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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五章 呪われた少女編

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第206話 イレギュラー

 精霊魔法。

 それは各属性を司る精霊達。所によれば神とすら呼ばれる存在の意識の一部を、自分の属性魔法を器として降ろす降精術。

 それは精霊魔法が使えない者からすれば、魔法が魔法を使うという奇妙な現象に見えてしまう事から、自立型魔法と呼んでもいいだろう。

 ただこれは精霊の意識の一部でしかないので、カルディナ達程の高い知能は持ち合わせていない。

 なので、何も言われなければ好き勝手に遊び始めてしまうので注意が必要。


 そんな精霊魔法を暫くの間、少ない魔力を使って実験した後。

 愛衣に膝枕してもらいながら、減ってしまっていた魔力の完全回復を図った。

 何せ今からカルディナ達の体を造り直すという重要な任務が残っているのだから、心身共に万全にしておかねばならない!

 ……と。そう言う建前の元、愛衣のきめ細かなすべすべした太ももの感触を堪能して、竜郎は文字通り心身共に最高の状態に戻ったのだった。


 それから、まずは一番お姉さんのカルディナを呼び寄せた。

 事前に体のレベルを上げるという事は伝えてあるので皆、自分の番を心待ちにしていた。

 しかしカルディナの探査魔法が一時的に無くなってしまうというのもあり、より真剣にジャンヌ達は周囲に目を光らせていた。


 だが、今回は奥の手がある。そう、精霊魔法である。

 まず解魔法の魔力の塊に、解属性の精霊を降精させる。

 そして土魔法の魔力の塊、水魔法の魔力の塊も同様にして、三つの魔力が協力して探査魔法を行い、もし何か見つけたら近くにいるジャンヌ達に知らせるように指示を出した。

 これでカルディナの体を生成、移植、魔法の因子移植の間ぐらいなら持つはずである。

 それから愛衣に手を繋いでもらい、そこで使った魔力も直ぐに回復させてから、さてやるかと気合を入れた。

 しかしそんな所で、カルディナが何か言いたげに袖を引っ張ってきた。


 それに何かと竜郎がしゃがみ込んで目の高さを合わせると、カルディナは自分の《アイテムボックス》から紙とペンを取り出して文字を書き始めた。

 鳥の足に取り付けて書く道具にも慣れてきたのか、最初よりも随分うまくなった文字を書いていく。



 (水魔法の因子がほしいの)

「えーと……ああ、水魔法が欲しいのか。

 ──って、それって探査の為にだよな?

 もっと自分の好きな魔法を選んだっていいんだぞ?」

 (パパの役にもっと立ちたいの)

「カルディナは、今でも充分役に立ってくれてる。

 いつもすごく助かってるよ」



 竜郎はそこで気持ちも伝わる様に、優しく頭を撫でてあげた。

 するとカルディナは気持ちよさそうに、鋭い目を細くして自分からもその手に頭を摺り寄せた。



 (ありがとね、パパ。でも、まだ足りないの。

 もっともっと私は探査魔法を極めて、誰よりも先に敵を見つけて、みんなを守りたい)

「カルディナ……おいで」

「ピュィー♪」



 カルディナを抱きよせて、竜郎は頭部から背中にかけて優しく撫でた。

 本当にこの子は、いい子なんだなと。

 曲がりなりにも父と呼ばれる身として、誰憚ることなく誇りたくなるほどに。



「解った。カルディナの望むようにしよう」

「ピュィイ!」

「ふふっ、喜んでるね」

「ああ。それじゃあ、やるか!」

「ピューイ」



 カルディナは《成体化》状態で、手を上げるように羽を上に上げて元気よく返事をしてくれた。

 その姿が可愛かったので、なんとなく竜郎は再び頭を撫でてあげると、気持ちよさそうに目を細めてくれた。

 そうして竜郎は、久しぶりに光と闇の混合魔法。

 さらに竜力と魔力を混ぜ合わせた竜魔力を使って、《陰陽玉》を発動させた。

 すると今まで以上に巨大な斑の球体が現れたのに少し竜郎は面食らうが、そこからは慎重に恙なく事を運んで行った。


 程なくしてカルディナの情報を全て新しい体の方に移植しなおすと、解魔法の因子はそのまま移植して、土魔法レベル10の因子と水魔法レベル8の因子を入れていった。

 やがて三つの魔法が完全に定着したのを感じ取った竜郎は、カルディナを元の姿へと戻る様に言った。

 すると外見上はあまり変わりないように見える《成体化》状態であるが、それでも《真体化》でもないのに周囲にもたらす威圧感が増した気がした。

 そしてそれは間違いではなく、元来持つ魔力量も身体能力も跳ね上がっていた。



「どうだ。新しい体は?」

「ピュィイイイ!」

「問題無いみたいだね!」



 激しく首を縦に振ってピョンピョン飛び回るカルディナの姿に、竜郎と愛衣は顔を見合わせて微笑んだ。

 それからカルディナは水魔法を何度か試すと、家の上まで飛び立って再び解魔法で探査の魔法を行使し始めた。

 なので精霊魔法達を呼び寄せると、バスケットボールよりも大きかった属性魔力の塊は、卓球のボール程のサイズに縮小してしまっていたが、まだもう少しくらいなら持ちそうなので、そのまま魔力が無くなるまでカルディナと一緒に探査魔法を継続してもらう事にした。


 そんな事もありながらジャンヌ、奈々と体と魔法因子の更新をしていき、アテナの番になった時。

 せっかく第二属性も10まで貰えるとの事なので、今まで考えていた新たな属性を追加してほしいと申し出があった。



「あたしの第二属性、決めたっす!」

「アテナちゃんも決めたんだ。何が欲しいの?」

「風っす!

 色々迷ったんすけど今はちょっと攻撃方面に偏りまくってるんで、あのドリ鳥みたいな方法でそっちも上げようかと思ったんす」

「あー。あの《風装》とかいうスキルな。

 確かにレベル十の風魔法であれをやれば、色んな攻撃が受け流せそうだ。

 うん、良いと思うぞ」

「よかったっす~。それじゃあ、お願いしますっす~」



 ぐて~っとした言葉とは裏腹に、折り目正しく頭を下げるアテナをよしよしと撫でてから竜郎は最後の体造りに励んでいった。


 それからカルディナ達、魔力体生物組の換装も無事に終わり、竜郎含めまたこのパーティは強化された。

 それに対してリアは、本当に大国相手に戦争が出来そうなメンバーだなあ……と、どこか遠い目をしながらも、しっかりと魔力体生物造りを《万象解識眼》で観させて貰った事について纏めていく。


 結論から言って、この魔法はどんなに精巧に魔方陣を刻み、どんなに大量のエネルギーを用いても、実際に光魔法と闇魔法のスキルを持っている人間にしか成しえない御業だと理解した。

 だが、それは完全に再現するのなら。である。

 もしかしたら、この構想をいかせば魔方陣を刻むことができる程の人工知能の開発ができるのではないかと、リアは密かに新たな設計図を頭の中に展開し始めたのだった。


 それから集中力を完全に摩耗させた竜郎の為に、また暫しの休憩を挟んだ後。

 全員そろって、二十層目へと乗り出すために準備を始めた。

 竜郎と愛衣はいつもの装備だが、カルディナたちはそれぞれリアが改良した腕輪型の杖を《成体化》状態でそれぞれ身に着けた。

 そしてリア自身は品質向上をコツコツやって強化した竜の鱗から作った頑丈な軽装鎧に靴、グローブを嵌め、さらに強化合金で作った柄の長い金槌を背中に背負って、腰には安全ピンの付いた三つの手榴弾。

 また奈々には物理系ステータスの中で防御力が一番低いので、鎧が必要そうだったのだが、動きにくくなるから嫌だと断られた。

 そこでリアは考えた末に、こちらも品質向上で強化した竜の鱗を薄く伸ばし、強度もそこそこある軽いマントを誂えておいた。

 今や奈々のお気に入りなのか、ちゃんと身に着けてくれている。


 これで完全に準備は整った。

 なので今回も竜郎による火魔法を最外部に構成した何層もの複属性の結界を張り、一斉に光る溜池へと飛び込んでいった。


 ……けれど、不意打ちを仕掛けてくるモノはいない。

 また十五メートル四方の閉じた四角い空間に送られた様なので、大丈夫そうだと判断して竜郎は結界を解いた。



「な─」「え?」「ピュッ!?」「ヒヒン!?」「あれは─」「あっ」「あー」



 七者七様の言葉を口にしながら、真っ直ぐ目の前に映る光景に目を丸くした。

 そこは透明度のかなり高い全面ガラス張りの空間で、そこに閉じ込められるようにして竜郎たちは存在していた。

 そしてそこからは当然、向こう側が完全に透けて見えていた。

 と、そこまでなら竜郎達とて、ここまでの経験からも落ち着いていられたであろう。

 しかし、今回は予想していなかったイレギュラーが発生したのだ。


 なんとその深く暗い崖を挟んだ向こう側には、竜郎達がこのダンジョンに入る前に出会った冒険者のパーティが、同じような透明なガラス張りの空間に閉じ込められていたのだ。

 向こうも完全にこちらに気が付いている様で仲間同士で何かを話しているが、ここから向こうまでは五メートル程離れている。

 それに頑丈なガラスで密閉された空間なので、何を言っているか全く聞こえない。



「これって、どういうことなの?」

「まさか、レベル7のダンジョンで他人に会うとはな。

 リア、あれってダンジョンが用意した偽物とかじゃないよな?」



 特殊な魔力も完全に遮断するガラスの様で、解魔法を向こうまで届かせることができなかった。

 なので見えているという事もあり、リアに確認してもらう。



「間違いなく、あの時あった人達です」

「二つのパーティーをここに集めて、ダンジョンは一体何をさせたいんですの?」

「まあ何にしても、他人の目はあんまり歓迎できないんすけどねー」

「だな。できればここを出るまで、誰にも会いたくなかったんだが…」



 今更リアに姿を偽装する呪魔法をかけても、向こうに別の情報を渡してしまうだけだ。

 なのでそれは諦めて別の案を思案し始めた所で、このガラス張りの空間の中央から高さ二メートル、幅一メートル半ほどのガラスの板がニョキニョキ下から生えてきた。

 それに何事かと注目していると、向こう側のパーティのいる空間にも同じことが起こっているようで、何やら驚いた様子が竜郎達にもうかがえた。

 そうして完全に板がそこに固定されると、表面がピカピカと白く点滅しだした。

 そして、その板から聞き馴染みのある機械を通したような女性の声が響き渡った。



〔みなさん、しばらくわー。

 この層はある程度深い階層で、ほぼ同じ深度で、ほぼ同じタイミングで、二組以上のパーティーが次の層を渡ろうとした場合にのみ来ることができる、特殊な階層となっておりまーす〕

「またお前か。それで、今度は何をさせるつもりなんだダンジョン」



 それは竜郎達がエクストラステージで出会った……というか、聞いたというか、とにかくその時のダンジョンが話しかけてきたのだ。



〔いやー、こちらは話が早くて助かりますー。

 向こうでは今、こちらが誰か説明させられている所なんですよー〕

「向こうもって、同時に複数のダンジョンがいるってこと?」

〔一つの意思が分割されているー。みたいなものですかねー。

 それで、この場所の説明をしてもよろしいですかー?〕

「ああ、頼む」

〔まず端的に申しますと、この層では他の挑戦者と試合をしてもらいます〕

「試合内容は?」

〔まず、こちらをご覧くださーい〕



 ダンジョンの声がするガラス板から、ポンッと吐き出されるように薄青く光る透明なキューブが出てくると、その場で浮遊しながらゆっくりと回転していた。



〔このキューブを使った試合ですね。

 これは、一定以上の威力の攻撃を食らうと壊れます〕

「試してみていいか?」

〔ええ、もちろーん〕



 という事なので竜郎は遠慮なく浮遊するキューブに向かって、まずは極小のレーザーを当て、段々と出力を上げて正確な崩壊点を探っていく。

 やがて弱魔物程度なら倒せるレベルの威力に達した時、レーザーが向こう側に貫通。

 キューブが小さな破片となって崩れて、それが床に落ちる頃には消えてしまった。



「今くらいの威力で壊れるみたいだ」

「それくらいなら、普通に殴っただけで壊れちゃうね」

「一撃当たれば、アウトって思った方がいいっすね」

「それで、これをどう使うんですか?」

〔種目は大まかに三種類ありますー。まず一番解りやすい種目。

 与えられた自分のキューブを守り、相手のキューブを破壊するというものですねー。

 そして二つめは、制限時間内に無限に湧き出るキューブを、どれだけ多く破壊できたかを競う種目ー。

 三つ目は、いつどこに出てくるか解らない一つのキューブを、どちらが早く規定の個数を先に壊せるか競う種目ですかねー〕



 要は風船割りゲームの様なものかと竜郎が納得しかけた所で、ふと最初に言っていた「大まかに」という言葉を思い出した。



「さっき大まかに三種類って言ってたが、細かく言えばもっと派生した何かがあるって事か?」

〔ええ。ですがそれを決めるのは、こちらではありませーん。

 その三つの種目をそのままやるのも勿論いいですがー、そちらで話し合って変えてしまうのも有りって事ですー〕

「話し合って決める。っていうと、当然向こう側の人達とって事だよね」

〔そうですねー。その際にルールもそちらで決めて頂き、こちらに伝えてくれれば、審判役として試合の勝ち負けを精査しますー〕

「ちなみに勝ったらどうなって、負けたらどうなりますの?」

「そうっす。それが一番大事っす」



 最悪の場合で言えば、負けたら死亡なんてものだったら、さすがにこちらもここでの帰還を考えざるを得ない。

 そしてただ試合をして楽しんで、互いの健闘を称え合うなんて、呑気な場所でもないことは解っている。

 そこだけは、ちゃんと確認しておかねばならなかった。



〔そうですねー。そこは大事でしたー。

 まず勝った場合。宝物庫へ行って、三十秒間のつかみ取りチャレンジを行えまーす〕

「つかみどりちゃれんじ? どういう事だ?」

〔魔物もいない、宝が置かれた部屋だけが沢山ある空間に行きましてー。

 三十秒間だけそこで《アイテムボックス》なり、袋なりに時間いっぱいまで詰め込んでいくことができるんですよー!

 お宝ザックザックのボーナス空間ですねー。

 それで、時間が切れれば部屋に鍵が掛かるので、それまでとなりまーす。

 それからそこに次の階層へ行く道を作るので、そこから攻略の続きをーと言う感じですね〕

「それじゃあ、負けた場合は?」

〔負けた場合は現在進行中の層から、マイナス5層強制戻しのペナルティーが課せられまーす〕

「えーと、他には何もペナルティとかはないんですか?」

〔はいー。特に何もー〕



 それだけ聞けば、何とも安全なお遊びだ。

 しかし、絶対にただ遊べばいいという事でもない気がしてならない竜郎は、もう少し突っ込んで聞いてみることにした。



「なあ、これって何か危険な要素とかはないのか?」

〔え? 勿論あるじゃないですかー?〕

「とゆーと?」



 愛衣が聞き返した所で、竜郎はなんとなくその危険要素に気が付いた。

 だがそれを口にする前に、その明確な答えをダンジョンが皆に語って聞かせてくれた。



〔試合のルールは、お互いの合意が取れた場合のみ採用されまーす。

 それ以外のルールは基本無いのでー、極端な話、対戦相手を殺してしまうのが一番手っ取り早い攻略方法なんですよー。

 だから片方が穏健派のパーティだったとしても、片や過激派なパーティだった場合。

 キューブそっちのけで、殺し合いになったケースが昔ありましたー〕

「少なくとも、不殺のルールは捩じ込みたいな。

 それに殺されない限り、キューブを抱えてごね続けるなんてのも無しにしたい」

「ですね。あとは降参の意を示した瞬間、そこで勝ち負けが決まるというのもあるといいと思います」



 力で劣っているとも思えないが、向こうも竜郎達とほぼ同じ速度で、ここまでやってこられるレベルの者達だ。

 このダンジョンに対しての素人玄人の違いはあれど、能天気に油断していい相手でもない事は明白。

 もしかしたら妙なスキル持ちで、さらにそれが最低最悪の相性の人間がいた場合、キューブを無視して嬲られるなんて事が、絶対に無いとも言い切れない。

 向こうがどんな人間かなど、こちらは殆ど知らないのだから。



「だな。リアの言う通り、ドロップアウトの権利もいれておきたい。

 それで質問なんだが、どうやってあちらと話せばいいんだ?

 ここから大声を出したって、聞こえそうにないんだが」

〔それは大丈夫ですよー。このガラス板を使って、お互いの声と姿を映して話し合いの場を設けられますのでー〕

「おっきいスマホみたいなもんなのね」

〔すまほ? なんですか、それー?〕

「こっちの話だ。それで何時、向こう側と話ができる?」

〔まだ向こうは説明の最中なのでー、もう暫くここで寛いでいてくださーい。

 時が来ましたら、すぐにお知らせしますのでー〕



 そうして竜郎達は相手との協議の場ができるまでの間、仲間内でさらに細かく話し合いを続けていくのであった。

次回、第207話は4月5日(水)更新です。

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