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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五章 呪われた少女編
186/634

第185話 最後の一手と種明かし

 カルディナたちは強制送還され、今は竜郎と愛衣の二人しかいない。

 だがダンジョンはダンジョンで、残りの持ち点はたった3しかない。

 けれど、ダンジョンは既に勝利を確信していた。

 今までは七人同時に意識を分散させながらの戦いだというのに、この制限された体では探査魔法や《危機感知》などは一切持ち合わせておらず、目視以外に敵の行動を知る術は無かった。

 だが、二人だけなら両の目二つで事足りる。

 闇魔法による視覚遮断は今のダンジョンにとっては厄介だが、これだけ人数が減ればもうそんなことをさせる余裕すら与えるつもりは無い。

 だからダンジョンは決して二人から目を離さないように、ジッと見つめ水のカッターを放とうとした。


 だが、竜郎たちもそんなことは察していた。だからこそ、この状況で視覚遮断という小細工に頼るつもりは毛頭ない。



「愛衣っ!」「たつろー!」

「!?」



 なので竜郎たちは全身全霊、気力消費も魔力消費も度外視の全力攻撃。

 竜郎は光と火の混合魔法による一番なれたレーザー攻撃、ただ今回は魔力消費度外視なので、巨大な球体四つからなる極太レーザー四本。


 愛衣は自分の両手で握った宝石剣を高速で何度も振りぬいて気力の斬撃をお見舞いし、軍荼利明王には手の平から長く伸ばした気力の槍と鞭による中距離攻撃をさせた。


 この二人の一点集中による連続全力攻撃に、盾一枚では心もとない。

 なのでダンジョンは、二枚張る。そうすると、この体のダンジョンにはウォータカッターを放つことはできなかった。

 だがこれは、こんな無茶な攻撃なら直ぐに力尽きてしまうと解っていたからでもある。

 ダンジョンは力尽きたその後で、ゆっくりと攻撃すればいい。

 そんな考えのもと、ダンジョンは全力で守りに入り一分の隙もない状態にすることで、もう万が一にもポイントを減らすような穴を無くした。



「愛衣、あれ来てたか?」

「うん、ちゃんと届いてたよ。もう使っても大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ。予定通り相手は守りに入ってくれた。なら後は、より派手にいくだけだ!」

「うん!」

「──それは!? なんで貴女がっ! ぐっ」



 愛衣は軍荼利明王から気力の槍と、持たせていた鞭を《アイテムボックス》にしまって奪い取ると、そこに天装の槍ユスティーナを持たせ、全力で自分から気力を吸わせて雷鳴轟く嵐をダンジョンに向かって放った。

 ジャンヌが強制送還される時に、危険な武器だからと目視でしっかりと一緒に消え去ったのを確認したはずだった。

 であるのに今また愛衣がそれを使って、余裕のあった二枚の水盾が、本気で集中しなければ破壊しつくされるほどの威力を持って襲い掛かってきていた。



(ありえないっ。この威力からして偽物じゃないし、前に送還された物もまごうことなく本物だった。

 実は二本あった? ──いえ、そんなはず。まったく同じ天装が、この世にあるわけない。では、いったいなんでっ)



 混乱の坩堝に追いやられたダンジョンの視線は、二人に釘付けになっていた。

 そんな中、愛衣の気力をグングン吸い取り、ユスティーナは自分を最大限まで使いこなした亡き主を思い出したかのようにジャンヌにも、その前に持っていた魔物にも出せなかった領域まで力を解放していく。

 それに加え竜郎のレーザー、愛衣の気力の斬撃もあり、向こうの盾は限界一歩手前まで追い詰められていた。


 だが同時に、それが今の限界であった。

 そしてもう十秒も、こんな無茶な力の使い方では続けてはいられないだろう。

 だからこそ、ダンジョンはこの防衛線だけを崩さぬように必死で目の前の二人に集中していた。

 けれどそれが、結果的にダンジョンの敗因だった。



『さん』

『にー』

『『いちっ!』』

「─────っ!???」



 竜郎たちの魔力と気力が完全に枯渇するより若干早く、水の盾を一切展開していないダンジョンの真後ろから、強大な力を持った気魔混合の拳がゆっくりと這いより背中を打ち抜いた。

 そしてその瞬間、驚きや戸惑いあらゆる感情をないまぜにしながら思わず盾の制御をないがしろにして振り向いた。

 すると防衛線も決壊し、竜郎と愛衣の攻撃が真正面から直撃して、気魔混合の拳と挟撃状態になってしまった。

 そうして残り3ポイントを全て失い、ダンジョンは消え去ったのだった。



「勝ったか…」

「もーつかれたー…」



 二人は手に持った武器から手を離して、お互い寄りかかるように座り込んだ。

 すると、竜郎と愛衣の体が薄れ始めた。



「これで、俺達も元の体に戻れるな」

「うん。最初に比べてほとんど違和感はなくなったけど、自分の体って感じは最後までしなかったから、ちょっと気持ち悪かったんだよねー」

「そう──」



 だな。と竜郎が言う前に、二人の仮想の体も完全にこの場から消え去ったのだった。


 竜郎が目を覚ますと、リクライニングシートの柔らかな感触と共に、隣のシートで向き合うようにして寝ていた愛衣と目が合った。



「「おかえり」」

「「ただいま」」



 微笑みながらお互いがお互いに挨拶し、寝る前に繋いでいた竜郎の右手と愛衣の左手をぎゅっと握ってから、シートを体ごと起こした。

 ちなみに他のメンバーはとっくにリクライニングシートから降りて、その一部始終を見ていたが、別に見られていたところでどうということもないと開き直った二人は、手を繋いだまま立ち上がった。

 すると生身から発せられる声ではなく、機械を通したような不満げたっぷりの女性の声がこの場全員の耳に届いてきた。



〔とりあえずー、みなさんのー勝利なんでーオメデトーゴザイマース〕

「不服そうだな」

〔そりゃそうですよー。最後まで何が何だか解らずやられちゃいましたしー、どんなズルしたんですかー〕

「ズルなんかしてませんよーだ」

「そうですの。わたくしたちができる範囲で、精一杯知恵を尽くした結果ですの」

〔知恵ですかー。それじゃあ、無知なわたくしめにも解るように、ぜひご教授してくれませんかねー〕



 どこか拗ねたようなめんどくさい絡み方をしてきたので、もう挑む理由もないので全部説明してしまおうかとも思ったが、それは一旦やめておいた。



「説明するのはいいが、只と言うのもあれじゃないか。だから何か面白い物をおくれ」

〔おのれー、ごーよくなーニンゲンめー。足元をみおってからにー〕

「いや、そう言うのいいから」

〔えー、おーいなる存在の威厳を見せておこうと思ったのですがー。あまり面白くなかったようですねー。

 ん~面白い物……ああ、《施錠魔法》のスキルカードとかどうですかー?〕

「施錠魔法っていうと、鍵をかけるってことか?」

〔そうですよー。魔法的に鍵をかけるスキルですー。具体的に言うとですねー〕



 施錠魔法は閉じた空間の入り口を魔法で施錠し、マスターキーである自分自身か、スキル使用者が魔法で造った鍵を渡した者だけが、その錠を開けられるという魔法らしい。

 ただし無属性魔法なので、解魔法使いには破られてしまう可能性がある。

 なのでより複雑にイメージして、どう解きにくくするのかが、この魔法を使ううえでのコツらしい。



「へーなんか面白そうだね」

「じゃあそれでいいや」

〔はいはーい。どぞどぞー〕



 竜郎が愛衣の一言で即決すると、床からカルディナの時と同様の無色透明のスキルカードが裸のままニョキッと生えてきた。

 それを竜郎は拾うと、皆に相談したうえで自分にインストールした。

 そうして竜郎は新たに《施錠魔法》を覚えたところで、今回のゲームのネタばらしに移っていった。



「それじゃあ、まずは何が知りたいんだ?」

〔そーですねー。せっかくなので、最初から〕

「解った」



 そうして竜郎は、ダンジョンに今回の作戦の全貌を話し始めた。


 まず竜郎は一つ目に、ダンジョンがしきりにキョロキョロしていることから探査系の能力が皆無であるのではと考えた。

 そしてさらに、ちょっと動けば回避できたであろう攻撃に対しても、移動しないで防ごうとしていた。そしてその結果、魔弾でポイントを2つも削られたのだ。

 なのでこのことから動けない、もしくは移動速度が極端に遅いのだと推測した。


 また二つ目はこのゲームの仕様上、ポイント保持者に攻撃が当たった瞬間その魔法は消えてしまうことも、ダンジョンに当たった魔弾が想定以下の爆発で消えてしまったことを探査魔法で確認して確信した。


 そして三つ目に、盾を両手で二枚出している時は一度も水のカッターを撃ってこなかったことから、水のカッターと水の盾、これを片手で両方出すことが出きないのではないかと考えた。

 これらの情報から、竜郎は今回の作戦を組み立てていった。


 まずその情報を共有し作戦内容を告げるために、戦闘中にメモを書いて《無限アイテムフィールド》経由で離れているカルディナたちに手紙を送信した。

 そしてその作戦はある意味自爆覚悟の特攻攻撃なので、最後の一文にこう付け足した。


 嫌なら断ってほしい。その場合は、このメモを破くなり丸めるなりして送り返してくれ、別の方法を考える。


 と。しかしメモはそのまま返ってきたので、皆は妙な称号を刻まれないためにも、より勝てそうなその案に乗ったのだった。


 まずアテナは豪運の指輪を使用したうえで、《乾坤一擲》を発動し何かしらを強化。

 そしてその強化したステータスを使って、相手が愛衣以外壊せないと思っている盾を破壊して一撃を加え、その背に乗った奈々とリアに攻撃をしてもらう。

 というものだが、これはゲームの仕様上怪我をしない、痛くないということが約束されていたからこそできた方法で、本来竜装の鎧は雷属性にアテナが変換しているので、そんな鎧に背負われたら感電してしまうだろう。


 だが竜力路に乗っていくには同じ竜力と属性のモノでないとレールを使えないという特性と、鎧によって突貫力を増すために一瞬だけはそうする必要があった。

 なので、リアと奈々はポイントを犠牲にすることでそれをクリアした。

 だからダンジョンの前にたどり着いた時、既に二人のポイントは1しか残っていなかったのだ。


 そしてリアは今回は完全に囮で、ポイントを持っている者に当たった魔法は貫通せずに消えることは確認済み。

 なのでアテナの真後ろにいても生き残り、さらに声を上げて奈々の隠れ蓑になってもらうことで《かみつく》の挟撃二撃を綺麗に当てることができた。

《万象解識眼》が使えたらまた違ったのだろうが、今回はこんな役目を負わせてしまう以外に竜郎では考え付かなかった。


 そして次にカルディナの土人形だが、アレは竜郎が最後の仕込みをする前にパパッと造る。

 こちらも《無限アイテムフィールド》経由で、カルディナの《アイテムボックス》に送っておいたもの。

 これを《アイテムボックス》から出して空からカルディナが投下して、それに気を取られた隙に本物の本体が攻撃した。


 そしてユスティーナを愛衣が《アイテムボックス》経由でジャンヌに送信しておいたので、ジャンヌは高い防御性能と風魔法、ユスティーナの雷嵐を全て行使して無理やり攻撃してもらう。

 そうすることで、ダンジョンにユスティーナはジャンヌが持っていたと印象付けた。

 そうして無事ポイントを奪って強制送還されたジャンヌは、自分の《アイテムボックス》に強制収容されていたユスティーナを愛衣の《アイテムボックス》へと送信。

 こうすることで、ジャンヌと共に消えたユスティーナを愛衣がまた使えたというわけである。



〔その《アイテムボックス》経由での送信って、そんなこと本当にできるんですか? 聞いたことないんですけどー〕

「ダンジョンっていう存在なら知っているかもとは思ったんだが、やっぱり知らなかったんだな」

〔ダンジョンとは自分の小さな世界を持った存在とも言えますが、基本自分が体験したことしか知りえないですからねー〕



 説明しても半信半疑な様子なので、ユスティーナを使って実際に《アイテムボックス》経由での物の送信ができることを実演した後、最後の種明かしに入る。


 実は竜郎と愛衣はダンジョンに闇魔法で視覚遮断をした時から、行動を開始していた。

 まず愛衣に体を運んで貰っている間にパパッと闇魔法を内包したカルディナ人形を作って、それをカルディナの《アイテムボックス》へ送信した後。

 ダンジョンの周囲に、闇魔法の視覚遮断が生きている間に後ろへと回った。


 そして皆がポイントを削りダンジョンの意識を持っていってくれている間に、自分たちは気魔混合による強大な力を持った拳を作り上げた。

 しかしそのまま撃ったのでは、もしかしたら防がれてしまうかもしれない。なので多少威力は落としてでも、少しイメージを変えることにする。


 それは勢いよく射出するのではなく、轟音を上げることもなく。ゆっくりと忍び寄るように、静かに移動するように創造した。

 最初の頃の二人では、そんな器用なマネはできなかっただろう。

 だが今はステータスも上がり、気魔混合の制御も多少マシになったことも助け舟となった。だからこそ、こんな小細工ができるようになったのだ。


 そしてその場から一歩も移動しない、する様子すらないダンジョンに向かって、無音で近づき一撃を放った後は再び前に回って手を繋ぐ。

 そうすることにより、大急ぎで魔力と気力の回復を図った。


 そうして回復しながら時を待ち、ジャンヌが送還されたのを確認した後。

 後ろを振り向く余裕なく、二枚とも盾を使わざるを得ない状況を作るために、できるだけ派手に強力に攻撃して、こちらに意識を集中させる。


 そのために、もう無いと思わせていた天装の槍ユスティーナまで持ち出して、相手の視野を狭くさせたところで無警戒な背面に気魔混合の拳を当てさせた。

 というのが、今回の作戦の全貌である。



〔はー、《アイテムボックス》への送信機能。やっぱりこれを知らなかったのが、一番の敗因ですかねー〕

「というか、最初から全力でやってたら俺たちなんて即退場させられたんじゃないか?」

〔まあ、そうなんですけどー。それじゃあ、つまらないじゃないですかー。

 こちらにとっては、暇つぶしも兼ねてるんですからー〕

「否定しないのね…」

〔はいー。こちらがヤバくなったら、回避不可能な超広範囲魔法で残っている全ての挑戦者から致命傷ポイントを取るのが今までのセオリーでしたのでー。

 なので、こちらの優位性を最後まで誤認させながらー、なおかつポイント全てを一気に奪うという方法以外に誰も勝つことなんてできないんですよー。

 そしてあなた方は、見事にそこを突いてきたとー…〕



 これは負け惜しみなどではなく、本気で回避不可能な超広範囲魔法というのは存在していたんだろうなと、この場全員が理解した。

 それほど終始このダンジョンは、余力があるのが見え見えだったからだ。

 なので向こうに危険意識を持たれれば、超広範囲魔法以外にもまだ隠し種を出される可能性が高かったとも思える。

 だから多少賭けに出たとしても、やはり短期決戦を挑んで正解だったらしい。



〔えーそれではー。皆さん勝っちゃいましたんでー、そろそろ報酬を配りませんとねー。ほいやー〕



 そうやる気が無さそうな声でダンジョンが言った途端、まずそれぞれにレベルアップのアナウンスが流れてきた。その内訳は下記のようになる。


 竜郎には、《『レベル:71』になりました。》と。

 愛衣には、《『レベル:49』になりました。》と。

 カルディナには、《『レベル:49』になりました。》と。

 ジャンヌには、《『レベル:49』になりました。》と。

 奈々には、《『レベル:46』になりました。》と。

 リアには、《『レベル:49』になりました。》と。

 アテナには、《『レベル:42』になりました。》と。



「─ちょっ」「ええっ!?」「ピィッ!?」「ブルルッ!?」「ですの!?」「よんじゅっ──」「うわー…」



 皆が自分の耳を疑っている間にも、アナウンスはどんどん進んでいく。



《《《《《《《スキルポイント(100)が付与されました。》》》》》》》



「「「「「「「──────────」」」」」」」



《《《《《《《称号『すごーい!』を取得しました。》》》》》》》



「なんなんですか、この称号の名前は…。私の初称号がこんな適当な……」

「先に修めシリーズ貰っといて良かったっす~」

「あー……。この称号って、誰が考えたんだ?」

〔こちらですよー〕

「やっぱり…」



 こうして竜郎たちは、まずは景品以外の報酬全てを受け取ったのであった。

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