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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五章 呪われた少女編
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第177話 特等の景品

 見事一人で勝利を収めた愛衣は、その景品をさっそく確かめるべく、白金で宝石の散りばめられたやたらと豪華な宝箱を開けた。

 そこには赤黒く、人体の心臓を凸凹にしたような気味の悪い物体が入っていた。



「なに──これぇ……」

「見た目がちょっとキモイな。これが特等の景品なのか?」

「おかーさま。説明書を見てみますの!」

「──う、うん。そうだね。えーーと……あった、これだね。どれどれ……」



 箱の中から謎の物体には触れないように説明書の紙だけを取り出すと、それを開いて愛衣は中身に目を通した。

 そしてその内容を纏めると、こんなことが書いてあったようである。



「えっとね。これを天装に与えると進化するみたい」

「天装の進化を促すアイテムねえ。けど、愛衣のそれって成長する武器なんだろ?

 ほっといても勝手に進化しそうだが、結構良い物なのか?」



 自分では価値が解らないので、竜郎はこちらの世界の人間であるリアに問いかけてみた。

 するとリアは青い目に切り替えて《万象解識眼》で観て、それを止めるとゆっくりと竜郎の顔を見てきた。



「これは成長ではなく、進化と言っているのがポイントのようですね。

 通常の成長は今持っている長所が補強されていくといった感じなのに対し、ここでいう進化とは変革……つまり別の個体へと至ることを指しているのだと思います。

 そうなると、やはり特等の名を冠するに足る代物だと言えるのではないかと」

「別の個体へと至る、か。そう言われると凄そうだな」



 竜郎はリアの説明に素直に感心してしまっているが、その天装の持ち主である愛衣には一つ聞き捨てならないことがあった。



「えーと、もしかしてこれを使っちゃうと、弓でも何でもない別の物になっちゃうってこと?

 今の形で結構気に入ってるんだけどなあ」

「ですが、その天装はアイさんの望むであろう形に成長しようとしています。

 その傾向からみても、アイさんが嫌がるような進化はしないはずです」

「そうなの? う~ん」

「使わずに、売っちゃうって手もあるっすよ?

 成長しないタイプの天装にも、使えるみたいっすから」

「だな。今のままでも愛衣が使いやすいって言うのなら、変える必要もないだろうし」

「今使わずに取っておいて、使いたい時に使うという手もありますの」



 それぞれの意見を聞いていき、悩むこと五秒。愛衣は決断をした。



「決めた。私じゃなく、この子に決めてもらう!」

「この子って、その天装自身にか?」

「うん。私の意思じゃなく、自動操作で決めてもらう。そうすれば、それがこの子の意思だと思うから」

「そうか。愛衣がそうしたいなら、やってみよう」

「うん!」



 愛衣は腰に装着していた天装の弓から槍を出し、愛衣は操作を手放した状態で床に進化のアイテムを置いた。

 すると槍はそのアイテムにまで伸びていき、悩むように暫くその前でフラフラと揺れると、やがて進化を選ぶようにそれに触れた。



「進化したいんだね。わかった、ならあなたにあげる」



 愛衣のその言葉をきっかけに、天装の進化を促すアイテムがドロッと液体状に溶けながら、触れている槍先を通して吸い込まれていく。

 そしてその全てが天装内部に飲み込まれると、カランッと音を立てて腰につけていた弓が床に落ちた。

 それを慌てて愛衣が拾おうとするも、余程熱くなっているのか、指を近づけただけで火傷しそうになったので手を引っ込めた。

 弓は次第に光を帯びていき、直視することが難しくなって皆が目を逸らした。

 そしてその光は二分ほどで収まっていき、やがてその姿が見えるようになった。



「あれ? 見た目は全然変わってないけど……」

「使ってみたらどうだ。何も変わってないってことは無いだろうし」

「そだね」



 愛衣は前に成長した時とまるで変わらない外見に安心半分、残念半分といった心持で弓を手に取り、試し打ちとばかりに弓矢を気力消費して顕現させた。

 すると違いはもう現れていた。

 今まで気力で造られた弓矢は現実的ではない青い光が弓矢の形をしているといった風体であったのだが、今愛衣が顕現させた弓矢は現実のそれに近い実像を持っていた。



「なんか矢の形が変わってる。──ていっ」



 軽くその矢を試射してみると、まったく本気で引いていないにもかかわらず、前よりも速く鋭く飛んでいき、壁に突き刺さって数秒後に消失した。

 なので今度は本気で引いて放ってみると、初速は先ほどのさらに数倍。

 愛衣の目を以ってしても躱すのがやっとだろうといった速さで飛んでいき、壁に大穴を開けた。



「すごいっすね~。弓だけ見ても、明らかに強くなってるっす」

「確かに。あんな弓で狙われたら、俺みたいな魔法職は魔法で防ぐ前にあの世逝きだぞ」

「槍の方も期待できそうですの。早く見せてほしいですの!」

「だね、それじゃあさっそく。出てきて槍さん!」



 別に声を出す必要はないのだが、なんとなくノリでそう言って槍を出そうとすると、弓の持ち手から分かれた左右の弓部から四本ずつ黒く太めのワイヤーが伸びていき、計八本の頭の無い蛇のようなものが愛衣の周りをうねっていた。



「槍じゃない? いったい……」



 愛衣がそれに唖然としていると、何もなかったワイヤーの先端からズボッと音を立てて五本指のロボットハンドが飛び出てきた。



「手が出てきましたの!」

「これは、明らかに以前の物とは違いますね」

「うーん。槍は無くなっちゃったのかあ。まあ、これはこれで便利そうだけど」



 などと愛衣がその言葉を漏らすと、八本ある手のうち一本が愛衣の目の前にやってきて、人差し指を立ててチッチッチと指を横に揺らした。

 それに何を?と思っていると、その手が少し愛衣から距離を取ると手をパーの形にし、その手の平から槍の穂先が突き出してきた。

 しかもそちらも弓矢と同様、かなりリアルな実像を持っており、愛衣が試しに床を突き刺してみるように操作すると、豆腐にでも刺したのかと思うほど簡単に床に穴を穿った。


 愛衣は驚きを隠せず口をパクパクさせていたが、それで終わりではなかった。

 なんと指先の一本一本からも気力でできた三センチほどの針が飛び出し、それで床を引っ掻いた。ちなみにこちらは新機能だからか、弓矢や槍のようにリアルさは無く、青い光が固まって構成されていた。



「なんかバリエーションが増えてるっ。かっこいいかもー!」

「あれ? 愛衣、なんか床に書いてるぞ。愛衣がやってるのか?」



 床をただ引っ掻いているだけかと思いきや、天装の手の指先からでている針でこちらの世界の文字を書いていた。



「え? やってないよ。なんだろ、えーと……な、ま、え、が、ほ、し、い。名前が欲しい?」

「名前を付けてほしいってことっすか?

「ずっと天装の弓~って言ってたからな。進化して欲しくなったのかもしれない。何かつけてやったらどうだ?」

「名前ね! そういうのなら任せて!」

「その自信は、いつもどこから出てきているのか解らないんだが……」



 今まで散々な名前をカルディナたちに付けようとしていたことを思い出し、竜郎が嘆息していると早速、愛衣の頭は閃いた。



「手が八本……。そう、これから貴方はタコサンよ!!」

「タコサンって、そもそもあいつら手じゃなくて足って言われてないか?」

「ああ、そうだっけ。ん~それじゃあ───」



 お決まりのあれでもない、これでもないという時間が過ぎていき───。



「それじゃあ……─あっ、手が八本といえば、そんな仏像があったよね」

「手が八本? 千手観音とかじゃなくて?」

「それじゃなくて、なんかこー踏んだり蹴ったりみょーおーみたいな名前の奴だよ!」

「踏んだり蹴ったりで明王? なんだそりゃ、散々な名前だな。

 けど明王って言うと、不動明王は手が八本もないし……。

 後は何とか夜叉明王に…………踏んだり……蹴ったり……ふんだり…………」



 竜郎は頭の中にあるおぼろげな記憶から、殆ど持ちあわせのない明王と呼ばれる仏様情報を掻きだしていく。

 そして「ふんだり」という語感から、ある一尊の明王を思い出した。



「──軍荼利明王ぐんだりみょうおう……か?」

「それだ! その、ぐんだりさん。私が言うのもなんだけど、良く解ったね」

「まあな。しかし、愛衣もよくそんな名前を知ってたな。

 俺もどこかで名前を聞きかじったくらいで、手が八本もあることなんてまったく知らなかったし」

「確か、なんかのゲームで出てきてたよ。そのふどーさんと一緒に」

「ふどうさんだと、別の意味になるからやめなさい。って、それはいいとして、軍荼利明王って名前にするのか?」

「うん! なんかカッコいいし! それでいいよね?」



 竜郎的には些か厳つすぎるようにも思えたが、愛衣が天装の弓に聞いてみると、四本ずつある右手と左手のうち一対で丸を造り、それでいいという意思表示をしてきた。



「それじゃあ、これからもよろしくね。軍ちゃん!」

「軍ちゃんて、元の名前からは想像もつかないほどライトに呼ぶのな…」



 竜郎はそう言うものの、実際呼ばれている軍荼利明王という仏の名を冠された弓自体は気にしていない様子なので、まあいいかと気にしないことにした。

 それから愛衣は、試運転をしてみることにしたのだが……。



「ううーー。八本同時に操作とか無理だよー。頭おかしくなりそー」

「こりゃ、しばらくは自動運転頼りだな」

「しばらくってゆーか、絶対無理だってー!

 大体の指示だけ出して、そのうえで私が戦いながら操れるのは一本が限界」

「でも、前までは二本いけてたっすよね?」

「おそらく、球体関節と棒状の柄から、より可動範囲に制限のないロープ状の柄になったことで、操作が前より複雑になったんだと思います」

「なるほどですの。確かにあのにょろにょろを全て制御するとなると、複雑そうですの」

「オートマ車から、ミッション車(マニュアル車)になったようなもんか」



 しかもそれが二本から八本になったのだから、愛衣に限らず常人にその全てをマニュアル制御するのは不可能であろう。

 そんなことが解ったところで愛衣は腰に軍荼利明王を装着するために、弓の持ち手からアームを出す様にイメージすると、こちらも黒いワイヤーがにょろりと伸びて愛衣の着ている鎧の腰部に巻きつくと、一周した所で薄く横に伸びていき、鎧と同化していった。

 これで見た目には、鎧の腰部から直接黒いワイヤーが伸びているようにしか見えなかった。

 そして弓が使いたくなれば、このワイヤーが掃除機のコードのように伸びて手元まで来てくれるので、一々外さなくても良くなっていた。



「んじゃあ、そろそろ俺も景品貰いに行こうかな」

〔それじゃあ、この場を綺麗にしときますねー〕



 愛衣の方も一通り落ち着いたようなので、竜郎が魔物との戦闘を始めようとすると、それを察した謎の声が愛衣の戦闘と、その後の軍荼利明王の試運転による破壊で傷ついた部分を綺麗に直していった。



「たつろーは、最初は私たちの近くに居てね。スピードタイプの魔物だったら、魔法使う前にやられちゃうかもしれないし」

「ああそれなあ。けど、愛衣みたいに魔物が出てくる前に準備し──」

〔あっ、それ次やったら失格にしますのであしからずー〕

「なんで!?」



 愛衣がフライングパンチで先制したように、竜郎も魔物が出てくる前に四方八方、上下左右、三百六十度全てに魔法発動の前準備を済ませて、実像を現したところで一斉掃射。

 という、相手が何者であろうと必勝できるであろう作戦を用意しておいたのだが、どうやらそれはできなくなったようである。



〔なんでって……。ここは決闘する場所なんですー。

 最低限相手が動けるようになってから始めるのが礼儀ですよー!

 先ほどはこちらで説明していなかったから不問にしましたが、次からは禁止ですー〕

「一個もだめか?」

〔一個もダメですー!〕

「そうか、ならまっとうに戦うしかないな」

〔そうです、そうです! 解ってくれたようで何よりですー。

 それじゃあ、さっそく石板に触れてください〕

「解った」



 そうして竜郎は、一瞬口をニヤリとさせて石板へと一人で歩いていったのだった。



(何か企んでそうだなあ。今のたつろーの顔)

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