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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五章 呪われた少女編

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第195話 四種のてんこ盛りセット

 不快な見た目と悪臭を生み出す凶悪な魔物の討伐に成功したアテナは、先ほどのアナウンスで聞こえた《鎌術》をシステムを開いて確認していた。

 そうしてステータスを見ればしっかりと《鎌術》が刻まれており、クラスは鎌術家、ステータスの値も物理系に寄っていた。

 その旨を竜郎に話すと、アテナ自身の気持ちを問われた。



「ん~。正直槍の方が良かったかなあ、とも思ったんすけど……。

 まあ、この武器も使ってみれば便利だし、それでもいいか~てところっす」

「そうか。アテナ自身が初めて求めたのが槍だったから、どっちが良かったのかなと思っただけなんだ。本人がいいならいいんだ」

「そうっす~。これからは、魔法と鎌で頑張るっす~」



 そうして、アテナも戦闘スタイルの方向性が定まった。

 本人はもう槍に未練は無いようなので、これ以上は何も言うまいと、竜郎たちはダンジョンを再び進みだした。


 それから半日ほども歩かされただろうか。

 道中出くわす魔物も効率的に狩れるようになり、ただひたすらにまっすぐ延びるだけの道を延々と行った先、ようやく違った風景が見えてきた。



「なんだあそこ。突然広くなってるが…」

「あそこで休んでね。ってことかな?」



 冗談交じりにそんな会話をしている皆の視線の先には、東京ドームが丸ごと入りそうなほど広大な箱型空間があった。

 ただそこの壁面もまた、相変わらず深海レベルの水圧がかかっている水の壁なのは変わらない。

 愛衣が冗談で言った通り、何もない空間ということも絶対に無いとは言い切れないが、とにかく怪しい空間ではあった。

 なので竜郎はカルディナと念入りに、その空間を調べ上げていく。

 しかしそれでは何もないということだったので、さらに《精霊眼》や《万象解識眼》による安全確認までしたうえで、罠や魔物の類が隠れ潜んでいるということは無いと結論付けた。

 けれどそれが余計に、皆には不気味に映った。



「うーん。この道しか他になかったし、どうせ向こうに行かなければこの層は攻略できないんだ。 各自、最大限警戒しながら行こう」

「それしかないよねー。それじゃあ、いつもの並び順で?」

「ああ。先頭はジャンヌ、真ん中に愛衣、俺、奈々、リアで状況に応じて行動。

 それから上にカルディナ、殿しんがりにはアテナがついてくれ」



 皆がその通りに隊列を組み、ジャンヌはスキルを発動して最大限防御を固め、他の者たちも直ぐに攻撃や防御、逃走に入れるように気構えしておく。



「やっぱり、ジャンヌが前にいると安心感が半端ないな」

「うん、すっごく守られてる感じがするよ。いつもありがとね」

「ヒヒーーン!」



 その体格もさることながら、物理防御と魔法防御の二つのスキルを手に入れたジャンヌは、今や自他共に認めるこのパーティにおける最強の盾である。

 さらにその盾は凶悪な角を持ち、敵対する相手をなぎ倒し突き殺す。

 これほど頼もしい存在には、中々お目にかかることはできないであろう。

 そんな事を思いながらジャンヌにお礼をいいつつも慎重に歩みを進ませ、その開けた空間へとジャンヌの足が一歩入った。



「何もないよな?」

「ピュィー」「そのはずです」



 そこで一度立ち止まって竜郎とカルディナ、リアの三人がかりでもう一度確認するが特に怪しいことは起きていない。

 ということで、さらに奥へと皆で入り込んでいく。



「こういう時、大概真ん中辺りで何かが起こるんですの」

「そういうこと言うと、フラグが立つからやめなさーい」

「フラグが立つ?」



 リアがフラグの意味を掴みかねて首を傾げ、奈々の言う中央付近に全員が入ったその時。

 突然前後の路が水の壁によって塞がれて、この空間から出られないようになってしまった。



「閉じ込められたか」

「それだけじゃあ、ないみたいだよ」



 竜郎たちを取り囲むように、四面ある水の壁から今まで見たことのない新しい魔物が一種ずつ現れた。


 まず正面の竜郎たちが向かっていた方向の壁からは、四メートル程のクシャクシャに丸めた黒い紙屑に、何本もの硬く尖った触手を栗の棘のように生やした魔物が一体。


 後ろ方向の水の壁からは、ガリガリに痩せ細ったミイラのような半魚人にもりを持たせた魔物が六体。


 左の壁からは、全長五メートルはありそうな二又に分れた二つの頭を持つ一つ目の大蛇。


 最後に右の壁からは青い肌、贅肉だらけの身体、醜く爛れた顔に鋭い牙と爪を持った、十メートルはありそうな巨人型の魔物が一体。


 それぞれが水を滴らせながら竜郎たちを睨みつつ、四種同士がどこか牽制し合うように動かずこちらの動向を見守っていた。



「おいおい……。こんなデカブツの反応なんて、さっきまで無かったはずなんだが…」

「ピュィーーィィーーュー」

「カルディナおねーさまも、突然発生したとしか言いようがないそうですの」

「考えるのは後にして、とりあえずどうするの?」



 まず決めることと言えば戦力分散か、このまま固まって倒していくかの二択だ。



「あいつら、別の種族同士は仲がよさそうには見えないっすね」

「だな。となると、下手に分断させずに戦った方がいいかもしれない。

 このまま全員固まって、一番手数が多そうで面倒そうなトゲトゲ野郎から倒していくのがいいか」

「まって下さい。あっちの半魚人たちには、《共鳴減退領域》というこちらの攻撃の弱体化を図るスキル持ちです。

 あっちから倒さないと、後に攻撃がしづらくなるかもしれません」

「《減退領域》って奴は前に黄金のイモムーが持ってたが、あれより強力だとしたら確かに厄介だ。皆、先にあいつらを全力で仕留めよう」

「おうさっ」「ピィイー」「ヒヒーン!」「わかったですの!」「はいっ」「了解っす」



 それぞれの掛け声と共に、互いに牽制し合って動かない魔物を置き去りにして、こちらからミイラのように痩せ細った半魚人に突撃していった。

 するとそれに気が付いた半魚人のうち三体は謎のウネウネダンスを踊り始め、残りの三体が銛を構えて前に出てきた。

 そうしてそれが戦闘開始の合図になったのか、他の三種の魔物も動き始めた。



「あっちは、俺と愛衣が牽制しておく。その間に半魚共を倒してくれ」

「私も牽制に回っていいですか?」



 いつの間にか赤茶の炎を纏った柄の長いハンマーで、床に炎のラインを引いていたリアがそう言ってきた。

 どの道あちらはカルディナたちで大丈夫だろうし、リアの力は足止めにも向いている。



「じゃあ、頼む。愛衣は飛び道具で距離を詰めさせないようにしてくれ。

  俺はレーザーを飛ばす!」

「あいよ!」「はい!」



 そうして竜郎は五十センチほどの赤い光球を十個造りだし空へ浮かべると、レーザーを放ちながら他の連中の足を止める。

 愛衣も軍荼利明王を起動して、そちらに宝石剣と鞭を持たせ、本人がやるよりは威力が劣る気力の斬撃と鞭の中距離攻撃で牽制し、自身は弓を持って残った手で弓矢の出力を上げて撃ち放つ。

 リアは赤茶の炎で引いた線にイメージを伝え、巨人がそこに足を乗せた瞬間に突起物を生やして転ばせた。


 そんな風に竜郎たちが奮闘している間にジャンヌは《真体化》し、先陣切って半魚人たちに突っ込んでいく。

 それに続くように同じく《真体化》したカルディナたちもついていき、おくれて竜郎たちも後ろからやってきていた。



「ギョギョッ」「ギョーー!」



 竜郎が聞いていたら「さかな君かっ」と突っ込みを入れそうな甲高い鳴き声で、怒声を上げて先頭のジャンヌに銛を投げてきた。

 しかしジャンヌの《超硬化外皮》の前に呆気なく弾かれて、あさっての方向に飛んでいく。

 すると二射目を放つためにと口に手を入れて体内から新しい銛を取り出し、その後ろにいる一番柔らかそうな奈々に照準を合わせて投げてきた。



「ヒヒーーーン!」

「「ギョギョオオオーーー!?」」



 しかしそれもジャンヌが左腕を伸ばして射線上を塞いで弾き飛ばすと、一気に前にいた二匹の半魚人の前に躍りだした。

 そして三匹を掬い上げるように右腕を振り上げ、その大きな爪でいっぺんに串刺しにし、二又の蛇に向かって死体を投げつけた。


 また、その間にカルディナたちは《共鳴減退領域》というスキルを行使している半魚人たちに急接近していた。

 ジャンヌはその巨体による力で押し切ったが、魔力体生物という特性のせいなのか、カルディナたちはどこか体が重く感じていた。

 だが、そんなものは関係ないとばかりに翼や足に力を込め、カルディナは空から落ちるように舞い降りて、縦一文字に《竜翼刃》で切り裂いた。


 奈々は呪魔法で自分を強化しながら、二本の手に持った竜牙でもって半魚人が踊りながら銛を振るってきたのをステップだけで器用に躱して後ろに回り込むと、両のこめかみに《かみつく》をお見舞いして止めをさした。

 最後にアテナは《竜装》の尻尾で巻きつけ締め上げると、右手に持った大鎌で首を切断した。

 こうして《共鳴減退領域》は完全になくなり、カルディナたちの倦怠感も消え去った。

 その頃になれば竜郎、愛衣、リアも無事にカルディナたちに追いついた。



「んじゃあ、次はあのトゲ野郎だね」

「それはいいんだが、なんか魔物同士でも戦い始めたな。

 このままいけば、上手く漁夫の利を得られるかもしれない」

「あっ、巨人が蛇の頭を一個潰しましたの!」

「そのお返しとばかりに蛇がもう一個の頭で巨人に噛みついてるっすけど、効いてなさそうっすね」

「いえ、あれ毒を体内に注入してるようですよ」



 竜郎たちが見ている向こう側で特撮映画バリの怪獣大戦争を三種の魔物が繰り広げだしたので、状況を的確に測るためにも観察していると、巨人の足辺り──先ほど大蛇が噛みついた辺りの肉が崩れ始め、遂には取れてしまった。



「あの毒はやばいな。カルディナ、解析したか?」

「ピュィーー!」



 勿論とばかりに頷いたカルディナはその情報を奈々に、どういう感じの毒なのか教えていく。



「それなら、わたくしの解毒魔法で何とか中和できそうですの。念のため、全員に付与しますの」



 噛みつかれるヘマをやらかす気は毛頭ないが、できるだけ安全策は講じておいた方がいい。

 そうこうしている間にも、愛衣にトゲ野郎と呼ばれていた魔物はその棘のような触手を伸ばして手負いの二種に襲い掛かり、まさに漁夫の利を狙おうとしていた。

 が、その棘が刺さることもいとわずに巨人が手を伸ばして毟るように豪快に掴むと、邪魔だとばかりに竜郎たちの方向へ投げてきた。



「──なっ。愛衣!」

「解ってる!」



 竜郎たちは半魚人のいた壁近くにいるので、これ以上は後退しづらい。なので愛衣に、気力の盾を展開してもらった。

 そして愛衣はインパクトの瞬間、盾の派生スキル《受け流し》によって軌道を上手く逸らして少し離れた場所へと落下させた。

 すると床にベシャッと嫌な音を立てて潰れ、それで死んだかと思いきや、トゲ野郎は何事も無かったかのように元の球体へと戻った。

 それから今度は近くにいた竜郎たちに、その硬く尖った触手を一斉に伸ばしてきた。



「アテナっ」

「わかったっす!」



 以心伝心とばかりに、竜郎はアテナと雷と光の混合魔法で棘触手に向かって直線に伸びていく白色の特大雷を撃ち放った。

 するとその雷撃は何本も伸びてきた触手を伝い、本体を感電させた。



「─────……」

「すごい効き目だね」

「ああ。カルディナと解析した時に、あの触手は電気伝導率が高い金属素材だったんだよ。動きを止めるどころか、丸焦げだな」



 そうして魔物を見れば、手加減無用の雷魔法を喰らったおかげで煙をあげながら体内を焼かれて焦げた臭いを周囲にまき散らしながら死んでいた。



「臭いに反応して、残った二匹の意識が向いてきましたよ!」

「先に来るのは蛇の方ですの」



 足が一本取れた巨人は動きが鈍く、逆に二つあるうちの一個の頭を潰されただけで、機動力自体は衰えていない大蛇の魔物がこちらに向かって猛スピードで迫ってきていた。

 そしてこちらに着く前に体を後ろにしならせ上を向くと、毒液を放射してきた。



「げっ、ジャンヌ!」

「ヒヒーーン!」



 今度はジャンヌと共に、竜郎は風魔法で突風を起こして毒液を逆方向へと弾き飛ばした。

 そしてそのまま、カルディナとアテナが魔弾と雷の混合魔法で蛇の頭を撃ち抜いた。



「やったか」

「たつろー。それもフラグだってば…」

「あ…」



 残った頭を吹き飛ばされたにもかかわらず、ミミズのようになった大蛇が起き上がり、そのままの状態で再び行軍を開始しだしたのであった。

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