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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五章 呪われた少女編

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第207話 フォルネーシス

 パーティ名、フォルネーシス。

 このダンジョンの最深部で一番最初に確認されたとされるボス魔物から取った名で、メンバーは何度も変わりながらも、数百年に渡ってこのダンジョンを狩場として生活してきた者達。

 なので実際には冒険者と言うよりも、ダンジョン攻略者と言った方が良いのかもしれない。

 現構成メンバーは男八人、女五人。

 今のリーダーで、名をビヴァリー・クーガンというその女性は、エルフのワンエイスで人種と同じ外見をしているが、その中に眠る血だけは隔世遺伝しているという希なケースとして生まれた。

 ビヴァリーはその性質上老化が遅く齢90を超えてなお、グラマラスな体形に衰えは見られず容姿も美しさを保っていた。

 また基礎魔法能力値も純人種より格段に優れていたのもあり、その力と経験を買われ、二十年ほど前にフォルネーシスの一員から、前任の引退と共にリーダーの座に昇格した。


 そんなビヴァリーなのだが。

 ここで数十年に渡って活動してきた彼女にとっても、こんな層は初めてだった。

 過去のフォルネーシスのパーティメンバー達が代々残してくれた記録でも、見たことが無い。

 なので状況を理解するのに暫し時間がかかりはしたものの、今は受け入れ現状を他のメンバーと共に話し合っている最中である。



「まずルールなんだが、あんたらはどんなモノを提案するべきだと思う?」

「とととととりあえず、殺すのは無しっていうのは絶対ですぞっ!」



 話し合いで第一声を発したのは、ダンジョンに入る前に竜郎達に奇襲をかけ、アテナに喉を潰されそうになった小柄な男。

 人間と小型動物の獣人とのハーフ、ミッキーだった。

 彼はアテナに間近で睨まれた時の恐怖がぶり返して、脂汗を額から流していた。



「そうですね。見た所さっきダンジョンが言ってたような過激派ではなさそうですし、向こうとしても十分呑み込んでくれると思います」

「ふむ。それが通るのなら、必要以上の暴力行為も無しという事にできるであろう。

 儂は望む所であるが、デイナなどはその方がよかろう?」

「ですね!」



 鳥の獣人で薄茶色の髪に白の一本筋が入ったショートカットの女性ベレンが、竜郎達を見たままの感想を述べる。

 それに巨人種で二メートル半の体を持つ、白髪交じりの黒髪の男ミロウシュが言葉を返し、デイナと呼ばれたフワフワのウェーブがかかった、濃い茶の長髪女性が大きく頷いていた。


 ちなみにデイナはこのパーティーメンバーの回復役で、生魔法と光魔法しか使えない。つまり戦闘には不向きなのだ。

 だからもし試合に挑まなければならなくなった場合、酷い人間に当たれば嬲られても抵抗できない。

 彼女としても、絶対に通して欲しいルールであった。



「あちらさんがそんな事をするようには見えんが、念の為にそういうルールも必要であろうな」

「だな。俺としても、その方が安心できる」

「こんな所で無駄に消耗して、次の層に差支えが出ても困るしな」



 整った顔立ちで壮年のエルフ、オーレリーも同意。

 続いて魚人で二メートル弱の背丈を持った強面の男ハブルル、蛇の爬虫人の男ヌータウと、他の面々も賛成の意を示す。

 そうしてフォルネーシス側が要求したい大まかなルールを纏め終わると、後は誰と戦いたいかという話になってきた。



「俺は、あの少年とやりたい。魔法でなら相性的に俺が一番やれるはずだ」

「オーハンゼーがかい? ありゃ、見た目通りの力じゃないと思うが大丈夫かい?」



 蛇の爬虫人の男ヌータウの兄、オーハンゼーが真っ先に手を上げたが、ビヴァリーは竜郎に対し嫌な予感しかしなかった為、本当にやれるのかと確認をとった。



「だが最初現れた時に使っていた、火魔法の結界は奴で間違いないはずだ。

 なら解魔法使いの俺が、唯一アンチ魔法が使える属性使いという事になる。

 俺が勝てる見込みがあるのが、むしろあの少年くらいしか見当たらんぞ」

「そうだねぇ。けど魔法使い相手なら、体術使いのニコラスとかもいいと思うがね」

「ビヴァリーさん、男相手なんてやですよー。

 それなら俺は、あのおっぱいの大きな弓を腰にぶら下げてる女の子がいいな。

 可愛くて童顔でおっぱい大きいなんて、モロ俺好み。

 試合のどさくさ──もとい、事故でお胸にタッチなんてことも──」

「ニコラスさん。死んでください」

「「「死ね! 女の敵!」」」

「ごはっ」

「馬鹿だねえ、あんたはホントに……」



 体術使いで短い金髪、マッチョで人種の青年は、普段は温厚なデイナに汚物を見る様な目でさげすまれ、魚人の女性で青髪のディジャとイダの二人と、鳥獣人のベレンにボコボコに殴られていた。

 ビヴァリーはニコラスの内心も理解している上で、呆れながら頭を抱えたのだった。


 一方、竜郎達はその頃。



「ん? 何か今、無性にイラッと来たんだが」

「私はなんか、背筋がぞぞぞってなった」

「風邪ですの?」

「ううん。そう言うのじゃないと思う。それにしても、向こうは時間かかってるねー」

「まったくっす。ん? 仲間割れっすかね」

「ほんとですね。何故か金髪の男性が女性陣にタコ殴りにされてます」

「お調子者っぽいし、セクハラでもしたんじゃないか?」



 こちらも呆れた感じで話す竜郎であるが、横に立っていた愛衣のお尻に手を伸ばして触っていた。



「そう言うえろろーさんは、なんであたしのお尻を触ってるのかな?」

「はっ、手が勝手に! 羨ましいぞ、俺の右手!」

「もうっ、何馬鹿なこと言ってるの。

 でもさ真面目な話、たつろーは私以外には絶対にしないというか、そんな素振りすら見せないよね」

「は? 愛衣以外触ってどうすんだよ?」



 心底解らないといった表情でそう言うその顔に、竜郎の目に真に女性と見ているのが自分しかいないのだと再確認した愛衣は、口元が緩んでしまうのが抑えられなかった。

 それと同時に目の前の彼が愛しくて愛しくてしょうがなくなる。

 なのでその衝動のまま、ギュッと抱きついてキスをしたのであった。


 一方その頃フォルネーシスのメンバー達は、ばっちりそのシーンを目撃していた。



「あの野郎! 俺のおっぱいちゃんと何してやがる!

 もしや、さっきの会話が盗聴されていて俺に見せつけようと──」

「いつから、あんたのになったのよ。アホじゃないの?」

「ニコラスさん。死んでください」

「あの、デイナちゃん? その汚物を見るような目だけはやめてくんないか?」



 懇願むなしく唯一同じ純人種で、密かに恋焦がれていたデイナに邪険にされ、ニコラスの心が折れそうになっていた。

 何を隠そうこのデイナも可愛らしい童顔巨乳で、愛衣の特徴を言って密かに好みを伝えて意識させよう作戦と、押す勇気がないから嫉妬してくれないかと、引いてみよう作戦の両方を行ったのだ。

 が、それは見事に裏目に出てしまった様である。

 そう、この男。本命には本心が告げられずおどけてしまう、ザ・チキンピエロなのであった。



「まあ、その盗聴云々は別にしても、案外あのパーティは少年のハーレムなのかもしれんぞ。

 ほれ見てみい。あ奴以外、見事に女しかおらんぞ」

「おお、ほんとじゃのう。幼女に少女。それにちと目つきはあれだが、ミッキーの喉を潰そうとしたあの女子おなごも見てくれはいい。ほほっ、羨ましい限りじゃ」

「「「「「「ああん?」」」」」」



 壮年のエルフ、オーレリーの一言に、巨人族のミロウシュがふざけて乗っかると、それを真に受けた他の六人の男たちの怒りの視線が竜郎の背中に突き刺さった。

 一方女性陣はそんな男たちに呆れつつ、竜郎に別の視線を向けていた。



「あーでも、結構カッコいいかも。

 オーレリーとミロウシュ以外の男連中は放り出して、あの子をこっちに引き抜きたーい」

「それはいいかもね、ディジャ。

 そうすれば、そのハーレム要員であるあの子達もおまけに付いてきてくれるだろうし」

「イダのいう事も一理あるかも、正直言って初見で私達と同じ進行速度って異常だわ。

 それに私達フォルネーシスが持つ情報と合わされば、ダンジョン稼ぎの効率が今の比じゃなくなるはずよ」

「まあ、入ってくれるとは思わないけどねえ。

 あの衛兵が頑なに身元を言わなかったから、どこかの貴族のボンボンかと思ったんだが……。

 案外、高ランクの冒険者だったのかもねえ」



 実はフォルネーシスは新規のダンジョン挑戦者が来た場合、直ぐに知らせるように衛兵に金を渡していた。

 それで商売敵になるかどうか値踏みをしていたのだが、いつも口が軽い衛兵たちが珍しく緘口令かんこうれいを敷いて口を噤んでしまい、竜郎達の情報が得られなかったのだ。

 だからこそ、偶然居合わせたようにして待ち伏せていたのである。



「はぁ、あんなに若いのに高ランクの冒険者さんかー。

 顔もちょっとタイプですし、ステキかも……」

「ででででデイナちゃん? い、今なんて?」

「え? なんですか、ニコラスさん。何も言ってないですよぉ」



 恥ずかしい独り言を聞かれてしまったとばかりに顔を赤くし、パタパタ手で扇ぐデイナに、先ほどの言葉は本心なのだと理解してしまい、ニコラスはショックで大口を開けたまま固まってしまった。

 だがそれは直ぐに嫉妬の心に支配され、目は憤怒に燃えながらも口は笑い、ビヴァリーにこう言った。



「ビヴァリーさん……。今なら俺、あの男とやってもいいです……。いや、むしろ俺がやる!」

「はいはい、そうなればいいねえ。んじゃあ、そろそろ向こうと話し合おうか。大分待たせちまってるようだし」



 そんな話が向こうで繰り広げられているとは露知らず、竜郎達が話し合っているとガラス板が光り輝き始めた。



〔あちら側も話し合いが終わったよーなので話せるようにできますが、よろしいですかー?〕

「ああ。大丈夫だ」

〔では、このガラス板の前に話す人は立っててくださーい〕



 そう言い残してガラス板の光が消えたので、竜郎は代表としてガラス板の前に立った。

 それから二秒ほど経った後。ガラス板の表面にノイズが走り始め、やがてそこへ映りこむ映像がはっきりとしていった。

 すると竜郎の目の前のガラス板に、フォルネーシスのリーダーであるビヴァリーの妖艶な姿が現れた。



「久しぶりだね。まさか、ダンジョンの中で会うとは思わなかったわ」

「こちらも、そうでしたよ」



 ビヴァリー達の方にも竜郎の姿が映し出されており、巨大な画面でのテレビ電話のようにして話は進んでいった。



「せっかくだし、自己紹介をしておこうかね。

 私の名前はビヴァリー・クーガン。

 フォルネーシスという、このパーティーのリーダーをさせて貰ってる」

「竜郎・波佐見です。

 こっちは特にパーティ名もリーダーも決まってはいないんですが、僕が代表で話をさせてもらいます」

「タツロウ君だね。了解した。

 まあメンバーの紹介は話し合いには必要ないだろうし、しなくても構わないだろう?」

「はい。問題ないです」

「それじゃあ、ルールを決めようか」



 そうしてお互いが話し合った結果。

 全種目共通のルールが、以下の通りに決まった。


・殺しは厳禁。

 もし殺してしまった場合、その時点でパーティ全体の負けとみなす。

 またダンジョンの強制力を以って、殺した人間を相手パーティーに差し出す事。

・必要以上の暴行を禁ず。ただし、相手の妨害の為に攻撃を加えるのは有り。

・種目決めは、ダンジョンにランダムで選出してもらう。

・試合は武術で競うか、魔法で競うかを分ける。

 またその際、武術職と偽って魔法職の相手との試合になっても、武術系スキルの試用は禁止。その逆も同じ。

・選出方法は武術職同士、魔法職同士がうまくブッキングする様にダンジョンによってランダムで選んでもらう。

・人数の都合上、竜郎達側のみ一人二回までの参加が認められる。

・同一人物が連戦になってしまったら、その人物が良いというまでインターバルを設ける。

・先に七勝した方が勝ちとみなす。



〔以上のルールで、よろしいですかー?

 途中からのルール追加は、双方が望んでも認められませんがー?〕

「ああ」「構わないよ」

〔では、その様にルールを設定しまーす。─────設定終わりましたー。

 これより、いかなるルール違反も見逃しませんのでーご注意をー〕

「解った」「解ったよ」

〔では、選出の調整をしますのでお互いの通信を打ち切りまーす〕



 そうしてガラス板から、ビヴァリーの姿が消え去った。



〔では、それぞれ武術職の試合。魔法職の試合。

 どちらに出られるか申告してくださーい〕

「俺は魔法職だ」

「あたしは武術ー」

「私は……武術になるんですかね?」

〔鍛冶術は金槌を使いますしー、武術とみなしてもいいと思いまーす〕

「じゃあ、それで」

〔残りの方々は、どうするんですかー?〕



 と、まだ申告していないカルディナ達をダンジョンが急かしてきた。



「うーん。ぶっちゃけ、カルディナ達はどっちもいけるよな?」

「ピュィーイ」「ヒヒーーン」「どちらでも結構ですの!」「望むとこっす~」

「って事なんだが、ルールを守るから、この子達は両方にエントリーすることは可能か?」

〔ルール上禁止されていないので、勿論OKでーす。

 ただし武術職相手に魔法スキルを使った場合、またはその逆の行為を行えば、その時点で一敗扱いですので気を付けてくださいねー〕

「そこは解ってる。じゃあ、それで頼む」

〔はいはーい。────登録しました。

 あちらの登録も間もなく終わりそうなので、しょうしょーおまちくださーい。

 それが終りしだい種目と選手を発表しますのでー〕



 こうして、たつろーチーム VS フォルネーシスの試合が決まったのであった。

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