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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五章 呪われた少女編
198/634

第196話 ゲシュマグミン

 二つもあった頭を無くした蛇が、竜郎たちの方へと突撃してくる。

 しかし頭が無いということは、目も耳も鼻もないということだ。

 ならば、ここから移動してしまえば追跡はできないだろうと竜郎たちは今いる場所から走って場所を変えた。

 しかし───。



「なんで俺たちの場所が解るんだ!?」

「うええ……。化けもんやー」



 何故か竜郎たちのいる方向へ、正確に迫ってきていた。

 あの魔物には実は第三の目か何かがあるのではないかと思い始めた頃、リアがその原因を解明した。



「皮膚です! あの皮膚で私たちが歩くときに生じた震動を床から感じ取って、正確に位置を把握してるんです!」

「そういう絡繰りか。後で《レベルイーター》用に取っておこうと思ったんだが、あの巨人だけで我慢しとくか」

「ピュィイーー」

「おとーさま、その巨人の方も何かする気だそうですの!」

「とーさん。それじゃあ、あっちはもうやっちゃっていいっすか?」

「ああ、頼む! 愛衣は巨人に向けて攻撃してくれ!」

「解った!」



 首のない二股の大蛇に追いかけ回されては、巨人との戦いに邪魔でしかない。

 アテナは震動でばれぬよう、ジャンプして床に触れずに近づいた。

 そうして一気に肉薄すると、着地する前に雷撃を喰らわせながら大鎌を分裂させ、両手と竜装の尻尾で持った三本の鎌で切り刻んで完全に息の根を止めた。


 その頃、愛衣は蛇の毒で取れたはずの、足の肉が閉じて止血され始めていた巨人の方に狙いを《遠見》で正確に定め、軍荼利明王の槍の出力をフルに使って超巨大な弓矢を番えた。



「くらえっ!」



 その弓矢を思いきり引いて、巨人の右肩に向けて一気に解放した。

 すると、突風を巻き起こしながら一直線に目標地点へと飛んでいく。

 だが、それが命中する前に向こうの魔法も完成していた。

 それは巨大な石の槍で、それをこちらに三本撃ち放ってきたのだ。



「でかっ。皆ーてったーい!」



 愛衣の号令と共に竜郎は腰を持たれて攫われ、槍の着弾地点から強制的に移動し、リアも《真体化》した奈々に抱えられてスタコラ逃げていた。

 そうしてこちらは無事巨大な槍の来襲を無傷でやり過ごしたが、向こうはそうはいかなかった。



「ゴオオオオオオオオオオオオッ!!」



 怒声を上げながら、巨大弓矢で大穴があいた箇所から先の右腕を左手で掴んで千切ると、それを投げてきた。

 かなり正確に投げられた右腕は一番大きく、的の大きい《真体化》したジャンヌに飛んでいく。

 しかしそれに対しジャンヌは、自身の力を見せつけるかの如く右手一本でキャッチしてみせた。

 そして返すぞとばかりに横投げで、四メートルはありそうな腕を投げ返した。



「ゴオッ!?」



 それはしっかりと巨人の顔面に直撃し、醜い顔を陥没させた。

 そしてそれが好機とばかりに、竜郎たちは一気に巨人へと近づいていく。

 が、しかし。



「ブウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ」

「汚なっ!?」



 近づかれるのを恐れたのか、巨人は唇を震わせ口から何かを霧状に噴射して周囲を謎の気体で覆った。

 それに全員ドン引きして範囲外まで下がると、竜郎は近くを飛んでいるカルディナと同時にその成分を解析した。



「強力な酸の霧だ! 皆、あれに触れないように!」



 そうして注意喚起してから巨人を見れば、自身もその酸の霧に耐性がないのか、体中から煙を上げて溶かしていた。



「自傷覚悟の荒業っすねー。よくやるっす」

「あんなことをしてるから、顔が爛れてしまったんですのね」



 唇は勿論、顔の前で酸をまき散らしたものだから、顔の火傷は相当なものになっていた。

 それでもあまり痛くはないのか、それとも我慢しているだけなのか、巨人はまた石槍を中空に三本造り始めた。

 これは土魔法系統なので、逆の位相を造るには氷魔法が必要である。

 だが、あいにく竜郎の今のスキルレベルではできそうにない。

 ならば、取れる方法は一つ。強行突破のみである。



「そう何度も──」

「撃たせるか!」「撃たせないよ!」



 竜郎はカルディナ、ジャンヌ、奈々、アテナとの混合魔法。魔弾に爆発、風、毒、雷を混ぜ込んで構築中の巨大な石槍に向かって撃ち放つ。

 愛衣は右手に宝石剣、左手に天装の槍ユスティーナに気力を遠慮容赦なく注ぎこみ、右手は縦に振り降ろし左手は虚空を突いた。

 すると剣の気力の斬撃は残った左手の付け根に飛んでいき、槍の気力の突撃は男性なら悲鳴をあげる急所に向かって飛んでいった。


 竜郎たちの魔弾は出来上がる寸前の中央の石槍にぶつかり、風と雷をまき散らしながら爆発して隣接した二本の石槍も粉々に破壊。

 さらに酸性の霧も吹き飛ばし、代わりとばかりに頭上から衰弱を誘発する毒の魔力を降り注がせた。

 そして愛衣の攻撃は左肩の骨を切り裂き皮と僅かな肉だけ残ったが、自重で千切れ落ちた。

 さらに巨人の股間部に向かって飛んでいった突撃により、あらぬ所を穿ち骨盤の中心に穴をあけて周囲にもひびが入り、さらに後方へと抜けていった。



「ちょっとっ。女の子が、そんな所を狙っちゃいけません!」

「えー。男っぽいし、殺さず最大限のダメージをと思えばあそこしか──」

「──お、恐ろしい子っ」



 竜郎は股間がひゅんっと冷えた心地を味わいながら恐々としていると、体中ボロボロにされ奈々の毒も体中を巡り始め、息も絶え絶えに床に突っ伏した。

 解析魔法でも到底動けるような状態でないと判断した竜郎たちは、警戒はしつつも巨人に近づいていった。

 そして皆に周りを固めてもらってから、竜郎は《レベルイーター》を行使して黒球を巨人に当てた。



 --------------------------------

 レベル:48


 スキル:《自己再生 Lv.1》《強酸霧 Lv.3》《石槍投射 Lv.8》

     《痛覚鈍化 Lv.7》《環境適応 Lv.5》

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 (体格やレベル、スキルレベル。この層で出てきた魔物の中では、かなり強い部類だな。中ボスみたいなもんなのか? となると、他の三種も殺すのは惜しかったかもしれないな)



 --------------------------------

 レベル:48


 スキル:《自己再生 Lv.0》《強酸霧 Lv.0》《石槍投射 Lv.0》

     《痛覚鈍化 Lv.0》《環境適応 Lv.0》

 --------------------------------



 黒球を飲み込み自分の糧となったのを確認した後、最後にアテナが首を落として止めをさした。



《『レベル:43』になりました。》



「レベルが上がったっすー」

「良かったな」「おめでとー」



 少しばかり大変だったが、なかなかいい実入りとなったと竜郎が満足していると、この広い空間の中央の床部分から大きな鉄の箱がせり出してきた。

 安全確認を十分にしてから近づくと、正面には誰も立たないようにして後ろに回り、横側から愛衣とアテナが蓋をあけた。

 すると前後ろの閉じていた水の壁が無くなり、この空間から出られるようになった。



「また宝箱開けたらパターンなんだ」

「これからも閉じ込められたり、道が解らなかったりしたら、とりあえず開けてみればいいのかもな」

「それじゃあ、中を確認ですの」



 他には周りからも箱からも特に何か怪しい挙動も無いようなので、皆で正面に回って中を見てみる。

 すると焼きすぎて焦げた食パンが金型に詰まっているかのように、箱にぎゅっと押し込められた謎の黒い物体が詰まっていた。



「なんじゃこれ? …………質感は粘土みたいだな」

「───これはまた、珍しい物が出てきましたね。ゲシュマグミンですよ」

「下種なグミ? なんか不味そうだね」

「どう見ても食い物じゃないから。んで、そのゲスグミってのは何なんだ?」



 竜郎も覚えにくい名前だったので、記憶を放棄してゲスグミと呼ぶことに決めた。



「ゲシュマグミンなんですが……まあ、名前なんて何でもいいですね。

 これは加工方法によって変わってもきますが、ゴムよりも軽く、高い伸縮性や衝撃吸収を持つ夢のような素材だとか。

 耐衝撃に優れているので、王室関係の車は総ゲシュマグミン製で造られていると聞いたことがあります」

「王室御用達ってことね! そいうえばさっき珍しいって言ってたけど、もしかしてこれってお高いの?」

「だと思います。そもそも希少物質扱いされていたはずですし。

 あっ、ちなみにタツロウさんのコートにも使われてるんですよ。 

 まあ、そちらはさらに他の物質も混ぜて完全に別物と化していますが」

「へえ。それじゃあ、結構良さげな素材なんだな。複製ポイント使って増やしておくか」



 《無限アイテムフィールド》にしまってから、いつの間にか日付が変わっていたようで複製ポイントが1増えていた。

 なので、とりあえず一つだけ複製しておいた。



「でも加工法によってとかも言ってたっすけど、あのままじゃ意味がないってことなんすよね?」

「はい。でも《万象解識眼》を使えば私でも加工方法は理解できますから、何か造りたいものがあったら気軽に言ってください」

「それじゃあ、その時は頼ませてもらおうかな」



 もしや犀車をさらに軽く優れたモノにできるのではないかと、頭の中で使い道を竜郎が模索していると、少し迷うような素振りをしたリアが、やがて何かを決心したように目を見開いて話しかけてきた。



「あの、タツロウさん。その代わりというわけでないのですが、折り入って頼みたいことがあるんです」

「頼みたいこと? ああ。俺にできることなら可能な限り協力するが、具体的には?」

「ええ、実はですね──」



 リアは今回の戦いで、ほとんど役に立たなかった自身の戦力について思うことがあったらしい。

 そこで常々から考えてはいたが、作るかどうか迷っていた物を製作することにしたと言う。



「別にリアちゃんは戦闘職でなくて鍛冶師なんだし、そこまで気にしなくてもいいんだよ?

 その目のスキルにだって、何度も助けられてるし」

「いえ。もし何らかの理由でこのダンジョンの中、皆さんと離れてしまったら今の私では危険ですし、戦闘で何もできないのは嫌なんです」



 そう言うリアの瞳は、ただ後ろめたいからなどという理由でないことを悠然と物語っていた。

 であるのなら、竜郎と愛衣にも反対する理由なんてなかった。



「そうか、まあ本人がそれを望むのならこっちも異を唱える気は無いんだ。それで、俺は何をしたらいいんだ?」

「色々な属性の魔法を見せてほしいんです。それと帰還石と魔石、あといらない金属も貰えませんか?」

「ああいいぞ。それだけでいいのか?」

「はい」



 竜郎はいらない金属、魔石と今も大量に造られ続けている帰還石をいくつか渡した。

 それからさらに、リアに言われた通りの魔法を見せていった。

 そしてそれはカルディナや奈々の魔弾、毒魔法にまで及び、ここにいる者全ての魔法を観察していった。

 それをしながらリアは紙にこちらでは理解不可能な幾何学模様を描いたり、文字を書いて注釈を入れたりして観察結果をつぶさに記入していった。



「それで、何ができるんですの?」

「一言で言うのなら、爆弾ですかね」



 ちびっ子の口から突然物騒な言葉がこぼれたため、竜郎と愛衣もギョッとしてしまう。



「爆弾……。そんなの造れたの?」

「ええ。でもちょ~~と、この国のお役人さんにバレたらアレされちゃう代物になるので、自重していたのですが」

「アレされちゃうって、こう──出るのが大変で四六時中誰かが見守ってくれる、そんな素敵なお部屋にご招待ーっていう……アレのことか?」

「ですね。資格すら持ってないのに無断で危険物製造に、魔石の個人的流用。

 帰還石の仕組みは、法律に記載されていないのでグレーかもしれないですが……。

 まあ、ここで使う分ならばれないでしょうし、お隣の国ならもう少し規制が緩やかなので、いざとなればそちらへ逃亡すれば大丈夫です!」



 リアは、悪戯っ子のような小生意気な笑顔でサムズアップした。

 それには竜郎も苦笑しながら、ため息を吐くしかない。



「あー…、もう何も言うまい。それに、ここでなら国の役人なんかに出くわすことも無いだろうしな」



 この場は広く、魔物が飛び出して来る水の壁からも遠い。

 さらに危険な魔物も今の段階ではどこにもいないし、やってくる様子すらない。

 という事で、ここ数時間碌に休憩を取っていなかったので、今日はここで休憩と睡眠を挟むことに決めた。

 そしてリアはこの時間を使って、ここで試作型兵器製作に集中することになったのであった。

明日は私の都合で更新したいと思います。

なので今回は、火曜と水曜に休みをずらす予定です。

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