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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第一章 森からの脱出編
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第1話 これは何?


 裂け目の中は光もなく真っ暗だった。

 しかし落ちているような感覚だけはあり、竜郎は愛衣を抱きしめたまま終わりの見えない闇を見つめた。

 それからどれだけたっただろうか、ふと下から光が射してきた。

 よく見ると最初に飲まれた裂け目と同じようなモノがあるのに二人は気付いた。



「あれは出口?」

「かもしれないが……」



 このまま永遠に暗闇の中を落ち続けるのかと思い始めた矢先のことで愛衣は安堵しているようだったが、こんなまともじゃない場所の出口がまともであるとは竜郎には到底思えなかった。



「出るぞっ」

「うん!」



 しかし、だからといってこの状況を打破できるものを何も持ち合わせておらず、二人は成り行き任せに光の先へと吸い込まれるように向かっていき外へと飛び出してしまう。

 と。次の瞬間下に落ちていたはずなのに、横っ飛びに放り出された。



「はあ!?」「うえぇっ!?」



 まず元いた場所と見えた光景のギャップに思わず声が出た。

 視界は日が暮れそうなくらいに薄暗く、目の前には白い砂利道、そして左手には森林、右手には澄み切った川、そしてその川向こうにはまた森林。

 どう見ても二人には縁のない場所である。


 そしてもう一つ。

 現在二人は絶賛空中浮遊中だった。

 とは言っても射出された裂け目から地面までの距離は一メートルもなく、上から下でもなく左から右に飛んでいる状態で放物線上に落ちてきている。

 このまま下に落ちても死ぬ可能性は低そうだが、このスピードで着地に失敗すれば砂利道に突っ込みかなりの痛手を負うことだろう。


 

「荷物を捨てろ!」

「? ……わかった!」



 そこで竜郎は行動に出ることにした。

 まず背負っていたリュックを空中で器用に脱ぎながら愛衣に指示を飛ばすと、自分のリュックを地面に落とした。

 短い言葉でなんとなく事情を察した愛衣も、言う通りに肩に下げたショルダーバッグを捨てる。

 次に竜郎は愛衣を引き寄せて、俗にいうお姫様抱っこのスタイルで地面を睨んだ。

 そして足が地面に触れた瞬間、思いきり右手に向かって蹴りこみ軌道をずらしていく。

 一歩では足りないので幅跳びのように飛びながら四歩地面に足をつけると、竜郎の思い通りの場所──すなわち川の中へと突っ込んだ。


 ザバーンッ


 猛烈な水飛沫をあげながら深くもなく、浅くもない川の中へと不時着した。



「ぶはっ」「ぷはっ」



 二人はほぼ同時に川面から顔を出し、水に濡れた顔を手で拭った。

 


「大丈夫か?」

「うん、大丈夫。そっちは足とか大丈夫?」



 愛衣の心配に対して、川底に着いた足を動かしてみる。



「ん~痛くないし、大丈夫みたいだな。とりあえず岸に上がろう」

「わかった」



 そうして川をざぶざぶと横切って砂利道の方へ上がると、二人はとりあえず荷物を回収しに飛ばされてきた方向へ向かって歩き出した。



「ここってどう見ても森の中だよね」

「ああ、THE 森だな」

「なんで?」

「いや知らんがな」

「だよねー……」



 軽口を叩きながら一旦足を止めて改めて辺りを見渡すと、向かって右手には大森林と言っていいほどに立派な木々が立ち並んでいた。

 そして逆をみれば、綺麗な川とその向こうにはこれまた立派な森がそびえる。

 二人はそろってため息をつくと再び足を動かし始めた。



「ここどこだろ?」

「スマホは?」

「バッグん中、そっちは?」

「濡らさないようにリュックの脇のポケットに突っ込んだ」

「あの一瞬で…。そちもやりおるな」


 そんな風に愛衣は感心していると、この現象について一つ思い当たるものがあることに気付いた。


「もしかして、これってワープってやつ?」

「かもな、帰ったら凄いことになりそうだ──ってそういや家は大丈夫かな」

「あー結構地震大きかったもんね。思い出したら心配になってきた」

「まあ、とっとと現在地を確認して連絡取るなり帰るなりした方がいいな」

「だねー ──っくしゅ。うー、ちょっと冷えてきたかも」

「ああ、急いで荷物をかいしゅ──」



 《規定値内の知的生命体を感知いたしました。》

 《これよりシステムをインストールいたします。》



「は?」「え?」



 二人はちょうど額の辺りから突然聞こえた機械的な声に顔をあげキョロキョロと首を動かすが、ここには他に誰もいない。なので互いに顔を見やった。



「えーと……今のたつろーじゃないよね」

「ああ……俺じゃない。なんか知的だのシステムがどうのと言ってた……よな?」

「うん。確かにそうだった気がするけど、いきなりで覚えてないかな」

「「…………………………」」



 しばらく何かあるかと無言でいたが何も起きない。なので二人は気には留めながらも荷物を無事回収した。

 それから、この日は体育があったおかげでジャージを持っており、二人はそれに着替えることにした。



「うーさぶさぶ。着替えるから後ろむいててねー。

 あーもう、パンツもびしゃびしゃだよー」

「ほう。見ていいか?」

「駄目に決まってんじゃん!

 こっち見たらたつろーじゃなくて、えろろーって呼ぶかんね!」

「男は皆えろろーだ。かまわん!」

「かまってお願いだから! 彼氏のあだ名がえろろーってハズいじゃん!

 ってか皆えろろーってどゆことよ。もー大人しく着替えてて」

「はいはい」

「ハイは一回」

「はーい」



 などとじゃれ合いながら着替えを終えると、今度はスマホを取り出し連絡を試みることにした。



「そっちはどうだ?」

「こっちも圏外……あーどうしよう」



 が、どちらも圏外で連絡の手段がないこと、またここがどこなのかさえも知る手段がないことを理解し、いよいよもって悲観に暮れはじめた──そんな時だった。



 《システムのインストールを完了いたしました。》

 《これよりシステムを起動します。》

 


「うわっ」「ひゃっ」



 再び聞こえた声にビクリと反応して、すぐに自分たちの視界に以下の項目が表示された。



 --------------------------------

 ステータス

 所持金:0

 パーティ

 スキル

 ヘルプ

 --------------------------------



「なんだこれ!?」

「は? え? たつろーにもこれ見えてる?」

「ん? 愛衣の前には何も見えないけど、俺の前にはステータスとか所持金とかがでてるぞ」

「んんん?」



 そう言って相手にも同じものが見えているが、自分が見ているものは見えていない、ということをお互いに認識しあった。


 

「ステータスって、ゲームかよ」

「これってどうやって見るのかな? 触ればいいのかなあ。

 えいっ、おおっなんか表示が変わったよ。ちょっとたつろーも触ってみ」

「おう」



 そうして二人がステータスの項目を触ると、自分の名前や色々な数値が表示された。



 --------------------------------

 名前:タツロウ・ハサミ

 クラス:-

 レベル:1


 気力:50

 魔力:50


 筋力:10

 耐久力:10

 速力:5

 魔法力:10

 魔法抵抗力:10

 魔法制御力:5


 ◆取得スキル◆

 《レベルイーター》


 残存スキルポイント:3


 ◆称号◆

 なし

 --------------------------------



「強いのか弱いのか解らんが、1レベルなんてこんなもんか?」



 --------------------------------

 名前:アイ・ヤシキ

 クラス:-

 レベル:1


 気力:750

 魔力:1


 筋力:150

 耐久力:150

 速力:100

 魔法力:1

 魔法抵抗力:1

 魔法制御力:1


 ◆取得スキル◆

 《武神》


 残存スキルポイント:3


 ◆称号◆

 なし

 --------------------------------



「なんか私のステータス脳筋なんですけど……なんで?」




 自分の名前と値が書かれた表を見て、それぞれ感想を述べた後。互いに見せ合うことはできないのかという話の流れになってきた。



「そういや、前の画面でヘルプってあったよな」

「あったっけ?」

「あったよ! ったく。

 んで戻るには~えーーと、これかな。─っおし、戻った」

「ん? あーこれね~」



 右下にあった←マークを押すと最初の表示に戻った。

 そして二人はそのままヘルプの項目にタッチすると、黒枠の中に白い手形のマークが表示された。



「これは手をここに置けってことでいいのか?」

「やってみよ!」



 そうして右手をポンと乗せるが何も起きない。



「あれ、違ったか?

 じゃあどうすれば…ああ、この状態で知りたいことを考えればいいんだ──ってあれ?」

「どったの?」

「いや、知らないことだったのに突然思い出したようにやり方が解ったんだ。

 なんか気持ち悪い感じだな」

「へーそういう機能ってことかな? ……みたいだね。確かに、ちょっと慣れないとキツイかも」



 愛衣の言う通りで、このヘルプは手を置き知りたいことを考えればその情報を理解できる。そんな機能だった。



「えーと、じゃあどうやったら他人のステータ……って早いな。

 まあ口に出す前に頭の中で考えてるわけだから当然か」

「ん~? あ~なるほど」



 そう言いながら二人は、ヘルプから教わった?やり方をさっそく実行に移した。



「えーと、システム起動画面のパーティからパーティ編成、パーティ申請、受諾or拒否選択。

 んでパーティ編成し終わったら、ステータス公開ボタンをタッチと」

「ん、受託して公開ボタン押したぞ。見れたか? って、愛衣のステータスチートじゃねーか!」

「おーこっちで見れた! ……たつろーちょっと弱すぎない?」

「いや多分、愛衣が異常なだけで俺のは由緒正しい平均的な1レベルのはずだ」

「由緒正しい平均的な1レベルってなんぞ? あれ、そういやこのスキルってなんだろね。

 私は《武神》で、たつろーは《レベルイーター》だって。

 なんかどっちも物々しい感じだーね」

「あーそれな。んじゃ困ったときのヘルプ先生っと……んー詳細は、ステータス画面の知りたいスキルのとこをタッチすればいいみたいだな」

「おっと簡単だあ。てか、それなら普通にやっても気付けたね。そいじゃまポチッとな」



 --------------------------------------

 スキル名:レベルイーター

 レアリティ:ユニーク

 タイプ:アクティブスキル

 効果:あらゆるレベルを吸収し自らの糧となす。

 --------------------------------------



「なにこれエグッ、たつろーエグいよこのスキルー」

「うわー、また妙なスキルだな。

 任意発動型じゃなかったら恐ろしいことになっていた気がする。んでそっちの《武神》はっと」



 --------------------------------------

 スキル名:武神

 レアリティ:ユニーク

 タイプ:パッシブスキル

 効果:武術系統のステータス超極大上昇。

    魔法系統のステータス超極大下降。

    武術系統のスキル取得難易度超極大下降。

    魔法系統のスキル取得難易度超極大上昇。

 --------------------------------------



「強制的に魔法系潰して物理超特化にするスキルか。

 まあその分ステータスがチートだったし優良スキルだな」

「えー私はゲームでは迷わず魔法タイプにする人だよ。逆がよかったー」


「「………………………………………で、これ何?」」



 二人の現実逃避も限界が訪れ、リアル思考に戻ってしまったのだった。

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