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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五章 呪われた少女編
202/634

第200話 リセマラ

 とりあえずハズレ感漂う鉄の箱を回収しつつ他の面々に目を向けると、特定の魔物を倒したからか、無尽蔵かと思われたドリ鳥はその数を次第に減らしていった。

 そんな中、竜郎とカルディナも本格的に戦いに加わり四体を生け捕りにして残りは全滅させた。

 それから適当な小島に着地して落ち着いたところで、竜郎は生け捕りにした嘴がくだけ、翼を折られたドリ鳥に順に《レベルイーター》を当てていく。



 --------------------------------

 レベル:31


 スキル:《飛翔 Lv.5》《嘴硬化 Lv.3》《風装 Lv.6》

 --------------------------------



 (海犬ほど多くのスキルを持ってるわけではないが、シンプルに必要なものだけを伸ばしていった感じか。

  真正面から戦う時は、こういう方が厄介なんだよなぁ)



 --------------------------------

 レベル:31


 スキル:《飛翔 Lv.0》《嘴硬化 Lv.0》《風装 Lv.0》

 --------------------------------



 レベルは奈々とアテナのために残しておき、四体全てからSPを頂いた。

 それから止めをさし終えれば、いよいよ縦1メートル。横幅1.5メートルの鉄箱の中身を確かめようという話になった。



 「じゃあ、あけるよー」

 「おー。頼んだー」



 充分に危険性がないかどうか確かめた後、愛衣とアテナが正面に立たないようにして横から蓋を開いた。

 すると空の上から小さな浮き小島が下りてきて、ちょうど雲と海の間辺りにまで下降してきた。



 「空の魔物を倒した場合は、空から次の階層の入り口が降ってくるのか」



 特に危険性も無さそうだと判断した竜郎たちは一旦そちらは置いておいて、肝心の箱の方へと意識を戻していく。

 ふたを開けてみても特にトラップが中に収納されている様子はないので、中を皆で一斉に確かめてみれば、そこにはフワッフワの羽毛掛け布団が二セット入っていた。



 「羽毛布団って…。実はかぶって魔力を通したら何かの迷彩になるとかは……」

 「ないですね。本当にただの羽毛布団です」

 「けど、ふわっふわだよ! すーー──うんっ。

  全然鳥臭くないし、高級羽毛布団と私は見たね」

 「どれどれ、ああほんとだ。なんの羽根だよこれ」

 「先ほどの魔物にかなり近いですが、それよりももっと上位の素材ですから。

  おそらく、タツロウさんが倒した魔物の物かもしれません」



 羽毛布団と羽毛布団の間に手を差し込んでみれば、直ぐに手がポカポカと温かくなり保温性は抜群だった。

 それに持ち上げてみても空気のように軽いし、愛衣の言った通り安い羽毛布団によくある獣臭というか、鳥臭も全く感じられない。

 確かにこれはこれで、素晴らしい物のようである。

 二つあるうえにそこそこ大きいので、竜郎と愛衣で一枚、リアで一枚で数的な問題も無く充分使える事だろう。

 しかしである。



 「だけど、これじゃあないんだよなあ。

  箱が只の鉄の箱だったし、多分ドロップアイテムの中でもハズレの部類なんじゃないか、これって」

 「けれど、これが出てしまったのだから、しょうがないと言えばしょうがないですの」

 「だなあ~」



 ここでごねてもしょうがないということくらいは竜郎も解っていることなので、これ以上は何も言うまいと空に浮かんだ小島を見上げた時、アテナがなんとなくといった風に言葉を漏らした。



 「その特定の魔物って、一匹しかいないんすかね? こんだけ階層内は広いんすから、まだいそうっすけど」

 「───それだ!」

 「どれだ?」

 「アテナの言う通り、探せばまだいるかもしれない。

  だから、また探索を続けてみないか?」

 「わたくしたちは、おとーさまがやりたいのなら、かまいませんの」

 「私も別にいーよ」

 「私も大丈夫です。それに、他にどんなアイテムが出てくるのかも気になりますし」



 ということで既に次の階層へ行けるのだが、満場一致であえて探索続行と相成った。


 それから皆でジャンヌの背中に乗せてもらい、あちこち空を行きかいながらドリ鳥との戦闘を続けること数時間が経過した。

 けれどドリ鳥はいくらでも見つかるのだが、肝心の雲に同化する魔物の方はいっこうに見当たらなかった。

 一度反応をカルディナが記憶した魔物であるし、何に化けるかということまで判明しているのだから、ジャンヌの背に乗ってそこそこの速さで飛び回っても見逃すことは無いはずだ。



 「いないねえ」

 「特定の魔物は、海と空に一匹ずつしかいないのかもしれないな」



 それがそうだとすれば、とんだ無駄足となってしまう。

 なのであまり信じたくはないのだが、そろそろ竜郎はその事実を受け入れなければならないようであった。

 だがそうと解れば、せめて下の魔物を倒してもう一つくらいアイテムを頂戴しておこうという方へと目的が切り替わった。



 「ということで、とっとと倒して次にいこう。

  相手は水になれるから生け捕りは困難だし、速度優先で海犬諸共殲滅でいいか」

 「うん。それでいいよー」



 さくっと大まかな作戦を決めてから、破竹の勢いで海方面に進行。

 並み居る海犬を千切っては投げ、千切っては投げと撃滅していると、すぐにあの大海犬の反応を感知した。



 「大海犬発見。カルディナ、手伝ってくれ」

 「ピュィー」

 「そんじゃあ、私はまた二人を護衛するね」

 「ああ、ありがとう」

 「いいってことよ」



 愛衣と軽口を言い合いながら竜郎はカルディナと魔弾、爆発、火の混合魔法を光でブーストした過剰ともいえる威力の弾丸を撃ち放った。

 大海犬の水鉄砲は厄介なので、撃たれる前にこちらが撃ってしまえということだ。

 そうやって撃ち放った強力な魔力の弾丸は三十メートル程離れた海面に着弾後、白く光り輝く炎を打ち上げながら周囲の海水ごと大海犬を消し去った。

 すると竜郎の目の前に、縦横五十センチの鉄の箱がドロップしてきた。



 「くそ、また外れっぽいな」

 「一発であの羽衣が手に入ったのって、実はけっこう運が良かったのかもね」

 「ああ、俺もそう思えてきたよ。

  それじゃあ、他のメンバーと一緒に残党を処理してからこいつを開けるとしよう」

 「はーい」「ピュィーイ」



 そうして残党処理を終えて近くの小島に上陸したら、安全性を確保してから箱を開ける。

 するとゴゴゴゴゴゴ……と重低音が下から響きわたり、辺り一帯が微かに震動してきた。

 水中探査で前と同じ次のポイントの島だろうということが解ったので、そちらは無視して箱の中身に注目した。

 すると、中に入っていたのは海犬たちの皮を使ったドライスーツ二着がきちんと折り畳まれて収納されていた。



 「ドライスーツか。欲しいような、いらないような。微妙なアイテムだな」

 「うーん。どれどれ」



 愛衣が上の一着を手に取って片腕だけ通してみると伸縮性は素晴らしく、鎧を着たままでも簡単に着ることができ、ピッタリと肌に張り付いた。

 そしてさらに、愛衣はその着た方の腕を水につけてみると驚いた。



 「なにこれ!? ぜんぜん冷たくないよ! っていうか、むしろあったかい」



 その言葉を受けて竜郎も愛衣と同じように片腕だけ通して水につけてみれば、水は一切侵入することなく確かに冷たさも無い。

 むしろ、暖かい何かに包まれるような心地よさすら感じる。

 素直に竜郎が感嘆の声を上げると、リアもやってみたいと竜郎から受け取ったドライスーツで色々実験していった。

 と、そこで何気なく竜郎が上方を見上げると、先ほど空から降りてきた方の浮き小島が上に昇っていくのが見えた。



 「あれは……。カルディナ、ちょっといいか」

 「ピュィ」



 その光景にもしかしたらと、竜郎は上に向かって探査魔法をざっとかけていった。

 すると特定の魔物を倒してからかなり数を減らしていたはずのドリ鳥の数が、また急激に増えはじめていたのだ。



 「……これは、もしかしてそういうことか?」

 「どういうことですの?」

 「こっちの次の階層行のポイントを出したら、向こうのポイントが引っ込んだ」

 「ああ、ほんとっすね」

 「それで上に探査魔法をかけたら、アホみたいにまたドリ鳥が数を増やし始めてる。ってことはだ」

 「もしかして、さっきまでいなさそうだったアイテム落としがまた復活してるかもってこと?」



 竜郎は愛衣のその言葉に頷いて、その答えを肯定した。



 「もしこれが無限にできるってんなら、出るまでやれる!」

 「うえええっ、出るまでやんの!?」

 「俺たちならやれるさ!」

 「そういう問題だっけ!?」



 そう言う竜郎の目は、出るまで課金ガチャを回す廃課金ユーザーのそれと酷似していた。

 愛衣はこりゃ駄目だとリアを見れば苦笑い。けれどカルディナたちは竜郎が望むのならと戦意高し。

 ああ、もうやるしかないかと、そこで愛衣とリアは覚悟を決めたのだった。

 ───それが長い旅路になるとも知れずに。


・空トライ8回目。

 ここまで鉄の箱ばかり出てきたが、ようやく銅色の箱が出てきた。

 しかし中には求める物では非ず。羽毛の枕二セットだった。

 それを試しに使ってみたところ、どういう仕組みかはリア以外解らなかったが、その人物にもっとも適した高さに自動調整する機能がついていた。

 どうやらダンジョンは、空を制した者に快適な眠りを届けたいようだ。


・海トライ16回目。

 こちらにも銅色の箱が出た。中身にはシュノーケリング用のゴーグル二個。

 そこでなんだ、ただのゴーグルか。と思いつつも一応調べてみれば、そのゴーグルは気力、または魔力を注げば濁った水の中でもクリアに視界を確保する機能が付いていた。

 ただ、暗い場所では暗いままなのでそこは注意が必要である。


・海トライ32回目。

 銀色の箱が出た。そう、水迷彩の羽衣である。

 なぜこっちはでる……。そう竜郎が呟いていたという。


・空トライ69回目。

 白金に輝く箱がドロップした。

 見たことも無い箱に、皆の期待も高まるばかり。

 せかされながら中身を確かめれば、その中には薄緑色の円形で平らな宝石が付いたネックレスが入っていた。

 素人目にも高価そうな代物に沸き立つ心を抑えながら、慎重に調べていった。

 すると、これを魔力ないし気力を流した状態で体のどこかに付けていると、風を纏い軽度の攻撃なら魔法的、気力的どちらのものも受け流してしまうものだった。

 これは凄いと、今のところ防御が手薄なリアに渡しておいた。

 これで、いざという時には命を救ってくれるかもしれない。


・海トライ80回目。

 金色の箱が出た。

 海側のアイテムにはそこまで関心は無かったが、それでもいい物であろうと開けてみれば、中にはシュノーケルが二個入っていた。

 しかしそのシュノーケルは先端がピッタリと塞がれており、これを口に咥えたとて呼吸を行うことなどできないであろう。

 なんだこの玩具はと思いつつも、金色の箱なのだからレアに違いないと調べてみた。

 するとシュノーケルは気力、または魔力を注げば空気を生成し、口で吸って鼻で吐くという呼吸法を取れば、水の中で活動できる酸素ボンベの様な役割を果たしてくれるらしい。

 どうやらダンジョンは、海を制した者に快適なダイバーライフをお届けしたいようだ。


・空トライ83回目。

 こちらでも金色の箱が出た。それも超巨大の。

 大きさからして違うような気もするが「ついに来たか!」と拝みながら、疲労混じる顔で確かめてみた。

 すると、中には羽毛のベッドが二つ入っていた。それも大人三人が余裕で寝ころべそうな大きなものが。

 なんなのだ。と憤りを感じつつ寝転んでみれば、同じ作業に精神的に摩耗してきた心を溶かすような素敵な寝心地。

 このまま寝てしまえば、どんなにいい夢が見られるのだろうと夢想するほどである。

 しかもそれだけでなく、冷暖房完備。寝ている時以外にも快適な室温、湿度を保ってくれるようで、まさに至れり尽くせりといった感じである。

 けれど動力は毎度おなじみ気力、または魔力なので起きている間しか使えないのが難点ではあった。

 だがリアが少しいじれば動力を帰還石に変えられるかもしれないと結論づけたので、これには荒んだ心もニッコリである。

 しかしどうやら、ダンジョンは空を制した者には頑なに眠りに就いてほしいようだ。


・海トライ122回目。

 白金に輝く箱がドロップした。

 これでおそらく、海側はオールコンプリートである。

 何故こちらが先かと、物欲センサーなる物の存在を本気で疑いつつ中を見聞した。

 するとそこには、海色に光る宝石でできたメリケンサックが入っていた。

 試しに指に嵌めてみると、確かにこれで殴られれば痛そうだ。

 しかしそれだけではないだろうと、さらに詳しく調べていくと、なんとこちらはメリケンサックを嵌めた四本の指から、魔力ないし気力を消費して水鉄砲を放つことができる様だ。

 威力は大海犬のモノには遠く及ばぬが、それでも雑魚魔物くらいならこれで倒せるであろう。

 これも研究もかねて、リアに渡しておいた。


 それからも、何度も何度も何度も何度も……日も跨ぎつつ休憩は適度に取りつつ、それ以外は空へ海へとアイテム集めに奔走した。

 その結果。羽毛布団で店が開けるほど空の魔物を狩り続けたが、何故か銀色の箱だけは出てきてくれない。

 これはもう何かの嫌がらせなのではないかと思いながらも、ここまでやったのに諦めるわけにはいかないと、引くことができずに次こそは次こそはとギャンブル依存症者のように、竜郎以外のメンバーも躍起になって狩って狩って狩りまくっていった。

 そしてついに……。


・空トライ200回目。

 銀色の箱が出た。

 もう嬉しいとか悲しいとか、達成感がこみ上げてきただとか、そんな感情は一切なかった。

 ただ、ああ……終わったんだ。そんな気持ちだけが、皆の心を占めていた。

 竜郎たちは淡々とその箱の安全性を、その道のプロかのように調べ終わると、能面のような顔で中を確かめた。

 すると中には真っ白で、雲のようにモコモコしたファーが入っていた。

 そしてこれは間違いなく、竜郎が求めた物。雲迷彩のファーだったのである。



 「おわった……」



 それは誰の言葉であったのか、それはもう定かではない。

 が。長い迷彩探しの旅路は、これにて終止符が打たれたのであった。

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