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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第五章 呪われた少女編
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第168話 アイテムボックスの噂

 カミナリも落ちてくることなく、無事にジャンヌに乗って湖の真ん中まで飛んでいくと、以前と同じ方法で小島へと全員降り立った。

 ちょうどその頃、空に暗雲が立ちこめ始めたので、竜郎たちは急いで石の建造物の中にまで避難した。

 そうして竜郎は、まずあれで魚はクリアなのかどうか確かめる意味も込めて、台座に近づいていき手で触れた。



 ----------------------------------------------------------------

     アイテムボックス内に、既定の素材を確認しました。

     ダンジョンに捧げますか?


             はい / いいえ

 ----------------------------------------------------------------



「どう? ちゃんとあれであってた?」

「ああ。これで収穫なしは免れたな」



 竜郎は愛衣の質問に答えながら、「はい」を選択して竜郎から出てきた粒子が台座へと吸い込まれていった。

 すると、台座に刻まれていた魚の絵が消えていった。



「あと一個、ですね」

「そのあと一個が、どこにあるかさっぱりなんすけどね」

「それは明日にするとしても、いったいどこにあるんですのか、見当もつきませんの」

「湖に蛇、森に魚だから、木の実の場所はその間とかいうのはあり得るか」

「まだ一度も探してないもんね」



 とは言うものの、森と湖の間の赤茶色の地面には草が少し生えている程度で、見た限りでは何もない所である。

 なので、森の中のまだ探索していない所にあると言われる方がしっくりは来る。

 そんな話し合いをしていると、やがて愛衣の腹がぐうと鳴き、一旦それは横に置いて食事の準備を始めた。


 本日の料理はウツボの煮つけ。──に似た料理だった。

 実は巨大ウツボではなく、もっと小さいサイズのウツボ型の魔物だが、愛衣が食べられる魔物事典に載っていたのを思い出したので、竜郎に解析してもらった結果。今回倒したウツボも、食べても問題ないことが解ったのだ。

 なので身だけを切りだし、竜郎の《アイテムボックス》に保管しておいてもらったのだ。

 それをリアが料理本片手に奈々と和気藹々と調理した。というわけであった。



「ん~おいしいね!」

「ホントだ。見た目的にもっと泥臭いのかと思ったのに、むしろ食材としてかなり美味い部類に入るんじゃないか」

「身がしっかりしてますし、味見してる時に自分でも美味しさに驚きました」

「わたくしも手伝いましたの!」

「ああ、ありがとな」



 竜郎は自身の膝の上に座って、魔力補給をしている奈々の頭を撫でてあげた。

 ちなみにカルディナたちは、料理している間に竜郎から魔力を目一杯補給してもらったので、今は元気よく周辺警戒に回ってくれていた。


 そうして腹も満たし人間組も回復したところで、以前竜郎と愛衣が話し合っていた持ち運び用の家についてリアに相談を持ちかけてみた。



「家ですか? 私は別に、今のテントで十分なんですよ。アレ、寝心地良いですし」

「いや、そうかもしれないが、俺たちも家を持ち運べるならそっちの方がくつろげるだろうし、こっちにもメリットはあるから気にしないでくれ」

「はあ……。しかし家を持ち歩くなんて、他の冒険者に言ったら冗談かと笑われちゃいますよ」



 本来冒険者の中では《アイテムボックス》を取っているものは多くいるが、それでも必要最低限の荷物分しかSPを使おうとは思わない。

 そんな中で、さらに《アイテムボックス》に入れて家を持ち運ぼうなどと考えているなどといえば、気が狂っているとさえ思われても不思議ではない世界なのだ。



「まあ確実に《アイテムボックス》の場所取っちゃうし、家を入れても余裕が出るくらい執拗に拡張し続ける人なんて普通いないもんねぇ」

「今タツロウさんは、どこまで拡張しているんでしたっけ?」

「+5だな。でも最近食材とかもたくさんいれて栽培してるし、このダンジョンに入ってからSPも直ぐ溜まるし、また拡張しようかな。

 この先どんな機能が追加されるのかも気になるし」

「機能ですか。確か+10を取ると、《アイテムボックス》の上位スキルが出てくる~なんて言われてましたっけ」

「上位のスキル? アイテムの収納スキルに上位も下位もあったもんじゃないと思うけど」

「上位スキルを取ると、容量無制限で、時間の経過も早める遅めるどころか停止できるなんてモノらしいですよ。

 けどまあ、あくまでそう言われているだけで、誰も見たことも無いでしょうし、妄想の類の話が広がっただけだと思いますが──って、どうしました? お二人とも」

「「………………」」



 そこまでリアの話を聞いていた二人は、無言で見つめ合っていた。

 容量無制限で、時間の停止。本当にそれが可能であれば、食料もモンスターの素材も装備品、家だっていくらでも詰め込める夢のスキルだ。

 火のない所に煙は立たぬと言うように、可能性は零ではないだろう。



「ねえ、たつろー。今SPはいくつある?」

「今は(280)だな。+10まで拡張するとなると、(45)だから余裕だな」

「ちょっとお二人ともっ、本当にそんなモノがあるかどうかも疑わしいんですよ!」



 リアは自分の確証もない話のせいで、竜郎がSPを消費して無駄に終わってしまうかもしれないと思い、慌てて止めようとした。

 しかし竜郎たちからしたら、今このダンジョン内においてSP(45)というのは湖の湖底の土の下に眠っている巨大ウツボほぼ1匹分でしかない。

 巻き返しは余裕であるし、仮にその上位スキルなんてものが出なくても、+10まで拡張すればもう家の一軒や二軒抱えたところで、どれほどのものでもなくなるだろう。

 そしてさらに言ってしまえば、その話が本当なのか、そうでないのか白黒はっきりつけたかったのだ。

 取れるだけの余裕があるのに、取ったらどうなるんだろうと考え続ける方が、二人にとっては精神安定上よろしくない事なのだから。


 そんなことをリアに話すと、私の言葉のせいでお二人が後悔しないのならと言って、止めるのをやめてくれた。……というより、実はリアも答えを知りたいのだ。



「じゃあ、取るぞ。いいよな、愛衣」

「うん。時間停止でウツボ料理食べ放題だよ!」

「何というか……本当に食に対する欲望に忠実ですよね、お二人は」

「まあ、こっちに来て直ぐの頃に食糧事情が乏しかったからな。その反動だと思う」



 そういいながら、竜郎はシステムを開いて《アイテムボックス》の拡張をしていく。

 +6(消去)、+7(再資源化)、+8(成分抽出)、+9(複製)とそれぞれ機能も追加されつつSPを消費していき、そして最後に出てきたのが、+10(上位スキルへの置換条件達成)だった。



「上位スキルあったっ!」

「やった!」「ほんとですか!?」

「ああ、機能追加の欄に書いてあるから間違いないっ。取るぞ」

「うんっ」「はいっ」



 竜郎は二人の期待の眼差しを受けながら、+10に拡張した。

 すると、スキル獲得欄の《アイテムボックス》が記述されていた箇所に、《無限アイテムフィールド》と表示されていた。

 しかしここで、少し困ったことが発覚する。



「《無限アイテムフィールド》っていうスキルが出てきたんだが、獲得に必要なSPが(100)もいるみたいなんだが……」

「百!?」「ひゃっ、百ですか!?」

「ああ。だけど《アイテムボックス》拡張で手に入れてきた追加機能はそのままに、容量制限なし、内部時間自由設定っていうおまけがついてるらしい。──そこでだ、愛衣。どうしようか」

「ここまで来たら、もう取るっきゃないっしょ! ここで消費した分、私も頑張って集めるよ!!」

「だよな。もう後には引けないし、百ぐらい直ぐに稼いでやるよ!!」


 そうして竜郎は、半ばやけくそでスキル取得に乗り出した。

 そしてここまで騒いでいると、警戒していてくれたカルディナたちも、何をしているのか気になって集まってきた。



《称号『収納狂い』を取得しました。》



「余計なお世話だ!」

「どしたの急に?」

「ああ、すまん。《無限アイテムフィールド》を取ったら新しい称号。《収納狂い》を手に入れたみたいだ」

「あははっ。システム的にもそういう認識なんだねー」



 愛衣が笑いながらそんなことを言っている間に、どんな称号なのか確かめていく。

 すると、こんなことが書かれていた。



 --------------------------------------

 称号名:収納狂い

 レアリティ:15

 効果:一日、1複製ポイント付与

    本称号の所持者とパーティメンバーでいる間に限り、その人物には

    ・《アイテムボックス》+5追加。

    ・上記効果での拡張範囲内で、物の送受可能。

 --------------------------------------



「皆、システムを立ち上げて見てくれないか」



 竜郎の不意の一言に皆が静まり返って、システムを立ち上げた。──すると。



「……あれ? 私の《アイテムボックス》が、+2から+7になってる!」

「わたくしのも、《アイテムボックス》から《アイテムボックス+5》になってますの!」

「あたしも奈々姉と同じっす。リアっちはどうっすか?」

「私は《アイテムボックス》自体取った記憶がないのに、《アイテムボックス+4》が追加されてます……」

「ピュィーー」「ヒヒーーン」

「おねーさま方も、リアと同じだそうですの。おとーさま、これはいったい…」



 空前絶後の《アイテムボックス》フィーバーに戸惑いと喜びの声が上がる中、竜郎は称号:収納狂いの効果を皆に説明した。



「それって──凄いなんてものじゃないですよね!? その情報が出回れば、冒険者のパーティに今後 《アイテムボックス》専門の方が出てくるかもしれませんよ」

「かもしれないな。でも収納狂いを得るまでに必要なSPは(199)、レベル上げだけで稼いだとしたら67レベル。

 50レベルの壁越えなんかも考えると、普通の奴じゃできないだろ」

「《アイテムボックス》だけで、他のスキルは全部自力取得って相当きつそうだよね。

 そんでもって、それだけ苦労して獲得してもメンバーの荷物持ちって、パーティに欲しがる人はいくらでもいそうだけど、私はそんなのやだなあ」

「わたくしも嫌ですの」

「あたしもっす」



 縁の下の力持ち。という意味では、なかなか聞こえはいいかもしれないが、如何せん地味すぎる。そんな役割を進んでやりたいという考えの者はここには誰一人いないのだから、共感しようもないのだろう。

 そして今度は、物の送受可能という点に竜郎は目を向けた。

 これにより、竜郎はまず紙とペンを《無限アイテムフィールド》から取り出して、そこへ「届いたー? by竜郎」と日本語で書いて収納し直す。

 そして収納した物の一覧を出して、先ほどのメモを選択し送り先を愛衣にして送ってみた。すると、ほぼタイムラグゼロで愛衣に知らせが届いた。



《《アイテムボックス》に、一つ追加されました。》



「およ? えーっと、これだね。いでよ紙切れ~───ん、ちゃんと届いたよ!」



 愛衣が先ほど竜郎が《無限アイテムフィールド》に入れたはずの直筆メモを、皆に見えるようにビシッと前へかざした。

 この世界の住人であるリアも、他人の《アイテムボックス》へ直接物を送るなど聞いたことも無かったので、他の皆と同じように驚いていた。



「これはメールみたいに使えるな。愛衣、試しに何か書いてそっちからも送ってみてくれ」

「解ったー」

「わたくしもやりたいですの!」

「ピューィー」「ヒヒーーン」「あたしもっす」

「………………あの、私も…」

「はいはい。じゃあ、今後も使えるように皆に紙とペンを配っとくから、《アイテムボックス》に入れといてくれ」



 そうしてこの場の全員で手紙の送受信をしあって、それが問題ないと解ってからは要らない物品で距離や物量によって何か変わるかなど実験していった。

 ちなみに、カルディナとジャンヌはペンが持てないので、足に固定できる道具を竜郎が造り、それをリアがさらに微調整をして、やや字はぶれてしまってはいるが、手紙が書けるようになった。

 また、新たに《アイテムボックス》拡張時に得た機能も確認していくと、消去は《アイテムボックス》内の任意の代物を消す力。


 再資源化はいらない物を、鉄や銅など今まで自分の《アイテムボックス》に収納したことのある比較的安価な資源に変換できる力。


 成分抽出は、《アイテムボックス》内の代物から、成分を抽出し集める機能で、例えば血液から成分抽出をすれば、水や鉄だけを集めることが可能になった。


 最後に複製だが、これは《アイテムボックス》内に入っている資源をコピーして同じものを生成する機能。

 資源ということなので、魔物の素材などはコピーできるが、それを使ってできた武器や防具は複製不可。さらに、これは《アイテムボックス》機能の消去によって得たエネルギーから行うものなので、それを何度も行使して複製ポイントを溜める必要がある。

 ちなみに複製ポイントは、1につき1個複製が可能で、1溜めるのには大量のゴミを消去するか、貴重な素材を消去したりしないといけないので、収納狂いの一日1ポイント付与はかなり破格な効果であるようだ。



「なんか、色々な機能がついたねえ。けど、多すぎて何を使えばいいのか解らなくなってきたよ」

「まあ、その辺はちょこちょこ使って慣れていくしかないさ」

「《アイテムボックス》っていうのは、ただアイテムを収納する便利機能かと思ってました」

「ここまで機能を拡張していくと、もはや別物ですの」

「まあ、たくさんあって困るようなものじゃないっすからね。それにあたしの容量も増えたのは素直に嬉しいっす」

「ピューー」「ヒヒーーン」



 カルディナたちも、《アイテムボックス》がSP消費無しで手に入ったことに喜んでいる様子だった。

 そうして様々な思いをそれぞれが抱きつつ、この日は竜郎たちが眠るまで、わいわいと騒ぎながら時が過ぎていったのであった。

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