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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五章 呪われた少女編

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第203話 どこまで続く?

 斜め下に伸びる滑り台のようなトンネルを下ると、ようやく何もない部屋に到達した。

 全員が部屋に押し入ると、いつも通り戻れない様にトンネルは塞がっていった。

 とりあえずここまでは先ほどの魔物は追っては来られないようなので、一息吐くために床に座り込んだ。



「さっきのは、ここにボタンがあって……問題は……それから答えが……」

「すごい解りやすいね」

「そうですか? ありがとうございます」



 リアの手元を他の全員が覗き込むと、ここまでの部屋の位置関係を記した地図にボタンの位置、問題と答えと、誰が見ても解りやすく纏められていた。

 それはまるで、攻略本だなと思ってしまうほどに。

 これさえあれば、一度通った道は二度と間違えることは無いだろう。



「しかし、まともに観察してもこうも裏をかかれるとたまらないな。

 今後調べるのは、リアに任せてもいいか? その間の安全は保障するからさ」

「はい。いいですよ」



 そうして答え探しもリアに任せる羽目になってしまったので、後の事は全て竜郎達が請け負って先へ先へと進んで行った。


 そして現在、竜郎たちは十六部屋目にまで到着した。

 ここは一度失敗したので、来るのは二度目である。

 ここまで来るのにも嫌がらせのような問題を攻略してきたのだが、その全ては今まで見たことのあるモノから出題されていた。

 けれど、それもここまでの様である。

 今回の問題は植物関連のようだった。しかし部屋中に生えたそれはふきに似た円形の葉を持つ植物なのだが、その部位は鉄の様に硬く、縁周りは鋭利な刃物のようになっており……迂闊にそこへ踏み入れば足をズタズタに切り裂かれてしまうであろう。



「こんな植物知らないぞ……。ついに見たこと無いモノも出し始めたか」

「見たことないのに解けるわけないじゃんかぁ」

「それで、どうやってここに入るんすか?」

「うーん、そうだな。

 むしろ入らないで、ここからお題のボタンを押して答えるというのも手だと思─────ったんだが……。

 どうやら部屋に完全に入らないと、ボタンは出てこないみたいだな」



 探査魔法でスイッチの位置を特定しようとしたが、この部屋のどこにもその反応は無かったので、入らずして問いに答えることはできないようだ。

 なので竜郎たちは部屋に入らず、前の部屋と通じているトンネル内で立ち往生していた。

 ここの植物を刈り取っても燃やしても、直ぐに復活するのは解りきったことだからだ。



「切らず燃やさずとなると、土で埋めてみるか」

「いいかも!」



 物は試しだと、竜郎は土魔法で土を生成して床を埋めていった。

 それで最初は上手くいったかと思ったのだが、嵩を足した分だけ茎を上に伸ばして葉もそれに合わせるように立派に成長した状態で顔を出した。



「意味なかったな……」

「というか、むしろより大きくなってしまったですの」

「この作戦はダメだったかあ。あ、それじゃあ水はどうかな?」

「水か。やってみよう」



 竜郎は土を消しさり、ジャンヌがこの植物を欲しがったので採取をしてから残りは消し炭にして生やし直した。

 そうして愛衣の発案通りに、今度はトンネルの出口を植物の葉の高さまで土で塞いでから中に水魔法で水を敷き詰めていく。

 するとその植物は成長するでもなく枯れるでもなく、そのままの状態で静かに生えていた。

 ただ水分は下や横の地面に少しずつ吸い取られていくので、水魔法は断続的に行使し続ける必要はあるようだが。



「水を与えたら成長するかとも思ったが、そんなことも無く大丈夫そうだな。よし、そうなれば後は」



 竜郎は《無限アイテムフィールド》に入っていた、一層目で手に入れたボートを取り出して二隻浮かべる。

 するとそこへ、落ちないように慎重に乗り込んでいった。

 また水魔法を使い水を足し続けるのは今の竜郎にはそこまで苦でもないのだが、少しでも節約するために帰還石を動力にした放水装置で水嵩を維持することにした。


 そうやって全員が二グループに分かれて乗り込んだ後は、水魔法で水流を起こして部屋の中央に入っていく。

 すると、トンネルが閉じて完全にこの部屋に閉じ込められた。

 それから最初は十センチはあったボタンが、失敗する度に小さくなっていった結果。

 今や四分の三ほどの大きさになってしまった物を、左の壁の植物に埋もれているのを探し当てて押した。



「それじゃあ、リア。頼んだですの!」

「はい、ん~答えは黄色のボタンですね」

「黄色だねー。はい、ポチッとな」



 そんな風にして、竜郎たちは再び次の部屋と進んでいった。

 それからも見たことのある魔物やいない魔物、植物やら鉱物、地形についてなど様々な難問をクリアしていき……。竜郎たちは、きっかり百部屋目に突入した。


 百部屋目まで来るのに何度かまぐれ当たりがあったものの、それ以上に不正解を積み重ねてしまったため、探さなくてはいけない最初のボタンは既に一センチも無い。

 ここまでくると探査魔法でもかなり集中しないと見つけられないので、これ以上間違えるのも、これ以上クイズに答え続けるのも難しくなってきていた。



「あった。左の壁の向かって左下……もーちょい左、あーもうちょい上──そこ」

「これかな? ちっちゃいなあ、ていっ」



 最早場所が解っても目視でも見づらくなってきたボタンを、位置だけ特定して適当に愛衣がそこを叩いた。

 すると、既に見慣れた立て看板と四つのボタンが出てきた。

 そこで一番近くにいた竜郎が、問いを読み上げていく。



「えーと問題は、〝グランプレサック〟の卵は何センチ?

 赤:20センチ 黄:20.5センチ 緑:21センチ 青:21.5センチ

 ……5ミリ刻みとか、やめてくれよ。個体差とかも無いのか?」

「それにさー、これって間違えた場合どうなるんだろうね?

 卵が敷き詰められてる部屋にでもなるのかな?」

「そしたら、卵料理が捗るな」



 などと雑談を挟みつつ、考えても解らないので多数決を採ってみる。

 今回決まったのは緑の21センチ。

 迷っても仕方ないので、直ぐに押すと床が輝きだした。

 四分の一をそうそう簡単に当てられるとは思っていなかったが、ここまで来るのに九十九部屋をまた通り直さなければならない徒労感が押し寄せ、全員ため息交じりに最初の部屋へと戻された。



「あーもう、いったいどこまで行けば終わるんだろ」

「同じ道を行ったり来たりで、ゴールも解らずウロウロする……。

 ある意味、今までで一番キツイかもしれない」

「それに、力押しで攻略もさせてもらえないのも辛いですの」

「このメンバーなら、大概のことは力技で押し通せちゃいますからね」

「あー……。なんか皆溜まってるっすね。

 ここで一旦、休憩を挟んだ方がいいんじゃないっすか?」

「……それもそうだな」



 この層の仕組みもあるが今感じているストレスは疲れもあるのだろうと、最初の部屋で充分休憩を取ってから再び攻略を再開する。

 一度目で正解できた安全な場所でリアの攻略地図を確認しながら、足早に進んでいく。

 そして九十九部屋目をクリアし百部屋目に戻ろうとトンネルに一歩踏み出した瞬間、竜郎とカルディナはその異変に気が付いた。



「ジャンヌ、止まってくれ!」

「ヒヒン?」



 《幼体化》していても十分防御能力は高いため、変わらず先鋒を務めていたジャンヌを直ぐに止め、竜郎は百部屋目から入りこんできたソレを風魔法で押し戻した。



「毒だ。次の部屋には毒が充満してる。それがトンネルに入り込んできていた」

「どくっ!?」「ブルッ」「毒ですの?」「毒…ああ、そういうことか」「やなとこっすねえ」



 五者五様のリアクションを聞きながら、竜郎はカルディナと毒を解析していき、その情報を基に奈々に解毒魔法を全員に付与してもらった。

 今回の毒は、吸い込めば内臓器官を壊死させるという最悪な物であった。

 しかもまだ違う所が、次の部屋にはあった。

 竜郎とカルディナが何が起こっているのか探査魔法を奥へとかけてみれば、恐らくグランプレサックと呼称される魔物らしき三メートルの個体が何十匹もウロウロしていた。

 そしてさらに、それに部屋の大きさも合わせたのか十メートル四方の小部屋ではなく、その百倍。

 一キロメートル四方の巨大な空間に変化していたのだ。



「この毒も、グランプレサックの物のようですね。

 毒吐きのスキル持ちで、ほぼ無意識に口から毒を垂れ流している状態です。そのため毒耐性も持ってますね」

「迷惑な奴っすね」

「全くですの! 毒はわたくしの専売特許ですの!」



 このメンバー内では確かに専売特許だが、それを魔物に言うのは違うんじゃね? とは思いつつも、あえて誰も何も言わずにスルーしておいた。

 そうして毒に一時的な耐性を作ったところで、竜郎たちはよく見ると霧の様に白い気体の毒が薄く蔓延しているのが解る部屋の中に乗り込んでいった。


 なるべく気が付かれないように静かに全員が部屋に入り込むと、後ろのトンネルは塞がれ退路はなくなった。

 すると、さっそく一番手前にいた魔物がこちらを目視で発見した。

 その見た目は三メートル級の白い鶏といった感じだが目つきはさらに悪く、胸の辺りからは左右一メートルほどの長さの一本指の手が飛び出しており、その指先からは毒性の液体らしきものが鋭い鉤爪を伝って床に滴り落ちていた。


 そんな一体がこちらの存在を周囲にも知らせるためか、大きな声で鳴き叫ぼうと嘴を開こうとしたので、愛衣が弓で喉笛を射抜いて止めさせた。

 倒れる時の衝撃音は、竜郎が水と闇の混合魔法で作ったスライム状のブヨブヨした物体を流し込んで抑えた。



『たつろー、ナイス』

『愛衣もな』



 念話で竜郎と愛衣は会話しつつ、そこらじゅうにウロウロしている個体にばれないように身を低くしながら壁際に張り付くと、リアに壁材を鍛冶術スキルで音を立てずに抉り取ってもらう。

 そしてそれを土魔法で造った薄い壁のハリボテに塗りたくって、パッと見解らないように隠れ潜んだ。



『それじゃあ俺とカルディナでボタンを探すから、その間の守りは頼んだ』

『おっけー』



 ここに前来た時、問題が出るボタンは既に一センチ以下だった。

 今やどれほど小さくなってしまっているのか、解ったものではない。

 しかも今回は部屋の大きさが今までの百倍。

 探査魔法を使っても、探すのに時間がかかってしまうであろう。

 なので落ち着いて探すためにも壁と同じ色の偽壁を造って、そこへ隠れたのだ。


 その作戦は上手くいき、小さなボタンを探すまで事を荒だてることなく発見できた。

 場所は先ほど入ってきたトンネルの場所を後ろと仮定すると、左の壁と正面の壁の継ぎ目近くにあった。

 よりにもよって、そこは今いる場所からほぼ対角線上に位置する場所だ。


 その情報を紙に書いて皆にも声を出さずに伝えると奈々に念のため、解毒魔法をかけ直してもらい、効果切れの時間を延長しておいた。

 これで毒対策も万全、ボタンの位置も特定完了。

 となれば後は問題の答えを確かめるだけなのだが、肝心の卵がどこにも見当たらなかった。

 すると、リアが紙を出して筆談で説明し始めた。



(どうやら、背中に袋があるようですね。そこに卵を入れて持ち運んでいるようです。

 私の目は直接目視で観る必要があるので、あの状態では答えが解りません)



 竜郎はそれに指でOKサインを出して頷くと、先ほど倒した個体に未だ下敷きにさせたままだったブヨブヨの水をゆっくりと動かして、こちらへ引き寄せ始めた。

 倒れている個体に気が付くモノもいたが寝ているとでも思ってくれたのか、それともただ無関心なだけなのか、さして気にした様子も見られずこちらまで死体を持ってこれた。


 それから竜郎の《無限アイテムフィールド》に収納して、卵だけを選別して取り出した。

 すると二十センチほどの大きさの卵が手元に現れた。

 解魔法を直接手から放射して確認した限りでは、21.5センチ。

 普通ならこれで間違えようがないのだが、竜郎は今までそうやって幾度も裏切られてきた。

 なので、もうそんな答は信じられなかった。


 ということでリアの方に確認をとってみると、こちらに渡すようにジェスチャーしてきたので竜郎は素直に手渡した。

 リアは受け取るや否や《アイテムボックス》からのみを取り出すと、音をできるだけ立てないように気を付けながら卵にそれを突き立てて亀裂をいれる。

 そうして亀裂に小さな指を入れて、パカッと二つに割った。

 すると中から別の卵が出てきた。そしてさらにもう一度割ると、さらに中から卵が出てくる。



『マトリョーシカかよっ』

『おもしろーい!』



 どうやら三重構造になっていたようで、二枚の殻を割った中にある物が本当の卵らしい。

 その結果、青の答え21.5センチではなく、1.5センチ縮んだ赤の20センチが本当の正解のようだ。

 ともあれ、これで答えも解った。

 後は対角線上の向こうにある、大きさ三ミリ程度になったボタンをできるだけ密やかに押して、その後は最後に中央に向かって赤のボタンを押すために全面戦争を仕掛けるという方向性で事は決まった。


 なのでこのまま偽装壁をゆっくり動かしつつ、壁伝いに動きだした。

 探査魔法でこちらに気が付きそうなものが出るたびに停止し、進路上の障害になりそうな個体は遠距離射撃で静かに殺していく。

 そんな風に焦らず進んでいた為かなり時間はかけてしまったが、無事気が付かれずにボタンがある位置まで辿り着いた。



『どのへん?』

『壁と壁の繋ぎ目辺りだ……もう少し上』

『──あった。それじゃあ押すよ』

『ああ』



 念話で確認をとりながら愛衣が米粒以下の小さなボタンを押すと、広い空間の中央にこちらも部屋に合わせて縮尺が大きくなった立て看板。

 そしてボタンが設置された四色の四つのボタンの柱もご丁寧に百倍になってしまったので、五十センチから五メートルの柱になっており、赤のボタンを押すためにはそこまで昇らなくてはいけないようである。

 そしてさらに都合が悪いことに、突如現れた立て看板とボタンが設置された四つの柱に警戒心剥き出しで魔物がそこへ集結し始めた。



『無機物と生物の違いも解らないのか。やはり、おつむはニワトリだな』

『んー。でもあそこに密集された状態で戦闘したら、ボタンを壊しちゃいそうだよね』

『うちは全体的に、オーバーキル気味だからなあ。となると、引き離すしかないか』

『まあ、あの様子じゃ簡単にできそうだけどねー』

『あー…』



 竜郎と愛衣はそこで念話を打ち切ると、未だに無機物相手に群がっている巨大鶏モドキに呆れた視線を送ったのであった。

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