がピカピカと点滅し始めたのが映った。



〔お待たせしましたー。それでは早速第一試合目を発表します。

 じゃかじゃかじゃかじゃか─────じゃん。

 種目は早打ち三個先取。参加選手は、たつろーチームから奈々さん。

 フォルネーシスからは、ベレンさんの武術系対決に決まりましたー〕

「わたくしですの!」



 竜郎は向こうの動きを《精霊眼》でチラリとみて、真っ先に椅子から立ち上がって反応した人物が、ベレンなる人物だろうと当たりを付けた。



「奈々の相手は《扇術》を使って来る相手みたいだな」

「扇ですの? なんだかあんまり強そうじゃないですの」

「強いか弱いかは別としても、他にも見たことが無いスキルがあるから怪我をしないように気を付けるんだぞ」

「解ったですの! ………………それで、一体どこでやるんですの?」

「どこだろねー? 別の所に行くのかなあ? ───って、うわわ」

「なんだ?」



 竜郎達が何処でやるのかと辺りを見渡していると、突然今いる竜郎側とフォルネーシス側の人員がいる控室状態になっているガラス張りの部屋全体が動きだした。

 その控室同士が互いに逆方向横にスライドしていき、距離がドンドン離れていく。

 そして距離五メートルから百メートル程へ間が開いた所で、底が見えない程深い崖になっている中間部分から青色の円形の舞台がせり上がってきて真ん中に収まった。

 すると円形の床から、それぞれの控室のガラス張りの部屋に向かって一本の橋が伸びてきてガッチリ繋がった。



〔それでは扉を作りますので、参加者のみお通りくださーい〕

「行くですの」



 奈々は竜郎達の応援を耳にしながら、《成体化》状態のままダンジョンの言葉の後に突如できた扉を押し開いて橋を歩いて渡っていく。

 フォルネーシス側の鳥獣人の女性ベレンも、同じ様にして橋を渡ってくる。

 そうして歩幅の関係でベレンが先に控室に挟まれるようにして存在する円形舞台に到着した後、奈々も悠々と躍り出た。



「見た目からして魔法職の子かと思ってたけど、こっち側のスキル持ちだったのね」

「……そんなところですの!」

「?」

〔それでは、改めて今回の試合を説明させていただきまーす〕

「はいですの」「え、ええ」



 奈々の不自然な間に戸惑っているベレンを置きざりにして、早打ち三個先取の説明がされていった。

 その説明によれば、この円形の舞台上のどこかに突如現れるキューブを先に三個壊した方が勝ち。

 という単純なもので、後は先ほど自分たちの決めたルールの範囲内で試合をすればいい。との事。



〔何か質問はございますかー?〕

「ないですの」「ないわ」

〔はーい。それでは早速、始めさせていただきまーす! 3、2、1────始め!〕

「たあっ」

「──っ!? ──ふっ!」



 始まりの合図と共に先に動いたのは奈々だった。

 鉄砲玉のように飛び出してきた奈々のその足の速さに驚きながらも、ベレンは《アイテムボックス》から金属製の扇を出した。

 それに対して奈々も走りながら《アイテムボックス》から出した竜牙を両手に握り、ベレンの目の前で急転換して横にずれ、斜め左方向から《かみつく》をお見舞いした。

 けれどベレンは既に冷静な状態に戻っており、完璧にそれを見極めると扇で奈々の左手の竜牙を弾き返し、右手の竜牙にそれを当てて相殺してみせた。

 そしてさらにベレンは追撃してくる。



「はあっ」

「なんのっですの!」



 弾き返した扇を、そのままの勢いで奈々に向かって振り下ろしてきた。

 それを奈々は両手の竜牙をクロスさせ受け止めると、折られる前に引きながら後ろに下がった。

 するとその瞬間ベレンの一メートル左後ろ、床から上三メートルの辺りにキューブが現れた。



「──っ!」



 先に気が付いたのは奈々の方、しかし距離はベレンが優勢。

 奈々は相手に意識される前にキューブに気が付かれない様、そちらではなくベレンに向かって攻撃を仕掛けていく。

 両手を鞭の様にしならせながら連続でベレンに竜牙を放ちつつ、猛攻撃してキューブ破壊に優位なポジションを取ろうとする。

 そんな奈々に対し、もう一つ《アイテムボックス》から扇を出したベレンは、両手で軽やかにその攻撃をいなしていきながら、さらに視線を周りに向けてキューブも探していく。

 しかし奈々の猛追を受けながら後ろを見るのは困難で、未だ自分のすぐ後方にあるキューブに気がついてはいない。

 奈々はなるべくそちらを意識しないように振舞って、相手の間合いにズカズカ踏み込んでいく。



「このっ。ちょっとはっ、喰らえっ、ですの!」

「おっ、こと、わり、よっ!」



 奈々の方が速度は上な様だが、パワーは向こうの方が上。

 丁度いい塩梅で拮抗してしまい、なかなか一歩キューブ側に踏み込めない。

 なので奈々は、ここまでの道中で新たに得たスキルを発動させた。



「てりゃあっ!」

「──ぐっ!?」



 そのスキルは《急加速 Lv.2》。

 数瞬だけだが、爆発的に速度を上げる獣術の派生スキル。

 パワーと技術で何とか拮抗していたベレンだったが、いきなり跳ね上がった速度に目が追い付かない。

 扇を間に差し込んで防御したものの、竜牙の持ち手で腹部を殴られた衝撃をいなせず、一瞬動きが止まってしまった。


 その一瞬で奈々は《急加速》が切れる前に、キューブに一足飛びに近づき、牙を突き立て破壊した。



「まず一個。ですの」

「小っちゃいのに、凄いじゃないの……」

「大きさで判断しない方がいいですの」

「そのようねっ!」

「──っ」



 今度はベレンが両手に持った二つの扇を広げて、気力の斬撃を連続でお見舞いしてきた。

 それくらいやっても奈々は死なないと理解したからだ。

 実際その通りで、その全てをステップで躱し竜牙で相殺して当たる様子はない。

 だが一撃一撃が重く、奈々は前に出られなくなった。

 そんな膠着こうちゃく状態が続く中、二人のちょど中央の上空十メートル付近にキューブが現れた。


 今度それに最初に気が付いたのは、ベレンだった。

 奈々はベレンの攻撃に集中し、回避と受けに徹してキューブ探しに目を向ける余裕が僅かに劣っていたからだ。

 ベレンは奈々に割く気力の斬撃をキューブに一つだけ向け、後は全て攻撃に回した。

 けれどその一つに回した一瞬、奈々は奥の手で残していた《真体化》を発動し、《竜飛翔》で上に飛び、キューブに向かう斬撃を竜牙で潰した。

 そしてそのままキューブを破壊しようと上を向くと、パンッと何かが壊れた音が耳に届いた。



「あら、あなたも飛べたのね」

「───っ!?」



 そこには先ほどまで何もなかったベレンの背中から、スズメに似た色形の大きな翼をはためかせ、奈々のさらに上を飛んでいる姿があった。

 さらに右手に持った扇でキューブを破壊し、崩れて消えていく様を奈々は見せつけられた。



「まず一個。飛ぶのは私の方が早いみたいね」

「ぐぬぬっですの!」



 先ほどの意趣返しとばかりにほくそ笑むベレンに、《真体化》した奈々は悔しそうに口を歪ませた。

 すると今度は真下にキューブが現れた。



「「───!」」



 今度気が付いたのは、ほぼ同時。

 距離は奈々が僅かに優勢。けれど飛行速度はベレンが上。

 ベレンは真下に突っ込むように頭を下に向けた。

 そして奈々も同じように、下に向かって急降下するであろうと踏んでいた。


 しかし奈々は、このまま下に急降下した所で競り負けると察したので、下ではなく、上に向かって突っ込んだ。



「うりゃああっ!」

「──こっちっ!?」



 予想外の行動にベレンが一瞬気が逸れた瞬間に、また奈々は《急加速》を発動させて顔面をグーで殴った。

 致命傷には程遠い一撃ではあるが、それでもかなり痛い。

 奈々はそれにニヤリと笑って、下にまっすぐ急降下していった。



「──くそっ」



 それに悪態を吐きながら痛みを堪え、直ぐにベレンも急降下しつつ、苦し紛れに扇から気力の斬撃を放っていく。

 しかし奈々は、器用に回転しながらそれを打ち落とす。

 ──が、それにより若干速度が遅れてしまった。その結果。



「「はあっ!」」



 下に同時に着地。キューブを挟むように竜牙と扇で破壊した。



「どっちですの!?」「どっち!?」

〔全くの同時ですのでー、両者1ポイントとみなしまーす〕

「「──くっ」」

「なんかあの二人似てるなあ」

「だねえ」



 両者悔しがるさまを見て竜郎と愛衣はそんな風に思いつつ、最後のキューブをかけての闘いを見つめていくのであった。

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