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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五章 呪われた少女編
177/634

第176話 しつこい魔物

 愛衣が石板の前に立ち、それに触れる。

 すると、もうお決まりと化した言葉を謎の声がかけてきた。



〔お一人挑戦ですねー。さてさて次はどんな魔物が来るのかなー!

 それでは挑戦者様、その状態で復唱を────我は挑戦者〕

「我は挑戦者!」

〔戦いを求めし魔なる物よ、我の挑戦に応じよ〕

「戦いを求めし魔なる物よ、我の挑戦に応じよ!」



 愛衣がノリノリで答えると石板が下へと沈んでいき、前方五メートルほどの所に黒い渦が出現する。

 その間に愛衣は右の拳に気力を集めていく。それもただ今までのように無暗に集めるのではなく、拳の形に合わせるように一切外へと漏らさず収束させていく。よりシンプルに、より効率よく。

 そして黒い渦の前に立って、構えを取る。



「はあ───」



 やがて黒い渦が姿をかたどり始めた時に、愛衣の頭上一メートル程の高さに魔物の顔らしきフォルムが見えた。

 なので。



「先手必勝ーーー!」

〔ええ!? ちょっと、まだ魔物が───〕



 完全に現れていないですよー! と謎の声が言う前に、愛衣はその顔らしきフォルムに向かって跳躍から上に向かって拳を振りぬいた。



「ッ──」

「ん? 今、何か……」



 パンと風船が爆ぜるような音と、魔物の体の一部が消失した時、愛衣は何か不思議な感覚が体を巡った気がした。

 しかし、それを呑気に探っている暇はなさそうだった。



「「「「ギョオオオオオオオオーーーーーーーッ!!」」」」

「あれれ? まだ生きて──って……ああ、そういうことね」



 五十センチはあろう巨大な茶色の球根の下部からは、蜘蛛のような八本の細長い足。

 またその球根の上部からは、ミミズのような二メートルほどの長い首が五本生えており、その先に真っ黒で耳まで裂けた赤い口に、額にそれぞれ違った魔法陣を刻んだ人型の顔が五つ付いている───予定だった。


 しかしその内一つは愛衣の必殺フライングパンチの餌食になって消し飛び、ミミズのような首先から青色の体液を噴き上げブチ切れていた。

 けれど愛衣は魔物が怒っていることよりも、その体液がかかりそうなことの方が気になったので、一足飛びに後ろに移動して距離を取った。



「うええっ。ばっちいなあ、もお」

「「「「オオオオオオオオーーーーーーーッ!!」」」」



 けれどそれは魔物にとって好都合だったらしく、四つの顔の額に刻まれた魔法陣が光り輝き、左から順に火炎放射、雷撃放射、水流噴射、突風噴射の四属性の魔法攻撃が一斉に愛衣に襲い掛かってきた。

 しかし、その攻撃が愛衣のもとにたどり着くころには、もう既にその場にはいなかった。

 一つ頭を失っても残りまだ八つも目があるというのに、魔物は愛衣の存在を完全に見失ってしまったのだ。

 


「──当たらなければ意味がないのさキーークッ!!」

「「「──ギョッ!?」」」「ッ──」



 突如聞こえた声に雷撃を放っていた顔は振り返ることもできずに、後頭部を空中で回し蹴りされ、微塵も存在を残すことなくこの世から消え去った。



「ん。まただ……」



 愛衣は体液が噴き出す前に空中を蹴って、魔物の真後ろに跳躍して再び距離を取った。

 そしてその時、愛衣は魔物のことではなく、また覚えた違和感について考えていた。

 どうも愛衣は、スキルレベル10になってから体術を使うたびに何かが自分の中に疼くのを感じているようだった。

 そして先ほどのパンチと、今放った蹴りは今まで以上に精密に気力を操り、無暗に体全体から気力を収束したものではない。

 体全体にも気力を維持しつつ、集めたい場所だけに綺麗に体に沿うよう形造ってから、その疼きは強くなってきていた。



(もしかしてこれって、SLスキルレベルが10になった時に解放された気獣技ってのの前兆なのかも)



 その疼きの奥底に眠る力強い力が、早く俺を使ってくれと愛衣に訴えかけているようにも感じていた。



(わかったよ。きっと近い将来、貴方を使ってみせるから、今はちょっと我慢しててね)



 だがそれを使うには、まだもう少し時間がかかりそうだ。

 なので一旦これは胸の奥に押しとどめ、愛衣はリアに作ってもらった竜骨棍棒を取り出した。

 実はもう一つ、試しておきたいことがあったからだ。


 というのも宝石剣を手に入れてからというもの、かなりの頻度で剣術スキルにお世話になってきた。

 けれど、それよりも使用頻度の少なかった体術の方が先にレベル10に上がった。

 ということは、もしかしたらレベル10にするには何か条件があるのではないかと考えたのだ。

 そうして行き着いたのは、スキルの取得順。

 最初に取ったのは《体術》、次に《棒術》、そして《投擲》《槍術》《剣術》と取得してきたのだが、そのどれもレベル9以下でどんなに使っても10にはならない。


 ということは最初は《体術》がストッパーになっていて、次に《棒術》がストッパーになっているのではないかと推測したのだ。

 なので、この魔物を利用して《棒術》のレベル上げを先にしてしまうことにした。

 幸い、この魔物は愛衣のスピードにまるでついてこれてはいない。

 つまりは──愛衣にとっていい的でしかない。



「「「オォォォ──」」」



 自分の周囲をグルグル走り回って逃げていく愛衣に攻撃を当てるべく、あちこちに火炎、水流、突風をまき散らす。

 だが射程距離こそ長いが、攻撃範囲は一メートルそこそこ。

 今の愛衣にまともに攻撃を当てたいのなら、周囲諸共吹き飛ばす広範囲の魔法攻撃を放つより他ない。



「どこ狙ってるのアターークッ!」

「「「ギュォオオオオオ!?」」」



 八本ある内の足一本を、棍棒で根元を下から上へ打擲ちょうちゃくして吹き飛ばした。そしてまた距離を取る。

 今度は、反対サイドを一本。火炎を鎧の黒い気力の盾で受け流し、三つ残った顔のうち、突風担当を棍棒で叩き潰す。

 水流が襲い掛かってくるが、盾で造った足場を蹴って空中を走って後ろに回り、ゴルフのように振りかぶって火炎担当も弾き飛ばす。



「あと一個しかないなあ。それじゃあ、足にしよっと」

「オォォォ──!!」

「はあああああっ!!」



 水流放射を気力の纏った棍棒で吹き飛ばし、その一瞬でまた魔物の視界から外れ、顔が向いている方向とは反対側に回り込む。

 そして棍棒で三本目、四本目と足を吹っ飛ばして棒術のレベルも上げていく。

 それから最後の一本も打擲してもぎ取ると、球根とそれに付随したミミズ首と黒い頭の一つだけが床に転がっていた。


 ここまでしてもまだ生きている魔物に、嫌悪感半分に感心半分を持ち合わせつつ、愛衣は最後の止めをさすため一足飛びに近寄って、棍棒で残り一個の顔を叩き潰した。



「これで終わりかな───ん?」

「オーーーーーン──」

「うわわわわ──なになに!?」



 終りかと思い竜郎のもとへと帰ろうとしていたところで、残った茶色の球根が震えだしたので、念の為後ろに飛んで距離を取った。

 すると球根の底部分からひげ根が伸びて床に張り付き身を起こした。

 すると球根にひびが入り、そこから大樹が如く太い緑の茎が上へ二メートルほど伸びていき、その先にはオレンジ色のガーベラのような形をした大輪を咲かせた。


 そしてその大輪中央の丸い箇所、筒状花部分には愛衣がさっきまで叩き潰していた頭とそっくりの黒い顔が張り付いていた。

 愛衣はまだやる気かと棍棒を構え直した時、今立っている床を割って細いひげ根が何本も束で伸びて愛衣に巻き付こうと迫ってきた。



「何か出てきた! はっ─」

「ギュォオオオオオ」



 宝石剣を《アイテムボックス》から取りだして、一回転するようにして全て切り裂いてそこから離れる。

 あちこちの床からひげ根が飛び出し、触手のようにうねりながら愛衣を捕えようとしてくる。

 愛衣はそれを宝石剣で切り付けながら、棍棒で本体らしき花の部分をぶん殴ってやろうとしていると、周りの花弁部分が回転しだした。



「なに?」

「オオオオオオオオ───」

「飛んできた!?」



 花弁が一枚一枚筒状花部分から千切れ、正確に愛衣に向かって飛んできた。

 それに驚きつつも、愛衣は気力の盾を顕現して受けると、鉄の刃でも当たったかのような金属音を立てて弾かれていった。

 これは当たったらいけないやーつだと認識しながら、原因の花を見れば鮫の歯のように後段がせり上がって再び回転して花弁を飛ばしてくる。

 その間に根っこも迫ってくるので切り裂きつつ、盾でガードして進んでいく。

 しかし、あちこちから根っこがワラワラ迫ってくるのが鬱陶しくなってきた愛衣は宝石剣を横向きに構えた。



「ん~もうっ。めんどくさい!」

「ギョオオオーー!?」



 そして気力の斬撃を放ち、魔物の根元と茎を分断した。そうして花弁の攻撃が止まった瞬間、一気に距離を詰め《アイテムボックス》より持ち替えた棍棒で花の中央部、顔部分に振り下ろした。

 それで終りかと思いきや、額部に魔法陣が浮かび上がり雷撃放射で阻もうとする。

 魔法陣が出てから、雷撃が出るまで一秒にも満たない。

 しかし、それだけあれば愛衣には十分だった。

 腰に付いていた天装の弓から槍を出して床に突き刺すと、それで体を横に逸らして槍を引き抜く。

 そして空中飛びで側面を通って斜め下の後ろに回り、地に足を付けて切り返す。

 その頃になってようやく、誰もいない場所に雷撃が放たれた。



「遅いっ──よ!」

「オ"──」



 雷光が走ったのとほぼ時を同じくして、愛衣の棍棒が顔が張り付いていた部分から突きだした。



《『レベル:41』になりました。》

《スキル 棒術 Lv.9 を取得しました。》



「おっ棒術も9になって、称号取得までリーチだ。

 それにレベルも上がったから、ホントに終わりだね」

『愛衣、終わったか?』

『うん、今度こそホントにね』

『おつかれさん』

『ありがと! しつこい相手だったよー。んじゃあ次は竜郎だし、頑張ってね!』

『ああ。けどその前に、抽選タイムがあるけどな』

『おっと、忘れてた』

『おいおい、そのために戦ってたんだから忘れないでくれよ』

『えへへー』



 竜郎との念話でそれがあることを思い出した愛衣は、謎の声をこちらから呼びだすことにした。



「おーい、景品ちょうだいよー」

〔はいはーい。それではいきますよー! 抽選ターイム。

 じゃかじゃかじゃかじゃか────じゃん。出ました! おおっ、特等しょー!!〕

「やったあ! 出たよ特等!」

「愛衣って、昔から籤運強いよな」

「うん!」



 謎の声がじゃかじゃか言っている間に竜郎たちも合流し、愛衣が特等を引いたことに喜んでいた。

 すると床から金ではなく、白金に宝石が散りばめられた豪華な宝箱がニョキッと生えてきた。



「なんか、やたらとゴージャスな宝箱っすね」

「これは、かなりの物が入っているはずですの!」

「私の時でさえかなりの品物でしたし、特等ともなるといったい何が…」

「皆気になってるみたいだし、開けてみてくれないか、愛衣」

「ん、わかった。といっても、私も気になってるんだけどねー。何が出るかな~何が出るかな~」



 そうして愛衣は小粋に謎の歌を口ずさみながら、白金の箱に手をかけていくのであった。

次回、第177話は2月22日(水)更新です。

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