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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第一章 森からの脱出編
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第18話 二対一

「うそ……だろ…………」



 竜郎が愛衣の方を見たのは、ちょうど熊の腹を拳で突き破って全身に血を浴びたときだった。

 自分の最高火力に近い魔法でも破れなかった皮膚を、拳で破ったのに驚愕を隠せないでいる。

 黄金水晶の熊もビビッて一歩後ろに下がっていた。



「こえーうちの彼女こえー」



 化け物と思っていた熊を下がらせるって…。そんなことを考えながら、彼女を怒らせないように生きていこうと竜郎は心に決めた。



「って、そんな場合じゃない。俺も行かなきゃ」



 しかし、あれ相手に有効な火力を竜郎は持ち合わせていない。今のままでは、精々が嫌がらせレベルである。

 このまま下手に攻撃して、こちらに集中されると愛衣の足手まといになりかねない。

 そこで竜郎は自分のSPを確認する。そこには熊二匹から摘み食いした分とレベルアップ分、あわせて(320)とSPが大量にあった。



「取るしかないな」



 ここで求めるのはともかく火力。それも付け焼刃ではなく、使い慣れたものがいい。

 そうなってくると、竜郎の選択肢は決められているようなものだった。



「火と光──か」



 そう言って、システムを起動しスキル欄を確認する。そして両スキルをLv.10にまで一気に押し上げた。



《称号『光を修めし者』を取得しました。》

《称号『火を修めし者』を取得しました。》



「称号? いや、今はいい」



 竜郎はかぶりを振ると、Lv.10の光魔法と火魔法の感触を探る。



「よし、これならいける───はずっ」



 そして竜郎は愛衣と合流すべく、走り出した。




 一方愛衣はと言うと、あれだけ果敢に攻めてきたボス熊が、まるでこちらを観察するように距離を取って周りをグルグルしだしたのだ。

 正直さっきの熊を倒すのに気力を一気に消費したせいか、若干の体の怠さがあるので、ありがたいと言えばありがたいなのだが、愛衣にはどこか不気味にも映った。

 だが、愛衣は今のうちに気力を体にまとい直していく。

 すると怠さも薄れて、いつでも動けるようになった。さて、どうしたものかと考えていると、竜郎がこちらに向かってくるのが見えた。



(よかった。ちゃんと倒してきてくれたんだね)



 それだけで、愛衣の闘志が再び燃焼を開始する。

 それを察したのか熊の方も足を止め、今までとはまた違う雰囲気に変化した。

 この黄金水晶の熊は、これまでどうせ倒せるという考えで相対していた。しかし、先の力の暴力をみて、驕りを捨て、死力を以ってかかるべき敵だと認識したのだ。

 


「グウウウゥ────ガアアアッ」



 先に仕掛けてきたのは熊の方だった。三メートルはあった距離を、純粋な膂力だけで一瞬で詰め、その巨大な口で愛衣の頭を噛み千切ろうとする。

 しかし愛衣はこれを紙一重で後ろに下がりなんとか躱すも、生臭い息と涎がかかった。

 それに嫌悪するより前に、愛衣の膝蹴りが顎を打ち抜こうとするも、顔を横にずらされ躱された。

 それにもめげず曲げた足を伸ばすように追撃するも、バックステップでこれも躱された。



「なにこいつ……さっきと別熊じゃないの……」

「グッフゥ」



 愛衣の驚きの表情に満足そうに口元を歪めると、身を縮め足に力を溜めこむ。愛衣は嫌な予感がよぎり全力で横に飛んだ。それに一瞬遅れてボガンッという音が響いた。



「なんて馬鹿力……」



 他からしたらお前が言うなと言うところだが、愛衣のいた場所に《突進》しただけで大地に大穴を開けたのだから、それも無理からぬことだった。

 あれでは掠っただけでも重傷で済めばいい方だろう。


 そこで、いよいよ一人ではマズイな、と愛衣が思い始めていると、上空にフワフワとバスケットボールサイズの赤い光の玉が、計八個飛んでくるのが見えた。それに熊も気付いたのか、警戒した顔で睨み、《爪襲撃》を放とうとするができず、ただくうを爪で切っただけに終わる。



「グルウ」


 

 それにわけがわからないと言いたげに唸ると、一旦無視して愛衣に専念することに決め、熊はまた攻撃範囲の広い《突進》をかまそうと足に力を込めた───その時だった。



「ギャッ!?」



 熊自身も聞いたことのない自分の悲鳴に驚き、その原因となった左の後ろ足を見ると、ほんの数センチだけだが穴が空いており、そこから血が噴きだしていた。

 いったいなんだと周りを見れば、いつの間にか頭上に赤い光球が自身の周囲を取り囲んでいた。


 その光景を見ていた愛衣も驚いていた。熊が《突進》の体勢を取ったと思った瞬間、熊の左足の近くに一瞬で八個の赤い光球が集まり巨大化すると、そこからレーザー光線を射出し、また八個の赤い光球に戻って上に上がっていったのだ。



「これやってるの、たつろーだよね。ふふっ──これで二対一だよ、さっきと逆だね」



 その愛衣の言葉に呼応するように、赤い光球は八方向に散らばり、その一つ一つから出力の弱いレーザーを、水晶の生えていない所を狙って撃ってくる。

 それ自体にダメージはほぼ無いが、熊からしたら煩わしいことこの上なかった。人間の感覚で例えるなら、ずっと体のあちこちに強めのデコピンをされているくらいの煩わしさと考えていい。

 だからこそ、そちらに気を取られている間に近付く愛衣に気付くのが遅れる。



「ふっ」

「グッ」



 愛衣の蹴りが顎先を掠める。さっきまで躱せていただけに肉体より精神的なダメージが蓄積された。

 だが、それにも負けじと熊は手を上げ爪を愛衣に向ける。しかしそうすると、赤い光球が一瞬で全て集まり強力なレーザーを腕に当ててきた。



「グガッ!?」



 痛みで二撃目の逆手の攻撃も放てずに、また愛衣に距離を置かれてしまう。



「グアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーー」



 思い通りにいかず、怒りに任せ吠える熊。そして、思い通りに事が運んでいる竜郎は、さらに赤い光球を動かしていく。今度は嫌がらせの弱レーザーに、傷口を狙う四つ集めて撃つ中威力レーザーを混ぜ込んでさらに攪乱していく。愛衣はそれに乗っかり、隙ができればヒットアンドアウェイを繰り返した。


 しかし、全集結で放つ高威力レーザーでつけられた傷を、散々中威力レーザーで穿ほじくり返され、熊も対策してくるようになった。

 光が集まる挙動を見せたとき、その直線上から退避するか、水晶で受けて無力化するのだ。けれど、竜郎は喜んだ。そうすれば避けられると思ってくれたことに。


 実はこの魔法にはまだ秘密があった。高威力レーザーを打ち込んだ場所には、魔力でマーカーを付けていて、その場所だけなら目を閉じても竜郎は狙うことができる。そして、それを利用したとっておきを竜郎は用意していた。


 竜郎はある程度弱レーザーで牽制し、熊が躱しやすいタイミングで全部の赤い光球を集めた。

 当然熊は半ば刷り込み現象のように、直線上から体をずらして当たらない場所に移動し、それで安心して赤い光球から目を離して愛衣を見た。

 それは何度もやって、大丈夫だと記憶していたからこその行動だった。


 しかし、それが仇となる。竜郎は高威力レーザーよりさらに上、赤い光球を維持するための魔力も全てつぎ込んで、一度だけ撃てる超高威力レーザーを撃ち放つ。

 そのレーザーは、最初にマーカーを付けた左の後ろ足の傷に、吸い込まれるように誘導され、曲線を描いて向かっていった。



「ッ────────」



 そのレーザーは左後ろ足の傷の中に綺麗に潜り込み、その足の肉と共にはじけ飛んだ。そしてまだ熊の悲劇は続く。

 レーザーの衝撃で骨にヒビが入り、その巨体を支えるためにかけていた重さによってへし折れた。

 その初めて味わうあまりの激痛に声すら上げられず、左肩を下に横に倒れこんだ。

 しかし、意地でも倒れるべきではなかったと、熊は後悔した。

 何故なら愛衣があの青水晶の熊を倒した技を、今まさに同じ箇所に向かって放とうとしているのだから。



「りゃああああああああーーーーーーーー」


 

 膨大な気力を宿した拳が、気合一閃斜め上から振り下ろされた。



「ゴボッ」



 地面にクレーターを作るほどの衝撃を受け、熊はろっ骨を折られ内臓を損傷し血を吐いた。だが、腹部に穴は開いておらず死にはしなかった。さすが、青水晶の熊を率いていただけはあると言える頑丈さだった。


 愛衣は仕留めきれなかったことに驚き一瞬だが、追撃の手が遅れる。それを熊は見逃さず、右手の爪を愛衣に振り下ろした。



「愛衣っ」

「────っとと、大丈夫だよ、たつろー」



 心配のあまり思わず声をあげ、熊に位置をばらしてしまった竜郎の横には、案外余裕そうにしている愛衣が立っていた。

 それに安堵した竜郎は腹這いの状態から立ち上がり、土魔法を使って体中に纏った砂利や土を、払い落とした。


 実は竜郎は意外と近くで赤い光球を操っていた。あの合流すべく走り出したすぐ後に、このまま行くより身を隠して行った方が有利になるのではと思い直すと、ある程度近づいた後、土魔法でカメレオンのように地面と同じ色に偽装し、匍匐ほふく前進でここまでやってきたのだ。

 それは見事に成功し、今の今まで熊にばれることなくやり過ごしていた。



「あれならいけると思ったんだけどなぁ」

「そのアレってあと何回撃てる?」

「あと一回が限度かな」

「あと一回じゃ決め損なう可能性が高いな……」

「たつろーのあの最後のすごい奴は?」

「こっちもあと一回くらいしかできないな。けど、あれでも決め手に欠ける」



 Lv.10でできる最大の威力で、光と火の混合魔法を放てば倒すことも可能であるが、それをするには竜郎の今のレベルの魔力量、魔法制御力では実現不可能であった。



「んーでも今なら逃げられそうじゃない?」

「まあ、そうなんだが」



 そう言う二人の前には、ボロボロになりながらも三本の手足で立ち上がろうとする、黄金の水晶を生やした巨大熊の姿があった。



「でもここでとどめをささないと、あいつはまた復活しそうだ。

 そうなると今度は人間に恨みを持って、積極的に人を襲うようになるかもしれない。

 それで誰かが死んだら後味悪いだろ」

「言いたいことは解るよ? でも今の私たちがそれをするには、あと一歩足りないんだからしょうがなくない?」

「んーそうだよなぁ。あと一歩、あと一歩なんだけど…」

「二人分の力を一人分に合体できればよかったのにね」

「二人分の力を一人分に合体ねぇ…? それいけるんじゃないか!?」



 愛衣のその何気ない一言に、竜郎は一つの可能性を感じたのだった。

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