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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五章 呪われた少女編

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第186話 破壊の限りを

 リアは初めて取得した称号の名にショックを受けているようだが、奈々がフォローに回って持ち直した。

 そうしたところで、残った報酬の受け渡しと相成った。



「勝ったら景品が三つ貰えるんだよね? てゆーと、また抽選でもして宝箱が出てくるの?」

〔いえ、違いますよー。三つの景品は、何を渡すか初めから決まってまーす〕

「それではいったい、何をくれるんですの?」

〔それはですねー。こちらでーす!〕



 ダンジョンの明るい声と共に、スカイブルーの床石から特等の時と同じ白金に宝石が散りばめられた箱が現れた。

 それに竜郎が代表して近づいて蓋を開ければ、中には週刊誌ほどの大きさの四角く茶色い布袋の口を、黄色の紐で縛った物。

 硬いゴムのような素材で直径十センチ弱の太い管で、片側の先端部にニ十センチ四方の四角い箱にダイヤルが付いた物。

 円形の薄い台座に高さニ十センチ程の白い筒を挿し、白色の三角フラッグを取り付けた物の三つが入っていた。



「なんか、玩具みたいなモノばっかだね」

「全部用途が不明すぎる。何だこれ」

「説明書を見てみるですの!」



 以前の時同様、こちらにも三枚の丸められた羊皮紙のようなものが入っていたので、一枚は竜郎が、二枚目は愛衣が、三枚目は奈々が読み始めた。

 そしてリアは、空色の目で構造を観ていた。

 アテナは興味がないのか《幼体化》して小虎になり、カルディナとジャンヌに遊んでもらっていた。

 


「この布袋、帰還石を一日二つ生成して吐き出してくれるみたいだな。

 毎度毎度ダンジョンを出る用もないし、もういくつか持ってるから要らんといえば要らんが…」

「たつろー、これ火と水が出せる道具みたい。お湯も出るよ」

「おっ、ちょっと便利かもな。俺が一々火とか出さなくても良くなるだろうし」



 愛衣はいいのだが、リアは水やお湯、火が必要になる度に何度も竜郎に頼みに行くのを居心地悪そうにしていたのを知っているので、これはそこそこ嬉しかった。



「こっちの旗は固定された物体に立てると、認識阻害がかかるようですの」

「というと?」



 今一理解しきれなかったので竜郎が詳しく奈々に聞こうとすると、より深く理解したリアが代わりに説明してくれた。



「テントや箱など、動かない状態で置いてある物体にその旗を立てて起動すると、それが外から見えなくなるようですね」

「てことは、より安全に野営ができるようになるってことか。

 移動してる物体には適用されないっていうのは、少し残念ではあるが」



 とそこで竜郎は、一つ気になることがでてきた。



「それって、動力は何なんだ? 魔法液とかいうのは、それほど持っていないんだが」

「この水とか火が出るやつは、帰還石をこの──よいしょっと。

 ここの、ソケットに嵌めれば使えるみたいだよ?」

「この認識阻害の旗も──んしょ。ここに帰還石を入れれば使えるようですの」



 愛衣は管についていた四角い箱の表面をパカッとはずすと、帰還石を嵌めこめるソケットが二つ存在していた。

 また奈々は、フラッグの付いた筒を台座からキュポンッと抜くと、その筒の中に帰還石を直列に三つ入れればいいようである。



「電池みたいだな。帰還石ってのは」

「私もそう思った。これがあるなら、魔法液なんていらなくない?」

「いえ、帰還石を動力にして使う方法が確立されていませんし、そもそもこのようにエネルギー資源として使えるなど初めて知りました。

 それに、魔石ほど簡単に手に入れられるものではないでしょうし」

「魔石はダンジョンの魔物を倒せば必ず手に入るが、帰還石なんてここに来るまで見たこともなかったしなあ。

 でも、この袋があれば一日二個は確実に手に入れられると」

〔ええ、ええ。なかなかの便利グッズですよねー。

 ダンジョン探索セット! と、私は名付けているんですよー〕

「確かに火魔法か水魔法のどちらかが使えないようなパーティだと、こういうのがいるだろうし、認識阻害は不必要な戦闘を回避できるかもしれない。

 そしてその動力は、謎の便利袋が毎日コツコツ生成してくれると。まあ、便利と言えば便利だな」



 とりあえず帰還石生成袋を竜郎の《無限アイテムフィールド》に放りこんで、時間を超加速しておいた。ここでの時間加速で、一日二個の制限を突破できないかと考えたからだ。

 そして他の二つは手持ちの帰還石を一個残して他全てと共に、今もまだ興味深げに見ていたリアに渡しておいた。

 リアはそれに礼を言って紙とペンを取り出し、何やらメモに夢中になっていた。



「これでもう、全部終わりですの?」

〔はい。もうここでのイベントは、オールクリアーでーす!〕



 さすがにこれ以上は無いかと安心したところで、竜郎はすっかり忘れていた先ほどの称号のことを思いだした。

 なので他のことに夢中な者以外の竜郎、愛衣、奈々の三人で確認してみることにした。



 --------------------------------------

 称号名:すごーい!

 レアリティ:18

 効果:全ステータス+100。

    任意でのステータス値振り分け100。(※何度でも変更可)

    レベルアップ時、スキルポイント+1。

    ※称号:負け犬の効果とは重複しない。

 --------------------------------------



「まじでか……」

「こんなヘンテコな称号名なのに、全ステ100って大盤振る舞いだねぇ」

「任意でステータスに100、好きに振り分けられて、レベルアップの度にSPも余分に1貰える。

 ホントにさっきのゲームに勝っただけで、コレっていいんですの?」

〔勝っただけと簡単に言いますけどー。その勝つことが普通は難しいんですよー?

 あなた方だって私の知らない手段や、色んな小細工が用いられる環境がなければ、勝てたとは思えませんしー〕

「だな。もう一戦したら、勝てる気が全くしない」

〔そういうことですー。それに今回こちらは完全魔法特化型のバージョンでいったので、探査も移動もできない状態だったというのも勝因の一つでしょうしー〕



 その話によれば、あの仮想ボディ以外にも物理戦闘特化、スピード特化など、他にも様々なバージョンがあったらしい。

 なるほどそれは運もあったのだなと、竜郎はとりあえず納得しておいた。



「それじゃあ、任意の振り分け値については各々自由に決めてもらうとしてだ。

 時に、ダンジョン君。ここは全てのイベントが終わっても、魔物は来たりしないのかね?」

くん? そうですねー。ここは決闘の場というのもありますが、ダンジョンとはある意味切り離された特殊空間でもありますしー〕

「ふむふむ。時に、ダンジョン君。ここの教会に使われている石材のような素材は、家とかに使うのには良いと思うかね?」

〔えーと……。さっきから妙な言い回しが気になりますが、答えはイエスですねー。

 耐熱、耐寒、耐魔法素材で耐久性もありますしー。まーあなた方はポンポン壊してましたけどー〕

「ほうほう。時に、ダンジョン君。これ、壊してもすぐ直せるんだよな?」

〔ええ、直せますがー?〕

「ぶっ壊して素材回収しちゃダメ?」

〔いーですよー〕

「いいんだ!?」「いいんですのっ!?」



 愛衣は竜郎が何を考えているのか解ったうえで黙って聞いていたのだが、あっさりとダンジョンが施設破壊を許容してくれたことに、奈々と共に声を上げて驚いていた。

 だが、ダンジョンにはそれを許してもいい理由があるそうだ。



〔ええ、いいんですー。そうでなくても、ここのダンジョンは人気が無くなってしまったのか、昔に比べてなかなか人が来てくれませんからねー。

 エネルギーが有り余ってしょうがないんですよー。

 ただ素材を渡すということはダンジョン規約によりさすがにできませんがー、御自分たちで壁や天井を壊して持っていってくれるのは大歓迎ですー! エネルギー消費ばんざーい、ですー〕

「エネルギーが有り余ると、どうにかなるのか?」

〔エネルギーが飽和すると、やがてダンジョンのレベルが上がってしまうんですよー。

 レベルが上がれば管理する階層も増えますし、ボスも新しい子を産まないといけない上に、他の層の魔物たちや仕掛けなんかもレベルに合わせて調整し直さないといけませんし面倒なんですよー。

 だからここに限らず、じゃんじゃん壊して、じゃんじゃん魔物を倒して、じゃんじゃん施設内の物を持っていってくださいねー〕



 ここのダンジョンにとっては、挑戦者の破壊行為はむしろ喜ばしいことであったようだ。

 それなら遠慮はいらないなと竜郎がどこをまず壊そうか見ていると、愛衣がふと気になることを思い出した。



「まあ、そういうことならいいのかな。

 でもさ、人気が無いって言うか、そもそもここのダンジョンって、人の出入りが国か何かに制限されてたよね?」

「そのとーりですの、おかーさま。だから、人気が無くなったというわけではない気がしますの」

「だよな。一攫千金夢見て、多少無謀でも行ってみようと考える奴なんていくらでもいそうだし」



 などと竜郎たちが何気なく言っていたのだが、ダンジョンはここ数十年間悩み続けていたことへの答えを聞いて衝撃を受けていた。



〔なん…です……と…………。制限? このダンジョンにですか?〕

「うん、危ないから入っちゃダメーって、このダンジョンの入り口周りにデッカイ壁を作って、兵隊さんが入れないようにず~~~っと見張ってるみたいだよ」

〔な〕

「「「な?」」」

〔なんてことするんですかあああああああああーーーーーーーーーーー!!!!〕



 突然の絶叫に竜郎や愛衣、奈々だけでなく、他の事に夢中だった他のメンバーもこちらに振り向いて何事かと目を丸くしていた。



「いや、なんてことをと言われても、俺たちがそうなるようにしたわけじゃないしなあ」

「というか、自分のことなのに知らなかったんだね」

〔ししし知りませんよーーー! 基本ダンジョンの中以外のことは知らないんですからー。

 それに挑戦者が減ったせいか、ここに来られた人も数十年くらい誰もいませんでしたしー。

 解るわけないですー。憤慨です! 営業妨害です! 報酬でも何でも差し上げますから、壁をぶち壊して、それを命令している組織を破壊&抹殺してくださーーーい!〕

「抹殺て…、んなことできるかい」

〔そんなあー。それじゃあ、人間はもうダンジョンにはほとんど入らないのですかー?〕



 先ほどまで怒り心頭といった様子であったのに、ダンジョンは急にしょぼくれた声音になってしまった。



「そんなことないですの。レベル3のダンジョンは、とっても盛況でしたの」

〔レベル3の、ひよっこダンジョンにすら劣ってしまっているのですね……。

 なんてむごい人たちなんでしょう。挑みたい者が挑み、命を賭けて欲望を満たす。

 それがダンジョンというものですのに…はあぁ……嘆かわしいですー〕



 なんだかダークサイドにそのまま落ちていってしまいそうだったので、できるだけ明るくフォローしておくことにした。



「ま、まあ。壁を壊して、ダンジョン入りを制限している人らを殺すことはできないが、こことか盛大に壊すからさ。元気出せって」

「そうだよ。壊していいって言うなら、もうとことん破壊の限りを尽くすよ!」

〔お二人とも……。ううぅ、ありがとーございますうううぅぅー〕

「傍から聞いたら、おかしな会話ですの」



 と、こんなことがありながら、さっそくまだ具体案すら決まってはいないので、仮定として持ち運び用の立派で頑丈な家と、小さなスペースで使える小規模な休憩ルームをイメージし、それらを造るため竜郎たちは皆で壊して壊して壊しまくっていく。

 強大な魔法で壊しては建材にする前に木端微塵に散ってしまうので、竜郎はレーザーを高出力で行使して壁を焼き切っていく。

 愛衣は軍荼利明王を使って、自分の手も合わせて計十本の手で床、壁、天井ありとあらゆる場所を殴り、蹴り、切り、射撃し教会を解体する勢いで破壊していく。

 カルディナは天井を《真体化》して《竜翼刃》で切り裂いて、下にいる人には当たらないように探査しながら落としていく。

 ジャンヌは豪快に《真体化》して暴れ回って、その大きな体で四方八方を殴って壊す。

 奈々は呪魔法で筋力を向上させ、自由に振り分けできるステータス値100も、さっそく筋力に振り分け、竜牙に竜力を通して《真体化》状態で壁を壊していく。

 アテナは床石を重点的に破壊していき、リアは竜郎から受け取った建材のサンプルを調べて、どの材料をどう使うかを見極めていった。


 そして破壊の限りをつくせば、竜郎の《無限アイテムフィールド》に取り込んで修復し、を繰り返して大量の建材を入手した。



「取りあえず、このくらいあればいいか」

〔おー。久々にたくさんエネルギーを使えましたー。ありがとうございますー〕



 壊して資材を入手して、お礼を言われる状況に、不思議な感覚を味わっていると、ダンジョンが言葉を継いできた。



〔これで、そちらにもここに用は無くなってしまいましたねー。

 今日、ダンジョン攻略に戻るんですかー?〕

「え? ここで家を造ってから行くから、もうしばらくここにいると思う。材料が足りなくなったら困るし」

〔ああ、そうなんですね。ですけど別の挑戦者のグループが来てしまったら、お帰りくださいねー。

 それまでは、好きにしててもいいですからー……。

 まあ、いないでしょうけどねー…。まったく、人間は余計なことを───〕



 などと一人で愚痴り始めたので、竜郎はそれをスルーして、皆で集まって家の建築について話し始めたのであった。

次回、第187話は3月8日(水)更新です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 奈々は呪魔法で筋力を向上させ、自由に振り分けできるステータス値100も、さっそく筋力に振り分け、竜牙に竜力を通して《真体化》状態で壁を壊していく。 魔力に、振り分けたのではなく? この話…
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