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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五章 呪われた少女編

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第198話 三つの扉

 リアが新兵器の実験を終えて、片づけも済んだ頃。

 爆発音に引き寄せられてか魔物が何匹か、こちら側を水の壁の中から見つめていた。

 しかし竜郎たちの場所まで来るには相当距離がある。

 深海に慣れた体でここまでやってくるのは、容易ではないようだ。

 だが見られているのは落ち着かないので、遠くから魔法で倒したり散らしたりしておいた。


 それからリビングで一服した後、警戒組以外で食事を作って食べ、奈々は警戒に加わった。

 残りの三人は一人ずつ風呂に入ってから竜郎と愛衣、リアはそれぞれの寝室に向かった。

 そして現在、二人は自室のベッドの中で抱きしめあいながら会話をしていた。



「やっぱりレベル7のダンジョンって、今までのと比べて一層一層が大変だね」

「だな。けどSPもたくさん入ったはずだ」

「あと重力魔法取得条件クリアまでは、どれくらいだっけ?」

「えーと……今のSPが──うわっ、いつの間にか(558)もあるぞ」

「内訳はデカムカデとー巨人にー、ひょろ腕が何匹かにービッグピポと臭いのかな。結構入ったね」

「だな。さっそく使っちゃうか」



 竜郎は今取れる範囲内でどう取るか考えながら、システムのスキル取得一覧と睨めっこした。



「うん。とりあえず、樹魔法はジャンヌが欲しがってたから8までは取るのは決まってるし……。

 よし。今回は生魔法10、樹魔法10、氷魔法4で、消費(500)ジャストでいこうと思う」

「まあ、修めシリーズはとっとと覚えときたいもんね」

「そうだな。これで残りは氷魔法10と、全属性の上限解放を取ってけばいいはずだ。

 そうなると重力魔法を覚えられるようになるまでに必要なSPは……げ、それでも(2940)か」

「そんなになの? 上限解放って、特に強化されるわけでもないのにぼったくりじゃん」

「最初から必要SPが高かったうえに、取得順による倍率もしっかり適用されてるからこんなことになるんだろうな。

 けどまあ、ここのダンジョンで大分稼げてるからそれでも時間の問題さ」

「そっかあ。おかーさんたち、心配してるだろうなあ」



 この世界に来て、既に66日が経過している。

 向こうでは、二ヶ月以上失踪していることになってしまう。

 二人の仲は両家公認なので、今さら駆け落ちなんてことをするとも思われないだろう。

 しかしそうなると、何らかの事件に巻き込まれたのではないかと警察沙汰になっていてもおかしくはない。



「帰ったらなんて言い訳しよっか? まさか異世界に行ってましたーなんて言ったら、頭おかしくなったと思われるだろうし」

「だよなあ。素直に神隠し的なアレにかかって、気が付いたら何十日も経ってました的な感じで押し通すしかないか。

 それでも、頭おかしくなったと思われそうだが……」

「異世界云々よりも『その間の記憶がないのよ作戦』の方が、まだマシそうだね」



 そんなことを話しあいながら、二人はお互いの背中に回していた腕の力を強くした。

 向こうのことを思いだして、少しホームシックになってしまったのだ。

 ここには愛衣がいる。ここには竜郎がいる。そしてカルディナたちもいる。だから元気で日々を過ごしていられる。

 けれどふと親や友人、向こうでの暮らしが寂寥感を呼び覚まさせてしまったのだ。


 そんなお互いの気持ちが痛いほど伝わってきたので二人は誤魔化すようにキスをして、お互いを求めあい、激しい一夜を過ごしていくのであった。


 朝竜郎が目覚めると、石材で作ったベッドに敷いたマットレスが悲惨な状態になっていた。

 自分でもよくこれで眠れたものだと呆れながら、生魔法で意識をはっきり覚醒させていった。

 そうすると自身の体もべた付いていることに気がついたので、隣で裸で寝ている愛衣も起こして、こそこそ小さなシャワールームを取り出し、二人でさっと洗いあった。

 しかしその際、竜郎は若い衝動を抑えきれずに結局そこでも愛衣を求めてしまう。

 そしてそれを愛衣も喜んで受け入れ……などとしていたら、大分時間が遅くなってしまっていた。


 急いで身支度を完璧に整えてリビングに行くと既に料理は出来上がっており、竜郎と愛衣は、リアとそれを手伝った奈々にお礼を言って食卓に着いた。


 そうして食べ終わった後は外へ出て、少し休みがてらカルディナたちに魔力補給と触れあいタイムを設ける。

 それから昨日結局スキルを取らず情事に夢中になってしまっていたので、そちらも愛衣に話していた通りに取得した。



「よし、生と樹の修めシリーズも手に入ったな。

 それじゃあジャンヌ、こっちへおいで。樹魔法の因子を8に更新するから」

「ヒヒーン♪」

「ふふ、嬉しそうだね」



 ジャンヌは竜郎に甘えるように体をこすりつけてから、魔力塊の球体に変化して樹魔法の因子の更新を受け入れた。

 そうしてジャンヌの樹魔法がレベル8になったところで、出発の時間となった。


 色々と発散できた竜郎と愛衣は、いつも以上に元気に歩いていき、広い空間を抜けて再び狭い通路を進んでいく。

 しかし少し進んだ所に床と同じ素材の壁で正面が塞がれ、行き止まりになっていた。

 そしてその行き止まりの壁には、大きさの違う三つの扉が設けられていた。

 それぞれ左側には小さな扉。右側には中くらいの扉。そして中央には大きな扉だ。



「こんな所にドア? 罠かな?」

「…………どうやら、この三つの内どれかを選んでいけということのようですね。

 開けた瞬間、残りの二つは消えて通れなくなるようです」

「三つの行先の違いは、解らないっすか?」

「そこまではちょっと。開いた状態で向こう側が見えていたなら、解ったのかもしれませんが……」

「まあ、そこはいいさ。ということで、どれを選ぼうか。

 特に行先の情報もヒントも無いようだし、多数決でいいか?」



 何も解らないのだから多くの者が選んだ道に行く方が良いだろうと竜郎が提案すると、皆も同じ気持ちのようであった。



「それじゃあ、一番小さな扉がいい者は?」



 リア、アテナが手を挙げた。



「それじゃあ、中くらいの扉が良い者は?」



 竜郎、カルディナが手や翼を挙げた。

 となると既に行先は決まったようなものだが、念のため最後の決を採る。



「それじゃあ、一番大きな扉は?」



 愛衣、奈々、ジャンヌが手や鼻先の角を上に挙げた。

 小2、中2、大3。ということで、真ん中の一番大きな扉を開けることに決めた。


 今回はドアノブ式なので、ジャンヌでは開けられないだろうとアテナに先鋒を任せようとした。

 が、ジャンヌが首をプルプル振って前に進み出ると、鼻先の角から樹魔法で植物の蔓をだしてノブに巻き付けると、それで器用に回してみせた。

 すると扉が奥へと開いていき、他の二つの扉が消失した。



「なるほど、手の代わりにもなるのか」

「ヒヒーーン!」



 思い通りに使いこなせたことに喜んでいるジャンヌと共に、皆の視線が奥へと向けば、今度は学校の教室ほどの大きさの空間が広がっていた。

 そして中央には、怪しげな木の箱がぽつんと置かれて…。



「ただの木の箱……、ではないみたいだな」

「じゃあどんな箱なの?」

「今《精霊眼》で観てみたんだが、箱の内側一杯に何かの力が詰まってるように見える。

 解析魔法でも妙な妨害に阻まれて、何かのエネルギーが入っているとしかわからない。だが、今までと違って危険な気がする」

「あたしの危機感知も、反応してるよ」



 竜郎とカルディナの解析、愛衣の棒術の派生スキル《危機感知》でも危ないのではという結果が出た。

 そこで奈々は、もう一人の解析班に声を掛けた。



「リアの目ではどうですの?」

「箱は普通の木箱ですが、中は見えないので何とも……。穴でも開いていてくれれば解ると思うんですが」

「でもこれも、多分開けなきゃ次に進めそうにないっすよね? あたしが開けてきてもいいっすよ」

「いや、それは止めてくれ。今回は、ジャンヌのマネをさせてもらおう」

「ヒヒン?」



 首を傾げるジャンヌの横腹を撫でてから、竜郎は先ほど通った入り口まで皆に下がるように指示を出した。

 それから愛衣に気力の盾で壁を作ってもらい、さらに小さな隙間も開けてもらう。


 そうしたらジャンヌと一緒に樹魔法で愛衣の盾の隙間から植物の蔦を向こう側に出して、雁字搦めに絡めて隙間を埋めていく。

 そしてさらに木箱に向かってカルディナの探査魔法の情報を頼りに、蔦を伸ばしていった。


 植物の蔦は木箱の蓋に絡みつき、ゆっくりと蓋を開けていった。

 そして隙間が、ほんの少しあいた瞬間。

 その箱が大爆発して、教室ほどの大きさの空間一杯に爆炎を上げて燃え上がった。

 愛衣は爆音で中耳を痛めながらも気力の盾を維持して耐え抜き、何とか致命傷は免れた。

 しかし竜郎、愛衣、リアは聴覚に支障をきたしてしまった。

 なので直ぐに生魔法で竜郎は愛衣を、奈々は竜郎を治し、最後は二人でリアを治した。

 それから樹魔法と気力の盾を解除すると、ムワッという熱気が部屋から漏れ出してきた。



「爆弾かよ……。しかも、威力も相当だったぞ」

「あたしが開けなくて良かったっす~」

「もしかして、大きいドアは外れでした~ってオチかな?」

「たぶんそうですの……」



 奈々も大きい扉に票を入れてしまった手前バツが悪そうにしていたが、それは最終的に皆で決めたことなので誰かが悪いわけではない。

 そんな気持ちを伝えるように、竜郎は奈々の頭にポンポンと優しく手を乗せた。



「気にするな。みんな無事だし、それにどうやら次の階層へ行けるみたいだぞ」



 その言葉を聞いた皆がよくよく部屋の中を見てみれば、水の壁であった部分が一面光る溜池と同じような色をして輝き始めた。

 どうやらそこに入れば、次の階層へと向かえるようであった。



「それじゃあ、気を取り直して行くか」

「はいですの!」



 竜郎に背中をポンと押され、気持ちは伝わったのかニッコリと笑顔に戻った奈々はやる気を漲らせながら階層を渡る壁の前に立った。

 そして皆で一直線に壁の前に立ってから、竜郎が魔法で多属性の結界を張って一斉に飛び込んだのだった。



「「「「「「ピギャァァァーーー」」」」」」



 何やら聞いたことのある鳴き声と共に、竜郎の結界に攻撃した何かが勝手に死んでいった。



「ここは……」

「あれ? 最初に戻っちゃった?」



 先ほど攻撃してきたのは、最近見たことのある魔物。愛衣命名、びっくり貝。

 そして今立っているのは、最初にクリアしたはずの階層。

 小島に海、詰まれたボートのジェンガ……本当に何も変わりが無かった。



「もうバリエーションが尽きたんすかね?」

「まだ六層目ですの。そうだとしたら、早すぎですの」

「だよなあ…」



 竜郎は勿論、他の面々も疑問符を顔に浮かべていた。

 この場所が低レベルダンジョンなら用意されている層の種類も少ないのもあって、階層の重複なんてものはいくらでもある。

 だが、ここはレベル7のダンジョン。

 基本ランダムでの転送なので絶対に重複が無いわけではないが、さすがに早すぎたのだ。


 けれど、これにはちゃんと絡繰りがあった。

 それは、前の層での3つの扉の選択だ。


 まず、小さい扉を選んだ場合。

 その先の部屋には罠ではなく、超貴重なアイテムが出る本物の宝箱が置かれる。

 だが次の層では、いくつかの層がない混ぜになった超広大で複雑怪奇な場所への挑戦を余儀なくされる。

 ギリギリこのダンジョンが攻略できるレベルの冒険者たちがそこへ挑めば、一年から二年はその層で右往左往する羽目になるだろう。

 さらに途中放棄して帰還石でダンジョンを出れば、手に入れたアイテムは没収というペナルティまでオマケについてくる。


 そして、中くらいの扉を選んだ場合。

 罠も無く、次の層でも特に何もなく、いつも通りに次の階層へ無難にたどり着ける。


 そして最後に、一番大きな扉を選んだ場合。

 その先の部屋にある危険なトラップを、あえて発動させたうえで全員が生き残ることができたとき。

 そのパーティメンバーの誰かが、今までこのダンジョンでクリアしたことのある階層の中で行きたいと思う層があった場合、そこへ行けるというものであった。


 そして今回、最初の層にもう一度行きたいと思っていた人物がこのメンバーの中にいたのだ。その人物とは……。



「だが、これは好都合だな」

「好都合ですか?」

「ああ、実は俺はもう一度ここへ来られないかなと思っていたんだ」

「なんで? たつろーって、そんなに海好きだったっけ?」



 愛衣の記憶の中では絶叫マシーン好きではあったが、特にアウトドアが好きという認識を竜郎に持ってはいなかった。

 だが勿論、竜郎は海や自然と触れあいたかったわけじゃあない。



「実は思っていたんだが、海の敵を倒した時にほら──これが出てきただろ?」

「それは確か、水に見えるようになる羽衣ですの」

「そうだ。それじゃあもし、空で特定の魔物を倒すことができたら、もしかして空色迷彩の羽衣なんか出てくるんじゃないかと考えていたんだ」

「あー。そうすれば気兼ねなく、ジャン姉で空飛んで移動できそうっすね」

「そーゆーことかあ。それじゃあ、今から目指すのは」

「ああ。空だ──」



 そう言いながら竜郎は人差し指を立て、上空を指差したのであった。

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