第202話 クイズ地獄
四択クイズに正解した竜郎たちは、トンネルを抜けて次の部屋へとたどり着いた。
しかしそこで待っていたのは、先ほどと寸分たがわぬ何もない部屋であった。
しかも戻ることは許されないのか、全員が部屋に入りきったとこでトンネルが塞がってしまい、再び十メートル四方の部屋に閉じ込められてしまった。
「ねーねー。今度はあそこにボタンがあるよ」
「またか。もしかして、今回は延々とクイズをやらされるのか?」
「えー。そんなのつまんないっす~」
アテナがぶーたれている中、今度は向かって後ろ側の壁にある丸型スイッチを愛衣が発見した。
そしてそのスイッチを押してみれば、またまた同じように問題の書かれた立て看板と四色のボタンが設置された柱が床から出てきた。
「今度は、〝スプラク〟の葉は何枚?
赤:2枚 黄:4枚 緑:20枚 青:40枚。だって」
「また、わけの解らない固有名詞を出してきやがって。
葉は。と聞いているんだから、植物系で間違いないはずだが……。
ここまでにも、ちらほら見てきたから見当がつかないな」
「確か二層目のお題にあった魚は、植物の魔物でしたよね? あれは違いますかね?」
「あれに葉っぱなんてついてたっすか?」
「もしや、あの鱗の一枚一枚は葉っぱだったー。なんてことは無いですの?
もしくは、あれ一体一体が葉っぱ扱いだったとか」
「それは……調べてないな。だが、そうなると緑か青か。
上限と下限が離れすぎていて、どの植物か絞り込むこともできないぞ、この問題」
「出題者の性格の悪さが出てるね!」
などと議論を交わしていても結局、件のスプラクなる植物は解らない。
なのでこうなったらと、あの魚の形をした植物型魔物だと断定して青のボタンを押すことにした。
「それじゃあ、押すよー」
「ああ。いつでもOKだ」
「ポチッとな───」
「「「「「「─────っ」」」」」」
愛衣が青のボタンを押した瞬間、床が眩しいほどに白く光り始め部屋中を照らしていく。
何が来てもいいように警戒していたつもりだが、これには面食らい咄嗟に目を瞑ってしまう。
だが竜郎は直ぐに《精霊眼》に切り替えて猛烈な光を視界から消すと、床一面に次の層へ行くときに似た、だけど似ているだけで少し違う何かが浸水するように湧き上ってくるのが見て取れた。
そして竜郎含め、皆の体がそこへと吸い込まれていった。
視界から光が消えて全員が周囲を見渡せば、また何もない青い壁に囲まれた箱型空間に立っていた。
これだけでは突然光って、しばらくしたら光が消えた──くらいの認識であるが、明らかに次の階層に渡った時のような不思議な感覚があったのは皆覚えていた。
しかし、だからと言って何が変わったのかと問われても誰にも答えようがなかった。
なのでとりあえず、そのことは頭の片隅に置いておいて、またこの部屋の中にあるボタンを探す。
すると、最初の部屋と全く同じ場所にボタンが設置されているのを愛衣が発見した。
「あった。…………けど、ほんのちょっとだけ小さくなってない?」
「ん? ああ、本当だ。ほんの少しだけだが、小さくなった気がするな」
「もしかして、間違える度に小さくなっていくんじゃないですの?」
「……このボタン自体は問題を出す機能しかついていないようなので、そこまでは私の目でも判別できませんね」
「けどまあ、押してみるしかないっすからね。ちゃっちゃと終わらせた方がいいっす」
「だな」
アテナの言う通り、ここで何かを言っても進まないので、とりあえずボタンを押して立て看板と四色のボタンを出させた。
だが、そこに書いている問題はと言えば。
「〝ルヤージ〟は、何に反応して襲撃する?
赤:振動 黄──って、これ最初の問題と同じじゃん」
「ボタンの位置が同じだった時点で、もしかしてとは思っていたが……。まさか振り出しに戻されたのか?」
「ええ!? 間違える度に最初に戻されるの? 何それめんどくさっ」
「だとすると、答えとボタンの位置は今後メモしておいた方が良いかもしれませんね」
「一度通れた所で、戻らされるわけにはいかないからな。そうするか」
メモ担当は話し合いの末リアがやることとなったので、まず問題を書いてボタンの位置も簡単に紙に書き記しておいた。
それから緑のボタンをして次へと進むトンネルを出すと、また同じ部屋に出るだけだろうと早足でそちらへと向かった。
しかしその場所は、前とは違っていた。
上下左右の面は土になり、そこからはいつか見たバネのような螺旋型をした草が全面に密集していた。
何だこりゃと思いつつ、歩く度にあれに足を絡め取られるのは御免こうむりたいので竜郎は部屋に入る前に火魔法を使って燃やし尽くしてみた。
けれど燃やした端から直ぐに生え変わって新しい草を芽吹かせるので、無理だと悟って諦めた。
「しかたない。このまま入ろう」
「なんで今度は、こんなことになってんだろうね。もしかして、今度は違う場所に出たのかな?」
そんなことを言いながら、纏わりつく草をかき分け二つ目の部屋の時にボタンがあった後ろ側の壁を探すと、そちらにボタンは無かった。
目視では草が邪魔で見えないので、解魔法で舐めるようにして部屋の面を調べていくと、天井の左隅にあるのを発見した。
なので愛衣に軍荼利明王のロボットハンドを伸ばして押してきて貰い立て看板に書かれていた問題を読んでみる。
するとその問いは、葉の数を聞いてくるという以前と同じものであった。
「やっぱり、同じ部屋なのか? ……というか、もしかしなくてもこいつがスプラクってことでいいのか?」
「じゃあ、これの葉っぱの数を数えればいいんだね。えーと、二枚……かな?」
愛衣がしゃがんで確かめてみれば、根元の方に小さな二枚の葉っぱが螺旋の茎にくっついていた。
竜郎も同じようにして他の物を見てみても、みな同様に二枚の葉っぱが着いていた。
「ってことは、あの問題の答えは赤の2枚か」
「……いえ、黄色の4枚です」
「え? だって、全部2枚しかないよ?」
「千切ってこう──指でこすってみてください」
愛衣と竜郎も下に生えている草の根元にあった小さな葉を千切り、リアが見せたように親指と人差し指で上と下を逆方向にスライドさせるようにこすってみた。
すると後ろに薄い一枚が張り付いていたようで、どうやらトイレットペーパーのように二枚重ねになっていたらしい。
「ひっかけですの! ズルっ子ですの!」
「実物があっても、こういう所でミスを誘ってくるのか。これが毎回だとキツイな」
「けどこれが問題のスプラクなら答えは解ったんだし、とりあえず押してみよ」
「ああ。そうだな」
そうして今度は奈々が浮遊で黄色のボタンの前まで行くと、小さな手で八つ当たりするかのようにポカンッと叩き押した。
すると立て看板を出すボタンが合った天井にトンネルが現れて、梯子がガシャンと音を立てて落ちてきた。
どうやら、それで上にあがれと言いたいらしい。
「今度は上か。リア、答えとボタンの場所はメモしてくれたか?」
「はい、ばっちりです」
「よっし、それじゃあ次行ってみよー!」
と愛衣が行こうとすると、ジャンヌが竜郎の足に鼻先を当てて何かを伝えようとしていた。
「どうしたんだ? ジャンヌ」
「ヒヒーーーン、ヒヒーーーン、ヒヒーーーーーン」
「あー。この草を採取しときたいらしいすっよ。できれば種を」
「種? ああ、そうか。確かにこれを樹魔法で使えば便利かもしれない」
「ヒヒン!」
そうそう。と言わんばかりに、ご機嫌な様子でジャンヌは竜郎の足に体をこすりつけた。
竜郎はよく思いついたなーと言いながら、こちらからも体を撫で繰り回した。
そうしてリアに種の採取の仕方を調べて貰えば、何とこの頑丈な螺旋の茎の中にエンドウ豆のように種が詰まっているとのこと。
なので、これが完全に育ちきると破裂して辺りに種を飛ばすらしい。
だがその前に取り出してしまうと種はまだ未成熟なので壁一面を切り出して、そこの土ごと竜郎の《無限アイテムフィールド》へ収納。
時間を進めて種を出させて、それをジャンヌに送っておいた。
後の残りは、竜郎の方で栽培しておくことにした。
そうして落ち着いたところで竜郎たちは梯子を昇り、カルディナは飛んで、ジャンヌは器用に樹魔法で植物の蔓を操って昇っていった。
そして次の部屋にたどり着けば、そこは最初の部屋と同じ青い壁に囲まれたお馴染みの場所であった。
今度は視界を遮る物も無いので、直ぐに左の壁にあったボタンを探し当てて問題を出す。
「〝ブラッシュ〟の目は何色?
赤:赤色 黄:黄色 緑:緑色 青:青色……ブラッシュって誰ぞ?」
「ブラッシュねえ。目がある魔物なんて、ほぼ全部だろ。解るわけがない」
「それに、いちいち遭う魔物の目の色なんて覚えてませんの」
「普通そうだよねー。んじゃあ、多数決で決めちゃう?」
「ちょっと待ってくれ………………。んー魔物事典にも載ってないし、それしかないか」
念のためオブスルで買った魔物事典を調べてみても、ブラッシュなる魔物は記載されていなかった。
そこで以前のように多数決を採ってみると、赤多数で赤のボタンを押すことに決まった。
そうして押してみれば、また床がまばゆいほどに光り輝き始めた。
「ああ…。ハズレか……」
そんな一言を竜郎が漏らした瞬間、最初の部屋に強制送還された。
通った道はボタンの位置も答えも知っているので、問題すら読まずにズンズン進む。
そして二つ目の部屋の草をかき分け三つ目の部屋に戻ってくると、そこはまた別の空間に変わっていた。
それは壁がいつか見た高水圧の水壁で横面が覆われており、そこにはこちらも見覚えのある魔物がウジャウジャ潜んでいた。
そしてそれは、ただ潜んでいるだけじゃなかった。
こちらを見つけた瞬間、それらは一斉に飛び出してきた。
「これって、五層目で出てきた魔手とかいうスキル持った奴っすよねっ?」
「ああ、こいつブラッシュって名前だったのか──よっと」
「こんなの棒腕で十分だよ!」
部屋に入るなり戦闘開始である。
全員直ぐに迎撃態勢を取って、各々容赦なしに叩きのめしていく。
けれど、どんなに倒しても無限に湧いてきて数が減ることはない。
まるで四層目のムカデの時のようである。
「ピュィーー」
「向かって左側、床下にボタンあり。だそうですの!」
「あそこっすね。あたしが押してくるっす」
「頼む! こっちは、こいつの目の色を確かめるっ」
この魔物は腕は大きく太いのだが、体は棒のように細い。
従って目も小さく、ただ見ただけでは色は解らない。
なので竜郎は魔法を展開しながら魔物を撃墜しつつ、下に転がった死体を足で引き寄せる。
それから観察してみれば棒の先に瞼らしきものを発見したので、そこを指で押し上げて色を確認した。
「色は緑──」
「違います! 青です!」
「えっ? これも違うのか!? だってこれはどう見ても緑じゃ…」
「瞼の下の、瞬膜もめくってみてください!」
「瞬膜!?」
そうして瞼の下のぶよぶよした小さな目の部分に触れてみると、確かにそこには瞬膜があり瞼とは逆の横方向にめくってみれば、その奥には青い目が存在していた。
何故色が変わるのかと調べてみれば、どうやら瞬膜の色が黄色がかっていたらしく、青と黄が混ざって緑に見えていたようだ。
「アテナ! 青のボタンを押してくれ!」
「了解っす! ポッチとなあっ」
アテナが手に持った鎌の背中でスイッチを押せば、斜め下に滑り台のように伸びたトンネルがボタンのあった床面に現れた。
この状態でメモなぞ落ち着いて取れはしないので、とりあえず先に進んでしまうことにする。
「皆、あそこに飛び込むぞ!」
「うんっ」「ピィッ」「ヒヒン!」「はいですのっ」「はいっ」「了解っす」
未だ続く魔物の猛襲撃を蹴散らしつつ、竜郎だけは《無限アイテムフィールド》に死体を収納しながらトンネル型の滑り台に飛び込んでいくのであった。




