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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五章 呪われた少女編

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第199話 空の部

 絶対にあるという確証は一つもないが、それでもせっかく来たのだからと空迷彩の羽衣。もしくは、それに準ずる何かの獲得目指して空へと上がる。

 まず竜郎たちは海は完全に無視してジャンヌに乗り込み、飛翔した瞬間から頭上方面に向けてバカスカ攻撃を撃ち始めた。

 どうせ上にはウジャウジャと魔物がひしめいているのだから、先に間引いておこうという判断である。


 そうして頭上の安全を確保してから雲の上にまで躍り出ると、そこで愛衣に気力の盾を展開してもらい竜郎、愛衣、リア、アテナはそこへ着地した。

 そしてカルディナ、ジャンヌ、奈々は《真体化》した状態で自前の翼で飛んでいた。



「それじゃあ目的は──って、もう追加がきたな。愛衣、手を繋いでくれないか?」

「いいよー」



 竜郎はニコニコ嬉しそうに笑う愛衣と手を繋ぎながら爆発性の小さな光球を周囲にいくつもばら撒きつつ、高熱の光壁の層と風と硬く強化された土の刃が入り混じった層の計二層の防壁を周囲30メートル範囲に展開し、ブリーフィング中の敵からの介入を遮断した。

 嘴を閉じるとドリルのように溝の入った突起物になる黄色い六十センチほどの鳥型魔物は、横回転しながら爆発性の光球にやられ、それを抜けても高熱の層で嘴を溶かされ死んでいき、今のところ風と土刃の層に到達できているモノはいないようである。

 それを探査魔法で確認したら竜郎はこれで落ち着いて話せると、魔法を維持しながら皆に向かって話しかけていった。



「今からは愛衣の盾の上を拠点において、進みながら空にいるであろう特定の魔物の索敵、撃墜を目的に動いて行こうと思う。

 だが、その際俺とカルディナは索敵の方に集中するつもりだ」

「前みたいに、隠れるのが上手い奴が目的の魔物かもしれないからね」

「ああ、そうだ。だから他の皆には、雑魚の殲滅を任せたい。

 ただ、どれだけ時間がかかるかは解らないから、ある程度余力の温存はしておいてくれ──ん?」

「どうしたんですの?」



 突然首を傾げた竜郎に、直ぐ前にいた《真体化》した奈々も同じように首を傾げた。

 竜郎はそれを少しおかしく思いながらも外に展開していた探査魔法から、あちらさんが新しい行動に出てきたことを告げてきたのだ。



「どうやら、風魔法の類が使えるみたいだな」

「どんな魔法を使ってくるのですか?」

「体全体に風を纏ってそれで回転力を……ああ、最初から回転はそれで、ふむふむ、なるほどね」

「一人で納得してないで、早く教えてよ~」

「ああ、すまん。つまりだな──」



 そこで竜郎は、知り得た相手の情報を皆と共有していった。

 曰く、あの鳥は横回転しながらそのドリルのような嘴で槍の如く突いてくるという攻撃方法が主体となっている。

 そしてその横回転をする時に体の周囲に横向きに回転する風を起こして、それで回転力にさらに勢いをつけていた。

 しかし、その風の方は最初の回転の初動を補助するためだけに使っていたのだが、どうやらそれはスキルの一端でしかなかったようである。

 そのスキルは本来、風を身に纏い、その体を守る鎧とするものだったのだ。



「あたしの《竜装》の、風バージョンみたいなもんっすね」

「だな。それを一瞬発動させると、体に風を纏う時に横回転の竜巻みたいな現象が起こる。それを利用してたってわけだな。

 んで、それだけじゃあ俺の結界は破れないと理解したのか、今度はその風の鎧をガッチリ着込んで突撃してきたんだよ。

 そのせいか、二層目に届く奴が何匹か出だした」



 そこで竜郎は丁度今、二層目の風と土の刃の層に嘴がニョキッと生えてきたところを指差した。



「ホントだ。ありゃりゃ、でも結局やられてるね。ドリ鳥」

「ドリ鳥? ああ、ドリルみたいな嘴だもんな。って、そこじゃないか。

 けど、あそこに到達できるくらいの貫通力があるってことは、しっかりと認識しておいてくれ」

「確かに、おかーさまや、《真体化》したカルディナおねーさまの翼、ジャンヌおねーさまくらいなら生身で受けられそうですけど。

 わたしくしや、リアやアテナがまともに受けたら傷は負いそうですの」

「でもあたしは、《竜装》を最初から着けてくんで大丈夫っす」

「ああ、アテナはそうした方がいいな」



 さりげなく自分の名前を抜いておいてくれた奈々に苦笑しながら、竜郎は開始の狼煙を上げる準備に入り始める。



「この結界を解けば、周囲にはバカみたいな数がウヨウヨいる。

 みんな怪我の無いように、怪我をしたら俺か奈々に直ぐ言うように心がけてくれ」

「了解」「ピィイ!」「ヒヒーン!」「解りましたの!」「はい!」「了解っす」

「それじゃあ、行動開始だ!」



 そう声を上げながら竜郎は今展開している結界を外に一気に放出し、まだ残っている爆発性の光球も全て爆破し周囲の鳥型魔物、愛衣曰くドリ鳥を蹴散らしていった。

 そして結界が解けて見えた外には、ありを思い起こさせるほど一面に鳥、鳥、鳥。

 その群れに向かってジャンヌ、奈々は空を飛んで突撃していき、リアとアテナは盾の上から攻撃を始め、竜郎とカルディナは探査魔法に集中。

 そして愛衣は遠距離から弓で撃ち、近づかれれば軍荼利明王と宝石剣や拳でもって粉砕し、竜郎とカルディナの護衛も請け負った。


 竜郎とカルディナが、特定の魔物を探している間。

 ジャンヌはその巨体と《超硬化外皮》、さらに《魔力減退粒子》を発動した防御網を生かし、誰よりも前に出て壁のように立ち塞がった。

 そしてドリ鳥はそれにも臆さず、神風の如く自傷覚悟で飛び込んでいく。

 だが、まずジャンヌに近づけば近づくほど、風の鎧はチャフのようにばら撒かれている白金の粒子によって蝕まれ薄くなっていき、相手の皮膚に到達する頃にはほぼ無くなっていた。

 しかし勢いまでは消せてはいないので何とかなるかと思いきや、そんな生半な攻撃がジャンヌの鋼鉄を遥かに凌駕する皮膚に傷一つ付けられるはずもない。

 直撃した瞬間、硬い嘴は自身の勢いも手伝って砕け散り、さらに顔面強打による頭蓋破損で即死し散っていく。

 そんな風にジャンヌはそこにいるだけで十分ドリ鳥の脅威だというのに、相手方には残念なことに攻撃にも余念がなかった。

 ジャンヌは新たに得た樹魔法の練習も兼ねて、背中から太く硬い植物の蔓を二本出して、それを適当に鞭のように振るう。

 すると大量にいるドリ鳥は、その一振りに打ち払われ墜落していく。

 その蔓を三本四本と慣らしながら数を増やすこと計十本。

 それを何とか維持できる程度が、今のジャンヌの限界の様であった。



「ブルルルッ」



 ジャンヌはそれに不満そうな声を上げるものの、普通の人間がいきなり樹魔法を使って十本の蔓を同時に制御することなど不可能である。

 しかし、ジャンヌはもっと上を見ていた。だからこその不満であった。

 これはもっと練習しなくてはと心に決めながら、両手も振るってドリ鳥を倒していくのであった。


 そしてジャンヌが竜郎たちの正面半分をかって出てくれているので、後方半分は奈々が事前に解毒魔法を皆に付与してから空中を飛び回りながら竜牙で噛み殺し、そのついでとばかりに毒魔法と呪魔法をばら撒いていた。

 けれど厄介な風の鎧に毒魔法と呪魔法の魔力は殆ど体に触れることなく押し流されて、かすかに弱体化したかどうかといったところ。

 なので、後方の一番槍を任された身として戦果は芳しくはなかった。



「風の鎧……。わたくしとは、相性が悪いみたいですの」



 その忌々しげに語る奈々の言葉が耳に届いたアテナは、なるほど確かにと思う。それは、自分の第二属性を風にしてみるのもいいかもしれないと思わせるほどに。

 今のところアテナ本来の戦闘の気質でもあるイケイケ精神で、火魔法なんかいいんじゃないかと考えていたところだった。

 なので攻と攻の雷と火。攻と柔の雷と風。

 今後の参考にしておこうと、密かに頭の片隅にその情報を入れておいた。


 そんなことをしながら、微妙に弱体化したドリ鳥たちを三つに分裂させた鎌でもって両手、《竜装》の尻尾の三刀流で切り裂いていく。

 その時流れる無数のドリ鳥の鮮血が《竜装》と竜力の煙から作った雷によって蒸発していき、周囲に真っ赤な霧を作っていた。


 その光景に圧倒されながらも、リアは片手でハンマーを振り回し一撃一殺の構えで的確に仕留めつつ、それぞれの量産した属性の手榴弾を器用に使い分けながら自身を守りドリ鳥を倒していた。

 それは竜郎たちに見せたものもあるが、同じ属性でもバリエーションに富んでいた。

 例えば土属性をとっても自身の足元に投げて発動させれば土の壁ができたり、自身の目の前でそれを金槌で打ち込めば杭のように尖った土塊が相手を貫いていった。

 普通の者がこれを一人で造ろうと思えば、かなりの年月による魔法スキルを学問として習熟する必要があるであろう。

 今の技術レベルでは、ただ壁を出す、ただ杭の形の土塊を出す。

 そういった一種類ずつの魔法スキルを陣に落とし込んだ記述式を、正確に理解しなければ造ることはできないのだから。


 しかしリアは《万象解識眼》により完全に魔法というものを理解し、どんな陣を描けばどんな魔法を発現するのか他の誰よりも緻密に手に取るように解った。

 さらに言えば、ロケットランチャーの時のように風と爆発の複属性魔法陣など、現代技術ではオーパーツに等しい存在である。

 この時代の技術レベルで例えるのならば、水と油を完全に混ぜてしまうような物なのだ。

 そんな物をポンポン投げていると知られれば、学者連中は滂沱の涙を流して彼女の手を押し留めたであろう。それを研究させてくれと。

 しかしリアはリアのできる最大限を駆使して、そのうえでちゃんと余力も残しながら戦い抜いていくのであった。


 そしてジャンヌ、奈々&リア&アテナの関門を抜けられた運のいいドリ鳥は、無尽蔵の気力の弓矢と、六本の手による蹂躙が待っていた。

 そしてさらに近づけたとしても、最終防衛ライン愛衣本人がいる。

 どんなに硬い嘴だろうと、どんなに貫通力を持った嘴だろうと、その拳はすべて打ち砕く。その宝石剣はすべて切り裂く。



「はあ!」



 さらに切り裂きつつ、気力の斬撃を飛ばすというおまけまでついているのだ。

 こうしてドリ鳥は、無防備に探査魔法を行使している竜郎とカルディナに嘴の先すら届かすこともできずに屍を積み重ねていった。


 竜郎は勇ましい彼女の姿にますます惚れてしまいながらも、真剣にドリ鳥以外に潜んでいるでいるであろう魔物を探していく。

 もし大海犬の時のように、同化するスキル持ちなら空に化けているはずである。

 だからこそ竜郎は、カルディナと一緒に何も無さそうに見える空を《精霊眼》も交えて一生懸命見上げていた。

 けれど、待てど暮らせどそんな反応はいっこうにない。



「おかしいな。海方面なら、これだけ派手にお仲間さんを殺されれば出てきてるだろうし……。

 もしかして、同化して隠れるような魔物じゃないのか?」

「ピュィーー…」

「ああ、そんなこと聞かれても解らないよな。悪い悪い。

 しかし同化していないのならもっと解りやすいだろうし、どっちにしろ未だ出てこない意味が解らない。ふーむ……」

「ピューイ…」



 竜郎とカルディナは腕を組むようにして唸りながら、何気なく下に広がる雲を見た。



「あ───。そうか、固定観念に捕らわれ過ぎるのが俺の悪い所だな」

「ピュィーー」



 空にある物は空だけに非ず。雲もそのうちの一つなのだ。

 下は強固な愛衣の気力の盾で守られているので、あまり警戒もせず、上ばかりに探査を集中させてしまっていた。

 しかし、よくよく足下に広がる雲の塊を《精霊眼》で見てみれば、怪しげなエネルギーの色が微かに視界に移っていた。



「カルディナ、あそこを調べるぞ!」

「ピュィイ!」



 竜郎は真下を指差し、探査魔法の魔力を下の雲群に集結させていく。

 すると、お目当てのモノを見つけることに成功した。



「そこだったのか。動かなかったというより、動けなかったが正解なのかもな」



 硬い気力の盾で阻まれて、そこから攻撃しても当てること叶わず居場所を教える羽目になる。

 さらに盾の外から行こうとすれば不自然な雲がウロウロしだすので、それをジャンヌや奈々たちが怪しく思わないわけがない。

 そういった理由から、この下の大きな雲に同化した魔物は静観していたのであろうと竜郎は推察する。



「居場所は解ったし、そっちから手を出せないというのなら、こっちから手を出してやろう。愛衣ー」

「なにー?」

「俺が合図したら、ちょっとだけここの面の盾だけを外して、またすぐ戻すことはできるか?」

「余裕でできるよ!」

「じゃあ、頼む」

「おけおけ」



 軽く愛衣と打ち合わせた竜郎は、光と火と爆発魔法の魔力を極限まで高めていく。

 そして手に持った杖を下に向け、集中して魔力を収束していく。

 そして余ったリソースで盾の下に真空の層を一面に広く、足元の一部分だけは除いて構築して防音対策も取っていく。

 今回はレーザーではなく、言うなれば爆弾だからだ。

 さらにSP回収は周りにたくさんいるドリ鳥を何匹か生け捕りにすればいいのだから、よく解らない敵は何かされる前に殺してしまった方が安全だろうと、この方法を選択した。

 それを杖先に涙型の赤く光り輝く滴を盾表面ギリギリにまで垂らすと、竜郎は愛衣に向かって合図を出した。



「頼む!」

「はいよ!」



 愛衣が気力の盾を一枚取り除いた瞬間、竜郎は今にも杖先から落ちそうな魔法を垂らして投下した。

 そして竜郎は足元に穴をあけていた、真空の層をピッタリと閉じた。

 それからすぐに愛衣の盾は閉じ、衝撃で壊れぬようにさらに盾の強度を上げていく。

 そうして落ちてきた滴型の爆弾に対し、雲と同化していた魔物はバレたことを察して、その魔法を撃ち落とさんとマシンガンのように空気の小さな粒を飛ばし攻撃してみせた。

 そしてその攻撃は竜郎たちよりも魔物寄りの場所で着弾し、一気に爆発した。



「ちょおおおおっ」

「やべっ」



 その衝撃は凄まじく、竜郎は下方向に向けて爆発するように仕込んであったにもかかわらず、その余波だけで愛衣の作った盾に一部罅を入れるほどの威力を発し、真下の雲は魔物どころか一面全てを消し去っていた。



「もうっ。やりすぎだよ! 盾が壊れたらどうするの!」

「スマン……。ちょっと今の自分を、過小評価しすぎてたみたいだ。

 レベルが上がる前の感覚でやってた。以後、気を付けるよ」

「うむ。ならよろしい!」

「ありがたやー」



 などと夫婦漫才のようなことをしていると、竜郎の目の前にコロンと宝箱が落ちてきた。



「箱が出てきたが…。何というか…………」

「しょぼそー」



 しかしそれは前の大海犬を倒した時よりもかなり大きくはあるのだが、その箱は只の鉄の箱で……。

 一言で表すのなら「貧相な物」。で、あったのだった。

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