第20話 称号
竜郎はまず石を集めてから土魔法を使って、天井の無い、人が一人入れる箱型の物体を造った。
そして、見えないようにする衝立もついでに造ると、箱型の物体の中に火魔法と水魔法でお湯を張っていく。
「簡易型風呂の完成だ」
「おおー、お風呂だー」
目を輝かせて喜ぶ愛衣に、想像通りだった竜郎は可笑しそうに笑った。
「先に入っていいぞ」
「えっ、でも作ったのはたつろーだし、私の方が汚れてるし」
「お湯が汚れたのならまた換えればいい。気にしないで入っとけ、その状態じゃ気持ち悪いだろ」
竜郎は、愛衣の格好を指差しそう言った。それに愛衣は、確かに血の匂いや、べた付く感じが気持ち悪いのは自覚しているが、それでも据わりが悪そうだった。
「うーん」
「じゃあ、一緒に入るか?」
そんな愛衣にしょうがないと、竜郎は少し強引な手段に入った。
「ええっ、それはまだ早い気が……」
「そう思うなら先に入れ。俺が最初に入る場合は、愛衣がセットになるからな」
「むー、ごーいんだなぁ──じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうね」
「ああ。それじゃあ、脱いだものはこっちに渡してくれ。綺麗にしとくから」
「うう、なんかしてもらってばっかりで居心地が悪いよー」
愛衣の方はそう言うが、竜郎からしたら結果として囮などという危険な役目を押し付けてしまったうえに、見事やり遂げたのだから遠慮する必要などない。あそこでああしなければ、二人ともこうしていることは無かったのだろうから。
「今回は危ない役をやらせちまったからな、功労賞ってことで受け取っとけ」
「んーわかった。でもたつろーが何かしてほしいことがあったら、ちゃんと言ってね」
その一言で竜郎の脳裏に稲妻が走った!──ような気がした。
「──それは何でもですか!?」
「え、えっちなのはなしで!」
「なんだ…じゃあいいです」
「それ以外にないんかいっ」
一通りじゃれついたところで、愛衣は竜郎に後ろを向いてもらい衣服を脱ぎ去ると、ジャージと体操服を渡し、風呂に浸かった。
一方竜郎は、紳士として断腸の思いで見ないように衝立の向こうに行った。
そして、バシャバシャという水の音を聞きながら、愛衣の衣類を纏めて《アイテムボックス》にしまい、分解で汚れを分離させてからまた取り出す。
すると血や汚れがすっかり取れた衣類が出てきた。
次に、汚れの方の血だけを分離して確保し、残りを地面へ捨てた。
(ゲームだとモンスターの血とかが素材になったりするけど、こっちではどうなのかな)
そんなことを考えながら、回収した素材を分解して整理していった。そうして暫くすると、愛衣から声がかかり、見ないように綺麗になった服を渡した。
「すごく綺麗になってる。これを《アイテムボックス》でやったの?」
「ああそうだ。かなり色んなことに使えそうだよな」
「私もSPに余裕が出てきたら、そこまでは取っとこっと」
「いいんじゃないか」
「うん」
それから竜郎も湯を張り直して入浴し、《アイテムボックス》を操作して着ていたものの汚れをとり、さっぱりした状態で着替え終わると、愛衣のいる衝立の向こうにいった。
「終わったぞーって、また見てたのか」
「ん、こう月に照らすとキラキラーってしてすごく綺麗なんだもん」
そう言いながら、黄金水晶を手に見つめていた。確かに幻想的に輝くその様は、宝石に特に興味のない竜郎ですら見惚れてしまうほどの美しさがあった。
なにかやばい魅了効果でもあるんじゃないかと、竜郎が解析をかけたが何も問題はないようなので、純粋な魅力を秘めているのだろう。
(やっぱ、これで指輪とか造ってやりたいな)
現状ではこのバカみたいに硬い水晶の加工方法など、まるで思いつかないが、いつかそうしようと竜郎は心のメモに書き留めておいた。
「これだけでも異世界に来たかいがあったよー。そういえばまだたくさんあるんだよね?」
「ああ、大量にあるぞ。青いのはもっとあるし」
「一匹でそれだけ大量に取れるってことは、お値段的には大したことないのかもね」
「言われてみれば、こっちでは大したことないかもしれないのか。
まあ屑値しかつかなかったら、投擲用の石ころとして使ったり、鈍器にもできそうだから無駄にはしないさ」
竜郎は少々勿体ない気がしたが、この水晶の性能は身をもって知っているので、案外それも有りなんじゃないかと思った。
「一個は絶対持って帰ろうねっ、綺麗には変わりないんだもん」
「そうだな。たくさんあるし俺のも一個確保しとくか」
「それがいいよぅ」
そう言って愛衣は、手に持つ水晶に頬ずりした。それに「羨ましい水晶っ俺と替われ!」と思う竜郎だったが、このまま話して夜が明ければ明日に差し障ることを思い出した。
「っと、そんなことをしている場合ではない。はよ、寝床の確保や愛衣はん」
「なにそのエセ方言は…でも確かにそうだね。じゃあサクッと見つけようか」
それから一キロほど歩いた場所に、昨日寝床に使った岩よりさらに大きな岩がドンと鎮座しているのを二人は見つけた。
「これなんかすごくいいじゃないか」
「えー、なんか上がゴツゴツしてるし寝にくそうだよ」
愛衣の指差す岩の天頂部は起伏が激しく、寝られるようには思えなかった。
「そこで土魔法ですよ」
「あ、そっか」
もう眠くて頭がぽやーとしていた愛衣は、その存在をすっかり忘れてしまっていた。それを理解していた竜郎は特に何も言わず、速やかに行動を開始する。
「うーんと……こんな感じで…………こうかな」
傍から見れば大きな岩をペタペタ触っているようにしか見えなかったが、すぐに結果が現れる。まず上り下りに適した高さにするため、余分な高さを液状化させ、平らな寝床も同時に確保し、その液状化した部分は昨日と同じように塀にしていった。
かかった時間は二分ほど、昨日とは雲泥の差である。
「昨日は結構大変だったのに、すぐできたねー」
「魔法様々だな。んじゃ、愛衣はもう寝とけ、また先に俺がやっとくから」
「あーうん、ここはさすがに甘えときます。もう眠くて眠くて限界で…」
そう言いながら二人でのそのそ塀の内側に入ると、愛衣は直ぐに眠りに落ちた。そこで竜郎は再び生魔法で、愛衣の睡眠の質を上げ、自分の眠気を覚ましておく。
次に改良した探査魔法を試してみる。魔力制御もレベルがあがったおかげか、かなりスムーズに行えるようになり、魔力の密度を薄く延ばすことで探査範囲を拡大することに成功した。
「さて、落ち着いたことだしそろそろステータスを確認するかな」
そう一人呟いて、システムを起動した。
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名前:タツロウ・ハサミ
クラス:光魔法師
レベル:27
気力:64
魔力:610
筋力:88
耐久力:88
速力:83
魔法力:483
魔法抵抗力:475
魔法制御力:483
◆取得スキル◆
《レベルイーター》《光魔法 Lv.10》《闇魔法 Lv.1》
《火魔法 Lv.10》《水魔法 Lv.1》《生魔法 Lv.1》
《土魔法 Lv.5》《解魔法 Lv.3》《魔力質上昇 Lv.1》
《魔力回復速度上昇 Lv.2》《集中 Lv.3》
◆システムスキル◆
《マップ機能》《アイテムボックス+2》
残存スキルポイント:101
◆称号◆
《光を修めし者》《火を修めし者》《打ち破る者》
《響きあう存在》
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(んん? レベルが上がったにしても、ステータスが伸びすぎてないか?)
そう考えながら原因を探っていくと、すぐにそれは見つかった。
(原因はこれか…称号ってただの飾りじゃなかったんだな)
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称号名:光を修めし者
レアリティ:10
効果:ステータスの魔力、魔法力、魔法抵抗力、魔法制御力に+100。
光魔法において制御能力上昇。
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称号名:火を修めし者
レアリティ:10
効果:ステータスの魔力、魔法力、魔法抵抗力、魔法制御力に+100。
火魔法において制御能力上昇。
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称号名:打ち破る者
レアリティ:8
効果:全ステータス+30。
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称号名:響きあう存在
レアリティ:12
効果:この称号を同時に取得した人物との念話が可能になる。
同人物と接触している間、気力、魔力の回復速度大上昇。
同人物と接触している間、全ステータス大上昇。
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(修めし系列はかなり強力だな。地味に打ち破る者もいい仕事してる。
けど響きあう存在──これは使いようによってはかなり強力じゃないか?
念話ってようはテレパシーだろうし、接触してれば大幅な強化が得られるし……試しに触ってみるか)
竜郎は手を伸ばし愛衣の──頭に手を置いて優しく撫ではじめた。すると、さっきまでは意識していなかったから解らなかったが、注意して強化を感じようとすると、体感で解るほど魔力が回復してきているのが解った。
(すげーなこりゃ、この状態なら簡単な魔法なら使った端から全回復するぞ。
これから魔法の練習するときは、愛衣に手でも繋いでもらうかな)
そんな風に考えながら、竜郎は一回目の見張りの時間を潰していった。




